彼の人達と奇想曲

つちやながる

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あの人達と奇想曲

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「痛く無いからね~」
 嘘つけ。目が笑ってるだろ。
「もう終わるから、じっとして」
 痛さに弱い俺って最悪!
「…っ!」
 身体がビクッてなった。
「あー大丈夫?」
 待ってくれたので軽く頷く。
「もうちょっとするからねー」
 指をぐっと入れられた。
「ぁ!」
「ほらほら」
 ほら、じゃない!つま先がぎゅっとなる。
 ……はぁ、はぁ。
 緊張で鼻呼吸忘れた。
「今日も痛がり絶好調だね」
 グッグッ…
 あぁっそれやばっ…
「はい、今日はここまで。次二番?」
「田山さんです」
「今日型取り?後しといて」
 医師が去ると衛生士が詰物の確認をした。
 ガリ…グッグッ
 う。たまにズレて歯を擦る。たまらん。
「口ゆすいで終わりですよ~。仮詰めだから食べ物気を付けて下さいね~」
 はぁ…。疲れた。

 俺は含嗽して待合室に行った。
 そうだよ。歯科通院中なんだよ。あの嫌すぎる削る音は割愛した。マスクで顔半分隠れてる歯科医の言葉は信用ならねぇ。目は口ほどに物をいうだ。目が笑ってんだよ。
「加奈井遥希加奈井遥希かないはるきさーん、次の予約どうします?」
「んー。来週同じで」


 俺は葉《よう》という名で十九歳だった。
 死んだか飛んだか知らないけど、名前と歳と日本人の記憶は常に残ってる。
 気がつけば違う身体に俺が存在してる。行く先々の世界を忘れるくらいの回数、転生した。気が付けば始まって終わってる。
 数え切れない程生きてる事と過去を覚えてるんだ。

 ここに存在する前は色々あった。
 ガルって騎士と結婚したり始祖吸血鬼だか何かに噛まれたり。獣だったり。まぁそれはまた別の機会に。

 そして久々の日本人なんだ。前生きた時代と変わらない現代に存在してる。仕組みわかんねぇな。
 とにかくだ。テレビもゲームも懐かしい。毎日御飯が美味い。嬉しすぎる。特に菓子を食べ過ぎる。過去色々食べたけど甘味は日本が最高だぜ。

「お前いつも何か食ってんな」
「…ん。生きてる時に食っとかな損」
 前世は吸血御飯だった。次どんな世界に行くか知れねっからな。
「そんなんだから歯医者行くんだ」
 前席の名梶が後ろを向いてニカッと笑う。
「遥希は色気より食気。次移動。先行くぞ」
「ぃてっ」
 横を通過しながらペシッと俺の後頭部をはたいて言う篠原。二人は入学以来の友達だ。
「失礼な。どっちもあるし」
「遥、用意できた?行こうぜ」
 慌てて篠原を追いかけた。

 田舎には少ない寮完備の一貫教育校。両親の海外転勤もあって春から寮生活になった。懐かしい高校生だ。

「その医者目が笑ってんだ。ひどくね?」
「まんま笑われてんだろ。お前痛がりだし」
「んー、篠の目が一番俺を笑ってる気が…」
 人を小バカにした様に見る同室者の篠原を半目で睨む。痛いもんは痛いんだ。
「あれ位で泣くやついるか。あ。ここに」
「何だよ。歯医者の痛さは精神と身体の苦痛屈辱コンボなんだぞ。泣けるだろ」
「なんだそりゃ」
 寮の一室。並んだ机で駄弁りながら宿題やっつけ中だ。何かの物語の寮の様な豪華さはない。あるのは机と二段ベッド、簡素なクローゼット。現実なんてこんなもん。
 あ。昔、天蓋付きベッドとか、城とか貴族のキングサイズベッドは寝た事あるよ。
「…何だよ。見んな」
 篠原がじっと俺を見てた。
「お前…変態に気ぃつけろよ」
「ん?何で。俺は普通だ普通。無縁だ」
 何の事だ。いきなり何だ。
「自覚無いな。課題終わり。夕飯お先」
「早っ。薄情者」
 篠原は食堂に向かう。俺も慌てて終わらせた。

 それにしても自覚って何だ。俺の顔の事かな。母親似の童顔は可愛いのか?え?好みの問題だ?俺に言うなよ。
 童顔は認める。筋肉つき難い細身。約百六十センチ。まだ高一だし成長中だ。あとは痛みに弱く涙目になる。転生しまくり意外は至って平凡男子だ。美少年じゃないぞ。
 寮生活で週末しか外出しないし。変態に遭う方が難しいっての。
 そう昨日まで思ってた。

 変態さんだ。
「君かわいいって思ってたんだ」
 いや。化学教師の矢田でした。
「えーと…離してくれません?」
 日直で用事を頼まれた放課後。片付けとか雑用後の化学準備室で、背後からホールド中だ。そして首に生暖かい風。おい。
「先生の鼻息荒いですね」
「…余裕じゃないか」
 うなじをべろって舐めた。おいおい。
「んー…変態って免職?大学出て免許取って就職難から勝ち取った教師辞めるんだ。勇気あるんすねー」
「………」
 経験上、命掛かってない事には慌てない。先生も余裕っぽいな。あれだな。
「あ、前科有り?他の生徒にもしてます?」
「は?」
 手が緩む。膝曲げ腰を落としてからの~、
 っそい!背負い投げっ
 ダンッ!
「ぅぐっ」
 矢田が飛んで落ちた。あ。
 ばさばさっ…ガタッ…ガチャンッ!
 やだ。色々巻き添えったわ。うっわ。
 準備室を飛び出した。職員室にダッシュ。
「せんせー、変態だよ!矢田っちに首舐められた!ハァハァ言ってたよ、準備室で!」
「え?」
「矢田?」
「一年加奈井か。あとで呼び出すからな」
 ガタガタと先生数人が席を立ち、準備室に向かった。
 二十代で白衣のカッコいい先生だろうが、世の中超えちゃいけない線がある。超えたら駄目だろ。社会常識は守れってか。今までの転生パターンの鬱憤を晴らした気分。スッキリして帰寮する俺だった。


「デート?」
 名梶に彼女が出来ただと?
「昨日告白されてさ。一組の矢澤さん」
「まじか」
 俺が変態遭遇中に告白されてただと?朝から不公平と敗北感だな、おい。
 ここは共学だけど山裾の分譲住宅街の上にある。バスが少ない、市街地から離れすぎとか立地環境悪くて女子が少ない。彼女出来る確率は底値だった。
「でもって土曜の約束無しで!」
 両手でぱんっと合わせ拝みされた。
「先約なのに悪いけど宜しく!遥」
「ん。いいよ。彼女出来んの先越されたー」
「悪いなぁ、お先~」
 高校男子たるもの彼女が欲しい年頃。俺は転生で経験豊富。なるようになるし。名梶を応援しよう。
 そう言えば隣の席の篠原は静かだな。こっち見てんのに反応薄い。肘ついて何見てんだろ。男前は余裕なのか。俺は聞いた。
「篠は?彼女作らないの?」
「…俺?」
「ん。全然興味無さそうだし」
「だよな~。反応薄いぞ篠原!」
「あー…矢澤か。いいんじゃね?今は一人が楽だな」
「か~っ、モテる男は言う事が違うね~」
「ん?」
 篠原何なの。目が合った。それ俺見てんのか。何なんだ。首を傾げる俺。
 中学からココに通う二人。篠原は顔と性格良しで少ない女子から一目置かれている。付き合った数も其処そこいるらしい。
「篠原。土曜空いてるなら、俺の代わりに遥の買い物付き合ってやってよ」
 名梶が話しを振る。
「買い物くらい遥希一人で行けんだろ」
「いや、コイツ県境から入学。歯医者は住宅地だけど、下の市街地わかってないと思う」
 篠原に説明する名梶。確かに初めての市街地だけど。篠にも予定あるだろ。俺は断る。
「バス乗れば誰でも行けるよ。俺一人で大丈夫だって。最悪地図アプリで帰れる!」
「…門限怪しそうだな」
「…だろ。頼むよ」
「なんでだよ」
「「方向音痴」」
「あ」
 そうでした。入学式で敷地内迷子。たまたま徘徊してた俺を見つけたのが二人でした。
「お前らー、始めっぞー」
 担任登場。今日も平和な一日が始まった。


 化学教師の矢田は訓戒処分だった。一番軽い。履歴にも残らない。要は校内処分。噂にもならない。聴取は主張が通ったのに腑に落ちない。矢田は揶揄っただけだって。あと、受け身が取れず全治一週間の手首捻挫と打ち身。ざまぁ。
 授業中、矢田の視線が刺さる。授業以外はひたすら避けてた。俺ヤバくね?逆恨みとかされたりしてない?
「加奈井は放課後準備室で雑用な」
 授業終わりに言われた。
 来た来た来たー!
「返事は」
「え、はい?」
「来いよ」
 ニヤって笑って去って行く。やっべ。マジ俺やっべ。
 何だあれって名梶と篠原が見てた。二人には矢田に舐められた事とか何も言ってない。これくらいの事、別に話す事じゃないって思った。
 取り敢えず、今日の案件は一対一を避ければいい。誰か道連れを作るのだ。名梶は彼女優先、篠原は気分次第。他は部活。その他いない。結果説明せずに篠原について来てとお願いした。
「貴重な放課後を…」
 ブツブツ言うのに来てくれた。
「助かるよ篠、感謝」
 そして準備室。
「あー…篠原も一緒か。悪いけど資料作り手伝え」
 矢田と篠原はチラッと俺を見る。何だよ。
「資料作り…」
「四クラス分纏めて、紙ホチキスな。」
「三十分あればいけるか」
 篠原は渋々作業を始めた。あぁ良かった。本当に雑用だった。三人なら早いはず。さっさと終わらそう。俺も黙々取り組むと、あっという間に終わる。集中力すげぇ。
「助かった。二人とも。また頼むわ」
「お疲れっしたー」
 そそくさと篠原の背中を押して準備室を出る。
 ガララ…バンッ。ガチャ。
 は?目の前にドア。
 篠原が出た直後、矢田が扉を素早く閉めたのだ。なんつー早技。しかも鍵閉めた?
「加奈井。チクってんじゃねーぞテメェ。一目惚れなんだよ。変な事しねーから避けんなよ。頼む」
 矢田が耳元で囁いた。うぉぉ、鳥肌出た。ぎゅーって抱き締めてきた。また変な事してるぞ、してるってば。男子高校生に抱きつく時点で変だっつの。何コイツ。ひとめぼ…何だっけ。米袋で見たな。どーしよう篠!
 ガンッ!
 ドアが揺れた。
 ドア越しに篠原の低い声。
「開けろクソ矢田。何やってんだ!」
 ガンッ!
 蹴ってる?
「はぁ?なんもしてねーよ」
 そう言って俺を解放しドアを開ける矢田。しれっと嘘つくなよ。
「っの野郎。…行くぞ、遥希」
 篠原は矢田を睨めつけた。俺の腕を掴み歩き出す。矢田を振り返って見ると苦笑いしてた。
「何かされたか」
「ん?」
 えーと言った方がいいのかコレ。黙ってると続けて篠原が話す。
「変態に気ぃつけろって言っただろ」
「…それ矢田の事だった?知ってたなら教えとけよ」
「何かされたんだな」
「んー、何かって言うほどじゃ」
 言うなり篠原の力が入った。
「いてて…腕、痛いってば」
 篠。怒ってる?
 寮に帰室するなりドアと篠原に挟まれた。雑誌で見たよ。これ壁ドンに入る?昔流行ったって書いてた。
「…篠?」
 目の前の男前を忘れてた。眉間に皺寄ってる。しかも目据わってる。怒ってるなコレ。こえーな篠原。
「少しは自覚しろ」
「えー?」
 ちゅ。素早くキスされた。
「ん?」
 どゆこと?きょとんとして首を傾げた。
「はぁ…警戒心ゼロかよ」
「意味わかんない」
「マジか。遥希、お前相当ヤバイぞ」
「キスが?…何で?ヤバイの?」
 転生してある程度耐性あるし。どこまでどう警戒するかって話?基準何だっけ。ヤバイ時は生命危機と自尊心崩壊?キスがヤバイ?何それ。また首を傾げて考えた。身長差で上目使いになるのは仕方ない。
「んん?」
「誘ってんのか」
「んむ、違う、アホ。…ん」
 えーと…この歳で上手いな篠原。俺にキスしてどうすんだ。いや、何でこうなる。
 篠原は、特に抵抗しない俺の腰を抱き寄せた。
「…ん」
 体が段々密着する。お互いぐっと抱きしめた。気持ち良さに、つい夢中で唇と舌を貪った。時々硬くなった自身が篠原のと当たる。
「…しの?」
「…何」
「気持ちいい、ね」
 はぁ…十代の身体って凄いわ。俺は蕩けて正直に言った。篠原が真剣な表情になった。失敗した。煽った事に気付く。俺のバカ。
「遥希」
「わ、ストップ。待て待て。しの」
 壁に身体を押しつけられ口を塞がれる。あぁ揺らすな馬鹿。クッソ片足持ち上げんな。篠原はぐっと押し当てて腰を揺らす。あたるし擦れる。あ、これ駄目だ。気持ちいい。止まんないな~。
 俺、経験豊富でも身体は新品だった。若かったの忘れてた。もういいや。流されよう。
 夢中でお互いのものを扱いてた。時々キスをして、どこが良いだの。もっと強くだの。ただ、ひたすら高めあった。
「は…ぁ…。しの」
「遥希…可愛い」
「ん…」
「う…」

 はぁ。やっちゃった。やっちゃった~。
 すっきり出た出た。ほんっと十代って止まんないね。猿だ猿。久々新鮮な気分だよ。
 片付けたしズボンも履いた。横に座る篠原を見たら、プイって反対向いた。耳赤いよ、篠原。
「…ん?なんで照れてんの。篠」
「照れるだろ普通」
 はぁ、と溜息つかれた。
「だって気持ちよ…ぶくぁっ」
 篠原に口を手で覆われた。
「それは言わなくていい。何だ遥希。もしかして慣れてる?」
「んー…人とすんの初めてだよ」
 今世の身体は清い。間違ってない。じっと篠を見た。篠も俺の事見てる。そう言えば、時々俺の事じっと見てるよね?
「篠って俺の事好きなの?」
「あー、その。…何だ。気になってる。矢田がお前の事よく見てるのに腹が立つ。あいつの近くに行くな」
「ん?」
「呼ばれたら俺も付いて行くから言えよ」
「え?」
 それ同族嫌悪の類い?気になる位で男にキスやアレコレしないだろ。
 俺ってチビで童顔で、ほっとけない奴?まぁ可愛いって言う時点でアウトだ。好きって言い切らないとこが未だ救い。これ以上は放置決定。真っ直ぐ育てよ青少年。俺が流されて変な横道引き込んじゃ駄目駄目。ここは地球の日本だ。俺も普通に嫁さん貰いたいし、今後どうなるかわからないし。現実的にいこうぜ。
「なー、篠。課題とかやらないと」
 二人して忘れてた事に気付いた。
「「かばん教室!!」」


 今日は新発売のソフトクリーム味の飴だ。これ中に色々クリーム入ってんだ。超甘い。
「チョコ味の食う?」
「いらない」
「ん。そか」
 平和だな。昼休みって食ったら寝る時間だよね。飴をもごもごしつつ、机に突っ伏した俺。篠原はそんな俺の頭を撫でたり髪摘んだりして手遊びする。
「んー、篠。触んな。俺寝るし」
「あぁ。悪い、てか歯磨きは」
「…ん。後で」
 篠原は時々こうやって軽く触ってくる。あれからも特に普段と変わらない。名梶はとうとう昼飯まで彼女と一緒だ。
 自分が巻き込まれるのはいい。この何回かの転生は、俺が率先して介入あれこれは避けてる。今だって先はまだ何十年ある。ちょっと対人に疲れ気味。正直な話、自分が嫁的確率が高過ぎんだ。
 思い出すな色々。懐かしい。俺の大好きな人達。満腹感で眠気が凄い。うとうとし始めた。
「ガル…。フィ…」
 ラグ。ミラ。ロージーとの娘はエルナ…養子に…。俺は眠ったらしい。


 なんか昔の楽しい夢見た。寝言いってた気がする。五限はニコニコしっ放しだった。名梶とか周りはひいてた。篠原は昼休み終わる頃、変な顔して腹が痛いってトイレ行った。五限帰ってこなかった。長いクソだな。サボリか。

 今日は篠原が日直だった。放課後担任に捕まってた。待ってろって言われた。五限サボってたクセに待たせる気か。いつ終わるかわかんないのに待つなんて嫌だ。先に帰るとメールしとく。

 すっかり油断してた。矢田に遭遇した。廊下でバッタリだ。ちょっとお互い目からバチバチって火花の効果線見えた気がした。
「チョコ三層アイス買ったんだ。食べるか」
「新発売のですか。食べます」
 俺即答。見えない尻尾ふってついて行く。コンビニでアイスの癖に一個三百八十円だ。高校生には高級アイス。これは食べたい。
「美味しいか」
「ん。うまい。パリチョコとクリームが絶妙です。たまんないですね」
 準備室でニコニコして食ってる。ちょろいな俺。命掛ってないから大丈夫。やっぱ俺見てんな矢田。
「先生変態なんだよねー」
「何でだ」
「ん?俺の事可愛いとか一目惚れって」
「まぁ。かと言って付き合いたいとか色々したい訳じゃ無い。この間は悪かった。揶揄った」
 苦笑いして謝った。それ謝るんだ。お前首舐めただろ。
「何がしたいわけ」
「何だろな。仲良く?こう食べてるの見るだけとか。たわいもない話して。ニコニコして近くに居てくれたらいい。入学式から直ぐ目に入って気になって気になって」
 あ。こいつもバカだ。一目惚れって言ってるし、それも好きって事だろ。変態教師には言わない。矢田も放置決定だ。
「ふーん。やっぱ変態臭いね」
「そうか。俺変態か…」
 あ。落ち込んだ。何だよ雰囲気違うの。前科持ちだと思ったのに。どっちか演技?駆け引きかな。怪しい。
「矢田先生も食べないんすか?」
「甘いの苦手なんだ。加奈井は甘党だろ」
「んー…。これ餌付け?」
「まあ。詫びだ」
 どんな下心があるか本心か詫びか知らないけど。とりま俺に買ってくれたって事か。
「安っ。でも…まぁ、ありがと。これ美味いわ。でも今後二人きりで一緒には居たくないでっす。一般生徒距離でヨロシクー」
 お礼くらいは笑顔で言っとこう。本心見えないから適当が一番。ニコッてしといた。
 矢田が赤面した。
 え、俺、何か間違った?
 バンッ!!
 ありえない音でドアが開く。篠原だった。 
「…はぁ…は、遥希、おまっ、帰るぞ」
「子守が来たか」
 残念そうに言う矢田。子守って何だ。
 腕掴まれて準備室を出た。無言で引っ張られる俺。これはまずい。
「痛いって。マジで!腕!」
 息切れする程俺を探したのか。そういえばメールだか着信音鳴ってたな。
 えーと…どいつもこいつも。俺を好きって事かな。変態馬鹿ばっかりだ。

「俺言ったよな。矢田の近くに行くなって」
「ん」
 俺も馬鹿だった。篠原怒ると怖いの忘れてた。寮に戻るまで無言の圧。部屋に入るなり俺を抱きしめた。
「痛いって。篠」
「遥希、遥希」
「な、篠、話し、ん」
 いやいや、ちゅー、じゃなくて。なんでキスすんだゴルァ。俺はちょっと頭だけ退いて頭突きした。

 ゴッ!!

「っ!なっ、にすんだ」
「っ~!」
 クリティカル。くぁー。効いたー。
「落ち着け篠。確かに俺が悪い。アイス食いに着いてった。一緒に居たくないから適度な距離でって言っといたし。もう行かない」
「…わかった」
「行かない」
 俺、何言い訳してんだ。ホッとした篠原はまた抱きしめた。俺の事気になるだけで、これ無意識でやってるのかな。色々質問したら好きって自覚するかな。どーすっかな。うん放置だ。誤魔化そう。
「篠、喉乾いた。ジュース飲みたい」
「あ、そ。ちょっと待て」
「何で。ん?」
「はる」
 デコチュー来た。おい。調子乗んな篠原。
 フッて笑った。
 え?今の笑い方見た事ある。誰かと重なった。篠原をジッと見た。目が離せない。
「俺はお前が気になる。何度も言わせんな」
「は?」
 篠原だよな。誰?って、篠原ですね。何言ってんだ俺。どこをどう見ても篠原なのに。見つめて首を傾げた。
「ん~?」
「ははっ。考え過ぎ」
「し、の?」
「ルキ」
「!!」
 今、何て言った?名前呼んだな。
 俺の懐かしい名前。
「可愛い俺のルキ、なんだろ?」
 まさか、まさか。こんな事ある?
 何これ。何これ涙が勝手に。止まんない。
 俺、手が震えてる。動悸がする。胸が苦しい。震えた手で篠原の顔をなぞるように頬にあてた。その名前知ってるって…。
「しの?」
「遥希の口癖がさ「ん」だろ。引っ掛かって気になって気になって。時々冷めた目で色々考えてるし。間を置いて返事するとこも仕草も同じだな」
 篠が俺の頬に手をあてた。目が離せない。
「なぁ、ルキなんだろ?」
 俺はもう頷くしか無い。だって前ルキだったし。ウンウンと縦に首を振った。
「ほ、ほんとに?」
「俺が付けた名前だろ。覚えてる」
「まじかよ…」
 もう俺の涙腺崩壊だ。嬉しい。嬉しい!
「遥希がルキじゃなくても、近くに居たいと思ってた。気になって仕方が無かった。俺は女々しいな。でも昼休み寝言で俺を呼んでくれて確信した。嬉しかった」
「…ガル」
 フッて笑う。
 もう俺、どうしよう。どうしよう!
「五限泣きに行ってた。生まれ変わって記憶持ってる事に驚いて生きてたのに。また会えるとか凄いな。黙ってるの我慢できるわけないよ」
「どうしよう、どうしたらいい?まじ?」
「ルキ、いや遥希がしたい様にすればいい。これは新しい人生で前世は関係無いんだろ。それに俺も今は篠原だ」
「わかんないよ。こんな事初めて。どーしたらいいか分かんない」
 篠原の胸に顔を寄せ抱きついた。篠も俺をこれでもかってくらい抱き締めた。
「まじで?これ現実?」
 これ夢?長い時間生きてる俺へご褒美?俺も十分混乱してるよ。
「俺は近くに居たい。それはいいかな」
「え…うん」
「いいのか?一生かも知れないのに」
「ん」
「…矢田も、もしかしたら何処かで遥希の大事な人だったのかもな。そう思ったら絶対渡したくないって嫉妬する」
「…そんなの、」
「もしもの話だ。俺が此処にいる。お前も沢山どこかで生きて来ただろ。ありえない話じゃ無い」
「…そうかな」
「俺はお前が一番大事だよ。忘れてない」
 篠原が満面の笑みを見せた。篠は百七十超えの身長で、今十六歳。日本人で同級生。中身が元マッチョ騎士の年上ガルだと思ったら少し笑えた。これ、まじか。
「ん」
「泣くな遥希。鼻水すげー。ぶっさいく」
「な!」
「とりあえず、顔拭けよ。課題終わらせて夕飯行こか。まだまだ一緒にいられるし。前の事も色々沢山話せる」
「そ、そうだね」

 先の事なんか考えたって仕方ない。だってこれから色々あるんだよ。
 付き合うとか未だ決めてない。だってまだ十六歳だし。お互いが大事なのはあるけど。此処は前世の世界じゃ無いからね。ここでガルは篠原として生きるし、俺も加奈井遥希として生きていく。
 取り敢えず、名梶が「お前ら最近いちゃいちゃしてるな」って言うくらい仲良くしてるけどね。

 転生して初めて過去の人と逢った。新しい人として生きていくのに本当困る。
 神様とかの気まぐれだとしても。二度と会えない人と会えるのは嬉しい。ひとつの生が終わっても、過去を振り返る事が多かった俺に楽しみが出来た。


「…なんでキスすんだ」
「愛情表現。部屋でだけだし」
「ここ日本。彼氏でもないのに」
「気持ちいいと積極的だったくせに。ほんと色々ワガママ言える子だったんだな、ルキ」
「ルキって呼ぶな。今は遥希だ」
「快楽に流される弱い意志は、元旦那の俺が鍛えようか」
「いらんわ。言う事おっさんだぞ!」
 青春の過ちだとか変な事言ってはキスしてくるし、ルキは手話してる時と言うこと同じだとか、篠はかなり鬱陶しくなった。中身が基本まんまガルだった。俺も転生してもずっと俺だしね。
 こんな調子で今日も平和な高校生。明日は歯医者だ。


 篠と腐れ縁でダラダラ過ごす事になるのはまだ先の話。また転生して思い出になったら話すよ。

 完









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