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トンネル
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山沿いの道をゆくとこんな景色を見かける。
資材置き場を回りこんで、落盤の危険も少しあるかなという老朽化した、
百数十メートルらしい小さなトンネルになっている歩道がある。
トンネルの入口には筵が敷いてあって、ホームレスでもいたのかなと思う。
使われていない廃墟などではそういう先住者がいるものだ。
車だったら別に気にもしないで通り過ぎるだろうが、歩くとなると、気持ち悪い。
この心理は、やはり不思議な世界の入り口があるという気がするからかも知れない。そのトンネルに、友達のTが迷い込んだ。
最悪なことに車が突然山道でエンストを起こした。
ちなみにエンストした場合、電気系統、燃料系、燃料噴射系の三点が主な原因である。もちろん、当事者に整備士並みの知識があれば別だが大抵原因不明である。
「神様って奴を恨みたくなるよな。」とTは言う。
だがTは交差点でエンストをするという話も知っていたので、ラッキーだなと思った。そんなわけでTは電話をしたいが、山道だから圏外である。
そうなればレッカー車でも呼ぶか、車に詳しい人に来てもらうしかない。
人が来るのを待って助けを乞う道もあったがまだ朝方である、
人家があれば助けを求めたりできるかも知れない。
そんなわけで内にこもる排気ガスのにおいを嗅ぎながら、
埃っぽい、湿気た、トンネルをくぐる。
最初から気持ち悪いとは思っていたらしい。
「一歩進むたびに、空気が重くなるような気がするんだ。」
―――歩いている内に、どうしてか、背中に人がいるような気がしてくる。
真夜中、そういう場面がある。鏡の恐怖・・・押入れの恐怖・・。
でもそういうのは大抵、気のせいだ、とTは言う。
すると、前に人影が見える。歩かない―――立ち止まっている・・。
これが花壇の前だったらわかる、川の前でもいい、コンビニの前でもいい、
そういうのはわかる、どうして暗いトンネルで立ち止まっているんだ。
「うわっ、何だこいつ気持ち悪い、と思ったよ。」
、、、、、、、、、、
すうっと通り過ぎた時、全身が凍りつくかと思った。
その瞬間、ふっと耳元で囁き声が聞こえた。男性の声だった。
、、、、、、、、、、、、
「お前ここへ何しに来たんだ。」
Tはどうしてかその時、気絶したらしい。
お前チキンだな、と馬鹿なことを言ったが、この気絶する理由というのは、情報量があまりにも多いからだろうと僕は思っている。脳は最大11の次元で機能する多次元幾何学的構造を作り出せる。幽霊と自分たちのいる次元が違うのだから船酔いした状態になったり、嘔吐感に見舞われることも当然ありうる。感覚が冴えるのも、そういった作用だ。
ともあれ、Tは誰かに揺り起こされて目覚めた。
Tは、地元の親切なトラック運転手に倒れているところを発見されたらしい。
「そのドライバーに聞いたんだけど、何でもそこで轢き逃げがあったらしいんだな。まあ、死亡時刻が夜だったらしくて、そんな所で轢かれる方が悪いんだ、という見方もあるけど―――」
Tは言葉を濁した。犬や狸や猫だって同じだ、動物だろうが責任は取らなくちゃいけない。ちなみにその轢き逃げ、まだ犯人は見つかっていないらしい・・。
でも轢き逃げの犯人の検挙率は九十パーセント以上と何処かで読んだ。
また轢き逃げをしたら一発で免許取り消しになる。まだ捕まっていないということは、酒気帯び運転や、薬物だったのかな、とも僕は思った。
迷宮入りしないで欲しいな、と僕は言った。
「でもどうも俺は、その轢き逃げされたおっちゃんの幽霊から、
見逃されたと思うんだな。」
どういうことだと聞くと、Tは確かにトンネルに入ったはずなのに、
何故か自分の車の傍らに倒れていたというのだ。
「しかも面白いことに、車が動くんだ。何でだろうな、いま考えても相当気持ち悪い。いまでも犯人を捜してるんだろうけど・・・波長が合ったのかな―――。」
美人の異性に波長が合ったら嬉しいんだけど、とTはビールを飲みながら言ったが、波長が合うというのは、不本意でも、それに該当しなくても、類は友を呼ぶということだ。つまり、霊的な見方をおしすすめるなら、Tの運転に対する戒めとしてそういう現象が起きた可能性がある。僕はTにそう忠告した。
そうだな、気を付けるよ、とTはそう言った。
ただ個人的に一つだけ思うことがある、と僕は付け加えた。
何だ、とTが言った。
お前は忘れてるようだけど、と僕は低い声で言った。
、、、、 、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、
「はたして、お前の背中を見ていたそいつは、誰だったんだろうな?」
資材置き場を回りこんで、落盤の危険も少しあるかなという老朽化した、
百数十メートルらしい小さなトンネルになっている歩道がある。
トンネルの入口には筵が敷いてあって、ホームレスでもいたのかなと思う。
使われていない廃墟などではそういう先住者がいるものだ。
車だったら別に気にもしないで通り過ぎるだろうが、歩くとなると、気持ち悪い。
この心理は、やはり不思議な世界の入り口があるという気がするからかも知れない。そのトンネルに、友達のTが迷い込んだ。
最悪なことに車が突然山道でエンストを起こした。
ちなみにエンストした場合、電気系統、燃料系、燃料噴射系の三点が主な原因である。もちろん、当事者に整備士並みの知識があれば別だが大抵原因不明である。
「神様って奴を恨みたくなるよな。」とTは言う。
だがTは交差点でエンストをするという話も知っていたので、ラッキーだなと思った。そんなわけでTは電話をしたいが、山道だから圏外である。
そうなればレッカー車でも呼ぶか、車に詳しい人に来てもらうしかない。
人が来るのを待って助けを乞う道もあったがまだ朝方である、
人家があれば助けを求めたりできるかも知れない。
そんなわけで内にこもる排気ガスのにおいを嗅ぎながら、
埃っぽい、湿気た、トンネルをくぐる。
最初から気持ち悪いとは思っていたらしい。
「一歩進むたびに、空気が重くなるような気がするんだ。」
―――歩いている内に、どうしてか、背中に人がいるような気がしてくる。
真夜中、そういう場面がある。鏡の恐怖・・・押入れの恐怖・・。
でもそういうのは大抵、気のせいだ、とTは言う。
すると、前に人影が見える。歩かない―――立ち止まっている・・。
これが花壇の前だったらわかる、川の前でもいい、コンビニの前でもいい、
そういうのはわかる、どうして暗いトンネルで立ち止まっているんだ。
「うわっ、何だこいつ気持ち悪い、と思ったよ。」
、、、、、、、、、、
すうっと通り過ぎた時、全身が凍りつくかと思った。
その瞬間、ふっと耳元で囁き声が聞こえた。男性の声だった。
、、、、、、、、、、、、
「お前ここへ何しに来たんだ。」
Tはどうしてかその時、気絶したらしい。
お前チキンだな、と馬鹿なことを言ったが、この気絶する理由というのは、情報量があまりにも多いからだろうと僕は思っている。脳は最大11の次元で機能する多次元幾何学的構造を作り出せる。幽霊と自分たちのいる次元が違うのだから船酔いした状態になったり、嘔吐感に見舞われることも当然ありうる。感覚が冴えるのも、そういった作用だ。
ともあれ、Tは誰かに揺り起こされて目覚めた。
Tは、地元の親切なトラック運転手に倒れているところを発見されたらしい。
「そのドライバーに聞いたんだけど、何でもそこで轢き逃げがあったらしいんだな。まあ、死亡時刻が夜だったらしくて、そんな所で轢かれる方が悪いんだ、という見方もあるけど―――」
Tは言葉を濁した。犬や狸や猫だって同じだ、動物だろうが責任は取らなくちゃいけない。ちなみにその轢き逃げ、まだ犯人は見つかっていないらしい・・。
でも轢き逃げの犯人の検挙率は九十パーセント以上と何処かで読んだ。
また轢き逃げをしたら一発で免許取り消しになる。まだ捕まっていないということは、酒気帯び運転や、薬物だったのかな、とも僕は思った。
迷宮入りしないで欲しいな、と僕は言った。
「でもどうも俺は、その轢き逃げされたおっちゃんの幽霊から、
見逃されたと思うんだな。」
どういうことだと聞くと、Tは確かにトンネルに入ったはずなのに、
何故か自分の車の傍らに倒れていたというのだ。
「しかも面白いことに、車が動くんだ。何でだろうな、いま考えても相当気持ち悪い。いまでも犯人を捜してるんだろうけど・・・波長が合ったのかな―――。」
美人の異性に波長が合ったら嬉しいんだけど、とTはビールを飲みながら言ったが、波長が合うというのは、不本意でも、それに該当しなくても、類は友を呼ぶということだ。つまり、霊的な見方をおしすすめるなら、Tの運転に対する戒めとしてそういう現象が起きた可能性がある。僕はTにそう忠告した。
そうだな、気を付けるよ、とTはそう言った。
ただ個人的に一つだけ思うことがある、と僕は付け加えた。
何だ、とTが言った。
お前は忘れてるようだけど、と僕は低い声で言った。
、、、、 、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、
「はたして、お前の背中を見ていたそいつは、誰だったんだろうな?」
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