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思春期②妊活Domの基礎知識
10/種知らずな極秘懐妊─甘授なる男たち②─
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小さな頃に聞いた、子守歌。
生まれてくる筈だった弟を抱いてあやす母親の面影が揺らぐ。
病院の帰りに見た澄み渡る夏空
美しいさえずりと、ひと際目を引く黄鶲の羽ばたき
ひとりぼっちになってしまった、あの夏に…
戻りたいと思うけど、お母さんはきっと死んでしまう。
「ゆぅくん」
お母さんだけが呼んでくれる、俺の名前。
手に手を取ればきっと…
お母さんのところにいけるのかな?
ごめんね
気が付いてあげられなくて
苦しかったでしょう。ごめんね、俺も一緒に逝くから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「優輔が、妊娠…してた」
峰睦の言葉を遮るように手が伸びる。
愛の腕に掴まりながら、何度も…何度も…優輔の名前を呼んで崩れる悲壮に駆けつけた東久世夫妻は婚姻届を押し当て、峰睦に告げた。
「署名を。優輔の分は後でいいから」
突然の出来事に、動揺する峰睦だが夫婦になった二人だからこそ解る、意図を読み取って用紙を握りしめる峰睦は優輔が向こう側に見えるガラス窓を台にして<夫になる人>空欄に名前を書き添えた。
ここで子供と一緒に優輔が死んでしまえば、生態保証制度が執行され遺体が回収される。だが被扶養者であれば峰睦に全ての義務が生じる。
親権は、誰にも譲らない。優輔に助かって欲しい一心で、願う。
「どうして、俺に何も言ってくれなかったんだ」
峰睦は独り言のように囁く。
肩を並べる詠がスンッと鼻を鳴らして恰も当然の様に語る。
「私だって…言えなかったよ。ねっ、澪皇」
「会えば喧嘩。こんな乱痴気に種付けできるなんて、俺は世界で一番いい男」
「よぉゆーわ。おかげ様で可愛いツインズを授かりました」
肩を寄せて、窓後しに優輔を眺める。
「あの子はDomよ?信じて待ちましょう。ほら、見なさい」
詠が指さすガラス窓の向こう側には、眠る優輔と小さな命を救おうと懸命に手を尽くす医師と看護の面々が無駄なく動く一方で、被疑者となった藤原は取り調べの為ひとつ頭を下げて立ち去った。
「クリムゾン…か、だったらアイツも候補ね」
腕組み睨む、詠の視線を背中で受け止める藤原は、パトカーで連行され、取り調べを受ける裏で手配を進めていた。
直ちに、社会通念上当性であると認めた上で、優輔を解雇しなければ…
今後、参考人として上げられる関係者の負担を軽減させ会社を守る。それは部下の管理が出来なかった自分の失態であり、妊婦のDom-01を危険な目に遇わせた重罪を独りで被る覚悟でいた。
「一生かけて償います」
頭を下げる藤原に、優輔の安否が届く。
それは誰の心にも光差す朗報であり、唯一絶対の救済に検察官も胸を撫で下ろした程であった。
…………
切迫流産は赤ちゃんの心音があり、生きていること。
現在、8週目の妊娠3か月。つわりのピークで辛い時期だと振り返る、詠から助言。
今は絶対安静、まずは安心させる為に婚姻届けをすぐに提出して12週までは、全員で優輔を守り抜くこと。
「医師らだって信用できないよ」
元育種会トップの詠はDom婚と出産経験から夫・澪皇を信じ、貫いてきた意地とオンナの勘がある。
国内でDom-01妊娠例は過去にない。おそらく関東圏の医局は勢力を上げて、子供を試験体とし奪い合うだろう。政府も黙ってない。もちろん育種会のヒエラルキーも動き出す…双子の命も危ぶまれる状況に舌打ち、医師の説明を聞き終えて戻る、峰睦を察して顔を反らすのが精一杯だった。
「今は子供が無事に生まれることだけを考えろ。それが親の努めだ」
澪皇の言葉に背中を押される。遅れて病院に到着した今出川倫は父親に支えられながら、震える唇から声を漏らした。
「……だ、誰の子なの?」
それは全員が知りたい。
優輔の血液採取でNIPT(新型出生前診断)を受けるには、まだ周期が早すぎて特定の遺伝性疾患や染色体異常、最も重要な父親の鑑定もできない。この3カ月で関係を持ったのは峰睦、愛…そして倫が名乗りを上げ、父親が深々と頭を下げた。
「優輔君、ご結婚はされているのでしょうか」
確認を急ぐ父親の脛を蹴る、倫は子供より優輔のことしか考えられなかった。
「万が一、うちの子であれば…」
「文次郎は黙っとけ!!これは俺と優輔も話や、しゃしゃんなっ」
「おりん、静かに。証拠が在るなら私が責任を持って育てます」
「ガキなんざどうでも宜しい。もぉ…優輔いなくなったら俺、死ぬわ」
しとどに濡れる麻葉の袖を振ってHCUの閉まる扉に飛び込もうとする倫が堰き止められる。
優輔、優輔いくな。何度も叫んで声を上げて泣きじゃくる倫の恋路を、ここでは誰も祝してやる気はない。優輔の幸せは誰でもない優輔が決めることだと、悔しがる詠を宥める澪皇は優しくフェロモンで包み込む。
倫はこの時…
大人の相思相愛を、生まれて初めて間近で見た。
日本人Dom男性のシンボルといえるウッディな香り。
サンダルウッドの穏やかさに心が洗われる。
フゼア系フェロモンではこの香りが…最高峰…Dom界で不動の人気を誇る、東久世澪皇のフェロモンに同じフゼア系統を持つDom-01の倫は、盲目的な憧れを胸の奥に隠した。
腕の中に抱かれる詠はシプレ系イノセンス。
混じり気のない純正・伽羅の香りは一度火が点くと、幻想的な催淫効果で男を惑わす。希代の天然フェロモンでモテまくる益荒男・詠を射止めた澪皇の愛は偉大。神々しい二人の前に膝を震わせる倫だがUsの父親にはただの美男にしか見えず、濃厚なフェロモンも鼻に捉えることができない。
「か…かっこいいっ!!」
澪皇の袖を掴み、眼下で瞳を輝かせる倫にやれやれ…頭をひとつ撫でると猫のように背伸びしてすり寄る。
Domのみぞ知る
全能たる愛の在処に心和らぐ、倫は優輔との未来を想像していた。
優輔の目が覚めたらいつものように笑い合って
また図書館で一緒に勉強して
それから…それから…込み上げる熱い涙は止めどなく流れた。
小さな頃に聞いた、子守歌。
生まれてくる筈だった弟を抱いてあやす母親の面影が揺らぐ。
病院の帰りに見た澄み渡る夏空
美しいさえずりと、ひと際目を引く黄鶲の羽ばたき
ひとりぼっちになってしまった、あの夏に…
戻りたいと思うけど、お母さんはきっと死んでしまう。
「ゆぅくん」
お母さんだけが呼んでくれる、俺の名前。
手に手を取ればきっと…
お母さんのところにいけるのかな?
ごめんね
気が付いてあげられなくて
苦しかったでしょう。ごめんね、俺も一緒に逝くから。
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「優輔が、妊娠…してた」
峰睦の言葉を遮るように手が伸びる。
愛の腕に掴まりながら、何度も…何度も…優輔の名前を呼んで崩れる悲壮に駆けつけた東久世夫妻は婚姻届を押し当て、峰睦に告げた。
「署名を。優輔の分は後でいいから」
突然の出来事に、動揺する峰睦だが夫婦になった二人だからこそ解る、意図を読み取って用紙を握りしめる峰睦は優輔が向こう側に見えるガラス窓を台にして<夫になる人>空欄に名前を書き添えた。
ここで子供と一緒に優輔が死んでしまえば、生態保証制度が執行され遺体が回収される。だが被扶養者であれば峰睦に全ての義務が生じる。
親権は、誰にも譲らない。優輔に助かって欲しい一心で、願う。
「どうして、俺に何も言ってくれなかったんだ」
峰睦は独り言のように囁く。
肩を並べる詠がスンッと鼻を鳴らして恰も当然の様に語る。
「私だって…言えなかったよ。ねっ、澪皇」
「会えば喧嘩。こんな乱痴気に種付けできるなんて、俺は世界で一番いい男」
「よぉゆーわ。おかげ様で可愛いツインズを授かりました」
肩を寄せて、窓後しに優輔を眺める。
「あの子はDomよ?信じて待ちましょう。ほら、見なさい」
詠が指さすガラス窓の向こう側には、眠る優輔と小さな命を救おうと懸命に手を尽くす医師と看護の面々が無駄なく動く一方で、被疑者となった藤原は取り調べの為ひとつ頭を下げて立ち去った。
「クリムゾン…か、だったらアイツも候補ね」
腕組み睨む、詠の視線を背中で受け止める藤原は、パトカーで連行され、取り調べを受ける裏で手配を進めていた。
直ちに、社会通念上当性であると認めた上で、優輔を解雇しなければ…
今後、参考人として上げられる関係者の負担を軽減させ会社を守る。それは部下の管理が出来なかった自分の失態であり、妊婦のDom-01を危険な目に遇わせた重罪を独りで被る覚悟でいた。
「一生かけて償います」
頭を下げる藤原に、優輔の安否が届く。
それは誰の心にも光差す朗報であり、唯一絶対の救済に検察官も胸を撫で下ろした程であった。
…………
切迫流産は赤ちゃんの心音があり、生きていること。
現在、8週目の妊娠3か月。つわりのピークで辛い時期だと振り返る、詠から助言。
今は絶対安静、まずは安心させる為に婚姻届けをすぐに提出して12週までは、全員で優輔を守り抜くこと。
「医師らだって信用できないよ」
元育種会トップの詠はDom婚と出産経験から夫・澪皇を信じ、貫いてきた意地とオンナの勘がある。
国内でDom-01妊娠例は過去にない。おそらく関東圏の医局は勢力を上げて、子供を試験体とし奪い合うだろう。政府も黙ってない。もちろん育種会のヒエラルキーも動き出す…双子の命も危ぶまれる状況に舌打ち、医師の説明を聞き終えて戻る、峰睦を察して顔を反らすのが精一杯だった。
「今は子供が無事に生まれることだけを考えろ。それが親の努めだ」
澪皇の言葉に背中を押される。遅れて病院に到着した今出川倫は父親に支えられながら、震える唇から声を漏らした。
「……だ、誰の子なの?」
それは全員が知りたい。
優輔の血液採取でNIPT(新型出生前診断)を受けるには、まだ周期が早すぎて特定の遺伝性疾患や染色体異常、最も重要な父親の鑑定もできない。この3カ月で関係を持ったのは峰睦、愛…そして倫が名乗りを上げ、父親が深々と頭を下げた。
「優輔君、ご結婚はされているのでしょうか」
確認を急ぐ父親の脛を蹴る、倫は子供より優輔のことしか考えられなかった。
「万が一、うちの子であれば…」
「文次郎は黙っとけ!!これは俺と優輔も話や、しゃしゃんなっ」
「おりん、静かに。証拠が在るなら私が責任を持って育てます」
「ガキなんざどうでも宜しい。もぉ…優輔いなくなったら俺、死ぬわ」
しとどに濡れる麻葉の袖を振ってHCUの閉まる扉に飛び込もうとする倫が堰き止められる。
優輔、優輔いくな。何度も叫んで声を上げて泣きじゃくる倫の恋路を、ここでは誰も祝してやる気はない。優輔の幸せは誰でもない優輔が決めることだと、悔しがる詠を宥める澪皇は優しくフェロモンで包み込む。
倫はこの時…
大人の相思相愛を、生まれて初めて間近で見た。
日本人Dom男性のシンボルといえるウッディな香り。
サンダルウッドの穏やかさに心が洗われる。
フゼア系フェロモンではこの香りが…最高峰…Dom界で不動の人気を誇る、東久世澪皇のフェロモンに同じフゼア系統を持つDom-01の倫は、盲目的な憧れを胸の奥に隠した。
腕の中に抱かれる詠はシプレ系イノセンス。
混じり気のない純正・伽羅の香りは一度火が点くと、幻想的な催淫効果で男を惑わす。希代の天然フェロモンでモテまくる益荒男・詠を射止めた澪皇の愛は偉大。神々しい二人の前に膝を震わせる倫だがUsの父親にはただの美男にしか見えず、濃厚なフェロモンも鼻に捉えることができない。
「か…かっこいいっ!!」
澪皇の袖を掴み、眼下で瞳を輝かせる倫にやれやれ…頭をひとつ撫でると猫のように背伸びしてすり寄る。
Domのみぞ知る
全能たる愛の在処に心和らぐ、倫は優輔との未来を想像していた。
優輔の目が覚めたらいつものように笑い合って
また図書館で一緒に勉強して
それから…それから…込み上げる熱い涙は止めどなく流れた。
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