上 下
2 / 21
【第一章】斯くして物語は巡り始める

ep.1

しおりを挟む
「で、いい加減、わたくしに、吐いたら、いかがかしら!」
「ルミナスさま、そんなに声を荒げたら喉を痛めてしまいますわ。」
「そんなこと、どうでもよくってよ!ファルミーナ・マジカ、ルミナス・ロソィーノの名において、事のあらましを話すことを命じるわ。」
「手紙にてお伝えした通りですわ、ルミナスさま。」

「手紙ですって……?子を授かったからマジカを返上した、だけで何がわかると言うの!」


 ただただ、ルミナスさまの声が部屋に木霊すのみ。人払いをしているせいで、彼女を止める人は誰ひとりとしていない。パチパチと、嫌な音まで聞こえてきた。後ろめたさもあり、彼女の顔を正面から見られない私からは窺い知れないが、たぶん魔力共振である火花が飛び散っていることは想像に難くない。
 事の発端は、ルミナスさまに送った一通の手紙。近況を伝える文を彼女へと渡るように手配してから、実家というか郊外にある自宅へと帰宅した。が、家で待ち受けていたのは彼女の家の紋が印してあるお迎え。丁寧な、それでいて有無を言わさないで連れてこられたのは、彼女の部屋。しばらく待てば、人払いを命じて開口一番に言われたのが先ほどの言葉と言う訳である。


「何で相談してくれなかったの!こういう時のために、わたくしは権力を持っていてよ!」
「ルミナスさま、オブラートに包んでお話し下さいませ。」
「それに、わたくしの可愛いミーナを傷モノにしたのは誰なの!きちんとした男か見定めるのがわたくしの使命であるというのに!」
「その使命は初めて伺いましたわ。」
「当たり前よ!とにかくはっきりしているのは、種馬は処理しなければならないわね。」
「ルミナスさま、言葉を選んでくださいませ。」


 そして、先ほどからこの会話を延々と繰り返しているのだが、いつまで続くのだろうか。現実逃避気味に窓から外を見ると、憎たらしいほどに美しい夕日が空を彩っていた。

 ここは、この世界においても有数の大国であるゼリーヴァ王国。この国は豊かな自然や資源が豊富で、穏やかな王政国家である。また、精霊に力を借りる魔術が発展しており、人々の暮らしを支える魔術を操る魔術師は崇められることも少なくない。しかしながら精霊や魔術にはまだまだ謎が深く、研究が続いているのも事実である。つまり、魔術を使いこなせているとは言い難い現状。しかしながら、精霊信仰もあるこの国では有り難く精霊様のお力をお借りしているという訳である。
 そしてこの国の中で、有数の魔術師というのが王国立魔術師団であるのだ。名の通り王国立魔術師団とは、王国のお抱えの魔術師の一団である。魔術師団長を頂点として、数多の師団で形成されており、王国立魔術師団に入っていると言えばたとえ平であろうとも尊敬のまなざしをうけることが出来るほどのエリート集団だ。そして、王国を守る者の証として、魔術師団の一員の証として、マジカの名を賜ることが出来る。
 つまり、私はマジカの名を賜った王国立魔術師団の一員であったのだ。つい先日までのことであるけれど。


「誰か!じいや、ばあやを呼んできなさい!ミーナを傷モノにしたクソ野郎を抹殺するわ!」
「ルミナスさま!」
「かしこまりました、お嬢様。」
「どこにいたの!?というか、かしこまりましたじゃなくてルミナスさまを止めて!」


 とにもかくにも、暴走している彼女を止めるすべが欲しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...