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word14 「夜食 食べていいか」

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 今、僕はとても良くない状況にある――。

 とてもとても良くない状況だ。端的に言えば究極の選択を迫られている。

 もう日を跨ごうかという深い夜のこと。僕のお腹が空腹を訴えていた。

 そう。究極の選択とは「夜食を食べるか否か」というものだ……。


 自分磨きのための黒いパソコンから教わった筋トレを続けていた僕は、今日も決めている通りのメニューをこなした。夕ご飯を食べてから風呂に入るまでの間に軽く汗をかきながら。

 そうして体を疲れさせていると、就寝に向かう数時間の間にまた腹が減ってしまう。風呂からあがってから明日の授業の予習なんかをしたり、テレビを見ながらスマホを弄ったりしていればちょうど何かを食べるのにいい腹のコンディションの出来上がりだ。

 しかし、欲望のまま遅い時間に食事を取ってしまうと体に良くないという一般常識がある。誰もが唱えることだ。夜寝る直前に食べると太るだの眠れなくなるだの。しかも、筋トレ中の僕にとっては脂肪をつけることは最悪である。

 最近の僕にとってはこの寝る前に腹が減るというのはよくあることだ。いつもは耐えられているし、眠気のほうが強い。でも今日の腹はそうはいかないぞという調子だった。

 腹はすこぶる減っているのに、目はとことん冴えている。絶対に眠れないからベッドに寝転ぼうとも思わないほど。たぶん何か食べないと眠れやしない。正にとても良くない状況だ。

 僕は手で腹を撫でながらどちらを選択するか考えている。かれこれ10分くらいそうしていた。食べたら太ってしまう、でも食べなきゃ眠れそうにない、でも食べたら……、でも食べなきゃ……。それの繰り返しだ。

 腹から感じる明らかな空腹。かなり丁度いい空腹だ。筋トレから数時間経って夕食はすっかり消化された。今食べれば一番おいしく受け入れられるはず。だけど……。

 こんなに悩んでいるのならいっそさっさと食べてしまってからもう少し起きていればいい。そう主張する僕もいる。

 だけど、さらに悩めるところは食べるとすれば大盛りのカップラーメンだということだ。

 いつぞやの検索によりコンビニくじで当てた良いカップラーメン。そもそもあれを思い浮かべてしまったことでこの夜食を食べるか1人議論は始まったのだ。

 食べるにしても大盛りカップラーメンは良くない。とても良くないなあ……。

 正直なところもうどちらにするか腹を決めてしまっている。ここまで食べたいと思ってしまった以上、もう食べなきゃダメだ。

 自分の本心に気づいてはいるけれどあと一歩が踏み出せなかった。

 そんな僕はあと一歩をよりにもよって黒いパソコンに求めた。

「夜食 食べてもいいか」

 キーボードで入力する。良くない。これも本当に良くない。

 日付が変わってすぐに僕はそれを検索した。こんなことに黒いパソコンの検索まで使用するなんて正気じゃない。分かっていながらも罪を犯したのだ。

「今からあなたが本格とんこつ~随一~ノンフライを食べて水を1杯飲んで寝た場合、食べてから10分以内の就寝であれば約62gの脂肪が体につきます。飲み物が緑茶であれば約50g。食べるかどうかはあなた次第です。」

 それを見た僕の感想は50gくらいなら食べていいというものだった……。

 深夜にカップラーメンへお湯を注ぎ自室に運ぶことのこの罪悪感。5分待って蓋を開けた時のこの幸福感。

 液体ソースをしっかり混ぜ込んで、いきなりチャーシューと共にすすれば、この脂ぎった麺はなんて旨いのだろうか。

 その後、僕は冷凍のからあげもレンジでチンした。
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