ネクロマンサーズソード

鳴門蒼空

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№36 vs邪竜人① ユウの油断と瀕死の重症

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「いったいなんだってんだよ……この気配は!?」

 今まで感じたことがないほどの禍々しくおぞましい気配を感じ取ったジーンは、表皮から自然とあふれ出す冷や汗の嫌な冷たさを感じながら声を荒らげた。

「なんだこの気配は!?」

 エリスもまたジーンと同じように、自然と表皮に溢れ出す冷たい汗の感触を味わいながら、ゴクリと生唾を飲み込んで呟いていた。

「まずいぞいっ! みなこの場から急いで離れるんじゃっ!」

 幼竜から溢れ出す禍々しくおぞましい気配と、あまりに巨大で圧倒的な力の奔流を感じ取った剣が警鐘を鳴らす。

 だが剣が警鐘を鳴らした時には、すでに遅かった。

 なぜなら剣が警鐘を鳴らしたときには、すでにユウの下腹部は、幼竜の内から現れた何者かの浅黒い腕によって貫かれていたからだ。

「くぅっ」

 ユウは突然下腹部を貫かれたために、口元につーと血を滴らせながら、苦しげな呼気を吐き出していた。

 それでもユウは剣の警鐘の声を耳にしながら、自分の下腹部を貫いた浅黒い腕に向かって、両手に渾身の力を込めて、屍の外壁を打ち砕かれたネクロマンサーソードを突き刺し、刺し貫いていた。

 しかし、ユウの下腹部を貫く浅黒い腕は、ユウのネクロマンサーソードに貫かれているにもかかわらず、ユウの下腹部を貫くのをやめようとはしなかった。

 そればかりか、自分の腕を切裂かれながらも、ユウの下腹部を貫いた腕をさらに押し込みユウの顔を苦悶に歪ませた。

 ユウが自力で脱出できないほどの切羽詰った状況に陥ったと判断した剣が、エリスとジーンに向かって声を上げる。

「お前さんらっ手を貸すんじゃ!」

 だがすでに剣の声を聞く前に、ユウの置かれている状況を察していたエリスが助けに入っていた。

 エリスはネクロマンサーソードを振りかぶりながらユウに接近すると共に、ユウを貫いている浅黒い腕を両断しようと、上段から勢いよく剣を振り下ろした。だが、エリスの剣は浅黒い腕を覆っている硬い竜の鱗のようなものに打ち勝てずに弾かれてしまう。

「これはっ先ほどの竜の竜皮か!?」

 ユウを貫いている浅黒い腕の予想外の硬度に、エリスが声を荒らげる。

 ちぃっどうする? ここでもたついている時間はないっエリスがそう思って、脳内で瞬時に考えを巡らせていると、エリスの目に竜の表皮を突き抜けているユウの剣が目に入ってくる。

 私の剣で斬り落とせぬならば、奴の竜皮に覆われた腕を斬り落とせる剣で斬り落とせばいい! エリスはそう瞬時に考えをまとめると、自分の手にしている剣を地面に突き立てる。

「姉貴っなにしてやがる!?」

 ジーンがネクロマンサーソードを手放したエリスに、非難めいた声を上げる。

 だがエリスはそれには取り合わず、ユウを貫く浅黒い腕を貫いたユウのネクロマンサーソードに手を伸ばした。

「借りるぞ!」
 
 エリスはそれだけ言ってユウの剣を手にすると、ユウを貫いている浅黒い腕を刺し貫いているユウのネクロマンサーソードに力を込めて、浅黒い腕の内側から腕を半分切り裂くと、さらに返す刀でもう半分を切裂いて、ユウの身体を貫いている腕を切断した。

 そして腕を切断すると共に、地面に突き立てた自分のネクロマンサーソードを引き抜きつつ、残った方の腕でユウを抱えて後方に大きく飛びのくと、ユウの腹を貫いていた浅黒い腕を引き抜いて、あさってのほうに向かって投げ捨てた。

「うくっくうぅっくはっ」

 ユウは腕が抜けると同時に、くぐもった悲鳴を上げて、苦悶の表情を浮かべながら口から盛大に血を吐き出して、その傷口からも大量の血液を滴らせた。

「まずい!」

 ユウの傷の深さを見て、何かに気付いたのか、エリスが焦ったような声を上げる。

「焦るなって、ネクロマンサーは不死……」

「致命傷じゃ! こやつを抱えて逃げるんじゃ!」

 剣はユウの傷の具合を見て叫ぶ。

「けどあたしたちは不死……」

「いいからその剣の言うとおりにしろっジーンッ!」

 剣に反論するジーンに対して、珍しくエリスが怒声を張り上げる。

 剣やエリスたちが、そうやって言い合っている間にも、幼竜の中から浅黒い腕でユウの腹を貫き、その後エリスの振るう剣によって、腕を斬り飛ばされた幼竜の中にいた爬虫類のような切れ長の赤い瞳に、長身の成人男性の背丈の倍ほどもあろうかという巨大な体躯に浅黒い肌をした怪物が、全身をネチャッとした液体で滴らせながら、すでに事切れていた幼竜の身体をまるで薄皮をはぐように引き裂きながら姿を現した。

 それはリザードマンに類似した風体をしていたが、それがリザードマンなどの生優しいものであるはずがなかった。

 なぜなら、幼竜の身体を引き裂きこの世に生まれ出でたる物は、先ほど幼竜がその身にまとっていた竜気をも、その身に帯びていたからだった。

 それはこの世に生まれ出でた喜びからか、この世のありとあらゆる怨嗟の叫びや呪いを混合させたような災厄の咆哮を発した。

「グルアァァァァオォォォォオオオッッ!!」
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