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すっとぼけるのも大事だろ

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数軒先の交差路を曲がった時だった。鼻先に水滴がついた。
ふと町人たちの騒めきが耳に入ると視界が霞んできた。
・・・霧?故郷の霧だ。目を細め霧を吸った瞬間、ピリッと電気が走った。息を吸って吐く度に続く。

「なんだなんだ」

小声でボヤいてみるも鼻腔から胸までピリピリした痛みが走る。微妙に辛いぞ何だこれ。鼻に皺が寄り牙が剥きでた。思わず頭と全身をブルルルッと振り払った。
周りを見ると町人たちも口や鼻を押さえ辛そうだ。
振り向くと先程曲がった先、即ち冒険者組合の方角が霧が濃いようだ。

「えええぇぇ!」
「うおおぉお!?」

大声に驚いて体が跳ねた。耳は何かの音を拾った。
ピリピリする鼻先をフンフン言わせてクロウの臭いに気付く。

ああ、あの阿呆の仕業か。オジルクを倒した雷を思い出しゾクッとした。
なんでこんなトコで複属魔法使うかな。周りの迷惑考えろよ。
・・・そういや門で魔獣うんたら何か紙提出してたな。門から出たらクロウ居ないと拙いのか?じゃあどっ
か街壁飛び越えるか?いや、クロウが俺を連れてない時点で駄目なのか。別にあいつが困ろうと構わないけどな。

「……」

・・・ああっもう!

魔狼は走り出した。魔力のある身体は瞬時に消えるかの如くの速さで進む。
濃い霧の視界が悪かろうが臭いで居場所は正確にわかる。数軒先くらいほんの数秒で到着だ。
居た。なんか知らないけど満足そうな笑みを浮かべたクロウが居た。
すうっと足元に着地して頭で膝裏を押すと油断してたか、俺の速さが見えなかったのか。

「え」

クロウは驚き、がくりと片膝が曲がり体制を崩した。そこは流石に高位魔術師。身体の周囲に結界があったようで触れた瞬間ビリッと感電した。まあ俺は耐性あるからダメージは知れてる。チラリと見上げ小声をかけ足もとにまで届くマントをくわえ引っ張った。

「っおい、行くぞ阿保」
「ま、魔狼様」
「騒ぎ起こすな。目立つのは困るんだよ」

・・・どっちもどっちである。

「で、では」
「ぅお」
困った様な顔をしてクロウは俺を腹から抱え上げ詠唱した。

インポルタに」

すると目の前にあるのは来たとき通った東門。
おおぅこれは転移か。体験は初めてだぞ。ちょっとテンション上がったから尻尾ふりふりしとこう。
というか周りはいきなり出て来た俺たちに驚いてるし、門番走ってきてるし。
しかもいつまで抱っこしてんだ。降ろせとばかりに体を捩るとすっぽり抜け出れた。やれやれだ。

「魔狼様、毛並みいいですね。ふさふさでした」

なんだその残念そうな視線は。気持ち悪いぞ、この犬好きが。全身ブルルルッとして気分転換した。

「あぁ、魔術師の」

来た時対応した門番だった。クロウは先に断りを入れた。

「すみません。門前転移は禁止と知ってましたが絡まれて緊急で」
「絡まれ…ああまたアイツらですかね」
「二人をご存知で」
「サリィとキジーでしょう?上級冒険者で実力はあるのに、どうも楽をしたいというか一攫千金ですか?
ヒトヤマ稼ぎたいって。お金大好きっていうトラブルばっかりで困った人達ですよ」

門番兵士はハハハと笑うが、俺とクロウはポカーンとなった。

「危ないやつ居るなら門入る時に教えろよ!」
「そうですね」

次は門番がポカーンとなった。

「い、犬が、魔獣が喋った?」
・・・しまった。

魔獣は獣。獣は普通喋れない。俺は口をパクパクした。

「わ、わん?」
「魔狼様、手遅れですね」

小首を傾げて尻尾も振ったのに手遅れだと?クロウを見ると街道を指差した。

「あー…魔術で一時的に話せるようにしてるだけですよ。では」
「え?魔術で?え?」

いいフォローかどうかなんてわからない。
俺たちは逃げるように町を後にした。




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