20 / 36
【オメガバース】α嫌いのΩとオメガ嫌いのαが番になった話
3話 予感【攻め視点】
しおりを挟む
そう、時代は変わったのだ。
平和が約束され、技術が進歩し、あらゆる手段と知識が共有された現代となっては第三の性"アルファ"と"オメガ"は逆に社会を乱しやすいものと見られるようになり"いかに普通に装うか"────それが問われるものになっていた。
アルファは重宝されている事は変わりない。平均能力が高いからだ。財を築きやすい立場も変わらないが───社会性を身に着けなかったアルファの扱いを語るものはいない。
しかしオメガの立場は変わらず悪く、オメガ保護法などが出来、抑制剤の補助も出るので昔よりはコントロールしやすく人権を確保できる環境になったが、抑制剤が効かなくなったオメガは隔離施設送りになる。
そして隔離施設送りになったオメガの行方も、語られる事は無いのだ。
◇
「んん~~~……」
昼下がり、資料とのにらめっこに疲れ、腕を上げて伸びをする。
「源っさん、仕事詰まってるんスか?」
思い通りにコトが進まない事に頭をバリバリと掻いていると同僚が様子を聞いてきた。
「まあな~…普段の仕事の方は順調さ。お陰様で。……アルファの抑制剤の件が思いのほか、な。」
「やっぱ無理っスって。プライドの塊のアルファが自ら抑制剤飲むってありえないですって」
「一応需要もなくはないし、技術的に可能なんだよ。やっぱスポンサーが中々つかんし、被験者すらロクに見つからねぇ」
「ですよねー、アルファがそもそも治験応募するって想像つきませんもん。オメガは割と賃金目当てで見つかるみたいっスけど」
「だよなー……」
「アルファのラットはほぼオメガとの接触によってもたらされますし。オメガの抑制剤さえあれば足りるって考えばかりだと思うッス」
「まー確かに副反応もどこまで長期で見るとどんな影響が出るかわからん。今んとこメリットとデメリットが釣り合わんか」
「源サンはどうしてそっちの開発しようと思ったんス?」
「………俺んち、アルファ一家だろ」
「うす。なんでも代々続く名家って聞いてるッス」
「………だからアルファの血を途絶えさせないように色々面倒なプレッシャーがあってな。どんな状況でもラットにならない事での信用を築く目的も確かにあるんだが。一番は兄が本当に一緒になりたい人とはなれずにラットに振り回されたのを見てから……かな」
「………名家も色々あるんスね……源サン本人はベータだけど」
「うるせいやい」
「そんな事言っておいてボロ儲けしたいんじゃないッスか~~~?」
湿っぽくなってきてしまった空気を、ムードメイカーの同僚は換気する為にか茶化してくる。
「人が感動的にシメようとしたってのに……まあ半分以上はそれだけど」
「半分もォ!?」
「驚くのそこ!?」
俺自身も、優秀な兄弟での格差で嫌な思いをしてきた。少しくらい報われてもいいんじゃないだろうかという気持ちはかなりあった。
「おーい、お前らァ。川上見なかったか?」
同僚と話し込んでいると、上司が資料とスマホを手にしながら難しい顔してこちらへやってきた。
「いや」
「今日は見てないッスね」
「そっか~~~今日どうも出社してないっぽいんだよ。なんか聞いてるか?」
「え」
「うっそ、あの川上さんが無断欠勤!?」
「そうなんだよ。スマホに電話してんだが、全然繋がらないんだわ」
「………!」
昨日の川上のふらついた姿が過る。
「昨日の今日だからな、不吉すぎんだろうが!」
嫌な予感がした俺はいてもたってもいられず、すぐに自分の鞄を手に取ると出入口へと駆け出す。
「源サン!川上サンち、わかってるんスか?」
「ああ!住所は覚えてる」
「なら自分も手伝うッスよ!」
同僚の申し出に、心底ありがたいと思うものの、今は一人のほうが都合が良い気がした。
「わりィ!気持ちだけ受け取っとく!ありがとうな!なんかあったらすぐ連絡すっから!」
「おけっス!」
会社から出て駅までダッシュする。
そう、俺は確信していた。川上の抑制剤への異常な熱意、ただの正義感だけで説明できないもの。それが何なのか、直感で感じていた。
平和が約束され、技術が進歩し、あらゆる手段と知識が共有された現代となっては第三の性"アルファ"と"オメガ"は逆に社会を乱しやすいものと見られるようになり"いかに普通に装うか"────それが問われるものになっていた。
アルファは重宝されている事は変わりない。平均能力が高いからだ。財を築きやすい立場も変わらないが───社会性を身に着けなかったアルファの扱いを語るものはいない。
しかしオメガの立場は変わらず悪く、オメガ保護法などが出来、抑制剤の補助も出るので昔よりはコントロールしやすく人権を確保できる環境になったが、抑制剤が効かなくなったオメガは隔離施設送りになる。
そして隔離施設送りになったオメガの行方も、語られる事は無いのだ。
◇
「んん~~~……」
昼下がり、資料とのにらめっこに疲れ、腕を上げて伸びをする。
「源っさん、仕事詰まってるんスか?」
思い通りにコトが進まない事に頭をバリバリと掻いていると同僚が様子を聞いてきた。
「まあな~…普段の仕事の方は順調さ。お陰様で。……アルファの抑制剤の件が思いのほか、な。」
「やっぱ無理っスって。プライドの塊のアルファが自ら抑制剤飲むってありえないですって」
「一応需要もなくはないし、技術的に可能なんだよ。やっぱスポンサーが中々つかんし、被験者すらロクに見つからねぇ」
「ですよねー、アルファがそもそも治験応募するって想像つきませんもん。オメガは割と賃金目当てで見つかるみたいっスけど」
「だよなー……」
「アルファのラットはほぼオメガとの接触によってもたらされますし。オメガの抑制剤さえあれば足りるって考えばかりだと思うッス」
「まー確かに副反応もどこまで長期で見るとどんな影響が出るかわからん。今んとこメリットとデメリットが釣り合わんか」
「源サンはどうしてそっちの開発しようと思ったんス?」
「………俺んち、アルファ一家だろ」
「うす。なんでも代々続く名家って聞いてるッス」
「………だからアルファの血を途絶えさせないように色々面倒なプレッシャーがあってな。どんな状況でもラットにならない事での信用を築く目的も確かにあるんだが。一番は兄が本当に一緒になりたい人とはなれずにラットに振り回されたのを見てから……かな」
「………名家も色々あるんスね……源サン本人はベータだけど」
「うるせいやい」
「そんな事言っておいてボロ儲けしたいんじゃないッスか~~~?」
湿っぽくなってきてしまった空気を、ムードメイカーの同僚は換気する為にか茶化してくる。
「人が感動的にシメようとしたってのに……まあ半分以上はそれだけど」
「半分もォ!?」
「驚くのそこ!?」
俺自身も、優秀な兄弟での格差で嫌な思いをしてきた。少しくらい報われてもいいんじゃないだろうかという気持ちはかなりあった。
「おーい、お前らァ。川上見なかったか?」
同僚と話し込んでいると、上司が資料とスマホを手にしながら難しい顔してこちらへやってきた。
「いや」
「今日は見てないッスね」
「そっか~~~今日どうも出社してないっぽいんだよ。なんか聞いてるか?」
「え」
「うっそ、あの川上さんが無断欠勤!?」
「そうなんだよ。スマホに電話してんだが、全然繋がらないんだわ」
「………!」
昨日の川上のふらついた姿が過る。
「昨日の今日だからな、不吉すぎんだろうが!」
嫌な予感がした俺はいてもたってもいられず、すぐに自分の鞄を手に取ると出入口へと駆け出す。
「源サン!川上サンち、わかってるんスか?」
「ああ!住所は覚えてる」
「なら自分も手伝うッスよ!」
同僚の申し出に、心底ありがたいと思うものの、今は一人のほうが都合が良い気がした。
「わりィ!気持ちだけ受け取っとく!ありがとうな!なんかあったらすぐ連絡すっから!」
「おけっス!」
会社から出て駅までダッシュする。
そう、俺は確信していた。川上の抑制剤への異常な熱意、ただの正義感だけで説明できないもの。それが何なのか、直感で感じていた。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる