34 / 117
word21 「競馬 勝つ馬」①
しおりを挟む
僕の家には黒いパソコンの他にもう1つ……赤いパソコンがある。
こうやって黒いパソコンと並べて言うと凄い物のように思えるが、普通のパソコンだ。家電量販店で購入されたごく普通のパソコン。リビングに置いてあって僕の家族に共用で使われている。
基本的には頻繁に使われるということはない。父は家に仕事を持ち込むタイプではないみたいだし、母も姉もネットへの依存度は低い。だから、使われるのは家族の誰かにスマホでは難しい用事ができた時だけで、忙しいのは年末に年賀状を作るときくらいだった。
僕もたまに使うけど、逆に言えばたまにしか使わない。
そんなパソコンが今日は朝起きた時から起動していた。パソコンの前には父が座っている。
「おはよう」
「……おう」
あくびをしながらリビングに入った僕は父に挨拶した。すると父は僕の方を向きもせずに難しい顔でパソコンの画面を睨んだまま返事をした。手には何やら雑誌を持っている。
今日は日曜日、休日だ。時刻は休日ならまだまだ寝てても神様が許してくれる時間帯でリビングにいるのは僕と父だけだった。
冷蔵庫から取り出したお茶を飲んで、洗面台で顔を洗う。そうして戻ってきても父はさっきと全く同じ態勢のまま全く同じ顔をしていた。
父が朝からこの行動を取っている時が父にとってどういう日かを僕は知っている、競馬にチャレンジする日だ。
年に数回、父にはそういう日がある。そしてこの日を僕は待っていた――。
「今日賭けるん?」
僕は父の隣に座ってパソコンの画面を覗き込みながら言った。
「……おう」
「ねえ。今日俺にも選ばせてよ」
「ええ。お前が?」
父はようやく僕の方を向いて、嫌な顔をした。
「うん。久しぶりに」
「だめだめ。お前が予想した馬は昔から1度も勝ったことないやん」
「いやっ。今日は絶対当てれるから!」
「何やその自信は……」
昔から僕は父の趣味である競馬で一緒に勝つ馬を予想させてもらうことがあった。僕にとっては完全に遊びだ。出走する馬の一覧を見て名前が気に入った馬や、好きな数字の枠番の馬を選ぶだけ。
父も一緒に予想する人がいるほうが楽しいという理由だけで、息子がいい加減に選んだ馬へどうせ勝てないだろうと分かっていながらも100円だとか200円だとか賭けてくれた。一応、当たったらプラスになった分をお小遣いとしてあげる約束をして。
けど、それも僕が中学生に上がる前くらいまでで……。それ以降は僕がやりたがっても父が拒否した。僕もやりたいと思わなくなっていったし。
理由は本当に全く当たらないからだ。普通はいくら適当に選んでも数撃てば1回くらい当たる。少なくとも2位や3位にはなったりする。けれど、子供の頃から僕が選んだ馬は1度も1着を取ったことがないどころか、3位以内に入った記憶もほとんどない。
僕が選んだ瞬間にその馬が呪われているんじゃないかと思うほど……。
そんな感じだから僕は子供の頃、競馬場で大泣きした経験もあり、父は僕を競馬から遠ざけるようになったのだ。
「お願い!」
「だーめ。お前にはこういうのに対する運が無いんだから。自分でも分かっとるやろ。大人になっても絶対やったらあかんで」
父はまたパソコンの方を向いて、僕の相手はしないという態度に。
「お願いお願いお願いお願い」
「ダメったらダメ」
「なんか肩叩きとかするから」
「うーん……」
「今回賭けるお金は俺のお小遣いから出すから。それで、勝ち分の半分は父さんのものにするとかでもいい――だから、お願い」
僕は胸を張って机を叩きながら言った。
「んん?今日はなんか気合入っとるな。そこまで言うなら賭ける馬だけでも聞こうか」
「うん。で、どのレース?」
「これや」
「えーっと……これね。ちょっと待ってて」
僕は父が賭けるレースを確認すると、すぐに自室へ走った。そして、黒いパソコンに聞いたのだ。
何をかは……言うまでもない。
こうやって黒いパソコンと並べて言うと凄い物のように思えるが、普通のパソコンだ。家電量販店で購入されたごく普通のパソコン。リビングに置いてあって僕の家族に共用で使われている。
基本的には頻繁に使われるということはない。父は家に仕事を持ち込むタイプではないみたいだし、母も姉もネットへの依存度は低い。だから、使われるのは家族の誰かにスマホでは難しい用事ができた時だけで、忙しいのは年末に年賀状を作るときくらいだった。
僕もたまに使うけど、逆に言えばたまにしか使わない。
そんなパソコンが今日は朝起きた時から起動していた。パソコンの前には父が座っている。
「おはよう」
「……おう」
あくびをしながらリビングに入った僕は父に挨拶した。すると父は僕の方を向きもせずに難しい顔でパソコンの画面を睨んだまま返事をした。手には何やら雑誌を持っている。
今日は日曜日、休日だ。時刻は休日ならまだまだ寝てても神様が許してくれる時間帯でリビングにいるのは僕と父だけだった。
冷蔵庫から取り出したお茶を飲んで、洗面台で顔を洗う。そうして戻ってきても父はさっきと全く同じ態勢のまま全く同じ顔をしていた。
父が朝からこの行動を取っている時が父にとってどういう日かを僕は知っている、競馬にチャレンジする日だ。
年に数回、父にはそういう日がある。そしてこの日を僕は待っていた――。
「今日賭けるん?」
僕は父の隣に座ってパソコンの画面を覗き込みながら言った。
「……おう」
「ねえ。今日俺にも選ばせてよ」
「ええ。お前が?」
父はようやく僕の方を向いて、嫌な顔をした。
「うん。久しぶりに」
「だめだめ。お前が予想した馬は昔から1度も勝ったことないやん」
「いやっ。今日は絶対当てれるから!」
「何やその自信は……」
昔から僕は父の趣味である競馬で一緒に勝つ馬を予想させてもらうことがあった。僕にとっては完全に遊びだ。出走する馬の一覧を見て名前が気に入った馬や、好きな数字の枠番の馬を選ぶだけ。
父も一緒に予想する人がいるほうが楽しいという理由だけで、息子がいい加減に選んだ馬へどうせ勝てないだろうと分かっていながらも100円だとか200円だとか賭けてくれた。一応、当たったらプラスになった分をお小遣いとしてあげる約束をして。
けど、それも僕が中学生に上がる前くらいまでで……。それ以降は僕がやりたがっても父が拒否した。僕もやりたいと思わなくなっていったし。
理由は本当に全く当たらないからだ。普通はいくら適当に選んでも数撃てば1回くらい当たる。少なくとも2位や3位にはなったりする。けれど、子供の頃から僕が選んだ馬は1度も1着を取ったことがないどころか、3位以内に入った記憶もほとんどない。
僕が選んだ瞬間にその馬が呪われているんじゃないかと思うほど……。
そんな感じだから僕は子供の頃、競馬場で大泣きした経験もあり、父は僕を競馬から遠ざけるようになったのだ。
「お願い!」
「だーめ。お前にはこういうのに対する運が無いんだから。自分でも分かっとるやろ。大人になっても絶対やったらあかんで」
父はまたパソコンの方を向いて、僕の相手はしないという態度に。
「お願いお願いお願いお願い」
「ダメったらダメ」
「なんか肩叩きとかするから」
「うーん……」
「今回賭けるお金は俺のお小遣いから出すから。それで、勝ち分の半分は父さんのものにするとかでもいい――だから、お願い」
僕は胸を張って机を叩きながら言った。
「んん?今日はなんか気合入っとるな。そこまで言うなら賭ける馬だけでも聞こうか」
「うん。で、どのレース?」
「これや」
「えーっと……これね。ちょっと待ってて」
僕は父が賭けるレースを確認すると、すぐに自室へ走った。そして、黒いパソコンに聞いたのだ。
何をかは……言うまでもない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる