彼の人達と狂詩曲

つちやながる

文字の大きさ
上 下
51 / 84

5 保護

しおりを挟む
(ど、どーいう事?)

ぽかんと口を開けて魔狼を見上げると、ニヤリと微笑んだ。

(えっ、なに?)

「そうだ。友人からの預かりものだ。これは人の側で過ごすのが好きな変な魔物だから、一緒に旅をしているが……俺が迎えに来なければどうなっていた?」
「基本は森に帰す。施設保護と言いたいところだが。正直こんな貴重な経験を直ぐに終わらせたく無い気もする。幻影獣と過ごした男の本があるだろう?人は知能ある高ランク魔獣に遭うのは夢物語だからな」

(確かに魔獣は人がいない所に棲息するって魔狼が言ってた。てゆか、やっぱりキングスの書いた本が出回ってるって事?なんで?)

話の先が見えない事に魔狼と所長の顔を交互に見ようとキョロキョロするモル。

「保護か。ならばひと月程度預けてもいいだろうか」

(へ?)

「……意図が理解できないな」
「興味があるんだろ?人の子に近い生活が出来る魔獣だぞ。ギルド内で仕事をさせることも可能だ。私用で少し離れないとならなくてな。どうする?」

(ちょ、な、なに言ってるわけ?)

「ひと月か」
「気に入れば大事に保護できるならそれ以上も構わない」

(は?)

所長は俺と目が合うと暫く見つめていた。

「のった」
「成立だな。適度に様子は見に来る。至急の用事があれば術師協会へ伝言を」

(お、俺の意思は?俺を置いていくの?なんで?知らない人間だよ?やだよ!)

急いで魔狼の足にしがみつく。
ちゃんと俺を知って解ってくれてる魔狼と離れたく無い。安全圏にいたのに今更ひとりなんて怖過ぎる。何故そんな事を言うのか全く理解できない。不安が大きくなって、ぎゅうぎゅうと力強く足にしがみついた。

魔狼は軽々とペリッと俺を引き剥がし、珍しく顔を近づけて話し始めた。

「俺と少し離れて人と暮らしてみろ。オマエはそういう生活が好きだろ?」

(好きというか、元人間だからだよ。それにキングスやアイリも居ないのに?魔狼がいないトコで過ごすなんてイヤだよ!)

眉が自然と下がり、くしゃりと顔が歪む気がした。泣けないけど気持ちはもう泣きそうだった。

「オマエは大事な友達だ。別れじゃないぞ。ちゃんと迎えに来る。俺はオマエの欲しい物は半分しかやれないからな」

(欲しいもの?半分?意味わかんない!)

魔狼のズボンをきゅっと握り締めると抱き上げられた。人化した魔狼は王族の様に毅然として端麗だ。勝手に話を決められた悔しさから頬をぎゅむと摘んだ。

「ははっ、怒ったのか。取り敢えず三日後見に来る。ほら、所長に挨拶しておけ。頼むぞ所長、泣かすなよ」
「魔物が泣くのか?」
「さあな。じゃあな。……インポルタ

魔狼はキングスと別れてから一度もしなかった抱っこや、頭をぽんぽんとしてから微笑を浮かべ転移で部屋から消えた。


モルは呆然と立ち尽くす。

(……魔狼マジ行っちゃった!)

「あー……本のままの生態なら悪戯しないでギルドに泊まれるな?職員に水桶を用意させよう。ここは常に人がいるからな」

(えっ、泊まるの?)

バッと振り向いて隻眼の所長を見た。
魔狼が居ないのと知らない人と知らない場所で過ごす事が、こんなにも不安になるなんて思いもしなかった。

「異論は無いな?職員に報せてくる」

反応しないモルが考え込んでいる間に所長は部屋を出て女性職員を連れて帰ってきた。

「ほ、ホントに可愛いっ!」
「……魔獣だぞ。生態は本を参考に」
「はいっ、任せて下さい。所長は家に可愛い息子さんが待ってますもんね!」
「三歳は可愛い盛りだからな。じゃあ頼む」

「魔獣くーん、聞こえてるー?」

(わっ?!)

向かいにはブロンドの髪を一つにまとめ肩にかけた二十代と思しき女性がいた。

(あ、あれ?所長は?)

きょとんとした風貌になったモルを見て職員はくすりと笑む。

「所長は帰ったわよ。今日はあたしが夜勤だから一晩宜しくね!」

(??)

ニコニコする職員に少し不安を覚える。所長が面倒を見るんじゃなくてギルドで面倒を見る事だと今更ながら理解する。

(ど、どーなるの俺)

「あたしリズ。受付で二人夜勤なの。だから目の届く所にいて欲しいなー。水桶は下にあるし図鑑あるから暇潰しにはなるよ?字は読めなくても絵はわかる?幻影獣の人化って皆こんなに可愛いの?あの本で萌えたんだけど!うちの所長と仲良くする気ないかなー」

(……萌えたって何。意味わかん無い)

ぼーっと話を聞いていたモルに気付いてリズは苦笑した。

「あっ、ゴメンね!良くわかん無いよねっ?じゃあついてきてー」

一階のフロントで仕事だと言うリズに、仕方無く少し離れてついて行こうと一歩踏み出すモル。

(っわ!)

びたん!

ガナーチマントは今のモルには長過ぎた。裾が床につき、また踏んでつんのめり転倒してしまった。

「えっ、だ、大丈夫?」

(……痛覚ないから痛く無い)

むくりと起き上がるとリズは恐る恐るモルに近付きマントを手にした。

「えっと、じっとしててね。長過ぎるからピンで長さ調整するからね!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

処理中です...