ネクロマンサーズソード

鳴門蒼空

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№22 ガマの居城⑤ 地下通路 リザードマンと剣の言い訳

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 エリスに両手足の枷を外されたユウは、自分の剣であるじじむさい言葉でしゃべるネクロマンサーソードを探すために、牢獄からつながっている冷たい石畳の地下通路をペタペタと歩いていた。
 
 するとしばらくして、何か黒い影のようなものが鈍重な速度でユウに向かってくる。

「なに?」

 自分に向かい来る影に気がついたユウが闇の中に目を凝らすと、暗い石畳の地下通路の奥から、自分に向かって走りよって来るものの姿が浮かび上がってきた。

「トカゲ? てかてかしてる……。でも、ただのトカゲじゃない」

 そう、ユウの言ったとおり、このトカゲはただのトカゲじゃない。リザードマンとか言う二足歩行をする人型タイプのトカゲだ。

 主に彼らは沼地や川など水辺の近くに生息している。

 そして、彼らの全身は鎧のように頑丈な緑色の鱗で覆われているために、並大抵の使い手や剣では、彼らリザードマンには傷一つ負わせることが出来なかった。

 だがいくら頑強な鎧のような鱗に覆われているといっても、所詮トカゲはトカゲ。
 
 ユウの獲物であるネクロマンサーソードの前では、自慢の鎧のような鱗もそこらのただの小魚の鱗にすぎなかった。

 ユウ自身もそう思ったのか、こういったやからに襲われた時いつもそうしているように、背中に吊っているあのじじくさい声でしゃべる剣を反射的に引き抜き一閃させて、襲い来るリザードマンの首を刎ね飛ばした。

 と、いつもならこうなるはずだったのだが、残念ながら今ユウの手元には、いつものじじくさい声でしゃべくり、時にユウにアドバイスを告げて手助けしてくれる。ユウの相方たるネクロマンサーソードは存在していなかったのである。

 そのためいくらユウがいつも背中に吊っている剣の柄を掴んでみても、その手はスカスカと空を切るばかりだった。

「あれ? ない?」

 ユウはいつもそこにある剣の柄をいくら掴んでみても、掴むことができなかったので、終いにはここにいない剣に向かって文句を言った。

「肝心なときにいない」
 
 まぁ剣がこの場にいないのは、当然剣のせいではないのだが、ユウが納得するはずもなく、ユウは恨みのこもった文句を、今はいないいつも背中に吊り下げている剣に向かって吐き出していた。

 しかし今は悠長にそんなことをしている場合ではなかった。

 なぜなら、「キシャーッ」という爬虫類独特の威嚇音を発しながら、コントじみた動きをしているユウに向かって、リザードマンが襲い掛かってきていたからだ。

「んっ」

 ユウは舌打ちしつつも、リザードマンの繰り出してきた前足の鋭い鉤爪による一撃を、身体をそらして何とかかわす。だがリザードマンは攻撃をかわされようがどうしようが、ユウを攻撃する手をいっこうに緩めようとはしなかった。

 鋭い鉤爪による攻撃がかわされれば、尻尾をムチのように振り回してユウをはたこうとし、またその尻尾がかわされれば、今度はギザギザとした無数の牙の並んでいる強靭な顎で、ユウの身体を噛み千切らんと襲い掛かってきたからだ。

 ユウはリザードマンによるそのような攻撃を何とかかわしながらも、今の状況を打破するために、ネクロの力を研ぎ澄ませてあるものを探していた。

もちろんそれは、あのしゃべり方が妙にじじむさい剣である。

「あった」

 ユウはある場所に視線を向けて一言呟くと、鋭い鉤爪で自分を引き裂こうと、正面から襲い掛かってきたリザードマンの一撃を飛び上がってかわし、リザードマンの背に片手をついてそのまま空中で身体を一回転させると、自分とリザードマンとの立ち位置を入れ替えて、そのままの勢いで、薄暗く冷たい石畳が敷き詰められている地下通路を走り出したのだった。

 目指す目的地はただ一つ。あのじじむさい剣が幽閉されている場所である。

 ユウが剣を探すために、しばらくといっても、時間にしてみれば一分にも満たないほどの時間を、ろうそくの明かりのみで照らし出されている薄暗い石畳の通路を走っていると、ユウは目的地についたのか、不意に木製の扉のある前で足を止めた。

「ここ」

 ユウがそう呟きながら、目の前の物置部屋らしき木製の扉に手を伸ばすと、勢いよく開け放った。
 
 ユウが物置部屋に顔を出すと共に、嬉しそうな聞きなれた声が響いてくる。

「ここじゃここじゃっ」

 ユウは嬉しげに自分を呼ぶ剣へと視線を向けると、ジトッとした視線を向けて一言文句を言った。

「遅い」

「遅いって、わし剣じゃし、動けんし……」

 ユウの言葉を聞いた剣が言い訳を言い始める。

 ユウは言い訳を言い始めた剣を見つめると、一言で切って捨てた。

「言い訳はいい」

「言い訳って……そんなことよりお前さんっ」

 ユウの背後に膨らんだ殺気に気が付いた剣が警告の声を発する。

「わかってる」

 剣の警告の声を聞くなりユウは、目の前にぞんざいに放り捨てられていたじじむさい声でしゃべるネクロマンサーソードを掴みあげると、殺気の膨らんだ背後に向かって一閃させる。

 そしていつのまにか背後から鋭い鉤爪で、自分に襲いかかろうとしていた並みの刃物ではびくともしない鎧のような硬い鱗で覆われたリザードマンの首を刎ね飛ばしたのだった。

「やっぱりお前さんは、わしがいないと駄目駄目じゃな」

 リザードマンの首を刎ね飛ばした剣が、上から目線でやたら偉そうに言ってくる。

 それを見て、ユウが何の前ぶりもなくゴスッと、手に握っていた剣を石畳に叩きつけてグリグリとこね回した。

「ギャフッ!?」

「偉そう」

「ちょっいくらなんでも、いきなりひどいんでないかいお前さんっせっかくわしが自分のアイデンティティーを示しとったのにっ」

 しくしくと剣が泣き始める。

 それを見ていたユウが、何の感情もこもっていない声で呟いた。

「で、気は済んだ?」

「…………」

「…………」

 無言で見つめ合うユウと剣。

「うん」

 そののち行き場を失った剣が、コホンと場を取り繕うかのような咳払いをした。

「で、冗談はさておき。これからどうするんじゃ?」

「冗談には思えなかった」

「…………」

「…………」

 先ほど同様、ユウと剣がしばしの間見つめ合っていると、先に折れたのは剣の方だった。

「え~と。謝るから、忘れて」

 先に折れた剣がお願い口調で言ってくる。

「わかった」

「そんなことより、お前さん。この後本気でどうするん?」 

「そんなの決まってる」

「うむ。こんな爬虫類臭くて薄気味悪いとことは、さっさとおさらばじゃな」

 と言って、もしもこの剣が人間であったのならば、すぐさまこのままきびすを返して、この場から立ち去っていたはずだ。

 だが、次にユウの口から出た言葉は、剣が自分の耳を疑うかのような突拍子もない返答だった。

「ここの主であるカエルをミンチにして、野良犬のエサにする」

 剣と同じ場所に放置されていた。いつも身につけている銀色の鎧を身につけながら、ユウが宣言した。

 ユウの口から出た予想外の返答を聞いた剣は、ユウに疑問の声をぶつけてくる。

「……へ? って、なにあほなこと言ってますん? お前さん?」

「お前さんじゃない」

「というかじゃな。ここには警邏兵としてリザードマンもいるみたいじゃし、早々にお引取り願ったほうがいいと思うんじゃがわし」

 剣が先ほど倒したリザードマンの亡骸に視線を向けて言った。

「リザードマン?」

 物置小屋で自分のネクロマンサーソードを取り戻して、いつもの銀色の鎧を身につけたユウが、部屋の入り口で亡骸となっているリザードマンに視線を向けて聞き返した。

「そうじゃ。あの人型爬虫類の総称じゃ」

「総称?」

「つまり、世間一般で広く知られとる通り名じゃな」

「通り名」

「うむ」

「緑っぽい生き物、もしくは両生類。またはトカゲで十分」

 ユウが剣と言葉を交し合いながら、部屋の入り口で亡骸となっているリザードマンを踏み越えて物置部屋を出る。

 それからユウは、地下通路の壁に取り付けられている小さなろうそくの明かりを頼りに、出口があると思わしき方に向かって、剣と言葉を交し合いながら石畳の地下通路を歩いていた。

「いや、お前さん。あやつらを甘く見んほうがよいぞい。ああ見えてもあやつらは動きが素早く、しかもその身体も強固な鱗に覆われてお……るぅ!?」

 話の途中にいきなりユウが、前方にいた警邏兵であるリザードマンを見つけて、一足飛びに間合いをつめるなり、手に持っていた剣を一閃させて斬り捨てる。

 そのため剣の発した言葉は無理やり途中で中断させられる。

「ちょっお前さん。いきなりわしを振りまわすのは……」

「そんなこと言ってる場合じゃない。後ろ」

 ユウは言うが早いか、いつの間にか背後に迫っていたリザードマンを、振り向きざまになぎ払って屠ったかと思いきや、今度は再度前方に向かって反転するなり、新たに現われたリザードマンを斬り上げた。

 しかしその一撃は、リザードマンに読まれていたのか、リザードマンはその場で垂直に跳躍して,ヤモリのように天井に張り付くと同時に、天井を蹴って勢いをつけると、真上からユウの頭に喰らいつこうとでも言うのか、鋭い牙の生え揃っている口を大きく開けて、ユウの頭を狙って垂直落下して襲いかかってくる。

「お前さん上じゃ!」

 リザードマンの動きを見ていた剣が警鐘を鳴らす。

「問題ない」

 手元の剣から聞こえてきた声に反応するなり、ユウは今度は手に持っていた剣を上方、つまり天井に向かって突き上げる。

 もちろんユウの銀線を描くほどの速度を伴った突きの一撃を、元々の動きが素早いとはいっても、ユウの頭を狙って垂直落下してきたリザードマンがかわせるはずもなかった。

 そのためリザードマンは、一瞬後にはユウに喰らいつこうとしていた口から剣を突き入れられて串刺しとなり、そのまま剣に身体を両断されて絶命した。

「これで、三体じゃ。あと」

「二匹」

 ユウが地下通路にいると思われるリザードマンの気配を察知して声を上げる。

「じゃな。じゃがその二匹の足音は」

「ここから遠ざかっていく」

 ユウが自分の元から遠ざかっていく気配を察知して答えた。

「でじゃ。奴らの身体は強固な緑色の鱗に覆われておるんじゃ」

「?」

「わかったかの?」

「……ああ、あの生ぐさいトカゲのこと」

「そうじゃ。後学のためにも、知っといてそんはないぞい」

「なら、まかせる」

 ユウは完全に辺りの気配が去っていったのを確認した後。手に持っていた剣を背中に吊り下げて答える。

「まかせるって、お前さん。わしはお前さんのために……お~い。お前さん聞いとるんかの? お~い」

 もうユウは剣の話など聞いておらず、先ほど気配を消したリザードマンたちが去っていったと思われる先にあった石段に向かって歩き始めた。

「で、お前さん。リザードマンたちを倒したまではよいが、ほんとに行くのかの? あのエルカって子のためか?」

「違う」

「ならなぜじゃ」

「気に入らない」

 ユウが剣の問いかけにそっけなく答える。

「奴が不死の軍団を使って人間狩りをしとることか? それともほっとけばあのエルカって子や、あの村の村人たちにいずれ害が及ぶからか?」

「違う。ただ気にいらないだけ」

 それだけ言うと、ユウはもう話すことはないとばかりに、地下通路の出口に向かって続いていると思われる螺旋状の石段を登り始めた。

 地下通路の出口につながっていると思われる螺旋状になっている石段を登って、これからたった一人で過酷な戦場におもむこうとしている相方の背中に吊り下げられていた剣は、誰にも聞こえぬような小声で、「ふぅこのお人好しめ」とため息混じりに呟いたのだった。
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