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word15 「席替えのあみだくじ 後ろの席の棒」
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今日も見慣れた校舎が見えて来た。澄んだ朝の空気の中、あとは橋を渡ってもう少し歩けば僕が通う学校に辿り着く。
僕は徒歩通学でいつも1人で学校に行く。早起きだけど朝食は控えめ。時間に余裕を持って出発する僕はゆっくりと歩いて行く。
そっちのほうが好きだから。朝を忙しくしたくない。空に浮かぶ雲でも眺めながら歩いていたい。
そうやって1人で歩いている時、最近はもっぱら考え事をしている。もちろんと言っていいだろう。黒いパソコンで何を検索しようかという考え事だ。
でも今日は違った。今日は既に検索を終えている。今日検索することは前から決めていたのだ……。
何故なら今日は席替えがある日。僕は朝のうちに、席替えの為の検索をした。
多くの人が望む席替えで理想の席を手に入れるという未来。それを確定させる為。僕にとってそれは最後尾の席だ――。
「席替えのあみだくじ 後ろの席の棒」
僕の担任の先生はいつもあみだくじで席替えをする。だからこうやって検索した。
するとパソコンはこう答えを出した。
「今日のあなたのクラスで行われる席替えのあみだくじで最後尾の席に繋がる棒は、右から3本目、8本目、23本目、25本目、31本目、35本目です。」
クラスの席の列は6本、最後尾ならどこでもいいと思って検索した僕への完璧な答えだ。
僕はその答えを暗記して、一応メモも取って出発し、朝の通学路を歩き終えた。靴箱で上履きに履き替えると、教室に入って自分の席に座る。
今日は早く着きすぎたようで、まだ教室内に人は少ない。僕は机の上に置いたスクールバックを抱いて並んでいる机とイスを眺めた。
この席の中でどこに座りたいかって結構人によりけりだと思う。大体の奴は後ろの方の席を好んでいるけど、その中でも一番後ろが良い派と後ろから2番目が良い派に分かれる。
前の方で右端か左端が好きという意見も聞く。意外とそこが一番目立たなくて落ち着いたりするのだ。
僕は普通に1番後ろ派だった。
そしてその好みの席に座れるかどうかって普段の学校生活において結構重要だ。迷わず黒いパソコンに答えを聞けるものである。
――いつもの雰囲気で時間が過ぎて……その時は来た。席替えがある授業。つまり担任の先生による授業だ。
僕のクラスでの席替えの詳しい方法はこうだ。担任の先生が担当する授業中にあみだくじが書かれた紙を生徒で回して書き込んで、授業の最後にくじの結果を発表する。
「じゃあ約束通り席替えのくじやるねー」
担任の先生がにやっとしながら紙を生徒たちに向ける。
僕のクラスの担任はどこの学校にも1人はいそうな陽気なおばちゃん先生だった。
先生がひらひらとさせる紙を見ながらちゃんと検索結果を覚えているか確認する。3本目に8本目、23本目に……あとは……よし。
楽しみそうで少しざわつく生徒たちに向かって先生が歩き出す。僕はせっかくのイベントを楽しむことはできなかったが優雅な気分だった。
しかし、そこで先生が思わぬ行動を取る。
「いつもはこっちから回すから今日はこっちからにしよっか」
いつも通り右に歩いた先生が踵を返して左に行く。
先生が問題を生徒個人に問うていく時に気まぐれで行われるとちょっと困るやつだ。いきなり想定してない問題に答えさせられることになって焦る。
けど今日のそれはちょっとどころではなくてマジで困る。
僕の席の位置はいつも通りの方に近い。逆からだとあみだくじの棒を選ぶ余地が無くなる。
状況が変わってしまった僕は机の下で拳を握りしめた。このまま先生の思い通りにやらせてしまえば僕に回ってきたときに後ろの席へ繋がる棒が残ってない可能性が高い。どうする……。
どうすると言っても何を行動することもできなくて……僕は後ろの席へ繋がる棒が残っていることを祈るしかなかった……。
そして落ち着かない授業を受けながらあみだくじの紙を受け取った時、僕は唇を嚙みしめる他なかった。
案の定、黒いパソコンに聞いた後ろの席へ繋がる棒は他のクラスメイトの名前で埋まってしまっている。こういう不安って大体的中してしまうものだ。
いや、参ったな。まさか他のクラスメイトの名前を消して書き直す訳にもいかないし……こうなれば後ろから2番目の席狙いの勘で行くしかない。
後ろから2番目の席も検索しておけば良かった。悔やんでも仕方がない。
僕は脳内黒いパソコン検索シュミレーターを使って「席替えのあみだくじ 後ろから二番目の席の棒」を検索した。
うーん。あのパソコンならなんとなく7番目とかこの辺か。うん。間違いない。
渾身の苗字記入。いつもより達筆で名前を書いた。
そんな僕の次の席は最前列の真ん中になりました……。
僕は徒歩通学でいつも1人で学校に行く。早起きだけど朝食は控えめ。時間に余裕を持って出発する僕はゆっくりと歩いて行く。
そっちのほうが好きだから。朝を忙しくしたくない。空に浮かぶ雲でも眺めながら歩いていたい。
そうやって1人で歩いている時、最近はもっぱら考え事をしている。もちろんと言っていいだろう。黒いパソコンで何を検索しようかという考え事だ。
でも今日は違った。今日は既に検索を終えている。今日検索することは前から決めていたのだ……。
何故なら今日は席替えがある日。僕は朝のうちに、席替えの為の検索をした。
多くの人が望む席替えで理想の席を手に入れるという未来。それを確定させる為。僕にとってそれは最後尾の席だ――。
「席替えのあみだくじ 後ろの席の棒」
僕の担任の先生はいつもあみだくじで席替えをする。だからこうやって検索した。
するとパソコンはこう答えを出した。
「今日のあなたのクラスで行われる席替えのあみだくじで最後尾の席に繋がる棒は、右から3本目、8本目、23本目、25本目、31本目、35本目です。」
クラスの席の列は6本、最後尾ならどこでもいいと思って検索した僕への完璧な答えだ。
僕はその答えを暗記して、一応メモも取って出発し、朝の通学路を歩き終えた。靴箱で上履きに履き替えると、教室に入って自分の席に座る。
今日は早く着きすぎたようで、まだ教室内に人は少ない。僕は机の上に置いたスクールバックを抱いて並んでいる机とイスを眺めた。
この席の中でどこに座りたいかって結構人によりけりだと思う。大体の奴は後ろの方の席を好んでいるけど、その中でも一番後ろが良い派と後ろから2番目が良い派に分かれる。
前の方で右端か左端が好きという意見も聞く。意外とそこが一番目立たなくて落ち着いたりするのだ。
僕は普通に1番後ろ派だった。
そしてその好みの席に座れるかどうかって普段の学校生活において結構重要だ。迷わず黒いパソコンに答えを聞けるものである。
――いつもの雰囲気で時間が過ぎて……その時は来た。席替えがある授業。つまり担任の先生による授業だ。
僕のクラスでの席替えの詳しい方法はこうだ。担任の先生が担当する授業中にあみだくじが書かれた紙を生徒で回して書き込んで、授業の最後にくじの結果を発表する。
「じゃあ約束通り席替えのくじやるねー」
担任の先生がにやっとしながら紙を生徒たちに向ける。
僕のクラスの担任はどこの学校にも1人はいそうな陽気なおばちゃん先生だった。
先生がひらひらとさせる紙を見ながらちゃんと検索結果を覚えているか確認する。3本目に8本目、23本目に……あとは……よし。
楽しみそうで少しざわつく生徒たちに向かって先生が歩き出す。僕はせっかくのイベントを楽しむことはできなかったが優雅な気分だった。
しかし、そこで先生が思わぬ行動を取る。
「いつもはこっちから回すから今日はこっちからにしよっか」
いつも通り右に歩いた先生が踵を返して左に行く。
先生が問題を生徒個人に問うていく時に気まぐれで行われるとちょっと困るやつだ。いきなり想定してない問題に答えさせられることになって焦る。
けど今日のそれはちょっとどころではなくてマジで困る。
僕の席の位置はいつも通りの方に近い。逆からだとあみだくじの棒を選ぶ余地が無くなる。
状況が変わってしまった僕は机の下で拳を握りしめた。このまま先生の思い通りにやらせてしまえば僕に回ってきたときに後ろの席へ繋がる棒が残ってない可能性が高い。どうする……。
どうすると言っても何を行動することもできなくて……僕は後ろの席へ繋がる棒が残っていることを祈るしかなかった……。
そして落ち着かない授業を受けながらあみだくじの紙を受け取った時、僕は唇を嚙みしめる他なかった。
案の定、黒いパソコンに聞いた後ろの席へ繋がる棒は他のクラスメイトの名前で埋まってしまっている。こういう不安って大体的中してしまうものだ。
いや、参ったな。まさか他のクラスメイトの名前を消して書き直す訳にもいかないし……こうなれば後ろから2番目の席狙いの勘で行くしかない。
後ろから2番目の席も検索しておけば良かった。悔やんでも仕方がない。
僕は脳内黒いパソコン検索シュミレーターを使って「席替えのあみだくじ 後ろから二番目の席の棒」を検索した。
うーん。あのパソコンならなんとなく7番目とかこの辺か。うん。間違いない。
渾身の苗字記入。いつもより達筆で名前を書いた。
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