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特別編(4)信じる気持ち
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異世界に別れを告げ、白い扉をくぐった由佳里は、まぶしさに思わず目をつむった。
恐る恐る目を開けたときには、さっきくぐったばかりの扉はすでになくなっていた。
あたり一面、何もない真っ白な空間。
由佳里は、一人でその空間に取り残されることに、恐怖を感じる。
とにかく進まなければと一歩踏み出そうとしたとき、背後に誰かの気配を感じた。
ぱっと振り返ると、そこにはいつの間に現れたのか、白く輝く長い髪の男性が立っている。
純白の衣装が神々しく、由佳里は彼が神であろうことを察した。
「はじめまして、由佳里ちゃん」
男が挨拶をする。
驚くほど穏やかな声だった。
「はじめまして。あなたは、神様ですか?」
由佳里の質問に、男は頷いた。
「私は、君の元いた世界を司る神だよ。君には、ずいぶんつらい思いをさせてしまった」
すまない、と謝る神は、本当に申し訳なさそうにしているように見えた。
しかし先程異世界の神々の本音を知ったばかりの由佳里には、素直に信じることは難しい。
「君がさらわれたことには、すぐに気づいた。でも、よその世界に干渉することはご法度でね、助けることも叶わず時間だけが過ぎてしまった」
「……でも、異世界の神様たちは干渉しているのでは?」
「そう。だからいずれ、彼らはその罪を贖わなくてはならないだろう」
「取られたものを取り返してもダメなんですか?」
「……すまない。しかし、君たちの世界でもそうだろう?盗まれたものを盗み返すことは、法で禁じられているはずだ」
確かに、自転車を盗まれた後に自分で取り戻して、窃盗罪で逮捕されたという話を聞いた覚えがある。
神様の世界も厳しいものだ。
そう思いながらも、由佳里は納得できない気持ちで食い下がる。
「それでも……私は助けてほしかった……!もう元の世界に戻れないって聞いたとき、私は何度もあなたに助けを求めたのに……」
「……聞こえていたよ。家族に会いたいと、元の世界に戻りたいと嘆く君の声が。だが私には、君と家族を一度だけつなぐことしかできなかった」
「……!」
一度だけできた、両親との会話。
それは異世界の神々の気まぐれだったのだろうと由佳里は思っていた。
しかし、目の前で悲しそうにしている神が、由佳里のためにしてくれた精一杯のことだったのだ。
由佳里は、少し迷いながらも「やめよう」と決めた。
神様を疑って苦しくなるのは、やめよう。
誰かを責めるのは、もうやめよう。
「ごめんなさい」
由佳里は神に頭を下げた。
「あなたのこと、完全に信じられるかっていうと難しいけど……。私のために、できるだけのことをしてくれたって、信じます。伊月さんたちを私のところに連れてきてくれたのも、神様とノアくんなんですよね?なのに、責めるようなことを言って、ごめんなさい」
「かまわないよ。私も、力不足で君をひどく傷つけた。本当にすまない」
誠実に寄り添ってくれる神の言葉に、由佳里の心は少し救われたような気がした。
私の世界の神様が、この人でよかった。
そんなことを、由佳里はぼんやりと考えていた。
「あちらの世界とこちらの世界では、時間の進み方が異なるのは聞いたね?こちらの世界の年齢にあった姿に戻しても構わないかな?」
「よろしくお願いします」
由佳里が答えると、神が由佳里に手を差し出す。
すると由佳里の身体が光に包まれた。
光が消え、由佳里は自分の身体を確認する。
割と膨らんでいた胸は控えにしぼみ、身長も少し縮んだようで、着ていた服がゆるくなった。
異世界へ行ってから王子の希望で伸ばしていた髪も、以前のように肩の高さまで短くなっている。
「おや、服も調節しなくては」
神がもう一度手をかざすと、由佳里の着ていた服が変わる。
懐かしい、元の世界の衣服だ。
あの日、異世界へ連れていかれた日に着ていた、水色の縞模様のワンピース。
「うん、よく似合っている」
そう笑った神に、由佳里は「ありがとう!」と満面の笑顔を返した。
そんな由佳里に、神はひとつの問いを投げかけた。
「異世界での記憶を消したいと思うかい?」
恐る恐る目を開けたときには、さっきくぐったばかりの扉はすでになくなっていた。
あたり一面、何もない真っ白な空間。
由佳里は、一人でその空間に取り残されることに、恐怖を感じる。
とにかく進まなければと一歩踏み出そうとしたとき、背後に誰かの気配を感じた。
ぱっと振り返ると、そこにはいつの間に現れたのか、白く輝く長い髪の男性が立っている。
純白の衣装が神々しく、由佳里は彼が神であろうことを察した。
「はじめまして、由佳里ちゃん」
男が挨拶をする。
驚くほど穏やかな声だった。
「はじめまして。あなたは、神様ですか?」
由佳里の質問に、男は頷いた。
「私は、君の元いた世界を司る神だよ。君には、ずいぶんつらい思いをさせてしまった」
すまない、と謝る神は、本当に申し訳なさそうにしているように見えた。
しかし先程異世界の神々の本音を知ったばかりの由佳里には、素直に信じることは難しい。
「君がさらわれたことには、すぐに気づいた。でも、よその世界に干渉することはご法度でね、助けることも叶わず時間だけが過ぎてしまった」
「……でも、異世界の神様たちは干渉しているのでは?」
「そう。だからいずれ、彼らはその罪を贖わなくてはならないだろう」
「取られたものを取り返してもダメなんですか?」
「……すまない。しかし、君たちの世界でもそうだろう?盗まれたものを盗み返すことは、法で禁じられているはずだ」
確かに、自転車を盗まれた後に自分で取り戻して、窃盗罪で逮捕されたという話を聞いた覚えがある。
神様の世界も厳しいものだ。
そう思いながらも、由佳里は納得できない気持ちで食い下がる。
「それでも……私は助けてほしかった……!もう元の世界に戻れないって聞いたとき、私は何度もあなたに助けを求めたのに……」
「……聞こえていたよ。家族に会いたいと、元の世界に戻りたいと嘆く君の声が。だが私には、君と家族を一度だけつなぐことしかできなかった」
「……!」
一度だけできた、両親との会話。
それは異世界の神々の気まぐれだったのだろうと由佳里は思っていた。
しかし、目の前で悲しそうにしている神が、由佳里のためにしてくれた精一杯のことだったのだ。
由佳里は、少し迷いながらも「やめよう」と決めた。
神様を疑って苦しくなるのは、やめよう。
誰かを責めるのは、もうやめよう。
「ごめんなさい」
由佳里は神に頭を下げた。
「あなたのこと、完全に信じられるかっていうと難しいけど……。私のために、できるだけのことをしてくれたって、信じます。伊月さんたちを私のところに連れてきてくれたのも、神様とノアくんなんですよね?なのに、責めるようなことを言って、ごめんなさい」
「かまわないよ。私も、力不足で君をひどく傷つけた。本当にすまない」
誠実に寄り添ってくれる神の言葉に、由佳里の心は少し救われたような気がした。
私の世界の神様が、この人でよかった。
そんなことを、由佳里はぼんやりと考えていた。
「あちらの世界とこちらの世界では、時間の進み方が異なるのは聞いたね?こちらの世界の年齢にあった姿に戻しても構わないかな?」
「よろしくお願いします」
由佳里が答えると、神が由佳里に手を差し出す。
すると由佳里の身体が光に包まれた。
光が消え、由佳里は自分の身体を確認する。
割と膨らんでいた胸は控えにしぼみ、身長も少し縮んだようで、着ていた服がゆるくなった。
異世界へ行ってから王子の希望で伸ばしていた髪も、以前のように肩の高さまで短くなっている。
「おや、服も調節しなくては」
神がもう一度手をかざすと、由佳里の着ていた服が変わる。
懐かしい、元の世界の衣服だ。
あの日、異世界へ連れていかれた日に着ていた、水色の縞模様のワンピース。
「うん、よく似合っている」
そう笑った神に、由佳里は「ありがとう!」と満面の笑顔を返した。
そんな由佳里に、神はひとつの問いを投げかけた。
「異世界での記憶を消したいと思うかい?」
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