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最終話 光の剣

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 フィフスはイージスの盾でなんとか冥界王のブレスを防ぎながらも、先ほどから何かをしようとしているルミナたちの力がいっこうに安定しないばかりか、暴走しそうになっていることを危惧して、何とかルミナたちの力を安定させるための方法はないかと己の知識の中を模索し始めた。

 そのときふとフィフスの脳裏に浮かんできたのは、青銅の巨人ミノタウロスが扱っていた巨大なマジックソードだった。

「そう、あの剣。あの高位のマジックソードならば」

 あの二人の力にも耐えられるかもしれない。そして異なる二つの力を結びつけることが出来るのかもしれない。そう思ったフィフスは、ミノタウロスが手にしていたマジックソードを探し始めた。

 しかしフィフス自身、そう都合よくあのマジックソードが見つかるとは思っていなかった。しかし次の瞬間フィフスは目にすることになる。ルミナとカナタの創り出した聖と魔の力を持つ剣同士が反発しあう力の余波、その余波を受けたマジックソードが、まるで自分を使ってくれとアピールするかのようにして、自ら輝きを放ち、己の存在を誇示している姿を。

 大地に突き刺さった、今や人の身で扱うことが出来るほどの大きさとなった、先ほどミノタウロスが振るっていたマジックソードを見つけたフィフスが力の限り叫んだ。

「イル・クア・ラシェス! あの剣を二人に!」

「うん! まかせてよっフィ~ちゃん!」

 瞬時にイルが駆け寄り、その剣をルミナたちのいる方に向かって蹴り飛ばす。

「二人ともっあれを使いなさい!」

 イルに蹴り飛ばされたマジックソードは回転しながら、まるで自ら主を選ぶようにしてルミナに向かってまっすぐ飛ぶと、彼女の手の中にしっかりと収まったのだった。

「なに、これ?」

 握った瞬間わかる。この剣なら……私とカナタの力を一つに結びつけることが出来るかもしれない。いいえ、この剣ならきっと出来る。ルミナはカナタの瞳をまっすぐに見つめ、剣を握り締めながら叫んだ。

「カナタ! もう一度、やるわよ!」

「ああ、わかった!」

 自身を射抜くような瞳で見つめられたカナタは迷うことなく返事を返す。

 そして、二人はまるで呪文のようにおとぎ話の文言を口にしながら、再び自らの創り出した二振りの剣を重ねあわせようとする。

 悪しき王を倒せしは……

「魔王の創りし、紅玉の剣……」

「勇者の創りし、聖なる剣……」

 しかしここで二人が剣を重なり合わせようとすると、先ほどと同じように異なる属性同士の剣が自ら障壁を作り出し反発する。ここまではさっきと同じ、だけど今の私たちにはこの剣がある! ルミナは左手に握り締めていたマジックソードを反発しあう二振りの剣の中間へと突き出し、更なる呪文の調べを紡ぎだす。

「異なる力を束ねしは……大いなる力を持ちし、魔剣なり!」

 ルミナが力ある言葉を発すると共に、今まで反発しあっていた聖と魔の力が、ルミナの持つ三つ目の剣を楔にして一つに解け合っていく。

 その光景を目にした瞬間、初めて冥界王の動きに焦りとも呼べるような目に見える変化が生まれた。

 なぜなら今まさに剣を完成させようとしているルミナたちに向かって、冥界王ハデスが大きく口腔を開き、今までに誰もが感じたことがないほどの物凄い力を集め始めたからだ。

 そのせいで辺りにあった大気が唸りを上げ草花が声なき悲鳴を上げる。

 その光景を目にし、さらには集まる力の大きさを感じ取ったフィフスが、さすがにこれは防げないと確信しマジックソードを楔にして、新たなる力を生み出そうとしているルミナたちに向かって力の限り叫んだ。

「二人ともっ今すぐこの場を離れなさい!」

 しかしもはや新たなる力を想像しようとしているルミナにフィフスの声。いや、この世界の誰の声も届きはしなかった。

 そしてとうとう冥界王ハデスの真なる咆哮。生きとし生けるものの生気を根こそぎ奪い去る『死の咆哮』と呼ばれる最大級の冥界王のブレスが完成し、今まさにルミナたちに向かって吐き出された瞬間。

 それは、二人の力ある言葉と共に完成した。

「「創造せしは、悪しき王を討つ、一振りの剣なり!」」

 最後の言葉を唱えた瞬間、二つの異なる力が、ルミナの握り締めていた魔剣を楔として一つになったのだった。

 ここに魔王と勇者の異なる力が合わさった、聖魔混合の光を放つ一振りの名も無き光の剣が誕生した。

 だが新たなる力を完成させたルミナたちに向かって、解き放たれたハデスの『死の咆哮』が、周囲にいた生きとし生けるものの生気を奪い去りながら襲い掛かる。

 ルミナは自らに襲い掛かってくる冥界王ハデスの解き放った『死の咆哮』と呼ばれる巨大な力の固まりを冷静に見つめながら、自らの手に握られている名も無き一振りの光の剣を最上段に掲げ上げた。

 それと共に迫り来る巨大な力の塊を目にしたカナタが、空を引き裂かんばかりの大声で叫んだ。

「ぶった斬れ――!ルミナ――っ!」

「アアアアア――――ッ!」

 それに呼応するかのようにして、大上段に掲げられた光の剣をルミナが思いっきり振り下ろしたのだった。

 振り下ろされた光の剣は、巨大な一条の光の刃となりながら、迫り来るハデスの『死の咆哮』を豪快にぶった斬り、そのまま冥界王ハデス自身を両断しようと襲い掛かる。

「「いっけぇええええええええええええええええっ!」」

 カナタとルミナの声が一つに重なりながら、冥界王に向かって光の刃が襲い掛かる。

 だが、さすが冥界王というべきか、ハデスは自らの持っていた巨大な剣で魔王と勇者の力が一つなった巨大な光の刃を受け止める。

 無論ハデスの持ち物といえど、ただの朽ちかけた巨大な剣などでルミナの振り下ろした聖魔混合の光を放つ、この巨大な光の剣を受け止めることなど出来るはずがなかったのだが、さすが冥界王と呼ばれるだけのことはある。ハデスは朽ちかけた巨大な剣に自らの強力な瘴気をまとわり付かせ、ルミナの振り下ろした光の刃を受け止めるだけの力を剣に与えていたのだった。

 光の剣を受け止められたルミナは、なんとか力を込めてハデスの剣を押し切ろうとしたが、いかんせんハデスの力も強力で、ルミナはハデスの朽ちかけた巨大な剣を押し切ることが出来ずにいた。

 誰もがこのままつばぜり合いに持ち込まれるかと思っていた瞬間。

「い~かげんに諦めなよ、このデカブツッ!」

 どこからともなく聞こえてきた声と共に、透明な巨大な巨人の拳。ギガントナックルがハデスを側面から思いっきり殴りつけたのだった。

 どうやらこの様子からして、イルはハデスに隙が出来る瞬間を虎視眈々と狙っていたようだった。

「ル~ちゃんっ!」

「ルミナ女史っ!」

「今です! ルミナ・ギルバート・オデッセリアっ!」

 イルの作った一瞬の隙を見逃さずに叫ぶ仲間たち。

「いけぇ! ルミナァァア!っ」

 みんなの声援を背にして、力の限り叫びながらルミナが最後に残った力を振り絞る。

「アアアアアッ! いっけえええええっ!」

 そのとき一瞬ルミナの髪が黄金色の光を放ったかに見えた瞬間、強力な瘴気をまとわせた巨大な剣を両断し、辺りの空間ごと冥界王ハデスをも大上段から真っ二つに両断していたのだった。

 辺りの空間ごと真っ二つに両断された冥界王ハデスは、両断された空間に開いた次元の狭間へとその身を落としこむ。その時一瞬ハデスの瞳が真紅の怪しい輝きを放ったかのように見えたのだが、そのことを確かめる前に光の剣によって開かれた次元の狭間が閉じると共に、冥界王ハデスもその脅威と共にこの世界から消え去ったのだった。

 こうして世界は年端もいかぬ少年少女たちによって救われたのだった。

「まったく……なんて子たちなのかしら……まさか本当にあの冥界の王ハデスを倒してしまうなんて……」

「やった! やったぞ! この僕が冥界の王を倒したぞ!」

 とうとう魔力がつき元の姿に戻ったドゥルグが信じられないようにボーゼンと呟く。

 まぁ別にいいけどね そう思いながら、自慢げに喜ぶドゥルグを見つめて疲れたようにルミナが地面に降り立った。

 瞬間彼女の身体から紅色の光が霧散して元の歳相応の姿へと戻っていった。

 同時にイルがル~ちゃんと叫びながらその胸に飛び込んでいく。

 その少し離れたところでカナタもルミナ同様力を使い果たしたのか、地面に降り立つと共に身体から聖光が霧散して、歳相応の元の姿へと戻っていた。

 そして、みんなの無事を確認したルミナが、これで何もかも終わった……後は学園に帰るだけね。そう思い町に視線を向けた瞬間、未だ事件は何の解決も見ていないことを知ることとなる。

 なぜなら冥界王ハデスの脅威から救ったはずのド・オデッセリアの町に、未だ溢れかえる冥界の魔物たちの姿を見つけたからだ。

 もうだめだ。

 ド・オデッセリアに溢れかえる冥界の魔物たちを見渡しながらルミナは思っていた。

 いくら冥界の王と呼ばれるハデスを倒し、結果的に巨大な冥界の門を閉じることに成功したとはいえ、今の力を使い果たしたルミナたちに、これほどまでに溢れ出た雑魚とはいえ、通常の魔物よりはるかに強力な力を持つ冥界の魔物たちを相手にできるだけの力が残されていなかったからだ。そしてそのことはここにいる誰もがわかっていることだった。

 地脈の力を借りたとはいえ、フィフス・エレメントにイージスの盾。幾つもの強力な魔法を行使し、魔力を使い果たしたフィフス。

 ドゥルグは生き残ったとはいえ、魔竜化にドラゴンブレス。さらには度重なる死闘を重ねてきたのだ。とても戦える常態にない。

 イルはイルで、他のみんなより元気とはいえ、ギガント・ナックルの発動により大半の魔力を失ってしまっている。とてもではないが、今ここにいる皆を守りながら、さすがにこの数の冥界の魔物たちの相手は務まらないだろう。

 そしてカナタと私はさっきの聖魔混合魔法の創生で、互いの魔力が枯渇するほどに消耗していて、いまや立ち上がり仲間の無事を確認するだけで精一杯だった。

 せっかく冥界王ハデスを倒したというのに、どう考えても残った冥界の魔物たちを倒す力が今の自分たちに残されていないことを実感したルミナたちは、誰もが悔しそうな表情を浮かべながら最後の時を待っていると、どこからともなく数え切れないぐらいの火矢が飛来して、空を真赤に染め上げた。

「な、なに!?」

「どうやら、王国軍が間に合ったようですね」

 そう、フィフスの言うとおりそれは、王軍を筆頭に、四大都市の名だたる騎士団や軍隊、各都市の学園や聖魔道学園の派遣した精鋭部隊を率いて、ヘイムダルの森での冥界の魔獣の討伐に向かっていた。王国軍だったのである。

 彼らは当初の目的である冥界の魔獣の討伐を追えたのか、冥界の門の開いたこのド・オデッセリアへと、救援に駆けつけてきたのだった。

 その姿を目にしたルミナたちは、この町、ド・オデッセリアと自分達が本当に助かったことを知ったのだった。
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