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第36話 試の塔攻略⑪ 砂漠の悪魔バジリスク② カナタVSバジリスク① カナタの知識

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「い~かよ~く覚えとけルミナ。バジリスクってのは別に毒とか特殊な力で相手を石化してるわけじゃない。自身の魔力を額についている赤い宝石で増幅して解き放っているだけだ。逆に言えば額の宝石さえ取り除いちまえばバジリスクは普通のトカゲとなんも変わらない。だから宝石を取り除かれたバジリスクは露天商とかでもさっきお前らが言ってた無害な砂トカゲとして扱って売られてる場合がある。で、結局俺がなにを言いたいのかというとだな。奴の使う石化は別に呪いの類とかではないってことだ。ということはだ、大抵の魔法は使い手を倒せばその効力を失うのと同じように、今回の石化も魔力の胴元であるバジリスクを倒すか、奴の魔力を増幅している額の宝石を砕けば石化が解けるってわけだ。で、奴を倒す方法は近付いていって剣で物理的に叩っ斬るか、魔法で吹き飛ばせばいいんだけど」

「なら私の魔法で……」

「やめとけ」

 せっかくのルミナの提案をカナタが腕を掴んであっさりと静止する。

「何で止めるのよ! あのトカゲを倒すには剣で直接倒すか、魔法による遠距離攻撃しかないんでしょ? しかもあいつには石化の能力があるから近づけない。しかもカナタは魔法が使えない。なら、私が魔法でやるしかないじゃない! だから私が魔法でやらないと! イルを助けないと!」

 オレンジ色の瞳に涙をいっぱいに溜めて叫ぶルミナ。

「駄目だ!」

「なんでよ!」

「今のお前に繊細な魔法のコントロールができるのか? へたすりゃ近くにいるイルを巻き込んでそれこそ取り返しの付かないことになるぞ!」

「あっ……」 

 そうだもし私が魔法の制御をほんの少しでも間違えて、石化したイルを巻き込んでしまったら、今度こそ本当におしまいだ。その事実を目の前に突きつけられる。

「じゃあどうしろっていうのよ!」

「大丈夫だ。ここは俺に任せとけって」

 怒声をたたきつけてくるルミナに対して自信満々に言い放つカナタ。

「でも、でもでもでもっカナタ魔法使えないじゃない! 近付いて剣で倒そうとしたら今度はカナタがイルと同じ目に合っちゃうよ、私そんなのやだ! イルを失ったばかりかカナタまで失うなんて耐えられないよ!」

 ルミナは感情のままに怒声を張り上げて子供のように泣きじゃくったあと、急に毒気が抜かれたかのようにその場にしゃがみこんでしまう。

 そして彼女は本当に困ったとき子供の頃からそうしてきたように、まるでその言葉自体が魔法の呪文であるかのように、自らの傍に立っている少年を上目遣いに見つめると、彼の名を口にした。

「カナタ……」

 いつになく弱気で、捨てられた小動物のように涙を溜めたオレンジ色の瞳で上目遣いに自分を見つめてくるルミナを見て、カナタは昔を思い出す。

 子供の頃は何かあるたびによくこんなふうに見つめられたっけな。

 と、いや、今はそんな思い出に浸っているときじゃない。

 今はルミナがこんな状態なんだ。

 俺がしっかりしないと。

 そう思いながらカナタは、不安げにしているルミナの綺麗な柑橘系と同じオレンジ色の髪を昔のように優しくくしゃっとして撫でてやる。

 そうされたルミナの表情は、いつもの勝気な顔ではなく、カナタにしか見せない年相応の不安げな女の子の顔をしていた。

 カナタに髪を撫でられながらルミナは弱音を吐露する。

「それに……イルをこんな目にあわせたのは私だ。私のせいだ。私があの時パーティーのリーダーとしてもっとちゃんとカナタの話を聞いてれば……私が敵をなめないでもっと勉強していれば……」

「ルミナだけのせいじゃない。それに今はそんなこと言ってる場合じゃない。それにこれは取り戻せる失敗だ。今やるべきことは失敗を悔やむことじゃない。どうやって挽回するかだ」

 そう今回は取り戻せる失敗だ。もし次取り戻せない失敗をしないためにするべくしてした失敗だ。だから、必ず挽回できる。俯いていた顔を上げオレンジ色の瞳をカナタへと向ける。

「挽回する?」

「ああ」

「けど、どうやって?」

「やり方はもうわかってる」

「え!?」

「まぁ見てろって」

 口の端を笑みの形にしながら言う。

「けどそれって……カナタが危険なんじゃ……」

「ぜんぜん危険じゃない。俺もルミナも安全で、しかも確実にイルを無傷で救い出せる」

「そんな方法……」

「ないと思うか?」

 そうだカナタは私と違って幼いころから実戦経験を積み重ねてきている。

 しかもこういった雑魚の魔物のこともしっかりと勉強してきているんだ。

 そんなカナタなら……もしかしたら……カナタの言葉を聞いた私の胸に淡い希望が生まれる。

 その希望は私の胸に暖かな光を生みだした。

 そして何の根拠もなく思ってしまう。

 信じてしまう。

 彼の言うことなら、カナタの言うことなら信じられると。

 これが彼のすごさなんだと私は実感した。いや、わかっていた。

 昔から彼はそういう人なのだと。

 そして同時にわかってしまった。

 これが彼にあって私にないものだと、これが彼と私の差なんだと。

 実戦による経験の差だけじゃなく人を信じさせる何か。

 という曖昧なものが。

 本当は私がやらなくてはいけないこと、けど今の弱い私はその曖昧なものに頼ってしまう。いや頼るしかないのだ。私が弱いから。

「わかった。私……カナタを信じる」

「おうっまかせとけ」

 言うなり子供の頃やったみたいに優しい手つきで、ルミナのオレンジ色の髪をくしゃっとして頭を一撫ですると、すでに小さな砂漠の悪魔バジリスクに立ち向かうためカナタはルミナに背を向けて前を向いていた。

 彼の背中にいつもの勝気なルミナの声が届く。

「カナタ! 私強くなるから! 必ずみんなを守れるように強くなるから! だからっ今はイルをお願い!」

 その声にはもはや先ほどまでの後悔の念はなく。そのオレンジ色の瞳には強き意志の光が宿っていた。

 いつもの勝気なルミナの声を背中越しに聞いたカナタは、口の端に笑みを浮かべながらただ後ろ手に片手を上げて応えたのだった。
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