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幽韻之志

40/縒綜ら天に帰す

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 東京に記録的な大雪が観測された数日後
 あおちゃんのお宮参りに初詣を兼ねて、松の木陰から見守る。

 太鼓の音が止むと指先を揃えてから頭を下げる礼儀正しさ。
 お稚児の晴れ着は今日も可愛らしい。金の髪飾りを揺らしひとりで歩く姿を背伸びして覗き見ると、科戸さんが視線をくれた。
 階段に小さな草履を降ろし砂を踏む様子をおみくじが結ばれた紐の隙間から眺める俺はそのまま見送るつもりだったが、科戸さんの合図に振り返るあおちゃんは着物の裾を膝で割って猛然と駆け出す。体を傾け砂利を蹴散らし、俺目掛けて飛び込む姿が愛しい。

 「ごきげんよう。お父様の言いつけはちゃんと守っていますか」
 「はぁーい、とめきはいい子にしてた?」
 「はい。あおちゃんを見習って日々精進を重ねております」

 笑い合って頬を寄せる、俺を優しく見つめる科戸さんが歩みを寄せた。

 「風もないのに紙垂が揺れていたのは、あなたの御心が寄せられていた証として受取りました」
 「しで…ですか」
 「あおちゃんが最初に気が付いたの!」

 夜巫女よいちこの不思議な力が虹色の瞳に宿っているのだろうか。これじゃどこに隠れてもみつかりそうだな、気配をどうやって隠すのか玲音に聞いてみよう。

 「お父様、お約束の…いい?」
 「ええ…ご武運を祈ります」
 「やったぁ!今日は何がでるかな」

 箱に小さな手を入れて引き当てる吉凶の運試しは、小吉。

 「ええー留吉がよかったのにぃ」
 「俺の名前は無いよ」
 「わかんないよ?神様が間違えて入れてるかもしんない」

 神様ご乱心。間違いどころか炎上商法になる恐れが…俺自身、吉を留めるよう授けられた名前負けに明日の行方も知れぬ"招かれざる流浪人"そんな俺の名前を呼んでくれる君に出会えてよかった。

 「えっと…待人は来る、商売学業相場はこんなもんか」
 「読めるの?」
 「うん、漢字は組み合わせだからわかるよ」

 おみくじの意味を理解する幼児も奇特だが、大凶を引き当て内容に慄くべき処「今年も商いに精が出る」自己流に受け止める科戸さんのメンタルは圧巻。

 「じゃあ、俺行くね」
 「やだ!お父様ぁ…とめきが行っちゃう」

 あおちゃんを降ろすと足元にしがみついて、泣きながら俺を引き留める。
 おみくじが涙に滲む。悲しい時間をどれだけ紡ごうと俺との未来は次第に途切れていく、涙の行方に消える俺を追いかけるあおちゃんは必死で…もう、会わない方がいいのかも知れない。

 
 お願いだから、捨てないで。
 いい子にするから…


 砂利の上でうずくまって泣く
 あおちゃんの悲痛な叫びが胸に残る。
 俺に見捨てられた処で君には帰る家と頼りになる人がいる。どうか無事に生きて欲しいと願う真心を見透かされていたとも知らずに、再び巡る星の導きに諸縒もろより集う。
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