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5 保護
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(ど、どーいう事?)
ぽかんと口を開けて魔狼を見上げると、ニヤリと微笑んだ。
(えっ、なに?)
「そうだ。友人からの預かりものだ。これは人の側で過ごすのが好きな変な魔物だから、一緒に旅をしているが……俺が迎えに来なければどうなっていた?」
「基本は森に帰す。施設保護と言いたいところだが。正直こんな貴重な経験を直ぐに終わらせたく無い気もする。幻影獣と過ごした男の本があるだろう?人は知能ある高ランク魔獣に遭うのは夢物語だからな」
(確かに魔獣は人がいない所に棲息するって魔狼が言ってた。てゆか、やっぱりキングスの書いた本が出回ってるって事?なんで?)
話の先が見えない事に魔狼と所長の顔を交互に見ようとキョロキョロするモル。
「保護か。ならばひと月程度預けてもいいだろうか」
(へ?)
「……意図が理解できないな」
「興味があるんだろ?人の子に近い生活が出来る魔獣だぞ。ギルド内で仕事をさせることも可能だ。私用で少し離れないとならなくてな。どうする?」
(ちょ、な、なに言ってるわけ?)
「ひと月か」
「気に入れば大事に保護できるならそれ以上も構わない」
(は?)
所長は俺と目が合うと暫く見つめていた。
「のった」
「成立だな。適度に様子は見に来る。至急の用事があれば術師協会へ伝言を」
(お、俺の意思は?俺を置いていくの?なんで?知らない人間だよ?やだよ!)
急いで魔狼の足にしがみつく。
ちゃんと俺を知って解ってくれてる魔狼と離れたく無い。安全圏にいたのに今更ひとりなんて怖過ぎる。何故そんな事を言うのか全く理解できない。不安が大きくなって、ぎゅうぎゅうと力強く足にしがみついた。
魔狼は軽々とペリッと俺を引き剥がし、珍しく顔を近づけて話し始めた。
「俺と少し離れて人と暮らしてみろ。オマエはそういう生活が好きだろ?」
(好きというか、元人間だからだよ。それにキングスやアイリも居ないのに?魔狼がいないトコで過ごすなんてイヤだよ!)
眉が自然と下がり、くしゃりと顔が歪む気がした。泣けないけど気持ちはもう泣きそうだった。
「オマエは大事な友達だ。別れじゃないぞ。ちゃんと迎えに来る。俺はオマエの欲しい物は半分しかやれないからな」
(欲しいもの?半分?意味わかんない!)
魔狼のズボンをきゅっと握り締めると抱き上げられた。人化した魔狼は王族の様に毅然として端麗だ。勝手に話を決められた悔しさから頬をぎゅむと摘んだ。
「ははっ、怒ったのか。取り敢えず三日後見に来る。ほら、所長に挨拶しておけ。頼むぞ所長、泣かすなよ」
「魔物が泣くのか?」
「さあな。じゃあな。……門」
魔狼はキングスと別れてから一度もしなかった抱っこや、頭をぽんぽんとしてから微笑を浮かべ転移で部屋から消えた。
モルは呆然と立ち尽くす。
(……魔狼マジ行っちゃった!)
「あー……本のままの生態なら悪戯しないでギルドに泊まれるな?職員に水桶を用意させよう。ここは常に人がいるからな」
(えっ、泊まるの?)
バッと振り向いて隻眼の所長を見た。
魔狼が居ないのと知らない人と知らない場所で過ごす事が、こんなにも不安になるなんて思いもしなかった。
「異論は無いな?職員に報せてくる」
反応しないモルが考え込んでいる間に所長は部屋を出て女性職員を連れて帰ってきた。
「ほ、ホントに可愛いっ!」
「……魔獣だぞ。生態は本を参考に」
「はいっ、任せて下さい。所長は家に可愛い息子さんが待ってますもんね!」
「三歳は可愛い盛りだからな。じゃあ頼む」
「魔獣くーん、聞こえてるー?」
(わっ?!)
向かいにはブロンドの髪を一つにまとめ肩にかけた二十代と思しき女性がいた。
(あ、あれ?所長は?)
きょとんとした風貌になったモルを見て職員はくすりと笑む。
「所長は帰ったわよ。今日はあたしが夜勤だから一晩宜しくね!」
(??)
ニコニコする職員に少し不安を覚える。所長が面倒を見るんじゃなくてギルドで面倒を見る事だと今更ながら理解する。
(ど、どーなるの俺)
「あたしリズ。受付で二人夜勤なの。だから目の届く所にいて欲しいなー。水桶は下にあるし図鑑あるから暇潰しにはなるよ?字は読めなくても絵はわかる?幻影獣の人化って皆こんなに可愛いの?あの本で萌えたんだけど!うちの所長と仲良くする気ないかなー」
(……萌えたって何。意味わかん無い)
ぼーっと話を聞いていたモルに気付いてリズは苦笑した。
「あっ、ゴメンね!良くわかん無いよねっ?じゃあついてきてー」
一階のフロントで仕事だと言うリズに、仕方無く少し離れてついて行こうと一歩踏み出すモル。
(っわ!)
びたん!
ガナーチマントは今のモルには長過ぎた。裾が床につき、また踏んでつんのめり転倒してしまった。
「えっ、だ、大丈夫?」
(……痛覚ないから痛く無い)
むくりと起き上がるとリズは恐る恐るモルに近付きマントを手にした。
「えっと、じっとしててね。長過ぎるからピンで長さ調整するからね!」
ぽかんと口を開けて魔狼を見上げると、ニヤリと微笑んだ。
(えっ、なに?)
「そうだ。友人からの預かりものだ。これは人の側で過ごすのが好きな変な魔物だから、一緒に旅をしているが……俺が迎えに来なければどうなっていた?」
「基本は森に帰す。施設保護と言いたいところだが。正直こんな貴重な経験を直ぐに終わらせたく無い気もする。幻影獣と過ごした男の本があるだろう?人は知能ある高ランク魔獣に遭うのは夢物語だからな」
(確かに魔獣は人がいない所に棲息するって魔狼が言ってた。てゆか、やっぱりキングスの書いた本が出回ってるって事?なんで?)
話の先が見えない事に魔狼と所長の顔を交互に見ようとキョロキョロするモル。
「保護か。ならばひと月程度預けてもいいだろうか」
(へ?)
「……意図が理解できないな」
「興味があるんだろ?人の子に近い生活が出来る魔獣だぞ。ギルド内で仕事をさせることも可能だ。私用で少し離れないとならなくてな。どうする?」
(ちょ、な、なに言ってるわけ?)
「ひと月か」
「気に入れば大事に保護できるならそれ以上も構わない」
(は?)
所長は俺と目が合うと暫く見つめていた。
「のった」
「成立だな。適度に様子は見に来る。至急の用事があれば術師協会へ伝言を」
(お、俺の意思は?俺を置いていくの?なんで?知らない人間だよ?やだよ!)
急いで魔狼の足にしがみつく。
ちゃんと俺を知って解ってくれてる魔狼と離れたく無い。安全圏にいたのに今更ひとりなんて怖過ぎる。何故そんな事を言うのか全く理解できない。不安が大きくなって、ぎゅうぎゅうと力強く足にしがみついた。
魔狼は軽々とペリッと俺を引き剥がし、珍しく顔を近づけて話し始めた。
「俺と少し離れて人と暮らしてみろ。オマエはそういう生活が好きだろ?」
(好きというか、元人間だからだよ。それにキングスやアイリも居ないのに?魔狼がいないトコで過ごすなんてイヤだよ!)
眉が自然と下がり、くしゃりと顔が歪む気がした。泣けないけど気持ちはもう泣きそうだった。
「オマエは大事な友達だ。別れじゃないぞ。ちゃんと迎えに来る。俺はオマエの欲しい物は半分しかやれないからな」
(欲しいもの?半分?意味わかんない!)
魔狼のズボンをきゅっと握り締めると抱き上げられた。人化した魔狼は王族の様に毅然として端麗だ。勝手に話を決められた悔しさから頬をぎゅむと摘んだ。
「ははっ、怒ったのか。取り敢えず三日後見に来る。ほら、所長に挨拶しておけ。頼むぞ所長、泣かすなよ」
「魔物が泣くのか?」
「さあな。じゃあな。……門」
魔狼はキングスと別れてから一度もしなかった抱っこや、頭をぽんぽんとしてから微笑を浮かべ転移で部屋から消えた。
モルは呆然と立ち尽くす。
(……魔狼マジ行っちゃった!)
「あー……本のままの生態なら悪戯しないでギルドに泊まれるな?職員に水桶を用意させよう。ここは常に人がいるからな」
(えっ、泊まるの?)
バッと振り向いて隻眼の所長を見た。
魔狼が居ないのと知らない人と知らない場所で過ごす事が、こんなにも不安になるなんて思いもしなかった。
「異論は無いな?職員に報せてくる」
反応しないモルが考え込んでいる間に所長は部屋を出て女性職員を連れて帰ってきた。
「ほ、ホントに可愛いっ!」
「……魔獣だぞ。生態は本を参考に」
「はいっ、任せて下さい。所長は家に可愛い息子さんが待ってますもんね!」
「三歳は可愛い盛りだからな。じゃあ頼む」
「魔獣くーん、聞こえてるー?」
(わっ?!)
向かいにはブロンドの髪を一つにまとめ肩にかけた二十代と思しき女性がいた。
(あ、あれ?所長は?)
きょとんとした風貌になったモルを見て職員はくすりと笑む。
「所長は帰ったわよ。今日はあたしが夜勤だから一晩宜しくね!」
(??)
ニコニコする職員に少し不安を覚える。所長が面倒を見るんじゃなくてギルドで面倒を見る事だと今更ながら理解する。
(ど、どーなるの俺)
「あたしリズ。受付で二人夜勤なの。だから目の届く所にいて欲しいなー。水桶は下にあるし図鑑あるから暇潰しにはなるよ?字は読めなくても絵はわかる?幻影獣の人化って皆こんなに可愛いの?あの本で萌えたんだけど!うちの所長と仲良くする気ないかなー」
(……萌えたって何。意味わかん無い)
ぼーっと話を聞いていたモルに気付いてリズは苦笑した。
「あっ、ゴメンね!良くわかん無いよねっ?じゃあついてきてー」
一階のフロントで仕事だと言うリズに、仕方無く少し離れてついて行こうと一歩踏み出すモル。
(っわ!)
びたん!
ガナーチマントは今のモルには長過ぎた。裾が床につき、また踏んでつんのめり転倒してしまった。
「えっ、だ、大丈夫?」
(……痛覚ないから痛く無い)
むくりと起き上がるとリズは恐る恐るモルに近付きマントを手にした。
「えっと、じっとしててね。長過ぎるからピンで長さ調整するからね!」
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