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第十五話 エピソード ブタが助けた獣の子

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 キュルルルルゥという自分の空腹によるお腹の音で目覚めたわたしは、オークの足に噛みついた姿勢でふと目を覚ました。

 目の前に転がる。もといわたしの口の中に広がるオークの血肉のおいしそうな匂いに思わず、声を大にして叫ぶ。

「いい匂いオーク!」

 約半月ぶりのまともなご飯である目の前にあるオーク肉を見てかぶりついたわたしは、口の回りを血だらけにしながら、小さな牙を突き立てて、生肉を食う食う食う。心行くまで、お腹が満たされるまで、一心不乱に貪り食った。

「ふぅお腹一杯」

 一息ついて、まん丸くなったまん丸腹を撫でまわしながらオークのお肉から口を離したわたしは、自分の血に濡れた唇を舌を一周させて舐めとると、あることを思い出していた。

「そうだっお母さんと妹にもオークのお肉持って帰らなきゃ!」

 お腹が満たされて、このヒステリア森林に何の目的で分け入ったのかを思い出したわたしは、すぐさまオークのお肉をお母さんと妹にも持って行ってあげようと立ち上がった。

 でも、こんなにたくさんのオークのお肉。お肉を入れる入れ物でもなければそんなに多くは運べない。

 足元に転がるオークの肉の塊を見ながらそう思ったわたしは、オーク肉の持ち運びに使える大きな葉っぱかなにかないかな? と、辺りを見回した。

 そうやって辺りを見回していると、ふとオークに貪りついていたために血まみれになっていた自分が、何も身に付けていないことを知り、顔を赤らめながら、近くに生えている大きな木の葉っぱや蔓草を使って、すぐさまビキニのような草の衣服を身につける。

「うん。とりあえず、服はこんなもんかな?」

 わたしは、葉っぱや蔓草で作った。草の衣服に身を包みながら、自分の体を見下ろした。

 わたしの作った草の衣服は、少し際どいが、女の子として、隠すべきところは、ギリギリで隠し通せているのを確認して満足下に頷いていると、わたしの視線の先に仰向けに草地に寝転がり、頭やお腹や背中から血を流すオークを見つけた。

 わたしは驚きのあまり反射的に、獣耳と尻尾をピンとさせてすぐさまその場からとびすさるが、よくみると、それはオークではなく上半身がこれでもかと言うほどの脂肪で膨らんでいるオーク並みに大きなブタさんだった。

「ブタの……獣人(けものびと)?」

 わたしは草むらに仰向けに寝転がるブタの獣人を見ながらそう呟いた。
 それからわたしは、恐る恐るブタの獣人に近づくと、クンクンと鼻をひくつかせてこのブタの獣人が何者なのかを探り当てようとする。

 オークと似ているが違う匂い。それに、このブタさんから、ほのかに香る匂いはわたしの匂いだ。

 わたしは、自分の匂いがこのブタさんからするのを確認すると、食料を調達するために、この森ヒステリア森林に分け入った後のことを思い出していた。

 確かわたしはオークの群れを見つけて、お母さんや妹のためにオークの肉を持って帰ろうとして、オークに戦いを挑んだんだ。

 だけど武装してるオークは、とても強くてわたしは瞬く間にオークたちにやられてしまって、その後オークに手足を押さえつけられて服をむかれて、オークの苗床にされそうになったところを誰かが助けてくれたんだ。

 で、その誰かはわたしのことを小脇に抱えてオークたちから逃げてくれたけど途中で武装オークたちに追いつかれて、そのまま戦いになって……。

 で、このブタさんが、わたしのことを護るために武装オークたちと戦ってくれたんだ。

 その戦いの折わたしはおっきくて長い斧みたいなものを持っているオークの足に噛みついて、そこから記憶がない。

 ということは、このブタさんは、わたしの命の恩人だったんだ。

 血まみれで草むらに仰向けで転がっているブタさんを見たわたしの心の中に、助けなきゃ手当てしなきゃという気持ちが生まれる。

 と同時に、早くお母さんや妹にご飯を食べさせたいオーク肉を持っていきたいという衝動にもかられる。

 けど、血まみれで倒れている命の恩ブタさんになんの治療もほどここさないままこの場をさることなんてわたしにはできなかった。

 なぜならお母さんがよく口をすっぱくして小さい頃からあたしや妹に言い聞かせていたからだ。

 人を助けなさい。

 恩を受けたら必ず返しなさい。

 わたしたちは、人ではなく獣人だけれど、人として、受けた恩には報いなさい。

 と、だからわたしは、すぐさまオーク肉を持って帰りたいという衝動にかられながらも、ブタさんの傷を少しでも治すための薬草を探し始める。

 薬草を探し始めたのが、ヒステリア森林という森の中だったのも幸いして、幸い薬草はすぐさま見つかった。

 わたしは、見つけた薬草の効果を少しでも引き上げるために、採取した薬草をすぐさま口に含みモゴモゴと口の中でよく噛みながら、近くに落ちていた肉を入れるのにちょうどよさそうな白い布を拾って、倒れているブタさんの元へと舞い戻った。

 ブタさんの元に戻ったわたしは、口の中でモゴモゴとそしゃくしていた薬草を手のひらに吐き出すと、わたしを守るためにオークと死闘を繰り広げて、かなりの手傷を負っているブタさんのお腹の傷口の上に傷口を隠すようにして優しく置いた。

 この薬草を噛み砕いた匂いを、このヒステリア森林に住むモンスターたちは嫌う。例え血の匂いをさせていたとしても、あたしの命の恩人もとい命の恩ブタであるこのブタさんが、すぐさまモンスターたちに襲われることはないはずだ。

 とりあえず、今のわたしにできることは、これが精一杯だ。あとは、村に帰って治療の得意な獣人を呼んでくるしかない。

 そう考えたわたしは近くに転がっているオークの肉を口と爪を使って持てるだけ引きちぎると、薬草を見つけるときに見つけた白い布に放り込んで袖口を縛った。

「まっててね。ブタさん。きっと助けを呼んでくるから」

 わたしは念のために仰向けに倒れているブタさんに、周辺の草を引きちぎってかぶせると、オークの肉を包んだ白い布をリュックのように背中に背負いながら、一度ブタさんを振り返り、必ず助けを呼んでくると心に誓いながら村に向かって走り始めた。
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