21 / 22
受け視点~現在③【※登場人物に女性追加】
21話 充電
しおりを挟む「………ごめんね。痛くなかった……?」
「ううん、大丈夫」
散々と行為を重ねた後始末のために、バスルームでその身体を彼に洗ってもらっている。先ほどまで荒々しい指使いだったのが、労わるように指の一本一本までマッサージするように優しい手つきで。敏感な部分を触れられても、嫌らしい感じはしない。むしろ心地良さすら感じる。
久々に激しく身体を重ねれたのは、むしろ気持ち良かったとはいえない。そんな空気だ。持て余していた身体がやっと満たされた思いだった。やはり一人で果てても、一時的に気は晴れても心から満たされる事は無かった。
「……はぁ、俺だめだね。君にちょっと会えないだけでこんな風になっちゃって。情けない」
「そ……そんな事ないよ……!」
自分も会えない間、身体を持て余しつくした挙句、発情しきって仕事どころではなくなったのだ。それを体調不良だと偽って、仕事まで変わって貰っただけに、それを口で言うには憚られる。仕事はちゃんとマジメにしてるだけ、彼はしっかりしていると思う。たとえ親会社の跡取りと将来安泰の道が用意されてるとしても、そのプレッシャーはとてつもないもののはずだ。
「……ね、すぐには無理だろうけど。どっか行っちゃおうか。二人で」
「旅行?うん、いいよ。また行こう?」
「……いや。二人で……ずっと、ありのままに入れる場所」
「……え……」
「ずっと君と一緒がいい。このまま離れたくない……」
「それは………」
彼の言う言葉の意味は分かっている。それに同意する事は出来ないけれど、彼から離れられないのも本当だから否定もできないでいる。それが本音だ。ただ、自分はまだ社会人として半人前な自分で、そんな急には行けないという気持ちと、例え行けたとしても社会的地位の違いや責任が伴う事を思えば簡単に行けるものではないのだ。
「……なんて。ごめんね、ちょっと思ってるより大分参ってるみたいだ。現実逃避したかっただけ。大丈夫、忘れて」
「……うん」
咄嗟に、答えが出なかった。彼と一緒に居たい気持ちは強い。けれど、いますぐ何もかも捨てて、二人だけの世界を探しに行くことに同意できるほど自分は今の暮らしに不満はないのかもしれない。───なにより、彼にとって大切な将来がありながら、それを捨てていくのはベストといえるのだろうか。相当なプレッシャーがある様子ではあるが、そうそう捨てていいものではない気がする。
「………それよりさ、君と一緒に食事した人って……誰? 仕事助けてくれた人なんでしょ?」
「え!?い、いやそれは……その……」
「……俺には言えない人なの?」
「………それは……そういう意味じゃないんだけど……」
色んな負い目から、できればその件には触れられたくなかった。あれこれ巡らせている内に、一緒に食事に行った女性は"できれば内密にしてほしい。ファストフードなんて食べたら怒られるから"と念を押された事を思い出した。
「本人からね……そんな大したことじゃないからって内密にしてほしいって言われてるんだ。こっちとしても仕事代わってもらったってあんま表立てたくないし……」
「そう? そんな気にしなくてもいいとは思うけど。そっか。そうならあまり追及しないけど……」
想像よりは優しい声色の彼だったが、するりと突然後ろから抱き寄せてきた。
「わ、わ、なに?なに?」
性的なことをするつもりはないとわかっていても、肌から感じる鼓動にドキっとしてしまう。
「ん……ちょっと離れただけで空っぽになっちゃったから。補給」
「ほきゅう……?」
「うん。君を充電中」
「じゅ、じゅうでんっ…?!」
「そう。……もうちょっと、甘えさせてね……?」
ぶわ、と全身が熱くなって、顔から火が出そうになった。だけどどこか心地が良くて。心のどこかでぽっかり空いたものが、自分も満ちていくのを感じて、ゆったりと身体を預けたのだった。
49
お気に入りに追加
847
あなたにおすすめの小説
悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。
柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。
シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。
幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。
然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。
その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。
「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」
そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。
「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」
そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。
主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。
誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。
文官Aは王子に美味しく食べられました
東院さち
BL
リンドは姉ミリアの代わりに第三王子シリウスに会いに行った。シリウスは優しくて、格好良くて、リンドは恋してしまった。けれど彼は姉の婚約者で。自覚した途端にやってきた成長期で泣く泣く別れたリンドは文官として王城にあがる。
転載になりまさ
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
七彩 陽
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる