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ダニエラ始動・2

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 忙しい姉の代わりにパーティーへ出たいと言えば、馬鹿な父は喜んで送り出してくれた。
 貧相な姉より美しいダニエラの方が良いと考えたのだろう。
 使用人達も公爵とアリシアのお墨付きとなれば何も言えない。

 しかし一つ望みが叶うと、また一つ欲望は増える。

 どれだけダニエラが社交会で目立っても、付きまとうのは「アリシアの妹」という肩書き。
 母が正式に公爵の後妻として迎えられ、貴族名鑑にも名前が載った。しかしどう足掻いても、アリシアの妹という立場は変えようも無い。けれどあの辛気くさい女の妹だというのが、ダニエラには耐えられなかった。

 どう考えても華やかで可愛い私のような女性が、公爵令嬢として崇められるべきなのだ。

 そこでダニエラは、一つの考えを思いつく。姉妹の立場が変えられないなら「地位」を買えてしまえばいいのだ。
 幸い社交会でダニエラは多くの取り巻きを持ち、愛人の子であるにもかかわらず茶会への招待状を直接受け取るようになっていた。その人脈を駆使して各方面にそれとなく協力を求め、ダニエラは姉の婚約者であるマレク王子に近づく。

 王室のしきたりに疲れ政略結婚に疑問を感じていたマレクを唆すなど、母の手管を見て育ったダニエラには簡単な事だった。

*****

「ねえ。最近屋敷の中が騒がしいけれど、どうしたの?」

 砂糖菓子を摘まみながら、ダニエラはメイドに尋ねる。

「その……アリシア様が任されていた仕事が膨大で……皆どこから手を付けてよいのか分からず……」
「ふーん。つまりお姉様の仕事の後任が見つからなくて慌ててるって訳ね」
「その通りでございます、ダニエラ様」

(この屋敷の連中は、揃って馬鹿だわ)

 仕事が滞ってる件は遠からず公爵の耳にも入るだろう。そうなれば、あの短絡的な父親はダニエラに仕事をするよう命じるに違いない。

(面倒な事になる前に、手を打たないと)

「お父様に手紙を書くから、代筆をして頂戴」

 すぐさまメイドがペンと紙を手に、ダニエラの側へ跪く。

「お父様には、アリシアの仕事は私が引き継ぐと書いて。それと、手伝いを雇うから住み込みの使用人を増やす許可も取って」

(記憶喪失だなんて、絶対嘘に決まってるわ。私が王子の婚約者になったことを嫉妬して、こんな意地悪を仕掛けるなんて……まったく、姑息な真似をする女ね)

 アリシアの見舞いに訪れた際、不覚にも迫真の演技に飲まれてしまった。皆は騙されたようだけれど、ダニエラは自分だけがアリシアの本性を見抜いたと自負している。
 しかし今は暴露するべき時ではない。

(あの虫唾の走るレアーナは、お母様が見事に葬ってくださったんだもの。アリシアは私が手を下すわ)

 王城での婚約破棄は始まりに過ぎない。もっと彼女を辱め屈辱を与えてから、貴族名鑑からも名を削除させこの世から葬り去る。
 それがダニエラの計画だ。

(恨みがあるわけじゃないけど、なんとなく嫌なのよね。まあいたぶるのに丁度いいって言うか……)

「ダニエラ様?」
「そうそう、手紙の続きだったわね。お父様への手紙はそれで終わり。次は商人ギルドに会計士を雇いたいと伝えて。あと地方の視察もしないといけないのよね……そうだ、近くにエルガ男爵の領地があったわ。彼に視察を頼みましょう。男爵にも手紙を書いて」

 よどみなく指示を出すダニエラに、控えているメイド達が感嘆のため息を零す。

「素晴らしい采配です、ダニエラ様」
「これでアリシア様が不在でも、問題ありませんね」

 口々に褒めそやすメイド達に向かい、ダニエラは声も高らかに宣言する。

「アリシアの部屋は物置にしちゃいましょうよ。そうすれば、使用人の部屋が空くでしょう? 沢山人を雇えば、みんなの仕事も楽になるわよ」
「ですがダニエラお嬢様……アリシア様が戻られたら……」
「お父様はお姉様に戻ってくるようにって言ったけど、どうせ口だけよ。本心では戻ってきてほしい訳ないもの」

 そう、公爵はあくまでアリシアの仕事能力を期待しているだけだ。アリシアの仕事など、商人ギルドから人を雇えばなんら問題はない。

(レンホルム家の息女は、私一人で十分)

 療養を終え、婚約破棄された悲劇のヒロインとして戻ってきても、アリシアにはもう居場所などない。
 今度こそアリシアは自分の置かれた立場を自覚し、慌てるだろう。そうなれば記憶喪失が嘘だと判明するのも、時間の問題だ。

(そうだ、お姉様にちょっとした悪戯しちゃおっと。罪人で賞金首の令嬢なんて、お姉様だけよ。精々、療養先で怯えてね)

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