上 下
73 / 117

番外編 2 「人類 滅亡」③

しおりを挟む
 弁当の空き箱やお菓子のゴミが散らかるホテルの一室で、私は覚悟を決める。そうは言っても、本当にやるのか自分に聞いてみるくらいで重さはそれほどなかった。

 その日のうちに私は黒いパソコンから指示されたことを実行した。上着に袖を通して外出すると、必要なものを買い求めていった。

 そもそも決行日まで指示されていたのでその日のうちから準備し始めないと間に合わない。黒いパソコンが指示した決行日は明後日だった。

 そしてその明後日という決行日は私にとって非常に都合が良い。人類を滅亡させる前に私はやっておきたいことがあったから。そういう都合まで黒いパソコンは汲んでくれているのだろうか……。

 翌日、私は両親を殺した。父、母、両者ともナイフで首を切りつけた。

 父は酔って寝ている時にそっと近づき、ハンマーで後頭部を殴った後にゆっくり殺した。入念に血を流させた。私が受けた分の痛みを返した。

 母は力づくで勝つことができると思ったから特に小細工はしなかった。どちらとも別に聞かなくてもやれると考えていたけど、一応念のため黒いパソコンにやるべきタイミングは聞いておいた。

 人殺しをいざやってみても悲しみや苦しみみたいな感情は湧いてこなかった。黒いパソコンを手に入れてから私は変わったと思う。実際に健康状態とかも変わったはずだけど、それよりも何でもできる気がする万能感、自信。それだけじゃなくて現実離れした状況に自分自身も人間ではない何かになったような。

 両親を殺した私は血に濡れたまま、冷蔵庫に入っている父用のお酒で1人、祝杯をあげた。初めて飲んだ私にも分かるくらいアルコール濃度が濃い。不味いけど美味しいお酒だった――。

 酒に酔った私はいつの間にか寝ていたようで、気付けば朝になっていた。深夜に寝たはずなので4時間くらい寝ていただろうか。ちょうどいい睡眠時間だ。

 私はまずシャワーを浴びた。体に付いた血の跡を落とす為だ。ひどく気分が悪く、眠気もあったので時間をかけてゆっくりと。シャンプーもボディソープもボトルを何回もプッシュしたけど、なかなか落ちてくれなかった。他人の血がこんなに消しづらいものであることもそこで初めて知った。

 今日は人生で1番の大舞台。せっかくだから、私は風呂上がりの暖かい体のまま鏡の前で、人生で1番のオシャレをした。裸の状態から1つずつ、服やアクセサリー、化粧で着飾っていった。

 あとは行ってこなすだけ。全ての準備が整った私は黒いパソコンでの最後の検索をした。

「明日以降 生き方」

 この計画を成功させたとしても、明日の世界を少しもこの目で見れないのなら面白くない。だから、聞いてみた。

「痛み止めや解熱剤を飲めば多少は長生きできますが、あなたが今日から明後日を迎えることはないでしょう。しかし、この世に強く未練を持つ者は死んでもその場に留まることができます。」

 それを見ると、完全に迷いは無くなるどころか、実行するのが楽しみになってきた。苦しみも伴うが、その先には希望がある。

 もう後戻りはできない。私はお腹を押さえて玄関を開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

義体

奈落
SF
TSFの短い話…にしようと思ったけどできなくて分割しました。

処理中です...