宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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星の聖域 最終決戦④ 星の意思④ 青の巨人VS黒の巨人④ 『星の絆』と『星の奇跡』と魔王の最後と星との別れ

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 七星剣を手にして元の時間軸に戻り、魔王の頭上より落下を開始した裕矢が声を上げる。

「アイギス!」

 裕矢の声に答えてアイギスが盾を巨大化すると同時に下方から、巨大なエネルギーの固まりが押し寄せる。

 無論魔王による迎撃だ。

 魔王は裕矢たちが自分の頭上高く飛び上がったのを察知したと同時に、口を開いて惑星破壊砲クラスのエネルギー兵器。デス・クリムゾンを解き放っていたのだ。

 だがこれは、裕矢の指示によって、『星の時間』が終わりを告げると共に、盾を巨大化させたアイギスによってあっさりと防がれる。

 そして、巨大なエネルギーの固まりを防ぎ急降下しながら魔王へと猛進する。

「うおおおおおっっっ!!」

 落下しながら裕矢が七星剣を両手で振りかぶるために、アイギスを捨てる。否、捨てたのではなくいまだ下方から撃ち続けられるデス・クリムゾンを防ぎ突き進むために、まるで巨大な波に挑むサーファーの扱うサーフボードのようにアイギスを足蹴にしたのだ。

「年長者たるこのわしを足蹴にするとは……」

 ブツブツとアイギスが文句を言い出すのはほうっておいて、裕矢とあおいは迫り来る魔王の本体を見据え感覚を研ぎ澄まし力を集中していった。

 アイギスにより攻撃を防がれながらも、七星剣を目にした魔王は己の力と身体に取り込んだありったけの星の力を使って巨大な闇色の刃を作り出す。

 魔王が作り出したのは、凶悪なまでに闇色のエネルギーをまとっている七つの刃が、巨大な木々が枝分かれしたかのように生えている黒七刀〔こくしちとう〕だ。

 黒七刀といっても、魔王の作り出したこれは、裕矢たちの生み出した七星剣と違い、七つの星の力ではなく数多喰らった星々の力に己の力を上乗せした代物だった。

 その威力は刀の一振りで、銀河を切り裂くほどの凶悪な力を秘めていた。

 普通なら、裕矢のナノエフェクトによってパワーアップされ、あおいの力によって強化されたといっても、たった七つの星の力が魔王の己の力と数多の星の力を合わせた黒七刀に勝てるはずは無かった。

 だが、互いの刃が交わる瞬間、強き絆によって結ばれた七星の輝きはまばゆい輝きを放ち、魔王の力と数多の星の力を併せ持つ黒七刀を難なく切り裂いたのであった。

 いや実際に起きた出来事は魔王に取り込まれた星の力たち、それが裕矢たちに味方して七星剣に接触すると同時に、黒七刀に取り込まれていた星の力が七星剣に流れ込み七星剣に力を与えたのだ。

 そう、星の聖域の星たちが、宇宙を世界を守ろうとした裕矢たちに味方したのだった。

 そして、魔王に使われる星の力が裕矢たちに味方した結果。魔王の生み出した闇の剣。黒七刀が、裕矢たちの持つ七聖剣にあっさりと切り裂かれ空間に霧散し解け消えた一瞬の後。数多の星の力を取り込んだ七星剣は、闇の力の中心核ごと魔王を真っ二つに両断したのだった。

 闇のコアを両断して魔王を滅すると同時に、役目を終えたからなのか、力を使い果たしたからかなのはわからないが、裕矢と星々が作り上げた七星剣も黒七刀と同じように空間に霧散し解け消えた。

 そして魔王と共に裕矢たちの創り出した神器、七星剣によって両断された闇のコアは、両断された後、存在質量を爆縮させて、闇色をした球形の超高密度エネルギーへと姿を変じた次の瞬間、球体が破裂して星の聖域中に衝撃波だけで小惑星を崩壊させるほどの破壊力を持った魔王のコアの発した巨大な爆発エネルギーが撒き散らされた。

 目の前で起こった魔王のコアの巨大な爆発に気がついた裕矢がとっさに、両腕をクロスさせたクロスガードで顔と体を覆い防ごうとするが、七星剣を生み出し魔王を倒すために、あおいの力の大半や身体に浮かび上がっていた星痕の力を七星剣に与えてしまったために、青の巨人と化している裕矢の力も弱まっていた。

 そのため巨大な爆発を防ごうと腕をクロスさせたまま軽がると吹き飛ばされてしまう。

 そこまではいい。吹き飛ばされながらも巨人の腕でガードしていれば命は助かるからだ。

 問題なのは、魔王との戦いを制すために、七星剣を生み出した青の巨人の力が思った以上に弱まっていたことだった。

 そのため爆発を防いでいる巨人の両腕が、爆発による衝撃の威力に耐え切れずに、粒子レベルで崩壊を始めたのだ。

 もしこのままほうっておけば、爆発の衝撃に耐え切れなくなった巨人の身体は、近い将来崩壊して、巨人の身体を失った裕矢の身体が、小惑星を苦もなく崩壊させることの出来る爆発や衝撃波の中に無防備に放り込まれてしまうだろう。

 もしそうなれば裕矢の運命は陽の目を見るよりも明らかだ。

 しかしそうはならなかった。

 なぜなら、青の巨人の身体が崩壊を始めた直後。とっさにアイギスが、崩壊を始めた青の巨人の身体を護るように、自らの意思で裕矢を襲う爆発の衝撃波の前に出現して、巨大なエネルギーシールドを展開したからだ。

 アイギスのとっさの機転により、これ以上裕矢の体が爆発の衝撃波に巻き込まれることはなかったのだが、一度崩壊を始めた巨人の体を保つほどの力は、魔王との激しい激戦で力の大半を使い果たしていた今の裕矢やあおいには残されていなかった。

 そのため巨人の体の崩壊と同時に、裕矢とあおいとの『生体リンク』も解かれ、裕矢が元の人間の姿を取り戻したのだった。

 人の姿を取り戻した裕矢は、星の神器アイギスの庇護の元。何とか魔王のコアが巻き起こした巨大な爆発から逃れることに成功していた。

 だが、この後。誰もが予想だにしなかった想定外の事態が巻き起こる。

 爆縮し爆ぜたにもかかわらず、魔王のコアの闇の因子が粉々に吹き飛ぶでもなくその場にとどまっていたからだ。

 過去、誰かが言った。

 魔王は自立進化型の機械だと。

 もしそれが本当で、さらに魔王がエリスやジーン、ニーナ。裕矢の身体に埋め込まれているナノエフェクト。つまりナノマシンを越えた超々小型の機械の集合体であって、そしてさらにそれが壊されるたびに進化するタイプの成長促進型自立進化タイプだったとしたら? ここに停滞している魔王の因子は、今まさに更なる力を得るために進化の過程にあると言える。

 そんなことこの場にいる裕矢やあおいはおろか、アイギスやグングニルを含む何千万年何億年もの長き時を生きてきた星たちの誰もが知り得るはずもなかった。

 だが、裕矢とあおいは、本能的に感じていた。

 あの黒い粒子のような塊をほうっておいてはいけないと。

 もしこのまま放置しておけば、未曾有の災害が世界に巻き起こることになると。

 だが力は停滞する。

 魔王を復元しようと停滞する。

 それを止めるには、これを霧散させる。もしくは、消滅させるほどの強い力。何者をも退けるほどの銀河の断りを根底から覆すほどの強力無比なエネルギーが必要だった。

 だがすでに裕矢やあおい。そして、アイギスやグングニル。七星剣を構築した星たちには、魔王の力を打ち消すほどの力は残っていなかった。

 ここにいる誰もがこれまでか、と思った瞬間。それは巻き起こった。

 何の前触れもなく、星の聖域中の星たちが一斉に輝き始めたからだ。

 その光景を目にしたあおいが呟いた。

「『星の絆』」

 あおいの言葉を聞いたアイギスも口を開く。

「コアを両断した瞬間爆風に乗った星の力が、星の聖域中の星と『星の絆』を結びおったか」

 そう、『星の絆』を結んだのは、七聖剣を創り出す時、大半の力を注ぎ込んだあおいの地球の力だった。

 あおいの力は、裕矢が魔王ごと闇のコアを両断し七星剣を霧散させた瞬間。すでに魔王の体内に在る星々や七星剣によって両断された魔王のコア自体にも行渡っていた。

 そのため魔王のコアが爆縮し、爆ぜて星の聖域中を巻き込んだ大爆発を起こした時には、爆発の力に乗って、星の聖域中にあおいの力を行渡らせた。

 他の星々と比べて力が弱いあおいには、今の段階では神器を生み出すことは出来ない。だが、その代わりに、あおいには他の星々と絆を結ぶという不思議な力があった。

 この力にはあおい自身も気付いておらず、また裕矢やアイギス。グングニルや共に戦った星たちもそのことには気がついていないようだった。

 もしかしたら、これがあおいの悠久の時の彼方。数多の種族たちと共存共栄を果たしてきた地球の力なのかもしれなかった。

 結ばれた『星の絆』は『星の軌跡』を紡ぎだす。

 『星の軌跡』は『星の絆』が結ばれた闇の因子に取り込まれていた星の力を中心にして。星の聖域中に、宇宙中のどの星座図鑑にも乗っていない巨大な星座を描き出した。

「星の……奇跡……」

 あまりに壮大で、あまりに雄大な景色に、裕矢があっけにとられていると、この後起こる事態を察したあおいとアイギスが申し合わせたかのように声を上げる。

「アイギスじい」

「うむ。任せい」

 言うが早いか、アイギスは完全にあおいとの『生体リンク』が解けて、人間の姿に戻っている裕矢の周りにシャボン玉のようなエネルギーシールドを張りめぐらせる。

 アイギスが裕矢をエネルギーシールドで包み込んだのを確認したあおいが口を開く。

「飛ぶ」

 それだけ発するとあおいは裕矢と共に、星の聖域を離脱した。

 裕矢は星の聖域を離脱する瞬間確かに見た。

 まるで自分たちが星の聖域を離れたのを見計らったかのように、満天の星空を埋め尽くす星たちが一斉に目の眩むようなまばゆい輝きを放ち、星の聖域中を多い尽くしたのを。


 裕矢たちが去った後。星の聖域で何が起こったのかと言うと、『星の軌跡』を結んだ全ての星が、魔王を倒すために自発的に臨界爆発〔メルトダウン〕を起こし、一斉に自爆してビッグバンを巻き起こした。

 結果、巻き起こったビッグバンは、『星の軌跡』によって紡がれて、星の聖域中に連鎖爆発を巻き起こし、魔王のコアが残した闇の因子を一つ残らず、超新星爆発であるスーパーノヴァを彷彿とさせる超巨大な大爆発、スーパービッグバンに巻き込んだのだった。

 そして、星々の意思で巻き起こされた連鎖爆発が重なり合い内と外から巨大な爆発に巻き込まれた魔王のコアの残した闇の因子は唯一つ残ることなく消滅したのだった。

 星が、数多の星々が自らの命を燃やして、世界を、宇宙とそこにすむ生き物たちの日々の営みと、星々の命のともし火を護った瞬間だった。


「ここは?」

 一瞬の後、あおいの力によってもとの宇宙空間に空間移動した裕矢が疑問の声を上げていると、裕矢は自分のすぐ傍に見知った人影を見つけ声をかける。

 秋菜だ。

「あき! 無事だったのかっ!?」

 フルフルと、秋菜の姿をしたものは首を小さく左右に振る。

「違う」

 秋菜の姿をした者のその言葉を聞いて、何か察しがついたのか裕矢が再度声をかける。

「ってことは、あおいか?」

 コクリと、頷いた秋菜の姿をしたあおいの瞳を確認のために覗き込む裕矢。

 そして秋菜の瞳の色が淡い青色だということを確認すると、元の空間に戻ってきた時と同じ質問を再度する。

「で、あおい。ここは?」

「地球のあった場所」

 地球その単語を耳にして、周辺の空間を見回すが、やはり、というべきか、そこには地球のあった面影は何一つ残っていなかった。

「そっか、やっぱ地球は……悪い。あおい。お前の身体、壊しちまって」

 あおいや秋菜に促されてとはいえ、自分がやったことを思い出した裕矢が、心底申し訳なさそうに言う。

 フルフル。

「あの状況下ではしかたない。それに私も望んだこと」

 二人の間にしんみりとした空気が流れ沈黙が降りようとしたが、訪れようとした沈黙を破るようにして裕矢がふと思いついた疑問を投げかける。

「なぁあおい。地球を失った俺達はこれからどうなるんだ?」

「わからない」

「そっか」

「それは誰にもわからない。ただわかっていることは」

「わかっていることは?」

「地球は消滅したとしても、少なくともあなたたちは生きているということ」

 確かにあおいの言うとおり、俺達は家族を友達を母星を失った。

 けど、それでも俺達は、確かに今も呼吸して、この場に生きてる。

 それだけは間違いのない事実であり現実だ。

 そう裕矢が思っていると、不意にあおいが口を開きただ言うべきことを淡々と告げてくる。

「これから私たちは眠りに入る」

 あおいの声を受けたアイギスが、おじいさんのようなしわがれた声で、笑みを浮かべながら裕矢に対して礼の言葉を述べてくる。

「小僧。中々楽しかったぞい」

 アイギスが微笑んで言えばグングニルも、歴戦の騎士を思わせるような口調で裕矢にねぎらいの言葉を投げかける。

「うむ。我の使い手として申し分なかった」

 そして二つ星は申し合わせたかのように頷き合うと、昔なじみの友に別れの言葉を投げかけるように、楽しげな声をかける。

「「またいつか共に戦おう」」

 アイギスとグングニル。その場から二つ星の気配が消えると共に、星痕と化していた星々も一瞬挨拶をするかのように、優しげな淡い光を発すると気配を消した。

「アイギスとグニエル。それと共に他の星たちも星の眠りに入った」

「星の眠り?」

 コクリ。

「星の眠りは、力の大半を使い果たした星が深い眠りに落ちること」

「深い眠り?」

「生命では辿り着けないほどの深い眠り」

 暗にあおいは、裕矢が生きている間、アイギスやグングニル。眠りについた他の星と再び会うことはないと語っているのだった。

 それほどに、星と人との時間の隔たりは深いからだ。

「なぁあおい」

「?」

「俺達はまた会えるのか?」

「それは誰にもわからない」

「そっか」

 コクリ。

「でもきっと」

「でもきっと?」

「わたしたちは古き昔より共生し合ってきた。きっとわたしたちが生きていればまた同じ世界を生きることになる」

「そうかもな」

 裕矢が答えるなり、あおいは立っているのもつらいのか、倒れるようにして体を裕矢に預けると、か細い声で呟いた。

「もうすぐお別れ」

「そっか」

 コクリ。力が入らないのか、あおいは弱々しい手つきで裕矢の体を抱き締めると、心底眠そうなトロロンとした淡い青い色の瞳を向ける。

「色々ありがとう。裕矢」

 瞳を閉じながらあおいが最初で最後に裕矢の名前を呼んだのだった。

「おやすみ。あおい」

 そう優しく呟きながら、自分の腕の中で安らかな寝息を立てる少女に裕矢は優しくキスをした。

 あおいが眠りに入ると共に秋菜は目を覚ました。

 まず目を覚ました秋菜の視界には、人の顔のようなものが入ってきた。

 ただそれはとてもドアップだったので、秋菜には今の状況がいまいちどころかいまさんほど飲み込めないために、視線を下方にずらしていった。

 すると、信じられない光景が視界に納まってきたのである。

 それは、いつの間にかしらぬまに、裕矢に抱き締められて唇を奪われている自分の姿だった。

 自分が今どうなっているのかを認識した瞬間、秋菜の頭はやかんが沸騰したかのように一気に沸点まで沸きあがって、湯気を立てると共に、これでもかというほどに真っ赤にのぼせ上がった。

 そして、自分を抱き締めながらキスをする裕矢の体を両手で思いっきり突き飛ばすと、あらん限りの声を絞り出して怒声を張り上げる。

「なななななぁ!? ゆうちゃんのぉど変態いぃぃぃいっっっ!!」

 パーンッ極大怒声を張り上げて、裕矢の頬を秋菜の渾身の往復ビンタが襲ったのだった。

 そして、もちろん秋菜の往復ビンタを食らった裕矢がこの後気を失ったのはいうまでもない。
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