彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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くもる

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擬態もせず家の床を這いずり回った。

外は見た。昼からの行動範囲は全部見た。もうあとは家の中しかない。
床は無かった。じゃあ人で動き回ったとき?
本の下、間、クッション、衣類の中もなかった。

俺の大事な宝物が失くなった。

感覚がないから視認して確認してたのにいつなくしたんだろう。組紐ごとタグが消えるなんてない。絶対どこかに落ちてる。

「おーい、モルー?」

少し優しくなった声に顔をあげる。
キングスを見て困った顔してると思った途端怒りだした。

「なんでこんな事するんだ!お前人の言葉わかってるだろ、いいか、散らかしたお前が片付けろよ!聞いてんのかモル!」

う・・・怒鳴らないでよ。宝物が失くて探したんだ。
昨日までここにあったタグの場所を、自分の胸元をぱんぱんと小さな手でたたいて見たけど伝わらない。

「そうだ、お前は悪い子だ。体が縮んだって怪力なのは判ってるぞ。さっさと降りて片付けろ!甘えっ子してみせても騙されねえぞ、魔物だからな!」

キングスはしがみついてた俺をベッと剥がして転がした。
俺はべちゃっと顔から床に落ちた。
感覚ないから全然痛くないけど、怒られた上にこれじゃ気分的に良くない。

人だった時飼ってた猫に怒ったら、耳を後ろにして目をそらしてたのを思い出す。本と今まさに俺がそれ。
擬態を解いてずるずると散らかした物に向かう。

どうせ俺は魔物ですよ。
魔物は魔物らしくしろってか。

俺は触手でちまちまと片付けた。タグが出て来たらいいなと思ってゆっくり片付けた。それもまたキングスの癇に障ったらしく酒を飲み始める。
怒って飲むと無言だし相手してくれないから嫌いだ。

宝物は出て来なかった。



「モルー、何か食ったか?どこだー?」

俺は魔獣でペット。

キングスは言葉を理解する魔物を興味本位で飼ってる。ほんと犬猫の変わり。でもさ、ペットだって飼い主の顔色伺い見てるし色々考えるんだよ。

タグを無くしてから寝て起きてまた寝る。
一人で過ごした十年ちょいが何だったんだろとか色々考えて影の中で過ごす。

また病んでるよ、俺。

だってテンション上がらないから眠いんだ。擬態する気分にもならない。
体も黒いけど気持ちも真っ黒になった気がして、目を開けても曇り空の世界だった。

宝物がなくなったんだ。

甘えたかっただけなんだ。

俺は視聴覚しかない魔物。
考え込んだら疲れたよ。
ちょっと休憩したいな。

前世で当たり前だった温もりが恋しい。恋しいよ。

「モル?モルー?」

あれだけ心に響く嬉しかった名前なのに、今は聞くのも嫌だった。

俺はキングスの呼ぶ声を聞きながら眠りに落ちた。
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