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かもめ7440

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 部屋に戻って、鞘から剣を抜いて刀身を検める。
 剣は己の魂で出来ている。
 ―――シードの哲学。
 灯芯に点火して、剣を照らす。
 ・・・人一倍責任感が強く、優しいシードの、神経質な一面。
 >>>実際、錬金術のできるシードには、あるいは王から報酬をもらった、 
 彼には、その剣とそっくり同じ、あるいはそれ以上の剣を、
 手に入れることだって―――できるはずなのに・・。
 (刃こぼれなどはないかを見る、あれば砥石で研ぐか、
 鍛冶屋に持っていかなくてはいけない、)
 ―――刃こぼれはしていないようだ、
 それでも何か所かに、わずかな曇りがあるので魔法力を帯びさせた布で、
 丁寧に拭いてゆく。剣の輝きは―――人を見る心に似ている・・。
 [・・・剣というのは消耗品であり、普通は何年も持つものではない。]
 だからシードは剣自体に殺傷力と耐久力をあげる魔法をかけて、
 刃こぼれしないようにしている―――
 
 ・・・どれほど疲れていても、一日の終わりには必ずこれをする。
 命のやりとりをする上で、自分を守ってくれる武器への、せめてもの礼。
 と、部屋に侍女のウィズがやってくる。
 莢に剣をしまって、ドアを開ける。
 「あのーすみません、シードさん、」
 そういえば、殺人鬼がうろついていると言っていたな。
 「・・どうしました?」
 俯き加減の、おずおずとした調子。
 「さっき、兵士が、不審な男が教会に入って行くのを見たと言っているんです。
 よければ、騎士団たちと一緒に見に行っていただけませんか?」
 「そういうことなら。」
 「シードさんがいてくれれば心強いです。」
 垂れた目尻・・。
 賊の侵入に、神官がモンスターだった事件、
 ソリアの暗殺・・暗躍するモンスター・・。
 シードは塔状の別棟の階段を降りてゆく。
 外はとりとめもなくまだらな、ナイーヴでイノセントな色合いに染まっている。
 ・・・不鮮明ながら、複数の靴跡を発見する―――。
 アマチュア天文学者の発見!・・
 真理へいたろうとする憧憬、衝動を含んでいる、交わりの諸相。
 わたしは肺結核です的な性格の月の光・・・・・・。
 ふっと、眺めてみたくなる・・。
 はなやかに騒いでいる意味や音節の遊動性にゆだねた森の入り口・・
 『モネ風の庭 Monet’s garden』―――。
 掖庭―――巻きつき型の蔓性植物ないし下垂性植物・・。
 オペラの舞台装置のように調和がとれている、
 どの茂みも、どの樹も、どの枝でさえも、ちゃんとしかるべき場所にある。
 ・・・悲しい眼差し、
 社会という名の下にネジやボルトが認められて・・。
 危機感-反響・・虫歯にかぶせる銀のかぶりもの。
 反生物学的、非人間的なゆがみによって自覚的な個人を見失いがちな時・・。
 決して王侯の慰めものではないはず―――。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 連れ立って城の外へ出ると騎士団数人が屯していた。
 何故かソリアがいた。
 そういえば何処かで聞いた。長くて綺麗な髪の毛は生まれの高貴さを示す、と。
 毎日湯を浴びて髪の手入れができる女性が珍しいからだ、と。
 ・・・でも、温泉の多いラッシード王国にはあてはまらないな、と。
 「ピグと寝たんじゃなかったのか?」
 「ちょっと寝付けなくて。」
 まあいいか、と思う。
 ともあれ、どうも、ウィズが頼んできたわけではなく、彼等が頼んできたらしい。
 もしかしたら自分を連れ出すために、ウィズは自分の仲間であるソリアに、
 声をかけたのかも知れない・・。
 場合によってはソリアは幻獣バハムートを呼び出すつもりだったのかも知れない。
 ・・決して何者にも染まらないように見える―――『稚拙な頑な』さ・・。

  [騎士団員シラー・エリュアール]
 (まったく隙がない動きだな・・)

 シードがやって来ると、騎士団の雰囲気が変わる。
 心臓が破裂しそうになっている、奴等の顔。
 ―――待機中とはいえ、思い思いに足を投げ出している、
 かたん、と槍を落とす者もいた。どうも昼間にやりすぎたらしい・・。

 [騎士団長グスタフ・クレジオ]
 (夜のせいか、昼間よりも・・)

 騎士団長グスタフ・クレジオです、と手を伸ばしてきたので握手をする。 
 ―――維持管理費などランニングコスト、名誉、日々の訓練・・
 ブレーキの効かない車で走り続ける痴呆性・・
 騎士団ともあろうものがと言えばそれまでだが、彼等は百も承知で、
 モンスターの可能性を考慮したのだろ―――う・・。
 (強さは平和と似ている―――犠牲の上に成り立つもの・・)

 「・・・モンスターの可能性が高いのですが、
 モンスターとも思われない。
 御助力をねがいたい。」
 ここは嫌な男を演じて発奮を促すべきかも知れない、と思った。
 だが・・それができないほど騎士団たちの志気の低さは見て取れた。
 神官がモンスターにすりかわっていたこともそうだろうが、
 自分にまったく歯が立たなかったこともあるだろ―――う・・。
 戦争にさんざんやられたあとの街にいる腑抜けた人の顔、
 ―――戦うことも、復興することも、自分を生かすことも忘れた人々の顔を、
 何故か―――思い出す・・・。

 「―――困ったことがあれば、お互い様だ。」
 と、シードは言って、
 「・・・一緒に頑張ろうぜ。」と微笑んだ。
 これに騎士団連中は眼を丸くし、なるほど、優しい人なのだな、と思う。
 ソリアやウィズも、人間が出来ているのだな、と思った。

 納得しつつ、同行する。人どおりのまったくない大通りを進んでゆく・・。
 「噂によって、夜出歩く人間は皆無なんです。」
 小さな酒場が軒を連ねる通りも、灯かりが消えていた・・。
 たれ籠めた厚い霧のなかにあらゆるものがその形もなく呑み込まれているみたいに。
 (なるほど、フランツ・カフカ的だ。)
 蹄の音の混じる音刺激および加速度刺激・・。
 両側には隙間のないほど狭い間隔で建物が並んでいる・・。
 [古代バビロニアの粘土板やギリシア神話などにみられる、城下町の迷路]
 ―――六×八フィートのネズミ用迷路、蟻の巣・・
 >>>目標地点にまで、大分あるようだ・・。
 路地裏の中継地点のような十字路で鉛色をした夜の薄闇の中へ、
 ごく日常的な場所の延長としての小さな町に迷いこんでいく。
 しかしいまは無国籍不法地帯さながら。
 [廃墟マニアが廃墟の写真を集めるような感覚]
 (それは不定期な船に委託する郵便物の不確かな運命に似ている、)
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ためらいがちに吐息といっしょに吐いていく、昼間の記憶・・。
           フラーゲ・デーモン
 胸中で何度も試算する質問の悪魔。
 長い間一人ぼっちでいると、われわれはその空虚を亡霊で充たしてしまう・・。
 ここがゴーストタウンでも―――・・。
 並列帰還増幅器・・。
 分岐点の選択、白ー黒、粗ー滑・・刺激の弁別、板上の溝を指や鉛筆でたどる。
 そして不意に路地の奥へと入っていく。
 ゴミバケツが転がっている・・。

 ほとんどただの偶然かもしれないのに、
 その“事実”は『事態が取り返しのつかない方向』に転がり始めているような証・・。

  [ゲームウインドウ]を読み込んだ、 [状態]に入ってみる。
 足取りに迷いなく路地をスルスルと進んでゆく、
 不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫のように・・。
 ―――九割がた歩行者用通行道路・・
 狭い路地から十字路、三叉路、無数の街燈が街の表情を浮かび上がらせる中、
 [美しい城下町の景色][夜に揺れる洗濯物][井戸][湯煙]
 断片的に思いだす、―――いつか何処かで見たような景色・・
 左右に並んだ建物のきれめで通行人がいないかを調べながら、
 あるいは立派な称号や立派な名前のある建物に、
 自在にとりかえのきく想像を付与しながら、
 まだ眼に見えぬ神の完璧なプロットへ進んでゆく、
 能天気にどこかの暗い夜道を歩いて行く二人の恋人を頭に描きながら、
 ドミノ倒し・・

 やがて、周囲の風景が変わった。
 目当ての教会が見えたところで、シードの足が止まった。
 、、、
 血の跡がある。
 詰むものの詰み手順が大きく変化する。
 懺悔するように月を見上げている、シード・・。黙礼と合掌―――。
 (銀行員の革鞄のような表情―――宿命論的な森厳さ・・)
 傷害致死罪、過失致死罪、危険運転致死傷罪・・。
 夜に群がる甘い罠・・モンスターよりも恐ろしい人間・・。
 旧約聖書ではカインがアベルを殺したのが最初の殺人・・。
 ソリアは、立ち止まったシードを、間違った場所に置き去りにされた荷物みたいだと思う。
 驚くべき意味の簡潔さと明確さ・・もう、生きてはいないだろう・・。
 聞こえない悲鳴はもう、フィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホ、
 オヴェールの教会・・。
 「遅れた―――みたいだな・・」
 ソリアとウィズに、これから先は来るな、と言った。
 神経症的な美人の錆びついて油の切れたブリキ人間的動き・・。
 ソリアが肯く、だが、騎士団連中と共に移動する・・。
 
 「教会です。」
 一瞬にして、全員の警戒レベルが上がった。
 〈血〉の不足ならびに鬱帯・・
 もはや取り返しのつかない一回生の問題、ぐじゃぐじゃした生が、死に変わる。
 光に溢れている眩しい通りから、薄暗い路地裏・・。
 、、、、、、、 、、、、、、、、、
 語りかける頭に、雨が降り続いている・・。
 恐ろしいまでの血の匂い。 この奥から夥しいまでの血の匂い・・。
 
 教会の扉まで血の跡が続いている。ぎい―――っつ・・と、開けると、
 人間の眼をくりぬいている、男性の姿が見えた。
 「貴様!」とシードの声を合図に、十数本のナイフが飛んでくる・・。
 バックライト・ユニット―――。
 騎士団連より先に入ってよかった、シードはそれらを全部、手刀で叩き落とした。
 騎士団連が先に入っていたら、全員血祭りにあげられていたかも知れない。
 はっきりと顔が見える位置まで来る・・・。
 シードが剣を抜いただけで、ごう―――と風が吹く。
 すさまじい剣圧・・。
 指の先から爪先まで目覚めさせる途方もない欲望の目覚め。
 つつと夜気を鋭い針で縫うように聞かれる、無理な不合理な努力が、
 眼の前で確かに生きている証拠のように夜の静けさに呑まれる。
 「死にたくなければ、その人を返せ。」
 「・・・お前、ただ者じゃないな、」
 声が聞こえた・・。
 
 グジョン、という音を立てて背中から黒い蝙蝠の翼が現れた。
 パズルのような影絵が失われるはずの隠喩のように思える。
 意図的に話を混乱させる、時計の針―――。 
 役割の固定された仮面や像という醒めながら見続ける夢・・。
 人体および頭部で吸収される電磁エネルギー。
 人為淘汰と遺伝子操作さながら・・。
 トルーマン・カポーティなら失神しているところ・・。
 強い衝撃が水面下の魚に生理的な害を与えるみたいに・・。
 魔物・・顔が緑色になり、手足が膨張してゆ―――く・・。
 モンスター・・。
 「俺は魔王親衛隊のアラスコ。」
 「魔王親衛隊だと!」
 側近中の側近である。
 とすれば―――明日撃退する予定の魔王軍第一師団ベラゲゴスより強いことになる。ならびに、普通に考えれば騎士団ごときが足元にも及ぶわけがない。
 ・・・シードがいなければ、この国は今頃どうなっていたのだろう。
 というか、そんな『危険人物』が何故、ラッシード王国に―――。
 
 しかし、シードにとっては都合がよかった。
 ページの端に小さな脚注を添えるみたいに、である。

 [シード]
 (この好機を逃すものか・・)

 「これはまずい、殺されるかも知れない」
 と、泣き言を言いながら、身体中の黄金化を始めている、
 手足の筋肉が、十センチ二十センチと、わずかずつ引き寄せられてゆく。
 思考は重力の支配下にはない、鮭が大きな川の源流を遡っていくみたいに、
 心は―――音を隔てた・・世界からあまりにも遠い場所で砂をかぶったひらめ。
 チャンス
 好機をつくりだそうとする・・。根を張り、枝を拡げている―――。
 柔らかく・・きたるべき『完成系』を静かに模索する・・。
 一撃必殺の剣―――。
 
 「オヤ、これは、勇者シード・リャシァット殿ではないか。」
 と、アラスコがおどけた調子で言う。先程までとは喋り方が違った。
 たっぷりした池の水の曇った明るみ・・。
 「・・・それに、気付いていないと思っているのですか、
 その物騒な剣をおさめてくださんな。」
 ・・・バレていようが構わない、
 ノンセンシカル
 無意味だ・・。
 心は―――別のことを考える、考える、考える・・。

 [魔王親衛隊アラスコ]
 (それにしても、あの時のことを思い出すな・・)

 「・・・神官のように俺を殺すこともできるかもしれない、
 でも俺を殺せばシードの旦那―――ちょっと厄介なことになりますぜ、
 まず、魔王親衛隊ってのは、一人消えてもかまわないって存在じゃない。」
 脅し文句ではないのだろう・・、
 でもそれなら、魔王城へ乗り込むだけ・・。
 「・・・死体なら返します、敵意はない、
 無駄な喧嘩で不利益なことはやめましょうよ。」

 ブン、と死体を放り投げてくる。
 ―――油断させる狙いかと思ったが、しかし、本当に何もしてこない。
 気に喰わないが、相手のペースにのせられてやることにした。
 置き忘れられたイースター島のモアイ。
 、、、、、、、、、、、、、        、、、、、、、、、、、
 芥川龍之介に憧れた津島修治の不思議で微妙な桶の中の芋のような世界・・。
 そういうことだ。
 そういうものだ。
 しかし、口の中がザラザラする・・筋や輪郭が掴めないせいだろうか・・。

 「・・・でも、俺はお前のことなど知らないが、」
 くっくっく、と本の頁に栞を挟むみたいに笑った。
 (それは、圧倒的な痛みを伴う指圧で骨のズレを直すようなものだ。)
 、、、、、、、、、、、、、
 永遠に取り戻せない昨日の夢を見ている・・。

 (犬も歩けば棒にあたる、乗りかかった船・・)
 そこでは、どうして犬は棒にあたったのだろう、と言っている。
 そこでは、どうして船に乗らねばならないのだろう、と言っている。

 「そりゃ百年前の話ですからね。
 いやはや、でも、懐かしい、あの不遇の英雄殿の魂が、
 またこうして地上に帰っているのですな。」

 そこから離れて経過した時間を・・?
 無邪気な愛想のよさが自然にまかせて世間のきまりを無視する。

 「・・・・・・」
 、、
 ハッとした。我に返った―――。
 ソリアがこっちを見ている。
 法と秩序の外へ逃亡してかろうじて身の保全をはかる意図のような。
 (知られたくない相手に、百年前の情報が洩れてゆく・・)
 [アドレナリンの刺激を受け、急遽増量された血液]
 ―――“百年前の自分”の“幽閉的事実”を軸に【反転する世界】
 ビニールラップされる―――事態のもつれ・・。
 『乳歯が入れ替わる時』のように、ぐらぐらして、感情が昂ぶり抑えきれなくなる。 でも・・・どうしようもなく・・・。

 「お喋りよりも要点を言え。」
 ―――コキュウヲシロ、オチツケ・・
 でも―――すこしずつ・・すこしずつ、
 宿命や運命といった暗い力に支配されてゆく・・。 
 「いやいや、そのためには、魔王城まで来ることですね。
 大魔王ハゼズヴィキア様が今回のことを知ったら喜ぶでしょうね。
 なんたって、元の肉体の持ち主なんだから。」

 ―――誰にだって、歪んだところがある、
 (生理みたいなものだ・・引き攣った痛みが走る、首・・)
 、、、 、、、、、、、
 そして、シードはキレた。
 そこにいる誰もが、『通り魔のような破壊的一瞬』を覗いた・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 目を焼くような紅蓮の炎が立ち上った。
 超音速のスピード、反応速度の超越、トマトの皮、剥かれる玉葱・・。
 金切り声よりも速い剣。
 [ぐるっと三百六十度を見回す、ソリア・・腰を下ろす、ウィズ。]
 畏怖の目で眺めた・・時間がSTOPしたような、ドアの閉鎖―――。
 バシュン、と教会の三分の一が剣によってぶっ飛ばされた。
 この小さな教会が人間の中に充満する予想以上の犠牲を要求する舞台となる。
 騎士団連は、城で見ていたシードがまだ手加減していたことを悟った。
 ―――星空を区切ったこんもりした木立が覗く。星が細胞分裂さながらに瞬いていた。灰白色の銀の輝きの底深くの呼吸・・。
 アラスコは肩を震わせた。
 (ずいぶん優しい発言ですね、と皮肉を言うアラスコ・・。)
 想像力がしんとした音を立て、犬がわんと鳴いた。
 「・・・・・・さすがに、おっかねえ剣ですね。
 しかもそれ、まだマジじゃねえんでしょう。」
 「―――お喋りな奴だ、死を持って償え。」

 ソリアがビクッとする。
 瞬間冷凍されたような気がする・・。
 シードの闘気が建物を震わせている・・。
 おそらく、シードの全力の一撃の前触れ―――。

 「おいおい、魔物虐待はよしておくんなせえよ、
 でもそうか、アンタの記憶はまだ冬眠状態なんだね、
 だったら教えてやるよ、ハゼズヴィキア様が言ってたよ、
 ―――私には最後の隠し技があった、
 それが意識を乗っ取る技だったとな。
 そこまで追い詰めたのも、シードの旦那、ただ一人きり。」
 
 こいつは、知っている・・。
 非写実的な環境の中に孤立したエモーション――。
 ソリアもまた二人のそれぞれの微妙な反応から、
 過去に関わりのある人物だということを、理解する・・。
 異様に響く―――限定された動き―――深海の捕食生物・・。
 、、、、、、、、、、、、
 理性の狡智に操られる道具・・。
 本当に俺が、シード・リャシァットであったことを・・。
 (そういう自分が、必死に外の空気に触れようとしている、)
 (―――増殖する、増殖する、増殖する、)
 ―――息を吸い込み、止め、吐き出す。

 うまく感情表現できない、大昔、風化したもの、
 ひからびたもの、埃をかぶったもの、伝説の勇者・・。

 「でも、シードの旦那・・、俺は知ってるんだ、
 ハゼズヴィキア様が言ってたよ、
 アンタは、あの時、この魔王を殺していいのだろうか、
 と思ったって言うんだ。本来なら、ハゼズヴィキア様のその技も、
 跳ね返されていたというんだ、嘘か真かね。
 でもどう思う? あの勇者様がだぜ、
 魔王を殺すのを躊躇っていたんだ。
 その心があんまりにもツエーもんだから、
 ・・アンタの望まない、世界中が恨む世界の出来上がりでさあ。」
 「・・・・・・」
 自分が、本当に、勇者シード・リャシァットならば、どうして・・。
 ソリアが、今は集中して、と言った。気を取り直す。

 「―――!!!」

 「おっと、そこの女―――、
 すさまじい召喚魔術を隠しているな。」
 ―――内臓から黒い液がどっぷりと絞り出されたような気がする、
 バハムートを呼び出すつもりだった、ソリアは、不意を打たれる。
 狭い想像力の枠で、口先だけの魔物だと思った・・でも、
 洞察力だけではない、やはり魔王親衛隊といったところなのか。

 [ソリア]
 (くっ、何て奴・・)

 (動揺しながらも、針に糸を通そうとする・・。)
 「―――で、でっ、出鱈目言って、
 シードの気を逸らそうとしたって無駄よ。
 アンタなんか、シードの足元にも及ばないんだから・・」
 「出鱈目かどうかは、魔王城までくればわかるさ。
 なあ、そうだろう、勇者シード・リャシァット殿。
 でも、足元にも及ばないってのはいいことだ、
 ―――そうだろう?」

 次の瞬間、シードがしたように、
 教会の空へ向けてアラスコが衝撃波を放った。
 ・・神に天命をまかせるほかない騎士団連、ソリアとウィズは状況を見守る。
 シードは、道ではなく密室として機能している空間の中でそれを眺める。
 >>>赤子の手をひねるより簡単なこと。
 それは、空間を震わせた・・。
 不安に彩られた黒い習慣が一本の樹木の豊かさを否定する・・。
 生死を隔てる敷居は、もはやたった二人の人物の動向・・。
 [去勢された犬が冬眠前の熊に遭遇したような状況]
 大きな風が―――吹いてくる、吹いてくる・・。

 「まあ、シードの旦那に勝とうが負けようが、
 俺はどっちでもいいんですがね、」
 「・・・どういう意味だ?」
 「そのまんまの意味ですよ、所詮俺なんて脇役、
 一体誰がそんなことに興味があるっていうんです。」

 どうも、性格のよくわからない奴だ。
 壁に伸びる影は、間違いなく自分のもの・・。
 だのに、ほんとうに火の消えたような不景気の世相―――。
 無数の穴と、無数の蛭、蛇、蠍・・。
 『縞馬』と『ホルスタイン』が、模様のいれかえを行う・・。

 「でも、俺には旦那がどうしてそんなことを想ったのか、
 何となくわかるぜ。」
 「・・・・・・」
 「大魔王しいては魔族、モンスターと差別・迫害して、戦って来た。
 敵だと信じ込まされて。確かに下等モンスターはそうかもしれない、
 でも俺や、ハゼズヴィキア様、あるいは、十二師団、親衛隊の連中は、
 旦那と殆ど変らない。」

 小さな鶏が大きな鶏を呑み込む、そして卵からまた別の鶏が生まれてくる。
 子供の時、そんな馬鹿なことを考えた・・。

 くろいやぎが、しろいやぎの、てがみをたべる。
 しろいやぎが、くろいやぎの、てがみをたべる。

 ―――夕暮れ時の蝙蝠と、魔物が交錯する、、、
 
 (デモ・・・ソレハドコカニイル―――ニワトリジャナイ・・)
 (ジブンノナカニアル・・・タシカナカンカク―――。)
 
 「本当の勇者どのには、
 こういう結末しかないのかという疑問だって湧いたろうさ。
 皮膚を裂いてはじけて出てきた爛れ肉のようにね。
 時とともに生じる疑問こそが真実というものですよ、旦那。
 弱きを助け強きを挫く、勇者どのには、いま、
 命を奪おうとしている魔王が、助けてとでも言っている、
 子供のように見えたんでしょう。壊疽、病人のかさぶた、
 どんなグロテスクな魔物も、本当の眼を持った人間には、
 正しく、それが、どういうことか、見えたのでしょうよ。」

 モンスターとは思われない発言。
 氷点下の坂道を転げてゆくような―――不謹慎・・。
 森を横切ってゆく、栗鼠と狐を見間違うようなものだ―――。
 ・・・ヴェランダに椅子があり、膝に毛布をかけた老人に対する批評的発言。
 でも、それが血液だ、―――出鱈目に放り込まれた、百年の隠し味・・。
 あるいは、大魔王ハゼズヴィキアの配下と思われぬ発言・・。

 「お前は、何が言いたいんだ。」
 「旦那の悟りの手伝いでさあ。けど、敵なんていうのはシステム、
 あるいは思い込みさ。
 俺達を倒せば世界平和になるだって、そんなのお門違いさ。」
 と、ソリアが声を荒げる。
 「惑わされないで、シード!」
 「・・・でも、忘れなさんな、旦那、
 ハゼズヴィキア様はおそらく、
 お前となら話をし、友達にもなれるだろうさ。
 なんたって、魔王様の中には本物の勇者の心もあったんだからな。
 この百年のぬるま湯こそがお前の功績でもあったのさ。」
 「聞いちゃ駄目よ! シード!!」


 (ウォッカライムでも、トマトジュースでもいい・・)
 ―――補助線を引いてゆく、咀嚼せず呑み込み、消化してゆく。
 、、、、、、、
 シードは笑った。
 (蟋蟀とゴキブリが、わけもなく遭遇する・・)
 (蛾と蝶が入れ替わる―――うなぎとあなごが脂肪含有量をいれかえる・・)
 エジプトのピラミッドで発見される虫よりも、
 今日、眼の前にある、パンに発見される虫のことを思え・・。
 ・・・プラシーボ効果ならある、
 ソリアのお蔭で冷静になったわけではないが、
 ソリアの声を聞きながら、百年前の過ちを思い出す・・。
 
 「・・・じゃあ、お前は何で、そんな風に人の目玉をえぐりだし、
 内臓をひきずりだしてるんだ。」

 こんなことに、きづかないほど、
 きづけないほど―――。

 よこすべりする・・・。
 
 ・・・オレンジを地下室に放り込んで、黴が生えて、
 かさかさになって、ひからびて、虫がたかる。

 そして眼を閉じて思い浮かべる―――悪い夢だよ・・。
 、、、、、、、、、、、、、、
 首切り用の刀を宙にふりあげた・・・。

 「だったら、百年前の俺は答えを間違えたんだろうな、
 そして百年かけて、俺はもう一度、
 ハゼズヴィキアを倒すだろう。」
 
 一瞬、遠い眼をした。
 軋む階段をそろそろと上がっていくように・・。
 「・・・でも、シードの旦那に会いたかったのは、本当ですぜ。
 ここへは、ガラパゴスを倒すであろう人物を、
 張ってただけですがね、俺は本当に運がいい・・」

 静かな声だった・・。
 けれどもそうさ、覚醒しているいまこの瞬間だって、
 完全に夢想をふき散ずるほどに覚めてはいない。
 弱さ、だよ。それが心の中で腐ってく。
 肺炎をこじらせた犬だ。辛いね。

 ―――ぼそぼそと喋る、アラスコ・・。

 「ハゼズヴィキア様は、俺達の魔力の象徴であり、
 俺達の言語、考え、そして、すべてだ。
 ハゼズヴィキア様がいなくなれば、
 俺達はいまの力を失って、人間たちのモルモットか、
 容赦なく殺される。でも百年、
 ハゼズヴィキア様は一歩も部屋から出ない。
 まるでずっと何かを待っているように、ね。
 いま、旦那が言ったように、
 われら魔物の叡智そのものであるハゼズヴィキア様も、
 答えを間違えたのかも知れない・・。」

 、、、、、、、
 教会中がしーん、とした。
 普通・平均・標準の基準点が大きく異なる、セリフ・・。
 次の瞬間、背中の黒い蝙蝠の翼がばさばさ、と羽ばたく。
 戦意が喪失していた。
 欺かれている可能性もあるはずなのに、
 それはまったくないということが、信じられた。
 魔王親衛隊のアラスコ・・。
 
 「・・・でもどうしてだろうね、
 ―――こんなに懐かしい気持ちにさせる、
 殺すには惜しいと思わせる、人間は、
 この世界で、たった一人だけ。逆に言えばね、
 センチな魔族にするお前が悪いよ。
 みんな哲学的で、詩人になっちまったよ。
 お前が、ハゼズヴィキア様を変えちまった、
 そして俺達をも変えてしまった。
 何で遠慮なんかした、生物は戦う、進化する、
 喰う、そして生きる、殺す、
 ―――なのに、俺達はどうだ、
 旦那ともう何一つ変わらないのさ。」
 
 叫ばなくなった、罵り合うこともなかった、
 だって人間と魔物はこれほどまでに近付いたから・・。
 ―――説明できない、
 管理実態が徹底し、時間の方向を見失った、
 地球の端へと行けば滝になっていて落ちる、そこへと向かって走る、
 だってそれは理解してもらう必要のないことだから。
 これは悪い冗談に違いない、きっと口からの出任せに違いない、そう思った、
 そう純粋に信じた、でも、不安や孤独を感じた、適応は理性を求めた、
 (でもグサッグサッと刃物は心の中に突き刺さって来るんだ、くそったれ。)
 ―――臨界点・・閉鎖独立系のベルトコンベア。
 ―――化石のような抜け殻・・。
 
 教会の空へ浮かんだアラスコはそのまま、夜の闇に消えた。
 ―――後には、破壊された教会と、眉間に皺を寄せたシード。


   *

 
 ソリアは騎士団やウィズを帰らせた。
 (計算作業は電卓より算盤のほうがずっと融通がきくみたいに、)
 記憶から欠落しているもの、重要なもの、思いださなければならないもの――。
 [眼/口/鼻の周辺や顎のラインの消失]
 彼等も色々思うことはあるのだろうが、スライム粘土でもこねるように総合すれば、―――眼の下の薄紙のような皮膚を一瞬こわばらせ、
 『シードさんは別に悪くない』『元気出せよ』というメッセージに集約される。
 あれほどの実力者である。妬みというのはある。
 でも兇暴さや悪賢さを前にしたあとで妬みというのは無用なものだ。灰燼に帰す。
 ―――でもその感情を“同情”と呼ぶにはあまりに軽薄だ。
 ***広い原野に見渡す限り生えているクローバーに白い花でもあるような場面
 [撮影対象との位置を移動させながら、ズームインとズームアウトによって、
 撮影対象の大きさは同一に保つ] 

 それはシードの功績を認めている騎士団連の素直な気持ちなのだろう。
 事情はどうあれ、殺人鬼がモンスターで魔王親衛隊の強者、
 めまい効果―――背景の奥行きが変化する・・
 (風が止んで雨が降ってきたみたいに生唾をのみこむ・・)
 十中八九、騎士団連はこの世の人ではなくなっていただろ―――う・・。
 確かにシードの記憶の中でうごめく継ぎはぎだらけの見るも無残な百年前の真実は、世界に生きる人間として興味はある。はちきれそうな、薬玉だ。
 >>>でも誰に怠慢の誹りは免れないと言えるのか?
 再生機能と誤作動を防ぐという単純な事実・・
 ―――騎士団連も、それは昔、勇者と呼べる勇者の話ぐらい聞いたものだ、
 でも、それと同じぐらい、シードにとって都合の悪いプライヴェートな過去を、
 蒸し返したくない、他人ごとではあるが、土足で踏み荒らしたくないのも本当・・。
 ともすれば、儲けと破滅が紙一重のような状況でも・・。
 焚木がひとりでに起る風に煽られぱちぱちと
 音を立てながら燃えるのを見守るように。
 >>>微弱な意識流の中にある、複雑で抽象的な観念。
 できれば永遠に『金庫の中』にでもしまっておいてほしかった、
 それもまた彼等の素直な気持ちである。騎士団長は代表して言う・・。
 ―――忘れることだ、そんなの一人の責任であるはずもない。

 [ソリア]
(私もそう思った・・)
 ―――私たちはみんな、いつのまにか勇者に魅了されているらしい・・。
 命の恩人だからじゃない、義理や誠意じゃない、生き方や考え方・・。
 [麦の穂のように揺らす、胴体だけがいやにふくれあがった蹄の音――]
 グリモアール チャーム
 魔術書の咒文は、雲間から差す光の気配や、季節の花の色合い。
 (spell word..spell word..)
 、、、、、、
 ウィズは言う。

 「ソリア様、このような時こそ、
 シード様を支えてあげて下さい・・」

 それが可及的速やかな手術を必要とするのに
 いわんや無理難題―――どうもシードはそのことを知っていた節がある・・。
 ―――カメラのズームと、眼線の重要性・・。
 それがわかると、連鎖的な玉突き事故のように、名前を名乗るのを躊躇った理由、
 しんそうるいれつ
 心想羸劣―――。
 いって・・・ほしかった・・・チョット・・・カッコツケスギダヨ・・・。
 ピグちゃんとダルビッシュと世間から隠れた世捨て人のように旅をしていた理由も、さみしくなかったか・・つらくなかったか―――。
 (とても背負いきれない重い過去を―――長い間、ずっと持ち続けて・・)
 ・・・言葉は微かな裂け目、予期せざるまっしぐらな虚妄との闘い、
 地のその上に作りの美しさ、それは鍛錬によっての美しさ・・。
 シードの気持ちが、何となくわかる気がするのだ・・・・・・。

 //“半壊した教会で立ち尽くしているシード”
 【scene《悟りの書を開けない、青年の葛藤》】

 私はシードの肩にぽんと手を置く。
 でも本当言えば、忍びなく、私もまた彼等のようにそっとしておいてあげたい・・。
 ―――けれど、しきりに胸を締め付ける若さと純粋さがそうさせなかった・・。
 胸から肩にかけての筋肉が雄牛のように盛り上がっているシード・・。
 そんな立派な大人の姿のどこに潜む、少年のような幼さ・・。
 ―――無反応のせいで、妙なちぐはぐ感を憶えつつ、
 「シードの気持ちもわかるけど・・城に帰りましょう、
 もう夜も遅いし、風邪を引いてしまう」

 城へと歩きながらも、シードは何一つ喋らない。
 胃腸に問題をかかえた料理人か、痔の疑いのある花嫁―――。
    、、、、、、、
 それが軒下の氷った雪のように積み上がると、
 風刺を意味する"Satire"の語源であるラテン語の「盛込み料理」「寄せ集め」
 ―――これは風刺だ、と哲学的命題が海峡を越えて砂嵐にすりかわりポルノ作家
のたわごとになる。そして通りがかかりの子供が、玉葱を投げる。
 暗い影に折り畳まれたように落ちた肩が妙に薄くわびしい。
 (複数の動作を連続的に用いたいとき、モーションブレンドという手法を用いて、
 なめらかに接続する。二つの動作における各関節角度を混合することで、
 その中間の動きを作成する―――)
 あなたほどの人間がこれぐらいのことでどうしたっていうの、と腹ではそう思いながら、私が意固地に下を向いている理由・・。
 心理的な圧迫感があり―――。
 シードは言わないけど、背中が、肩が、お前にはわからないよ、と。
 、、、、、、、     、、、、、、、、、、、、、
 郵便屋がポストではなく、子供が掘った穴の中に郵便物をいれる・・。
 でもそんなところに母性本能を刺激されてキュンとする―――。
 
 [ソリア]
(完璧主義者で、完全無欠・・)

 でもその人にはこんなに『脆い所』がある―――、
 『自分の人生』に自信があるように見えた『憧れの存在』は、
 過去の辛い経験から来ていた・・、
 『フラットな視点』に見えていたものは・・。
 羨望や嫉妬をしないのは、『大人びて過ごすこと』が多かったから・・
 彼の中にもいたのだ『防衛本能』の向こう側に・・・。

 //“城下町の大通りを隣り合って歩く二人の距離”
 【scene《俳優が自分以外の台詞を頭に入れる演技の幅》】

 どうしたらいいだろう、 
 どうしたらいいん―――だろう・・
 ビスケットやクッキーの破片、ぱらぱらと胸の位置から砂を落とす・・
 オーセンティケーション
 認証を開始します―――。
 予 期せぬ アクシ デント が起き ました   。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 誰もが勇者や英雄だと思っていたその人は、
 (茶碗を伏せたように浮き上がってくる・・)
 心にとても『深い傷』を負っている。
 彼は“他人を赦す”ようには『自分を恕す』ことができない―――。

 ―――こんな状態で、ペラゲゴスと戦うなんて正気の沙汰じゃない。
 自殺行為だ。それだったら、
 幻獣バハムートとペラゲゴスを戦わせた方が勝機がある。
 (本当に、勝ってしまうかも知れないとも思った・・)
 [エドワード・マイブリッジという写真家]
 (馬が走る時に全脚は地面から離れているかどうか?)
 回復の兆しを待ったが、一切その兆候がなかった。
    きみ
  蒼白い鬼魅悪い肉体の感じは緑青色の蛇を喰らったような胃のぬくみ。
 城へ着いてもうなだれたまま“燃え損ね”みたいな顔をしているので、
 このまま帰すわけにはいかない気がした。
 “拡張 ――改良されたESCAPE――”
 『モネ風の庭 Monet’s garden』へ誘ってみる―――。

 (何を見ていいのかわからない非効率的なコーディネート・・。)
 ――まっくらなトンネルを、抜けてい――た・・
 まず、懐かしい草の匂いがした。
 それは、スパゲティーのアルデンテを想像させる。
   い
 水の清い、さわさわとした音・・。
 明 暗 は 魔 法 の よ う に 戯 れ る 夢 の 色 彩 ・・。
 飛び石を、タッ・・タン・・と渡ってゆく花の薫りのする庭―――。
 少女のような優しい花の姿が、庭園を彩る唯一の色彩に思える。
 視覚的な変化に関するあらゆる繊細さ、それは根元の土の中に潜んでいる・・。
 枠組みがいっぺんに取り払われて、クリスマス・ツリーの飾りのことを考える。
 セロリの筋や胡瓜の筋・・ドーナツの穴―――やわらかなゼリー・・。
 ***蜃気楼が眼を醒ます、揺り籠に新しい手の存在を感じる
 近代的製造工業のごとき庭園という意味の拡張・・。
 (濃厚な観賞欲という娯楽が静かな時間を攪拌する―――)

 ―――生命の変化が意志をつくり、力の量が情を、そして対象の選択を智と・・。
 でもそれらが、“経験”であり『生活』である。
 ・・・自治共同や、晴耕雨読、世界平和―――
 矮小銀河と球状星団をつなぐミッシング・リンクみたいに・・。
 中生代の石灰岩やドロマイトの地層が広がり、それらの下に難透性の砂岩、
 石灰岩、粘板岩の地層がある―――。
 、、、、、、、、
 これは何かと問うように、
 、、、、、、、、、、、、
 あなたはそこに何を見るか?
 >>>比率y=x/365
 海岸線のような首の岬の背後になだらかな花の姿が滑り落ちてゆく・・・。
 ―――花は結果、一日の積み重ねの末の栄光、
 ・・・そういう暗示性をいつのまにかじっと見つめるようになる、
 移り変わりの激しい世の中に【騎士の心得】【賢者の石】・・
 降り注ぐ陽光のような褒め言葉もない深い深い穴の底にいても、
 静かな持続力や集中力に、心を砕いていかなくてはいけない・・。

 ―――枯葉の翻る秋の夕暮れのような時にも、
 それでも健気に一筋の気持ちを持って咲かせなくてはいけない。

 ・・・日本の橋は一般的に朱色だが、クロード・モネの橋は控え目な緑・・。
 (感光紙に原図を密着させる、)
 さらぬだに綿雲に閉じられた陽の光・・。
 呼吸と呼吸とのあいだの間隔が徐々に長くなる感覚で、空気を楽しむ、
 粋やお洒落、長く息を吐き出した瞬間に―――心臓は運命の鈴の音を鳴らす・・。
 ライトグリーンの色の橋の所に隣り合って三角座りする。

 「恋人のためにあるようなロマンティックな場所ね・・」
 「これが乙女座の修道院よ、なんて。」
 「・・・・・・」

 その表情は[像の顔]かも知れない。

 「ケルビム-歓楽の冠をあげるから、みたいな、」
 「ねえ、無視するのやめない?」
 「・・・婉曲的なカナリヤに夢中なのね、」
 「・・・・・・」

 その言葉は[蠅取り壺なかの蠅に出口を教える]ことかも知れない。

 「初恋はいつ?」
 「硝子にサンドペーパーでもかけたみたいに曇った顔ね。」
 「薬草とポーションを混ぜ合わせるとすごく不味いって知ってる?」
 「・・・・・・」
 「貧困な話題とか、馬鹿かお前はとか、言ってよ、」
 「もちろん―――その、綺麗だ、とか、言っても・・いいのよ・・・」
 「ピグちゃん、呼んでこよーかな・・つまらないなー、とか、」
 「・・・・・・」
 「・・・黙ってるけど実は心の中では饒舌ってことよくあるよね、」
 「―――恋する三秒前?」
 「・・・もう、お前しか見えない、とかやめてよね、」
 「・・・・・・」
 「シードは、私のこと嫌い?」

 //“喋りつづけるロマンティック・ソリア氏”
 【scene《化学反応を期待しながらことごとく崩れ去る不毛な会話》】

 いちじるしく経験値が足りない。
 目の前の人間が自分とは比べものにならないぐらい努力して、
 色んな壁を越えてきたことは知っている。
 とても、小手先のそれらしい慰めごときじゃあ届かない。
 かといって、こうなりゃ女だと身体を使ったりできるほど、
 色んなことを知っているわけでもない。
 、、、、、、 、、、、、、、
 アップルパイにワインをかけたことだってないのだ。
 ―――ピグちゃんなら、こんな時、どうだろう、
 嫌がられても傍にいて、シードが立ち直るのを待っているのではないだろうか。
 最終的に傍にいて、同じ方向を見ていた人間だけが信頼を勝ち取る。
 ・・・彼の心の傷に触れて逆に傷つけられる覚悟をしなくちゃいけない。
 それがどうしてそうなったのかはよくわからないが・・。
 とりあえず、シードの手をいざなって服の中に入れてしまう。
 その手が、魅力的な標高と張り詰めを持った熱帯系の芳香を放つ茱萸の付近で、
 熟れるのを待つように、―――とどまる。ぶるん、と弾み、
 汗ばんだ肌が甘ったるいフェロモンに変わってくる。
 服と手の微妙な摩擦が、芽のような突起物をひくつかせる。
 ―――触ってきたらどうしよう・・。
 どうしよう、―――勢いでアホなことをやってしまった・・。
 でも、シードが僅かに反応したのをソリアは見逃さなかった・・。
 (こんななし崩し的な方法がいいとは、これっぽっちも思わないけど、
 ―――シードが、いつものシードに戻って・・くれるなら・・・。)
 「女の子に―――恥は掻かせないでしょ・・。」

 ・・・でも次の瞬間、シードの手が服から出て、身体を押し戻された。
 確かにシリアスな時に何でピグちゃんばりの展開だというのはわかる。
 でも、拒絶とかひどすぎる―――と思ったら・・。
 「・・・・・・ソリア、ありがとう、我にかえれたよ」

 ジュ・スイ・ビアン・ア・モネーズ
 もう充分満足したよ―――。
 空の半分をかくしたような、暗い、大きなうねりを見た。
 (よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、)
 「あ―――うん、」

 ―――女だってもうそこまでするぞと決めたからには、
 おいそれと引き下がれない。
 、、、、、、、、、、、、
 引き下がれないのだけれど、シードの真剣な眼を見ていたら、
 もうこれ以上、『シャボン玉遊び』は続けられな―――い・・。

 おもむろに、シードが言う。
 「何でも、迷いの森というのがあるらしいな・・」
 シードが気の遠くなったような声で言う。
 そのような声で言う。
 「霧が深くて、樹が動き、道は変化する、だからいつまでも、
 出口が見つからない・・死ぬまで―――。」
 「ええ。」   

 子供のころに聞かされたお伽噺だ。
 そこに、あなたの気掛かりを解く鍵があるのだろ―――う・・。
 (本能の主潮から逸した一つの愚かな蹉跌・・)
 [体裁のいい外貌と、内容の空虚な実質とを併合した心の状態]
 ・・・迷いの森は続いている、

 「・・・しかも、亡霊が囁いて、嘘の行き先ばかり教える。
 だから永遠に出られない。」

 ―――月夜の夜、物の形が溶けて、何かの影がぼうっと立っている。
 ―――複雑多岐・・クロスワードパズルをしながら歩くような森・・
 絶えず絡み合ういつ尽きるか涯しない迷路の中で、
 ・・・今でも自分はこの世の地獄のどん底をさぐり廻っている、
 同時に、疑惑と不幸と絶望との常闇の迷路をつまずき歩いている、
 犬のように焦燥しながら、道を嗅ぐ―――震蕩症、三半規管の異常・・
 審問会の光景、精神の超形而上的な型式、ルシファーとしての追放・・。
 両腕に鳥肌が立っていく―――夢・・。
 音そのものが何を言っているのだか、その単語の一つさえ、
 はっきりと聞取れないのが、もどかしくてたまらない・・。
 蛞蝓のように光に背を向けて這い、迷路を通過して行く――意識だけが作られた・・
 旅―――旅をしている・・
 その奇妙な質感の手がおいでおいでをするように揺れる・・。
 カメラのファインダーは人々が抱く怒りと恐怖、そして小さな幸せを浮き上がらせる。黒い流れや斑紋を幻覚し、あらゆる血管を後悔の蛆が游ぐのを知覚した。
 狂うがごとく疾駆する騎兵、森の中の千の眼、万の声・・。
 ―――お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ、
 ぞっぷりと血に濡れた在りし日のパーティーのメンバー・・。

 ―――迷いの森は、過去への暗示に満ちている―――

 ソリアが、おかしそうに口許を綻ばせた・・。
 「でも、空を飛べば一発・・
 あるいは、燃やせばいいっていう話も聞いたわ・・。」

 そうかそんな解決策が・・。
 そんな乱暴な方法がと言われるかも知れないが、非常識で大胆な方法以外、
 ないという時があるのだ―――。
 もちろん、シードはいまの自分の行為を比喩的に口にしている。
 ―――暗転。
 「・・・彼女はとても勇敢だと思う。」
 「でも、運がよければ、その森で、
 本当のことを教えてくれる誰かと巡り合うかも知れない・・。」
 すうっと月光の中へ、白い女の二の腕が・・。

 「この暗闇のような大磐石の下に、
 永久に喘がねばならないなんてことはないわ。
 ―――森はいつか終わる、
 あなたが歩き続けている限り・・」

 ―――いま考えている過去は、
 あなたにとって間違えているだけの過去かも知れない・・。
 するすみ
 磨墨のなか・・。
 ほつれ毛が二三本、横頬に乱れかかっているのが、
 傾いた月の光りでハッキリと見え・・。
 恐るべき酩酊の暗黒が前にほの見え、底へ引き込む陰性なものがあると知りながら、立ち止まるどころかかえってそれにひきつけられる。 

 静かだ。
 そうだ。
 いま、少しずつ季節が通り過ぎてゆく・・。

 「そうだな、俺もそう信じたい。」
 「―――そうよ。」
 
 勇者シード・リャシァットの眼に浮かんだ、涙。
   あがり  はくうふたすじみすじ
 それは霽ぎわの白雨二筋三筋・・。
 あれほど強く、勇敢な男が流す、掛け値なしに、
 どうすることもできない時に流れる、弱い涙。
 
 「・・・ずっと黙ってたけど、実は、ソリア、
 お前は、俺のパーティーの白魔法使いだった。」
 驚きはしなかった―――ソロモンの法廷や、あるいはバベルの塔の象徴的なシーン。そちらの方角に、そういう旗があったからだ。薄々感づいてはいた。
 濁った方解石を透して物を見るように、一切がボンヤリして二重に見える。
 「そう・・。」
 何だか出来過ぎるほど出来過ぎていた、
 シードにおけるゴブリンからの救出劇が、
 そういう運命的な作用だったと思えるぐらいに、だ。
 “運命”とはつまり[アメーバのような「増殖作用の産物」]なのだろう・・。
 それ以上、シードは何も言わず、私をいとおしそうに抱き寄せ、
 「守れなくてすまなかった・・」
 一種の透視的な驚異を帯びてきて

 「守りたかっ―――た・・」

 ―――虫のように生きてる液体が、どこからともなく噴き出す・・
 
 (人の感情がいかに客観性を持たないかと思う君・・。)
 どこかで女の声・・・細い声・・・もう一人の私の声・・・。
 眼を動かした―――そこに鏡があった・・・壁に据え付けた姿見・・・。
 真っ暗な部屋の中で―――物心つく前の私は・・自分に違和感を覚えた・・・。

 ――足元に投げてゆくwindow -微風。
 、、、、、
 ひとりでに聞こえているみたいに――
 、、、、
 ちゃんと聞こえないみたいに・・。

  き/おくのかい/ろでは「ど/こにいきたいの」
 優越性の追求や劣等の補償・・
 崩壊熱を取り去るには大量の水を循環させるポンプとモーター、
 熱交換器、配管や弁がきちんと機能する必要がある、人の心―――。
 ど こ か ね じ ま が っ て い て 、 よ じ れ て 、
 う ま く 泳 げ な く て 、 ど ん ど ん 沈 ん で い く ・・
 ***ダリの畸形的発想力

 その言葉を聞いている内に、胸の奥で何かが溢れた。
 それが『恋』というものなのかも知れなかった―――。

 でも、シード・・。
 旅が終わったら、私はあなたにどうしても言いたいことがある。
 私はやっぱり、あなたのことが好きみたいだ。
 百年前の私もきっとそうだったのだろう。
 でもいまの『私』は、『私』として、あなたのことが好きなのだ。

 数分間、抱き合っていたら、不意にシードが離れた。
 月のひかりのひだりからみぎへすばやく擦過した一つの夜・・。
 ついさっき暗い穴から這いあがってきた人間とは思われない、機敏さ。
 
 でもあとになって・・いようにはずかしくなることって・・ある―――。

 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 フィップルを持たないエアリード楽器。
 情に溢れたように見える二重瞼・・。
 「すまない。」
 「いえ・・。」
 
 そういえば、男性にこんな風に抱きしめられるのって、
 心ときめくシチュエーションなのではないか、とソリアは思う。
 ―――いまこのひと時・・。

 「つい、感極まって―――。」
 「はい。」
 、、、、、、
 中学生の会話である。
 
 と、そこへ、ピグが・・・泣きながら現れる―――。
 「ご主人様・・・」
 知ってしまったのか、そうだ、と言おうとしたら、
 「どうして、そこで押し倒して一発やりませんか?
 何故、平常モードに戻ってしまいますか。
 義理でももっこりさせるのはシティハンターの常識・・」
 「・・・・・ピグちゃん、いつから?」

 ―――星が流れ、闇の中に街が見える。
 波の打ち寄せるような心臓の音が聞こえる。
 何が正しいのか間違っているのかわからない。

 ・・・でもきっとこれでよかった、といつか言える旅にしたかった。
 
 「とりあえず、デコピンか、厚く膨らんだ壜の中に入れる。」
 シードとピグちゃんの楽しいやりとり。
 ヴェントリロキズム
 腹話術しているみたいだ。
 「じゃあ、どうぞ、一思いに。」
 と、ピグがソリアの胸の谷間に緊急避難。 
 蝋銀色の翼は玉虫色―――こんな手品みたいな夜に必要だ・・。
 よいしょ、と顔を出す、お伽噺の中の人魚を洗う波。
 肺に出入する空気の音はもとより、心臓の鼓動まで聞こえてくる・・。 
 トロムボオン・・強迫的の絶対命令―――。
 ありとあらゆる早わざや、いたずらにかけて抜けめない名人・・。
 シードが顔を赤くしながら、もうやってられないから、寝る、と言った。

 「―――ご主人様の弱点見つけたり!」

 ねえ、分かるでしょう、ピグちゃん。
 あなたはわざわざ自分を敗北者へ持って行くようなことをしたのよ。
 私は笑いながら、はたしてそうかしら、と胸を掴んで挟み込む。
 ―――その答えはもう出ている。
 「ああ・・・トゥリア・・んん・・んごけにゃ―――」
 でも、ピグちゃんは噛んだりしない。多分、確信犯的なものだろう。
    、、、、、、、   、、、、、、
 つまり水が低きにつく如く、花がひそやかであるように・・。
 足先に近い関節が優先的に動き、根元に近い関節はそれを補助するように動く。
 シードが、そわそわしながら、こっちを見ている・・。
 世界の公道に通ずる道は、ただ一つの直線されたものしかない。 
 新たに“石炭”を『追加』する、仮想空間内のレース・・。
 匂やかな生き生きした艶麗さ・・。
 服装に生じた些細な着くずれ―――相手の顔を穴があくほど見据えながら、
 いくらかわざとらしいしどけなさで、とろけんばかりなよやかにして、
 「何見てるの、Hな勇者様!」

 いつかきっと私があなたの『過去』を救えるような人間になるから、
 そしていつかあなたにとって『掛け替えのない人』になるから・・。

 ―――シード、もっと私を見て・・。

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