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星の聖域 最終決戦③ 星の意志③ 青の巨人VS黒の巨人③ 星と人との合作神器『七星剣』
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魔王の攻撃をアイギスの盾で防ぎつつなんとか生き残った裕矢は、自分が受けた砲撃が背後にいた星々をいとも簡単に粉砕する光景を目撃したために、口を半開きにして愕然とした顔をしながら呟いた。
「こんな攻撃してくる相手……いったいどうやって倒せばいいってんだよ?」
「逃げるんじゃ」
「逃げる?」
「そうじゃっもはや星光を纏った神器すら砕かれてしまうような状況じゃっ逃げるしか手はあるまい」
「けどっあおいはあいつを放っておいたら大変なことになるって前に言ってたんだ。逃げてもいいのか?」
くっと、アイギスが歯がゆいかのように唇をかんだような声を立てる。
「確かにそうじゃ。ここであやつを、あの魔王の奴を倒しておかねば、星の聖域で得た強大な力を得た魔王によって、太陽系はおろか銀河系そのものが、破壊されてしまうかもしれん」
「だったら、逃げてる場合じゃないんじゃないか?」
「そんなこと小僧っお主に言われんでもわかっとるわいっ」
「だったら」
「じゃがなぁわしらにとって唯一の武器であったあの星光を纏った戦斧が失われた時点で、すでに奴との勝敗は喫していたんじゃ」
「勝敗は喫していた?」
「うむ。戦斧はわしらにとっての唯一の武器であると共に、青の巨人やそれに連なる他の星々の力を引き上げるための『星の軌跡』の要ともいえる『星痕』じゃった。それが失われたということは、もはやわしらに万に一つも勝機が無いということなんじゃよ」
本当にもう打つ手が無いのか、アイギスは意気消沈した感じに言う。
だが、アイギスが意気消沈するのとは逆に、アイギスの星痕と言う言葉を聞いた裕矢が何かに気付いたのか声を上げる。
「さっきのあの武器って、『星痕』から生み出されたものだったんだろ? だったらもう一度生み出せばいいんじゃないか?」
なんとなく思いついた言葉を口にする。
「無理じゃ」
「無理って」
「魔王にあらかたの力を奪われた『星痕』の星たちにはの。魔王に開放されたからといっても、すぐさま星の神器を生成し、具現化するほどの力など残っとらん」
「でもさっきは……」
「あやつはかなりの無理をしておった。じゃから星光を纏い魔王のコアに衝突した衝撃で砕け散ったじゃろ?」
「あっ」
「ようはあやつは生き物で言うならば、全身に大怪我を負ってそれでも、仲間を護ろうと立ち上がった手負いの兵士だったんじゃ。それにあやつのように力を残している『星痕』はこの場にはないんじゃ。それは『星の感覚』を有しておる小僧っお主も感じ取っとるはずじゃ」
たしかにアイギスの言うとおり、俺の操る青の巨人に刻まれた星痕の中に星の神器を生成できるほどの力は感じられない。誰もこれも、星痕を輝かせ『星の軌跡』を紡ぐので精一杯って感じだった。
戦える武器を失い。また新たな武器も生み出せない以上、もう本当に逃げるしか手はないのか? 裕矢は下を向き自問自答しながら己に問いかけていると、視界に入ったあるものに気が付き顔を上げる。
「いや、武器ならある」
裕矢が自らの操る巨人の巨大な拳を見下ろして呟いた。
「無理じゃっ星光を受けた神器さえ壊れたんじゃっ素手でなど死ににいくようなものじゃぞ小僧っ」
「けど、もうこれしかないっこれでやるしかないんだっ星達のっ地球のみんなのっ俺の家族や友達の仇を討つにはっ!」
裕矢が声を張り上げる。
だが裕矢の決意を聞いても、アイギスの答えは変わらなかった。
「じゃが現実は変わらぬ。小僧。例えお主が巨人のその両の拳を振るおうとも、奴との力の差は決してひっくり返らん。無駄死にするものが一人増え、それに巻き込まれた星たちの命のともし火がただ消えるだけじゃ」
「そんなことやってみなくちゃわからないだろうが!」
「じゃから現実を見ろとわしはいっとるだけじゃっ小僧! お主はしっかりと現実を見つめるんじゃ! でなければ助かる命も助からんし、助けられる命も助けられん! このまま突っ走ればいらぬ犠牲を生むだけじゃ!」
お互い感情を抑えきれず売り言葉に買い言葉で、裕矢とアイギスとの間で言い争いが起ころうとしたときだった。
「武器なら、ある」
二人の声を遮って一つの静かな凛とした声が響き渡ったのは。
あおいの言葉を聞いた裕矢とアイギスが、『星の感覚』で、いつのまにかあおいが一つ所に膨大なエネルギーを集めて何かを生み出そうとしているのを感じ取ると、何かを察したのかアイギスが声を上げる。
「なにをしとる!?」
「戦える。神器を生み出す」
アイギスの問いかけになんでもないことのように答える。
「無理じゃっお主はまだ若すぎる!」
「武器が無い」
「わかっとる。それはわかっとるが、いくらなんでも無謀すぎる!」
「いいんじゃないのか別に? あおいが戦う武器を生み出すって言ってるんだから?」
「何もわかっとらんひよっこがぁっ! きいた風な口を叩く出ないわっ!」
ここに来て初めてアイギスが声を荒げて裕矢を怒鳴りつけた。
「アイギスじい」
裕矢をしかりつけるアイギスをいさめるように、あおいがアイギスの名を呟く。
「う、うむ。怒鳴ってすまんかったの。ちと取り乱したわい」
「いや、まぁいいけどよ。その、なんだ。なんでそんなに怒鳴ったりしたんだ」
「う、うむ」
話していいものかどうか迷っているのか、アイギスが一瞬あおいの方を見ると、了承の意を伝えるためにあおいがコクリと頷いた。
「ふぅ小僧、お主ももはや無関係とは言えぬからの。知っておくのも必要かもしれん。神器とはなんじゃと思う?」
「星の力の結晶みたいなもんだろ?」
「うむ。ま、おおかたの見解は間違っておらん。じゃがの。全ての星が神器を有しているわけではないのじゃ」
「?」
「神器は往く星霜〔せいそう〕を生き延び力を得た星が生み出すことの出来る星の命の結晶体。星の命そのものなのじゃよ」
「それをどうしてあおいが作り出すことに反対なんだよ?」
「神器を生み出すには、最低でも星ひとつを生み出すほどの力が必要なんじゃ。まだろくに力のない若い星が無理をして神器を生み出そうとすれば、神器を生み出す力が足りず星の命が潰えてしまうかもしれぬのじゃ」
「星の命が潰えるとどうなるんだ?」
「星が死ぬ。星の意思が消えるんじゃ。それは星にとって死ぬよりもつらいことなんじゃ」
アイギスはまるで人間の年老いた老人が、死ぬほどの後悔を遠い過去に残してきたような口調で言う。
それは、たかだか十数年を生きたにすぎない裕矢には理解できない感傷だった。
だが裕矢には、アイギスがなにを言いたいのかはわからなかったが、その言葉からアイギスは過去。とても哀しい耐え難いほどのつらさを味わったことがあるのだということだけは感じられた。
だからアイギスはあおいに同じことを繰り返してほしくないと思って、声を荒らげたんだと裕矢は思った。
「武器は必要」
「じゃがなぁ」
老人が孫にせがまれどうしたものかといった感じに困ったように応対する。
そんなときどこからともなく裕矢の聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「星人〔ほしびと〕よ、我を使え」
「グングニールか」
「グニエル」
あおいとアイギスはこの声の主を知っているのか、声の主と思われるものの名を呼ぶ。
すると、先ほど魔王との戦いの折、ハルバートによって弾き飛ばされたグングニルが、頭上から飛来し裕矢の眼前の空間に突き立ち声を上げる。
「さぁ若き星人よ。我を手に取り、悪しきものを滅せよ」
裕矢が巨人の手で掴むと、星槍グングニルの星の輝きが、青の巨人の中に流れ込み星痕となった。
そして、再び青の巨人に七星の輝きが浮かび上がり、青の巨人と手にしているグングニルを星光が包み込んだ。
「星槍グングニールならばあの魔王の奴を倒せるかもしれんっゆくぞ小僧!」
アイギスの声に呼応して、裕矢が左手にアイギス。右手にグングニルを携え、魔王に向かっていこうとすると、どこからともなく裕矢たちを呼び止める声がした。
「待つがいい星人〔ほしびと〕よ」
裕矢が反射的に周囲を見回すが、何者の姿もなかったためにいぶかしんでいると、 アイギスが教えてくれる。
「主の胸に浮かびあがっとる『星痕』が語りかけてきとるんじゃ」
「己が命を賭け、汝が星である我らのために剣を振るうなら、汝と我ら、思いはひとつ。ならば最後の一欠けらになろうとも、我ら星々も、汝と共に数多在る星々と、そこに住む数多の生命を護らん」
そう声が力強く宣言すると、裕矢の胸に浮かんだ星痕が力強く輝いた。
大半の力を魔王に取り込まれた五つの星々は、残り少ない力を合わせ、一つの星の鎧を作り出す。
五つの星の力によって構築された星の鎧は、青の巨人と化した裕矢の身体に装備されていった。
右手に星槍グングニル。左腕に星盾アイギス。全身を覆うはなもなき白銀の星の鎧。今の裕矢の姿はさながら、軍馬は傍らにいないが中世の騎士の姿を彷彿とさせた。
「これで今我らに出来る全ての準備は整ったっ皆のものぉっ突撃じゃあ!」
アイギスの時の声に呼応して、うおおおおーーーっ! と、裕矢の胸に星痕として刻まれている星たちの喊声が星の聖域に木霊した。
星達の力の結晶体である星の神器。星具を身につけて、星の騎士、星騎士〔せいきし〕と化した裕矢が星たちの時の声を合図に、アイギスを前面に押し出しながら、魔王の攻撃による弾幕の薄いところを狙って魔王に向かって突撃を開始した。
裕矢の狙いはただ一点、先ほど破壊し損ねた魔王のコアだ。
だが魔王もそのことは熟知しているのか、相変わらず星の光を喰らうことをやめないが、裕矢たちを自分の元にたどり着かせまいと、先程よりも弾幕を濃くする。
だが裕矢はそれにはひるまず、時には身を翻してかわし、時にはアイギスを盾にしながら強引に突き進んで行った。
だがある程度の距離にまで近付くと、クリムゾンなどによる砲撃による弾幕だけではこちらの足を止められないと悟ったのか、魔王が星の聖域に広げた闇を利用して迎撃のパターンを変えてくる。
まあ元々闇といっても、魔王の体の一部である。そのため魔王がほんの少し、闇に意思を伝えれば、星の聖域に広がった元々決まった形のないアメ―バ状の無定形の闇は、すぐさま対象物を変えて地球を喰らおうと飛来した星喰いを喰らったときのように、時に海の波のように打ち寄せ、時に武器のような鋭い刃となり、また時には人の手のような形を取って裕矢たちに襲い掛かっていった。
裕矢は自分を多い尽くすような巨大な波と化して襲い掛かってくる闇をグングニルで切り裂き波の切れ目をつくって前に進み、闇の刃はアイギスで反らし、闇の手はアイギスを前面に押し出しながら、グングニルで払いのけたのだが、星の聖域中に広がっているほどの闇はいくら切り払っても際限なく襲い掛かってきたのだった。
「ちっきりがねぇ!」
「うむ。このまま闇を打ち払い続けても力を消耗するばかりじゃ、何とか手を考えんと、このままジリ貧じゃとまずいぞい。このままじゃといずれわしらも力を使い果たしとりこまれてしまうじゃろう」
どうする? 俺達が勝つにはどうすればいい? 自分たちの唯一の武器である長槍で、長い棒のようなグングニルを振るいながら考えを巡らせる。
長い棒……か。だったら、これなら魔王のきょをついて近づけるかもしれない。 思い至った裕矢はアイギスに話しかける。
「魔王に近付きさえすれば何とかなるのか?」
魔王の操る闇の攻撃をかわしながら会話する。
「確実とは言えんが、グングニールならば問題あるまい」
本来の力を発揮出来ればじゃがな。と、アイギスは心の中で小さく付け足す。
「なら行くぜっうおおおおおおっ」
掛け声一閃。裕矢がアイギスを前面に押し出しながら、強引に魔王に向かって全速力でまっすぐ駆け出す。
「小僧一体どうしようというんじゃ!?」
「まぁ黙って見てろって!」
まっすぐ直進してきたために魔王の火力と闇の触手がそこに集中した。
瞬間、裕矢は右手に持っていたグングニルで思いっきり地面を叩き体を跳ね上げる。
グングニルによって跳ね上げられた身体は、魔王の火線や触手を置いてけぼりにして魔王の頭上を越えて空高く舞い上がった。
そう、裕矢は星の神器である星槍グングニルを、棒高跳びで使う棒のように使ったのだった。
「まさか星槍をそんなふうに使うとは思いもよらんかったわい。じゃがこれで魔王への道はつながったようじゃな」
アイギスが一人呟いていると、魔王の頭上を越えて空高く舞い上がった裕矢がグングニルの名を呼んだ。
「グングニル!」
裕矢の呼びかけに答えるように一瞬グングニルが淡く輝いた。
「アイギス。『星痕』を刻む星々よ、星の光を我に」
グングニルの言葉を受け、あおいとアイギス。そして、青の巨人と化している裕矢の身体に星痕を刻んでいた星たちの力がグングニルに集中する。
そして、グングニルが星光に包まれたのを見計らったかのように、先ほど百メートル近く一気に飛び上がった裕矢が大きくグングニルを振りかぶった。
最高到達点に達した後、急降下の勢いをおまけして魔王に一撃を入れてやるためだ。
だがまさにこれから、グングニルを振り下ろそうとした次の瞬間。予期せぬ事態が起こった。
なぜならこれから攻撃を仕掛けようと身構えた矢先に、集めた星の光を受け止めきれなかったのか、グングニルに亀裂が走ったからだ。
「グニエル」
異変を察してあおいがグングニルの名を呼ぶと、それに気付いていたアイギスも同時に声を上げた。
「まずいぞい小僧っこのままじゃと星の力に耐え切れずにグングニールが崩壊する! 一旦引くんじゃ! 今わしらはグングニールを失うわけにはいかん!」
そう、今裕矢たちがグングニールを失えば星の光は弱まり、五つ星の作り上げた星鎧〔せいよろい〕も消えうせる。
もしそうなれば魔王の傍にいる裕矢たちは一瞬で闇に包まれ取り込まれる。
そのことを察したアイギスが声を上げたのだ。
しかし裕矢はアイギスの助言とは正反対の行動をとる。
「星の力を受け止められる器がないならっ器を創ればいいっ」
「なんじゃと!?」
裕矢の予想外の返答に、アイギスが目を見開き驚いた声を上げた。
だが裕矢はアイギスの声を無視して、あおいの名を呼んだ。
「あおい! 俺達に『星の時間』を!」
「『星の時間』じゃと!? 今更そんなことをしても残り少ない力を無駄にするだけじゃ!」
アイギスが最後忠告するも裕矢はそれを聞き入れず、再度あおいの名を呼んだ。
「時間がないっあおい!」
裕矢の頼みを聞き入れたのか、あおいはコクリと頷いた。
すると一瞬の後。裕矢はダークスターと化した地球を破壊する寸前に訪れた時と同じ感覚に包まれる。
星と同じ感覚で時間を感じられる『星の時間』だ。
『星の時間』は、人間が感じている通常の時間とは異なる星の感じている緩やかな時間の感覚を共有するものだ。
したがって、実際に流れている時間自体に変化はないのだが、『星の時間』内にいる者たちの感じている時間の流れは、通常の時間の数倍から数十倍ほどの長さになっているのである。
「ここではあまり時間を延ばせない」
「わかった」
「一体こんなところで『星の時間』を使って、今更どうしようというんじゃ」
裕矢やあおいと共にあったために、無理やり『星の時間』を共有する羽目になったアイギスが抗議の声を上げた。
アイギスの抗議の声をしりつつも、裕矢はそれにはとりあわずに、先ほど星の力をその身に宿そうとした折、ひび割れが走ったグングニルに声をかける。
「時間がないから率直に言う。まずグングニル。魔王のコアを破壊するだけの力は残ってるのか?」
「…………」
グングニルは無言で答えない。
「やっぱそっか、力はほとんど残ってないってことだな?」
「やはりとは? どういうことじゃ?」
「いや今鎧を作ってくれてる奴らも、魔王に取り込まれててその時力の大半を失って、自分ひとりじゃ星の神器って奴を生み出せないって言ってたろ? だからグングニルももしかしてと思ってさ」
「とっくに気付いておったか」
「だとしたら」
裕矢がアイギスに話しかける。
「うむ。わしらの力もそう長くは持たんじゃろう」
「なら、やっぱここでやっとかないと次はないな」
「やる?」
「魔王の奴を叩きのめす」
「無理じゃ。もはや唯一の武器であるグングニ―ルが星の光を束ねられぬとわかった時点で、魔王を倒す手段を失った我らにどうすることもできん」
「なぁ魔王を倒すにはコアを破壊するしかないんだろ?」
「うむ」
「コアを破壊するには、どうすればいいんだ?」
「強力な力で、破壊するしかないのう。現状一番強力なのは星の力じゃな」
「ということはだ。ようするに魔王を倒すには、星の力を集めるに耐えうる器となる武器があればいいんだろ?」
「まぁそうじゃな」
「なら、武器は俺が作る」
「な!?」
裕矢の突拍子もない物言いを聞いたアイギスが、思わず口をポカーンと開いた後、何度目かの抗議の声を上げた。
「無理じゃ。星の力を束ねる星具たる星の神器をただの星人にすぎない小僧、お主になど創れるはずがないわ」
アイギスを手で制す。
「あおい。お前ならわかるだろ? 俺なら創れるかもしれないって?」
裕矢があおいに問いかけたのを見たアイギスがあおいに問いかける。
「小僧にそんな真似が本当に出来るんかの? どうなんじゃ?」
「『星の記憶』」
あおいは、アイギスの問いかけにいつものように、ただ何の感情もこもっていないような声音で端的に答えるのみ。
ようするに地球の意思と力の結晶体のようなものであるあおいが言いたいのは、過去裕矢が武器を作り出したことがあるということだ。
そしてその力ならば、星の力を束ねる神器を作り出せると言っているのだった。
「武器といってもピンからキリまであるからのう。小僧が作れる武器はどの程度の武器じゃ?」
アイギスに問われたあおいが答える。
「星の力」
星の力と言う単語だけで長年星をやってきたアイギスは何がしかの察しが着いたのか、納得したように頷きながら口を開いた。
「そうか、主は星の聖域を訪れる前に小僧の力をすでに体感しとるんじゃな? それゆえの確信と言う奴じゃな?」
アイギスの声にコクリとあおいが頷いた。
「じゃがいくら主が体感しとるとはいえ、星の力の規模が違うわい。この小僧にそんな力扱える器を作り上げることはおろか、制御も出来るとは思えんがのう」
「そんなことやってみなくちゃわからないだろ? それに魔王ってのに勝つには多分今はこれしか方法がない」
アイギスの追求に裕矢が答えながらあおいを振り返ると、あおいもコクリと肯定する。
「問題ない」
「この中で一番の弱者に運命をかけるか。分の悪い賭けじゃな」
的を得たアイギスの言葉を受けたこの場にいる皆に沈黙が訪れようとするが、アイギス自らがその沈黙を破る。
「じゃが主がそこまで言うんじゃ。やってみる価値はありそうじゃな」
アイギスの声を聞き星痕とかしている星たちも了解の意思表示か淡く光った。
「星たちの話はまとまったようじゃ。なら早速始めてもらうかの」
「方法とか聞かないでいいのか?」
「時間がないんじゃろ?」
「だけど」
「な~に方法なら小僧。お前さんの相方が『星の記憶』で知っとるわい。小僧の相方が信じ取るんじゃ。ならわしらは黙ってそれについていくだけじゃ」
アイギスが何かを悟ったように答える。
「それに情けないことじゃが、幾星霜の時を生きながらえてきた星の知恵者たるこのわしにも、もう逃げる以上のことが考え付かんのじゃ。じゃからここから先の選択肢は、若いもんに任せるわい」
苦笑いを浮かべると、アイギスは裕矢とあおい見つめる。
「わかった。行くぞあおいっ」
コクリ、あおいが頷いたのを確認した裕矢は、星の器となり魔王を倒せる武器を作り始める。
けど星の力の器となるような武器をどうやって作り出す? どうする? どうすればいい? いやそのやり方はわかってる。ニーナを助けた時、地球に止めを刺した時と同じだ。強くイメージしろ! 星の力の器になり、魔王を倒せる武器を!
裕矢がイメージを開始すると、地球の意識体であるあおいと『生体リンク』している裕矢の元に、星の聖域に漂う魔王に砕かれた星の欠片や神器の欠片が集まり始める。
そして、緩やかな『星の時間』が終わりを告げ人の時間が時を刻むと共に、青の巨人と化した裕矢と周辺の空間をまばゆい光が包み込んだ。
光が収まると共に、裕矢の手の中に姿を現したのは、魔王によって撃ち砕かれた数多の星の欠片や神器の欠片などがより集まり、裕矢のナノエフェクトを媒介して再構成され生成された。星と人との合作神器、名も無き星剣の姿だった。
そして、さらにそこに裕矢の中に満ちていたあおいの力が流れ込む。
流れ込んだあおいの力は、神器を循環し、まるで生きているかのように神器を脈動させる。
するとあおいの力を感じたのか、まるで我々も力を貸すとでも言うかのように、裕矢の身体に浮かび上がっていた七つの星痕が、あおいの力を追うようにして神器へと流れ込んでいった。
裕矢とあおい。そして星々が現状考え実現しうる最強の星剣。七つの『星痕』が刻まれた数多の星の複合神器。七星剣が誕生した瞬間だった。
「こんな攻撃してくる相手……いったいどうやって倒せばいいってんだよ?」
「逃げるんじゃ」
「逃げる?」
「そうじゃっもはや星光を纏った神器すら砕かれてしまうような状況じゃっ逃げるしか手はあるまい」
「けどっあおいはあいつを放っておいたら大変なことになるって前に言ってたんだ。逃げてもいいのか?」
くっと、アイギスが歯がゆいかのように唇をかんだような声を立てる。
「確かにそうじゃ。ここであやつを、あの魔王の奴を倒しておかねば、星の聖域で得た強大な力を得た魔王によって、太陽系はおろか銀河系そのものが、破壊されてしまうかもしれん」
「だったら、逃げてる場合じゃないんじゃないか?」
「そんなこと小僧っお主に言われんでもわかっとるわいっ」
「だったら」
「じゃがなぁわしらにとって唯一の武器であったあの星光を纏った戦斧が失われた時点で、すでに奴との勝敗は喫していたんじゃ」
「勝敗は喫していた?」
「うむ。戦斧はわしらにとっての唯一の武器であると共に、青の巨人やそれに連なる他の星々の力を引き上げるための『星の軌跡』の要ともいえる『星痕』じゃった。それが失われたということは、もはやわしらに万に一つも勝機が無いということなんじゃよ」
本当にもう打つ手が無いのか、アイギスは意気消沈した感じに言う。
だが、アイギスが意気消沈するのとは逆に、アイギスの星痕と言う言葉を聞いた裕矢が何かに気付いたのか声を上げる。
「さっきのあの武器って、『星痕』から生み出されたものだったんだろ? だったらもう一度生み出せばいいんじゃないか?」
なんとなく思いついた言葉を口にする。
「無理じゃ」
「無理って」
「魔王にあらかたの力を奪われた『星痕』の星たちにはの。魔王に開放されたからといっても、すぐさま星の神器を生成し、具現化するほどの力など残っとらん」
「でもさっきは……」
「あやつはかなりの無理をしておった。じゃから星光を纏い魔王のコアに衝突した衝撃で砕け散ったじゃろ?」
「あっ」
「ようはあやつは生き物で言うならば、全身に大怪我を負ってそれでも、仲間を護ろうと立ち上がった手負いの兵士だったんじゃ。それにあやつのように力を残している『星痕』はこの場にはないんじゃ。それは『星の感覚』を有しておる小僧っお主も感じ取っとるはずじゃ」
たしかにアイギスの言うとおり、俺の操る青の巨人に刻まれた星痕の中に星の神器を生成できるほどの力は感じられない。誰もこれも、星痕を輝かせ『星の軌跡』を紡ぐので精一杯って感じだった。
戦える武器を失い。また新たな武器も生み出せない以上、もう本当に逃げるしか手はないのか? 裕矢は下を向き自問自答しながら己に問いかけていると、視界に入ったあるものに気が付き顔を上げる。
「いや、武器ならある」
裕矢が自らの操る巨人の巨大な拳を見下ろして呟いた。
「無理じゃっ星光を受けた神器さえ壊れたんじゃっ素手でなど死ににいくようなものじゃぞ小僧っ」
「けど、もうこれしかないっこれでやるしかないんだっ星達のっ地球のみんなのっ俺の家族や友達の仇を討つにはっ!」
裕矢が声を張り上げる。
だが裕矢の決意を聞いても、アイギスの答えは変わらなかった。
「じゃが現実は変わらぬ。小僧。例えお主が巨人のその両の拳を振るおうとも、奴との力の差は決してひっくり返らん。無駄死にするものが一人増え、それに巻き込まれた星たちの命のともし火がただ消えるだけじゃ」
「そんなことやってみなくちゃわからないだろうが!」
「じゃから現実を見ろとわしはいっとるだけじゃっ小僧! お主はしっかりと現実を見つめるんじゃ! でなければ助かる命も助からんし、助けられる命も助けられん! このまま突っ走ればいらぬ犠牲を生むだけじゃ!」
お互い感情を抑えきれず売り言葉に買い言葉で、裕矢とアイギスとの間で言い争いが起ころうとしたときだった。
「武器なら、ある」
二人の声を遮って一つの静かな凛とした声が響き渡ったのは。
あおいの言葉を聞いた裕矢とアイギスが、『星の感覚』で、いつのまにかあおいが一つ所に膨大なエネルギーを集めて何かを生み出そうとしているのを感じ取ると、何かを察したのかアイギスが声を上げる。
「なにをしとる!?」
「戦える。神器を生み出す」
アイギスの問いかけになんでもないことのように答える。
「無理じゃっお主はまだ若すぎる!」
「武器が無い」
「わかっとる。それはわかっとるが、いくらなんでも無謀すぎる!」
「いいんじゃないのか別に? あおいが戦う武器を生み出すって言ってるんだから?」
「何もわかっとらんひよっこがぁっ! きいた風な口を叩く出ないわっ!」
ここに来て初めてアイギスが声を荒げて裕矢を怒鳴りつけた。
「アイギスじい」
裕矢をしかりつけるアイギスをいさめるように、あおいがアイギスの名を呟く。
「う、うむ。怒鳴ってすまんかったの。ちと取り乱したわい」
「いや、まぁいいけどよ。その、なんだ。なんでそんなに怒鳴ったりしたんだ」
「う、うむ」
話していいものかどうか迷っているのか、アイギスが一瞬あおいの方を見ると、了承の意を伝えるためにあおいがコクリと頷いた。
「ふぅ小僧、お主ももはや無関係とは言えぬからの。知っておくのも必要かもしれん。神器とはなんじゃと思う?」
「星の力の結晶みたいなもんだろ?」
「うむ。ま、おおかたの見解は間違っておらん。じゃがの。全ての星が神器を有しているわけではないのじゃ」
「?」
「神器は往く星霜〔せいそう〕を生き延び力を得た星が生み出すことの出来る星の命の結晶体。星の命そのものなのじゃよ」
「それをどうしてあおいが作り出すことに反対なんだよ?」
「神器を生み出すには、最低でも星ひとつを生み出すほどの力が必要なんじゃ。まだろくに力のない若い星が無理をして神器を生み出そうとすれば、神器を生み出す力が足りず星の命が潰えてしまうかもしれぬのじゃ」
「星の命が潰えるとどうなるんだ?」
「星が死ぬ。星の意思が消えるんじゃ。それは星にとって死ぬよりもつらいことなんじゃ」
アイギスはまるで人間の年老いた老人が、死ぬほどの後悔を遠い過去に残してきたような口調で言う。
それは、たかだか十数年を生きたにすぎない裕矢には理解できない感傷だった。
だが裕矢には、アイギスがなにを言いたいのかはわからなかったが、その言葉からアイギスは過去。とても哀しい耐え難いほどのつらさを味わったことがあるのだということだけは感じられた。
だからアイギスはあおいに同じことを繰り返してほしくないと思って、声を荒らげたんだと裕矢は思った。
「武器は必要」
「じゃがなぁ」
老人が孫にせがまれどうしたものかといった感じに困ったように応対する。
そんなときどこからともなく裕矢の聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「星人〔ほしびと〕よ、我を使え」
「グングニールか」
「グニエル」
あおいとアイギスはこの声の主を知っているのか、声の主と思われるものの名を呼ぶ。
すると、先ほど魔王との戦いの折、ハルバートによって弾き飛ばされたグングニルが、頭上から飛来し裕矢の眼前の空間に突き立ち声を上げる。
「さぁ若き星人よ。我を手に取り、悪しきものを滅せよ」
裕矢が巨人の手で掴むと、星槍グングニルの星の輝きが、青の巨人の中に流れ込み星痕となった。
そして、再び青の巨人に七星の輝きが浮かび上がり、青の巨人と手にしているグングニルを星光が包み込んだ。
「星槍グングニールならばあの魔王の奴を倒せるかもしれんっゆくぞ小僧!」
アイギスの声に呼応して、裕矢が左手にアイギス。右手にグングニルを携え、魔王に向かっていこうとすると、どこからともなく裕矢たちを呼び止める声がした。
「待つがいい星人〔ほしびと〕よ」
裕矢が反射的に周囲を見回すが、何者の姿もなかったためにいぶかしんでいると、 アイギスが教えてくれる。
「主の胸に浮かびあがっとる『星痕』が語りかけてきとるんじゃ」
「己が命を賭け、汝が星である我らのために剣を振るうなら、汝と我ら、思いはひとつ。ならば最後の一欠けらになろうとも、我ら星々も、汝と共に数多在る星々と、そこに住む数多の生命を護らん」
そう声が力強く宣言すると、裕矢の胸に浮かんだ星痕が力強く輝いた。
大半の力を魔王に取り込まれた五つの星々は、残り少ない力を合わせ、一つの星の鎧を作り出す。
五つの星の力によって構築された星の鎧は、青の巨人と化した裕矢の身体に装備されていった。
右手に星槍グングニル。左腕に星盾アイギス。全身を覆うはなもなき白銀の星の鎧。今の裕矢の姿はさながら、軍馬は傍らにいないが中世の騎士の姿を彷彿とさせた。
「これで今我らに出来る全ての準備は整ったっ皆のものぉっ突撃じゃあ!」
アイギスの時の声に呼応して、うおおおおーーーっ! と、裕矢の胸に星痕として刻まれている星たちの喊声が星の聖域に木霊した。
星達の力の結晶体である星の神器。星具を身につけて、星の騎士、星騎士〔せいきし〕と化した裕矢が星たちの時の声を合図に、アイギスを前面に押し出しながら、魔王の攻撃による弾幕の薄いところを狙って魔王に向かって突撃を開始した。
裕矢の狙いはただ一点、先ほど破壊し損ねた魔王のコアだ。
だが魔王もそのことは熟知しているのか、相変わらず星の光を喰らうことをやめないが、裕矢たちを自分の元にたどり着かせまいと、先程よりも弾幕を濃くする。
だが裕矢はそれにはひるまず、時には身を翻してかわし、時にはアイギスを盾にしながら強引に突き進んで行った。
だがある程度の距離にまで近付くと、クリムゾンなどによる砲撃による弾幕だけではこちらの足を止められないと悟ったのか、魔王が星の聖域に広げた闇を利用して迎撃のパターンを変えてくる。
まあ元々闇といっても、魔王の体の一部である。そのため魔王がほんの少し、闇に意思を伝えれば、星の聖域に広がった元々決まった形のないアメ―バ状の無定形の闇は、すぐさま対象物を変えて地球を喰らおうと飛来した星喰いを喰らったときのように、時に海の波のように打ち寄せ、時に武器のような鋭い刃となり、また時には人の手のような形を取って裕矢たちに襲い掛かっていった。
裕矢は自分を多い尽くすような巨大な波と化して襲い掛かってくる闇をグングニルで切り裂き波の切れ目をつくって前に進み、闇の刃はアイギスで反らし、闇の手はアイギスを前面に押し出しながら、グングニルで払いのけたのだが、星の聖域中に広がっているほどの闇はいくら切り払っても際限なく襲い掛かってきたのだった。
「ちっきりがねぇ!」
「うむ。このまま闇を打ち払い続けても力を消耗するばかりじゃ、何とか手を考えんと、このままジリ貧じゃとまずいぞい。このままじゃといずれわしらも力を使い果たしとりこまれてしまうじゃろう」
どうする? 俺達が勝つにはどうすればいい? 自分たちの唯一の武器である長槍で、長い棒のようなグングニルを振るいながら考えを巡らせる。
長い棒……か。だったら、これなら魔王のきょをついて近づけるかもしれない。 思い至った裕矢はアイギスに話しかける。
「魔王に近付きさえすれば何とかなるのか?」
魔王の操る闇の攻撃をかわしながら会話する。
「確実とは言えんが、グングニールならば問題あるまい」
本来の力を発揮出来ればじゃがな。と、アイギスは心の中で小さく付け足す。
「なら行くぜっうおおおおおおっ」
掛け声一閃。裕矢がアイギスを前面に押し出しながら、強引に魔王に向かって全速力でまっすぐ駆け出す。
「小僧一体どうしようというんじゃ!?」
「まぁ黙って見てろって!」
まっすぐ直進してきたために魔王の火力と闇の触手がそこに集中した。
瞬間、裕矢は右手に持っていたグングニルで思いっきり地面を叩き体を跳ね上げる。
グングニルによって跳ね上げられた身体は、魔王の火線や触手を置いてけぼりにして魔王の頭上を越えて空高く舞い上がった。
そう、裕矢は星の神器である星槍グングニルを、棒高跳びで使う棒のように使ったのだった。
「まさか星槍をそんなふうに使うとは思いもよらんかったわい。じゃがこれで魔王への道はつながったようじゃな」
アイギスが一人呟いていると、魔王の頭上を越えて空高く舞い上がった裕矢がグングニルの名を呼んだ。
「グングニル!」
裕矢の呼びかけに答えるように一瞬グングニルが淡く輝いた。
「アイギス。『星痕』を刻む星々よ、星の光を我に」
グングニルの言葉を受け、あおいとアイギス。そして、青の巨人と化している裕矢の身体に星痕を刻んでいた星たちの力がグングニルに集中する。
そして、グングニルが星光に包まれたのを見計らったかのように、先ほど百メートル近く一気に飛び上がった裕矢が大きくグングニルを振りかぶった。
最高到達点に達した後、急降下の勢いをおまけして魔王に一撃を入れてやるためだ。
だがまさにこれから、グングニルを振り下ろそうとした次の瞬間。予期せぬ事態が起こった。
なぜならこれから攻撃を仕掛けようと身構えた矢先に、集めた星の光を受け止めきれなかったのか、グングニルに亀裂が走ったからだ。
「グニエル」
異変を察してあおいがグングニルの名を呼ぶと、それに気付いていたアイギスも同時に声を上げた。
「まずいぞい小僧っこのままじゃと星の力に耐え切れずにグングニールが崩壊する! 一旦引くんじゃ! 今わしらはグングニールを失うわけにはいかん!」
そう、今裕矢たちがグングニールを失えば星の光は弱まり、五つ星の作り上げた星鎧〔せいよろい〕も消えうせる。
もしそうなれば魔王の傍にいる裕矢たちは一瞬で闇に包まれ取り込まれる。
そのことを察したアイギスが声を上げたのだ。
しかし裕矢はアイギスの助言とは正反対の行動をとる。
「星の力を受け止められる器がないならっ器を創ればいいっ」
「なんじゃと!?」
裕矢の予想外の返答に、アイギスが目を見開き驚いた声を上げた。
だが裕矢はアイギスの声を無視して、あおいの名を呼んだ。
「あおい! 俺達に『星の時間』を!」
「『星の時間』じゃと!? 今更そんなことをしても残り少ない力を無駄にするだけじゃ!」
アイギスが最後忠告するも裕矢はそれを聞き入れず、再度あおいの名を呼んだ。
「時間がないっあおい!」
裕矢の頼みを聞き入れたのか、あおいはコクリと頷いた。
すると一瞬の後。裕矢はダークスターと化した地球を破壊する寸前に訪れた時と同じ感覚に包まれる。
星と同じ感覚で時間を感じられる『星の時間』だ。
『星の時間』は、人間が感じている通常の時間とは異なる星の感じている緩やかな時間の感覚を共有するものだ。
したがって、実際に流れている時間自体に変化はないのだが、『星の時間』内にいる者たちの感じている時間の流れは、通常の時間の数倍から数十倍ほどの長さになっているのである。
「ここではあまり時間を延ばせない」
「わかった」
「一体こんなところで『星の時間』を使って、今更どうしようというんじゃ」
裕矢やあおいと共にあったために、無理やり『星の時間』を共有する羽目になったアイギスが抗議の声を上げた。
アイギスの抗議の声をしりつつも、裕矢はそれにはとりあわずに、先ほど星の力をその身に宿そうとした折、ひび割れが走ったグングニルに声をかける。
「時間がないから率直に言う。まずグングニル。魔王のコアを破壊するだけの力は残ってるのか?」
「…………」
グングニルは無言で答えない。
「やっぱそっか、力はほとんど残ってないってことだな?」
「やはりとは? どういうことじゃ?」
「いや今鎧を作ってくれてる奴らも、魔王に取り込まれててその時力の大半を失って、自分ひとりじゃ星の神器って奴を生み出せないって言ってたろ? だからグングニルももしかしてと思ってさ」
「とっくに気付いておったか」
「だとしたら」
裕矢がアイギスに話しかける。
「うむ。わしらの力もそう長くは持たんじゃろう」
「なら、やっぱここでやっとかないと次はないな」
「やる?」
「魔王の奴を叩きのめす」
「無理じゃ。もはや唯一の武器であるグングニ―ルが星の光を束ねられぬとわかった時点で、魔王を倒す手段を失った我らにどうすることもできん」
「なぁ魔王を倒すにはコアを破壊するしかないんだろ?」
「うむ」
「コアを破壊するには、どうすればいいんだ?」
「強力な力で、破壊するしかないのう。現状一番強力なのは星の力じゃな」
「ということはだ。ようするに魔王を倒すには、星の力を集めるに耐えうる器となる武器があればいいんだろ?」
「まぁそうじゃな」
「なら、武器は俺が作る」
「な!?」
裕矢の突拍子もない物言いを聞いたアイギスが、思わず口をポカーンと開いた後、何度目かの抗議の声を上げた。
「無理じゃ。星の力を束ねる星具たる星の神器をただの星人にすぎない小僧、お主になど創れるはずがないわ」
アイギスを手で制す。
「あおい。お前ならわかるだろ? 俺なら創れるかもしれないって?」
裕矢があおいに問いかけたのを見たアイギスがあおいに問いかける。
「小僧にそんな真似が本当に出来るんかの? どうなんじゃ?」
「『星の記憶』」
あおいは、アイギスの問いかけにいつものように、ただ何の感情もこもっていないような声音で端的に答えるのみ。
ようするに地球の意思と力の結晶体のようなものであるあおいが言いたいのは、過去裕矢が武器を作り出したことがあるということだ。
そしてその力ならば、星の力を束ねる神器を作り出せると言っているのだった。
「武器といってもピンからキリまであるからのう。小僧が作れる武器はどの程度の武器じゃ?」
アイギスに問われたあおいが答える。
「星の力」
星の力と言う単語だけで長年星をやってきたアイギスは何がしかの察しが着いたのか、納得したように頷きながら口を開いた。
「そうか、主は星の聖域を訪れる前に小僧の力をすでに体感しとるんじゃな? それゆえの確信と言う奴じゃな?」
アイギスの声にコクリとあおいが頷いた。
「じゃがいくら主が体感しとるとはいえ、星の力の規模が違うわい。この小僧にそんな力扱える器を作り上げることはおろか、制御も出来るとは思えんがのう」
「そんなことやってみなくちゃわからないだろ? それに魔王ってのに勝つには多分今はこれしか方法がない」
アイギスの追求に裕矢が答えながらあおいを振り返ると、あおいもコクリと肯定する。
「問題ない」
「この中で一番の弱者に運命をかけるか。分の悪い賭けじゃな」
的を得たアイギスの言葉を受けたこの場にいる皆に沈黙が訪れようとするが、アイギス自らがその沈黙を破る。
「じゃが主がそこまで言うんじゃ。やってみる価値はありそうじゃな」
アイギスの声を聞き星痕とかしている星たちも了解の意思表示か淡く光った。
「星たちの話はまとまったようじゃ。なら早速始めてもらうかの」
「方法とか聞かないでいいのか?」
「時間がないんじゃろ?」
「だけど」
「な~に方法なら小僧。お前さんの相方が『星の記憶』で知っとるわい。小僧の相方が信じ取るんじゃ。ならわしらは黙ってそれについていくだけじゃ」
アイギスが何かを悟ったように答える。
「それに情けないことじゃが、幾星霜の時を生きながらえてきた星の知恵者たるこのわしにも、もう逃げる以上のことが考え付かんのじゃ。じゃからここから先の選択肢は、若いもんに任せるわい」
苦笑いを浮かべると、アイギスは裕矢とあおい見つめる。
「わかった。行くぞあおいっ」
コクリ、あおいが頷いたのを確認した裕矢は、星の器となり魔王を倒せる武器を作り始める。
けど星の力の器となるような武器をどうやって作り出す? どうする? どうすればいい? いやそのやり方はわかってる。ニーナを助けた時、地球に止めを刺した時と同じだ。強くイメージしろ! 星の力の器になり、魔王を倒せる武器を!
裕矢がイメージを開始すると、地球の意識体であるあおいと『生体リンク』している裕矢の元に、星の聖域に漂う魔王に砕かれた星の欠片や神器の欠片が集まり始める。
そして、緩やかな『星の時間』が終わりを告げ人の時間が時を刻むと共に、青の巨人と化した裕矢と周辺の空間をまばゆい光が包み込んだ。
光が収まると共に、裕矢の手の中に姿を現したのは、魔王によって撃ち砕かれた数多の星の欠片や神器の欠片などがより集まり、裕矢のナノエフェクトを媒介して再構成され生成された。星と人との合作神器、名も無き星剣の姿だった。
そして、さらにそこに裕矢の中に満ちていたあおいの力が流れ込む。
流れ込んだあおいの力は、神器を循環し、まるで生きているかのように神器を脈動させる。
するとあおいの力を感じたのか、まるで我々も力を貸すとでも言うかのように、裕矢の身体に浮かび上がっていた七つの星痕が、あおいの力を追うようにして神器へと流れ込んでいった。
裕矢とあおい。そして星々が現状考え実現しうる最強の星剣。七つの『星痕』が刻まれた数多の星の複合神器。七星剣が誕生した瞬間だった。
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