彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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体積が足りない。
どうやったら前の一メートルくらいの俺に戻れるんだろう。まさかまた成長に十数年かかるのかな。三歳児はいやだから夜中に犬になってみたら、やっぱり子犬だったし。幻影獣も子犬も動くのに不便だよ。


「モル、食事にそこはよくないぞ」

アイリは座った席からテーブル下を覗き込んだ。

なんで?俺も御飯だよ?

「こっちおいで」

やだね。ここ暗さがちょうどいいんだ。

モルは黒い幻影獣の姿で食堂のテーブル下にいた。声をかけるとプイってそっぽを向く。

レネがクロスを新調して大きめの物になり余分が影を成していた。幻影獣に影は落ち着く場所だった。

「モル、御飯は明るいとこでしような」

今日はここがいい。吸収消化するスライム系の補食見たいの?面白くもなんともないよ?

反応がないことにアイリは諦めて自分の食事を始めた。

レネがこれ食べれるかって、見た事が無い大きな葉っぱをくれたんだ。庭の高木の上の方にあるんだって。大きさが今の俺の姿と同じくらいだよ。凄くない?

大きい事に何故かテンションがあがったモルは、触手を伸ばして葉っぱを引き摺り、いそいそと移動してテーブルの下に入った。黒い身体で包んだり敷き込むと勝手に吸収する補食。満腹感もないからどんどん吸収する。

沢山吸収したら大きく戻れるかな。食べても排泄器官がないから部屋も汚さないんだ。

スススッ…擦れる音がする方をパッと見ると新たな葉っぱがあった。テンションがあがったモルは身体をふるふるっとたわませ、触手でしゅぱっと葉軸を持ち手早く回収した。

テーブルの下が緑のジャングルと化して来たぞ。コレが獣の本能なのでしょうか。何故か俺はワクワクしてるんだ。こ、これ楽しい。

「おいレネ、もう止めろ。やり過ぎだ」
「あ、すみません。回収動作がはやくて喜んでるみたいで面白くて、つい」
「まあ、そうなんだとは思うけど、なあ…」

既にテーブル下には十数枚の大きな緑の葉が床一面に広がっている。
久しぶりにいつもの元気なモルだった。
アイリとレネは穏やかに微笑んだ。
しかしだ。足下からカサカサ、カサカサと絶えず葉擦れの音がする夕食時間はいかがなものか。アイリは何とも言えない顔をするしかなかった。


「モル、食事終わったかー?」

アイリは食後の飲み物を終えて、静かになっていたテーブルの下を覗き込んだ。

「あ、れ?」

モルは満足したのか、まだ半数以上の葉を残して緑に囲まれ、丸くなってすやすやと眠っている様だった。

「ははは。レネ、水桶にいれてやってくれ」
「あはは。そうですね、そうします」

少し元気になったモルを見てホッと安心したと同時に、行動範囲が少しずつ拡大してること、こうやってドコででも眠れるのは信用されているのかなと嬉しくなるアイリだった。
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