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受け視点~現在③【※登場人物に女性追加】

17話 もし違う道があったなら

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無難な返信を送ったものの、彼からは音沙汰がなかった。………いつもなら、何かしら返してくれる事が多いだけに、不安が募ってしまう。忙しいのだろう。そう言い聞かせつつも、もう少しマシな返信をすべきだったろうかと思い悩まなくもなかった。

夜。寝る前にスマホの通知音が寝室に響いた。慌てて開くと、メッセ先交換したばかりの同僚の彼女からだった。

ナクドナルドへ行く日程の打診だ。彼女が出した予定で、こちらも問題なかった為、そのまま了承の返した。とりあえず早く寝てしまおうと布団に潜り込んだが、眠気は一向にやってこない。心配になって、彼へのメッセ画面を何度も開き、もう一言二言なにか送るべきか迷っては、なにを送ればわからず、閉じては不安になり、結局なにも送らずスマホを握りしめたまま───気づけばアラームが鳴っていて、朝だった。

その日の朝は怠く、朝の支度が精いっぱいだっただけもあり、いつもの習慣はすることなく家を出る事になった。
夜は夜で、最近は疲労もあって、そういう気分にならないのもあり、ただ会わなくなっただけで彼との心の距離まで開いていく気がした。


    ◆

「ほ、ほんとうに全部奢っていただいていいんですか……?」

「うん、好きなの食べて。いまだったら期間限定のコレとかオススメかも」

お昼休み。会社近くのナックで同僚の彼女との約束通り、二人で食事をしている。彼とあんな関係になったとはいえ、異性と食事をするのは緊張してしまうが、彼女はなぜか他の女性と違って穏やかな雰囲気でとても接しやすい。不思議な子だ。

「そうですね……どうせならベーシックな味から攻めてみたい気がします……!」

メニューを真剣に見る彼女は、頬が緩んでいて可愛らしい。職場の休憩中の食べ物も女子らしいもので済ませる所もあるから、意外とジャンクフード系は初めてなのかもしれない。

「どれも美味しそうです……!よし!ダブルチーズバーガーセットにしようと思います」

「じゃあ自分はサムライナックのBT肉厚バーガーセットで」

店員に注文を伝え、ほどなく注文商品がトレーに並べられていくと、同僚の彼女が興味津々にその作業を眺めている。

「すごい……オペレーションの流れに無駄がない……なるほどなるほど。やった、サイドのポテトが揚がりたて……!」

「大げさだよ、ハンバーガーくらいで……」

「何を言っているんです!ナックのオペレーションといえば業界でも有名ですよ?年齢性別を問わずに就け、なおかつ品質と速さを落とさない研究尽くされたマニュアルはファストフードメーカーとしては屈指といっては過言ではありません!」

「そ、そうなんだ……」

ちょっと大袈裟なリアクションをする彼女が可愛く思えた。まるで初めて工場見学に来た子供のように目を輝かせている。ハンバーガーにこんなにもはしゃぐのも新鮮だ。そんな様子に自然と口元が綻んでくる。
……彼がいる自分ではあるけれど、もし自分に女性の恋人がいたら。彼女のような相手だったのだろうかと、つい考えてしまう。そういう意味では───案外自分たちは上手くいっているのかもしれないなと思ってみたりした。友人として。


「食べ方わかる?」

「はい、大丈夫です!こんな事もあろうかとマイフォークとナイフは持参済みです!」

「!?」

ぎょっとしていると、彼女はチタンのカトラリーケースを取り出し、本当にナイフとフォークを取り出した。

「一応手拭きとかもついてるよ……?」

「すみません……手づかみで食べるのは知っていたんですが、どうも抵抗があって……」

「そ、そっか。そっちの方がスーツも汚れにくいかもしれないもんね」

彼女は照れくさそうにしつつも、テキパキと服を汚さない為のナプキンも取り出し、レストランさながらの装備でナックのチーズバーガに挑み始めた。その見慣れない様相を眺めながら、あまり食い入ってみては失礼と思い自分の肉厚バーガーに取り掛かる。

「ふわ……ちょっと塩味が強めかもしれないけど、この価格でこの美味しさ凄い……パンズやパティ厚さが丁度良くて歯切れの良さと相まって食べやすいし……たしかにこれは手づかみで食べるように設計している……」

こちらが普通に包み紙を向いて肉厚バーガーを食べていると、彼女がチラチラをその様子に目くばせた後、ナイフとフォークを置き、バーガー袋を掴むと紙を剥いた部分から意を決してかぶりついたのだった。

「んん……!ナイフとフォークで食べるのとは違うジューシーなお味……!おいしい………」

「ハンバーガーをそんなに美味しそうに食べる人、初めて見たかも……」

その一喜一憂している微笑ましい様子に、口元が緩まずにはいられず、つい思ったまま口にしてしまった。それを言われた彼女が恥ずかしそうに畏まり、口に含んだハンバーガーがなくなった頃、改まって口を開いた。

「すみません……ずっとこういうファストフードにずっと憧れてて……、でも一緒に誘える人って中々いないし、一人で来るのもハードルが高くて……。よかったらまた一緒に食べに来てもらえますか?」

「いいよ、自分でよかったらいつでも」

「じゃあ夜メニューが気になるので今夜仕事終わったら、またお願いします!」

「今夜!?」

穏やかで親しみがある女性だと思っていたが、意外にも子供っぽい側面があるのだなあと思ったのだった。
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