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受け視点~現在③【※登場人物に女性追加】

18話 深夜の邂逅

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──────あれから変わらず彼から連絡はなかった。
たった数日、会わないだけでこんなにもギクシャクした空気になったのは、いつ以来だっただろう。

彼も多忙になったタイミングでこちらも繁忙期に入り、常に手を動かしていても追いつかない仕事の山のお陰で余計なことを考えずに夜を迎えてしまった。

残業をなんとかキリのいいところで終わらせ、同僚の彼女との約束通り夜メニュー時間のナックへ来ていた。

「わ、わ、すごいボリューミ……!歯切れがいいもののしっかり肉厚ジューシーさも感じれるパティがこんなに………!あ、お米バーガーは……もうないのね……残念」

「お米バーガーならノスバーガーにあるよ。今度そっちにも行ってみる?」

「ぜひぜひ!」

彼女というと、すっかりナックバーガーに夢見る少年のように目を輝かせている。ナックというか中々機会が得れなかったファストフードにすっかり夢中になっているようだ。

それが可愛らしくもあり、思わず微笑ましく見つめてしまう。なんだろうこの気持ち。この可愛らしい、という気持ちは女性にあまり向けない種類の可愛い、の気がする。まるで弟や妹のような………。

「お待たせしました」

店員から二人分の商品を受け取り、カウンター席に着くと彼女も満足げにバンズにかじりつく。

「美味しい……肉厚ジューシーなバーガーがこの手軽な値段で食べられるのは凄いです……」

そう言って目を輝かせると、またかぶりつきはじめた。ここまで喜んでくれるならこちらとしても嬉しく思うし、なによりも食べている彼女の様子はとても幸せそうなのがこちらも嬉しかった。

「ん……!?ピクルスにチーズが挟まってる……!!美味しい……!!」

ハンバーガーを食べているときの彼女の瞳は夜景のイルミネーションのようにキラキラとしていて、こちらが幸せな気分になってしまう。夢中で食べている姿を見て微笑ましく思うものの、そろそろ自分が手をつけてないのも悪く思えてきた。

「ねえ、良かったら一口食べてみてよ」
「え?いいんですか!?」

彼女の手を遮り、自分のバーガーを差し出すと驚いたような反応をしたが、すぐに顔がぱあっと明るくなった。そして、はしたないと思いつつもがぶりと大きな口でかぶりつく。

「ん……!んむ……っ、美味しいです……!」
「良かった」

もぐもぐと咀嚼している彼女を見ていると微笑ましくてつい笑ってしまう。それに気づいた彼女が恥ずかしそうに頬を染めた。

「す、すみません、私ばっかり頂いて……無理して付き合わせてませんか?」

「そんなことないよ。むしろいい食べっぷりを見せてもらって楽しいよ。……思ったよりも食欲なかっただけでさ、そっちも、よくあの残業の後でよく食欲あるね?」

「お恥ずかしながら私、食欲だけはどんな時もある方でして……」

「そ、それは良いことだね」

「今回の分は私に奢らせてください」

「え!そんな悪いよ?!」

「いえ……ほとんど私が食べてしまっているので……」

「あ……うん……お言葉に甘えようかな」

はは、と乾いた笑いを返しながら、彼女にバーガーを食べられていくのを見守ることにした。

「美味しかったです!ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそ、ご馳走さまでした」
「……私が殆ど食べちゃいましたけどね……」
「いいんだよ。食べたい時に食べなきゃ」
「そう言ってもらえると助かります……」

彼女の食事が終わる頃には自分も完食していた。「はー……お腹いっぱい……」その満足そうな様子を見ると、こちらも満足する心持ちになる。会計を済ませて、駅まで少し歩く。残業終わりにのんびり食事をしていたらいつの間にか残すは終電1本待つばかりの時間帯だった。

「すっかり遅くなっちゃったね」
「そうですね。でも、今日はとても楽しかったです!」
「それは良かった」
「……また誘ってもいいですか?」
「もちろん、いつでもいいよ。今度はノスにしようか」
「はい、ぜひ!バーガーも魅力的ですが、お米バーガーにオニオンリング……醤油ベースのフライドチキンなどサイドメニューもすごく気になってて……」
「詳しいね……」

本当に切っ掛けがなかっただけで、ファストフードへの憧れは本物らしい。最初は自前のナイフとフォークを取り出しただけに、どうなる事かと思ったが、二回目に至っては手づかみで食べる事にすっかり抵抗がなくなっていた。彼女の順応性には舌を巻くばかりだ。


「それと……こんな事をお願いするのは申し訳ないのですが」

「?」

「できればこの事はご内密にしてもらえませんか?」

「この事って……ファストフード食べてる事?」

「はい……家が厳しいものでして……知られたらきっと怒られるでしょうから」

「そっか……それは大変だね……」

彼女がこれだけファストフードの情熱がありながら、中々挑めなかった理由がわかった。周りのプレッシャーが一段高かったせいだったのだ。好きなものを好きといえない環境は辛かっただろう。

「……うん、いいよ。それくらいお安い御用さ」

「ありがとうございます……!」

それぞれの帰路で別れ際に彼女は嬉しそうに笑って手を振ってくれた。その笑顔を見てこちらも嬉しくなりり、微笑みかえして手を振り返す。


色々あったものの、やっと自宅の扉前までたどり着いた。実に濃い一日で、数日分がいっぺんに起こった気分だった。施錠を開け、真っ暗な自宅へ足を踏み入れる。家主が半日以上不在だった家はとてもひんやりしていて、人の気配がとても薄くなってしまう。

風呂の焚き出しスイッチを入れ、寝室で着替えようと電灯のスイッチを入れた瞬間だった。

「おかえり」

「ッ……!!?」

肝が冷えるとはこういう事なのだろうか。一瞬で心臓が冷えあがり、驚くあまり壁に後ずさってしまった。

その低い声で語り掛けてきたのは、間違いなく彼だった。
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