16 / 17
蒙古タンメン中本
しおりを挟む
25日連続の猛暑日
熱帯夜に泳ぐスーツの群れも程なくして家に帰るこの時間、高層ビルの15階に位置するオフィスの窓から外を眺める俺は最終に間に合わない覚悟を決めた。
ホワイトボードの消し忘れに気が付き、踏み出した先で…これは?
白鳥路嘉 16:00~NR
営業先から直帰とは、これ如何に。
新卒、だから?弊社としては新人研修2か月儲け「研修生」として基礎からサポートした上で実際の現場に送り込む。見極めの期間を生き残った社員は半年毎に研修と面談を受け、2年で使えるようになれば儲け者。中途採用の雇用も良かった時期はあるが即戦力に期待して実績が出ない場合も多く人員不足の悩みは尽きない。
路嘉がどのくらい働けるのか?
評価共に本人からも話を聞いたことは無いが、NRの傾向として…
プライベート優先する奴が多い。
会社に身を置く限り、公私混同も覚悟の上で生きる事は食うこと!とは言わないが俺が考えが古風なのか、時代錯誤を感じながらボードを消していると通路からの物音に振り返る。
「江波さーん、いますか?」
路嘉の声に慌てて駆け出す。
「お疲れ様です」
「あ、俺のパスケース届いてませんか」
「見て無いが…」
「中に免許証入れてるんですよ。会員証作ろうとしたら無くて…やばい」
デスクを見回した後、ふと俺のデスクに置かれた封筒の下を見るとパスケースに付箋が添えられていた。そのまま渡すと、顔をしかめる。
「的場さん?今日来てたんですか」
「さぁ…お前のデスクを置けばいいものを」
「こういうお礼は…LINEで返しても失礼じゃない?」
頷くとスマホ片手にすぐ取り掛かるのは良い事だ。しかしグループLINEに送らなくても、通知音OFFにしてないのでオフィスに喧しく鳴る。誰も居なくてよかった。
「残業もいいけど自分の時間も大事にした方がいっすよ。江波さん」
通勤バックからビニール袋を取り出す路嘉は、一度こちらに視線を寄こし、フフッと笑いながらカップラーメンを抜き取った。
「新発売です。もう、食べました?」
セブンプレミアム
蒙古タンメン中本北極ブラック黒い激辛味噌
絶句
俺は激辛耐性、皆無。
ラーメン界を「旨辛」で制する中本は、味覚が壊される恐怖の対象でしかない。
それをここで食べようとする路嘉の手を止める。
「会員証は、いいのか?」
今から行けば間に合う、とはいえ営業時間ギリギリに飛び込むのは感心できない。中本を持って速やかに帰れと促すがスマホをいじり出す。
優しく言ってるうちに理解してくれ。俺は一秒でも早く仕事を終わらせて帰らないと総務から報告書を上げる羽目に遭う。そんなことよりスマホが煩い、誰だ。
『仕事終わるまで待ってる』
路嘉からメッセージを受けて…
やる気を削がれてしまい、荷物をまとめてオフィスを出るまで5分と掛からなかった。
「お前、蒙古タンメン好きなのか」
「刺激的なモノでストレス解消…て、よくある話でしょう」
アナウンスに気が付けば習慣で階段を駆け足で降りる。路嘉の隣で改札を通りホームに流れ込む電車に飛び乗った。
吊皮を握る手に汗。息が上がってるのは走ったせいではない。久しぶりに路嘉の横に立つ緊張の着地点がどこにあるのか、いつもは憂鬱に流れる景色が今夜はとても鮮やかに見えた。
まるで真夏の世の夢だな。
熱帯夜に泳ぐスーツの群れも程なくして家に帰るこの時間、高層ビルの15階に位置するオフィスの窓から外を眺める俺は最終に間に合わない覚悟を決めた。
ホワイトボードの消し忘れに気が付き、踏み出した先で…これは?
白鳥路嘉 16:00~NR
営業先から直帰とは、これ如何に。
新卒、だから?弊社としては新人研修2か月儲け「研修生」として基礎からサポートした上で実際の現場に送り込む。見極めの期間を生き残った社員は半年毎に研修と面談を受け、2年で使えるようになれば儲け者。中途採用の雇用も良かった時期はあるが即戦力に期待して実績が出ない場合も多く人員不足の悩みは尽きない。
路嘉がどのくらい働けるのか?
評価共に本人からも話を聞いたことは無いが、NRの傾向として…
プライベート優先する奴が多い。
会社に身を置く限り、公私混同も覚悟の上で生きる事は食うこと!とは言わないが俺が考えが古風なのか、時代錯誤を感じながらボードを消していると通路からの物音に振り返る。
「江波さーん、いますか?」
路嘉の声に慌てて駆け出す。
「お疲れ様です」
「あ、俺のパスケース届いてませんか」
「見て無いが…」
「中に免許証入れてるんですよ。会員証作ろうとしたら無くて…やばい」
デスクを見回した後、ふと俺のデスクに置かれた封筒の下を見るとパスケースに付箋が添えられていた。そのまま渡すと、顔をしかめる。
「的場さん?今日来てたんですか」
「さぁ…お前のデスクを置けばいいものを」
「こういうお礼は…LINEで返しても失礼じゃない?」
頷くとスマホ片手にすぐ取り掛かるのは良い事だ。しかしグループLINEに送らなくても、通知音OFFにしてないのでオフィスに喧しく鳴る。誰も居なくてよかった。
「残業もいいけど自分の時間も大事にした方がいっすよ。江波さん」
通勤バックからビニール袋を取り出す路嘉は、一度こちらに視線を寄こし、フフッと笑いながらカップラーメンを抜き取った。
「新発売です。もう、食べました?」
セブンプレミアム
蒙古タンメン中本北極ブラック黒い激辛味噌
絶句
俺は激辛耐性、皆無。
ラーメン界を「旨辛」で制する中本は、味覚が壊される恐怖の対象でしかない。
それをここで食べようとする路嘉の手を止める。
「会員証は、いいのか?」
今から行けば間に合う、とはいえ営業時間ギリギリに飛び込むのは感心できない。中本を持って速やかに帰れと促すがスマホをいじり出す。
優しく言ってるうちに理解してくれ。俺は一秒でも早く仕事を終わらせて帰らないと総務から報告書を上げる羽目に遭う。そんなことよりスマホが煩い、誰だ。
『仕事終わるまで待ってる』
路嘉からメッセージを受けて…
やる気を削がれてしまい、荷物をまとめてオフィスを出るまで5分と掛からなかった。
「お前、蒙古タンメン好きなのか」
「刺激的なモノでストレス解消…て、よくある話でしょう」
アナウンスに気が付けば習慣で階段を駆け足で降りる。路嘉の隣で改札を通りホームに流れ込む電車に飛び乗った。
吊皮を握る手に汗。息が上がってるのは走ったせいではない。久しぶりに路嘉の横に立つ緊張の着地点がどこにあるのか、いつもは憂鬱に流れる景色が今夜はとても鮮やかに見えた。
まるで真夏の世の夢だな。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
きみを待つ
四葉 翠花
BL
国一番の高級娼館にて、最年少で最高位に上りつめたミゼアス。しかし本当に欲しかったものは、そんなものではない。
虚しい日々を送る彼に、一人の見習いが預けられる。天才児といわれるその子は、とんでもない問題児だった。薄闇に包まれていた世界は、無理やり極彩色の光に彩られていく。
夢で聞いた幼馴染の言葉を支えに、いつかその日が来ることを信じて――
■『不夜島の少年』の関連作ですが、こちらだけでもお読みいただけます。(下にリンクがあります)
年上が敷かれるタイプの短編集
あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。
予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です!
全話独立したお話です!
【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】
------------------
新しい短編集を出しました。
詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
その空を映して
hamapito
BL
――お迎えにあがりました。マイプリンセス。
柔らかな夏前の風に乗って落とされた声。目の前で跪いているのは、俺の手をとっているのは……あの『陸上界のプリンス』――朝見凛だった。
過去のある出来事により走高跳を辞めてしまった遼平。高校でも陸上部に入ったものの、今までのような「上を目指す」空気は感じられない。これでよかったのだと自分を納得させていた遼平だったが、五年前に姿を消したはずの『陸上界のプリンス』朝見凛が現れて――?
※表紙絵ははじめさま(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/830680097)よりいただいております。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる