宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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青の星 青の星戦域⑥ ドラグニル① 東京スカイツリー到着と敵の襲来

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 日本で一番高い電波塔である東京スカイツリーを目指して歩いていたニーナたちは、数時間ほどたったころ、目的地であり、またエリスが取り決めた緊急時のランデブー地点である122座標軸にたどり着いていた。

「なぁニーナ。これからどうするんだ?」

 数多の隕石群の落下があったにもかかわらず、比較的無事な姿を見せている東京ソラマチに囲まれて、目の前にそびえたつ東京スカイツリーを見上げながら裕矢が呟いた。

「見ればわかるだろう?」

 ニーナの返答を聞いて、何となくこれからするべきことを察した裕矢が声を上げる。

「もしかして、スカイツリーに上るのかよ?」

「スカイツリー?」

「ああそういえばニーナはこの塔の名前を知らないんだっけ?」

「ああ、わたしはこの星の住民ではないからな」

「スカイツリーって言うのは、このでっかい電波塔のことだ」

「そうか。だが、お前たちの建物の名称などこの星の住民でないわたしが知るわけないだろう? ただこの巨大な建築物が電波塔ということだけは調査済みだからな。kの電波塔を使って通信機の電波を増幅し、仲間にわたしの位置を知らせ、救援に来てもらう」

「救援?」

「ああ、別にわたしもこの青の星のある星域に単身で乗り込んできたわけではない。仲間は今青の星の上空、つまり宇宙空間にいるからな。ただ今現在強力なジャミングが発生していて、仲間たちとの連絡が取れない」

「なら救援ってのも来れないんじゃ……」

「ああ、貴様の言う通りだ。だからそのためにわざわざこの電波塔を訪れたのだ」

「?」

「つまり、この電波塔で通信機の電波を増幅し、仲間たちにわたしの位置を知らせる」

「で、救援に来てもらうって寸法かよ?」

「ああ、呑み込みが早いな。時間がない。さっそく上るぞ」

「これに上るってマジかよ?」

 しかも電気止まってるってことは階段だよな……一人で登るのならまだいいが、秋菜を背負いなおかつここまでの道のりを歩いてきたのだ。スカイツリーを見上げながら裕矢がげんなりした表情を浮かべて呟いた。

「どうした? さっさと行くぞ」

 ええいくそっと思いながらも、裕矢が覚悟を決めて階段の方へ向かっていこうとする。

「何をしているさっさとつかまれっ」

「?」

「それとも何か? 地球人は何の装備もなしにこの垂直に近い塔を駆けあがることでもできるというのか?」

「駆け上がる? って、階段じゃないのかよ?」

「階段?」

 裕矢の視線の先を追って、視界に入ってきた階段を見ながら呟く。

「ああ、あの鉄製の段差のことか? あんなもので登っていたら、とてもではないが頂上にたどり着くまでに日が暮れてしまう。わたしはここに観光に来たわけではないからな。そんな時間はない。わかったらさっさとつかまれっあまり悠長にしているとおいていくぞ」

 それだけ言うとニーナは、見た目からは想像できないような力で、裕矢の背負っている秋菜の体を奪い左肩に担ぎ上げる。

「次は貴様の番だ」

 秋菜を抱き上げたニーナは、今度は目の前にいる裕矢の体を小脇に抱える。

「おいっちょっまっ」

 いきなり抱え込まれたために、裕矢は慌てたような声を上げるが、そんなことにいちいちか待っている時間はないとばかりに、ニーナが素早く左手で右手のガントレットにあるコンソールを操作しながら口を開いた。

「一気に駆け上がるぞ。しっかりつかまっていろ」

 どこにそんな力があるのか。裕矢と秋菜の二人を軽々と持ち上げたニーナは、靴の裏から半重力を発生させて自身を浮かすと、靴の底やかかと部分に取り付けられた小型のバーニアを使ってスカイツリーの側面を駆けのぼり始めたのだった。

 ニーナが裕矢と秋菜の二人を抱え上げ、スカイツリーの三分の二ほどに差し掛かった時だった。

 いきなり空が光ったかと思うと、ニーナのすぐわきを何かがすり抜けていく。

 それを本能的に交わしたニーナは、雷か? 度重なる尖兵の乗った隕石の衝突により、地球の天候は荒れに荒れていたために、ニーナはそう考えたが、自分の頬を流れる一筋の血液を目にすると、考えを改める。

 いや違うっこれは……襲撃だっ! ニーナが警戒感を高める。

 同時に今度は雷のようなものではなく、闇色をした黒い刃が背後からニーナたちを襲った。

「くっ」

 舌打ち一つしつつ、直感的に殺気を感じたニーナは、何とかその攻撃を身をひねって交わすと共に、攻撃を仕掛けてきたと思われるものに対して瞬間的に視線を向ける。

 ニーナの視界に入ってきたのは、先ほど戦った一つ目の機械鎧である尖兵ではなく、全身が小さなうろこのようなもので覆われている伝説の生物であるリザードマンに類似した二メートルほどの大きさの黒色の生物だった。

「まずいな、ドラグニルか」

「ドラグニル?」

 ニーナの呟きを聞き、彼女の小脇に抱えられている裕矢が問いかける。

「ああ、先ほどまでわたしが戦っていた尖兵たちよりも、はるかに強力な力を持つ魔王のつくりし戦闘用のキリングドールだ」

 とてもではないが、この二人を抱えたまま奴とやり合うわけにはいかない。

 素早くそう決断を下したニーナは、周辺を見回して、いったん裕矢たちが避難できる場所を探そうとするが、ドラグニルはニーナたちに時間を与えてやるつもりはないらしく、斬撃を交わされたのち。すぐさま鉄骨の足場に飛び上がると、再度裕矢と秋菜の二人を抱え攻撃ができないニーナの首を狙って襲い掛かってくる。

 もちろん尖兵やドラグニルと、過去何度も交戦しているニーナも警戒は怠ってはいない。

 そのためニーナは襲い掛かってくるドラグニルの気配を察すると共に、二人を抱えたこのままでは、首を狙って振るわれる次のドラグニルの一撃を交わせないと確信すると、両脇に抱えている二人に対して声を上げる。

「いったん下がるぞ」

 それだけ言うとニーナは、何の迷いもなくいきなり重力制御と足についているバーニアを切り真っ逆さまに自由落下を始めたために、ニーナに対して裕矢が何事か文句を言おうと口を開こうとした瞬間。

 ニーナたちの首があった辺り、裕矢の目と鼻の先を闇の刃が行き過ぎる。

 そのためニーナに対して文句を言おうとした裕矢の言葉はそのまま飲み込まれる。

 そしてもちろんニーナの両脇に抱え込まれている裕矢と秋菜も、ニーナと共に自由落下を始めたのは言うまでもない。

 そして何とか闇の刃を交わしたニーナたちは、しばらく何とも言えない浮遊感、いや落下感に包まれる。

「くっまずいな。このままあのでっぱりにまで行くつもりだったのだが、そう都合よくいかせてくれないらしい」

 落下の浮遊感に包まれながら、スカイツリーにある第一展望台を見上げていたニーナが呟く。

 ニーナの呟きを聞きつつも、普段味わったことのない落下感を受けて思わず裕矢が目を開けると、その視線の先には先ほどニーナがドラグニルと言っていた戦闘用キリングドールが、自分たちと同じようにスカイツリーを降下して、そのまま闇色に輝く剣を振りかぶり襲い掛かってくる光景だった。

 裕矢と同じ光景を視界にとらえていたニーナは、舌打ちしつつ、ドラグニルの攻撃をかわすために巧みに足のバーニアを操作して、スカイツリーの周りを回転するかのようにして何とかドラグニルの攻撃をかわす。

 だがドラグニルもその程度でニーナや裕矢たちの追撃を諦めるつもりはないらしく、巧みにスカイツリーの鉄骨などを足場にしてニーナたちに追いすがる。

 くっこのままではまずい。二人を抱えている限り、こちらは攻撃ができない。いずれ追いつかれやられてしまうのは時間の問題だ。

 そう確信したニーナは、素早く辺りに視線を向ける。

 そして何かを見つけたのか、巧みにバーニアを操作してスカイツリーの鉄骨を足場にして、ある場所へと近づいて行った。

 しかしもう少しで目的地と思われた瞬間。

 二人を抱えているハンデもあってか、ニーナがドラグニルに追いつかれてしまう。

 振るわれる闇色の凶刃。

 さすがに何度も攻撃をかわされていると、ドラグニルは今度は急所狙いをやめて、確実に攻撃を当てるためにニーナたちの胴を狙って闇の刃をふるってくる。

 さすがに二人を抱えているニーナに、これを交わすすべはないかに思われたが、ニーナが次の瞬間大声を上げた。

「地球人っその娘を決して離すなっ」

 裕矢たちを両脇に抱えていたニーナが声を上げながら、左肩に担いでいた秋菜を裕矢に押し付けると同時に、ニーナが裕矢を抱えている腕に力を籠める。

 裕矢はニーナのその動作で何かを悟ったのか、秋菜を抱きしめる腕に思いっきり力を込めた。

 それを確認したのかどうかはわからないが、次の瞬間。

 秋菜を抱えた裕矢はニーナによって、スカイツリーに向かって思いっきり投げつけられたのだった
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