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幽韻之志

27/ご主人様の懐妊初夜・前編

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 ふと、温かさに目覚める。


 「玲音…どうしたの?」


 何も言わず、胸が開かれる…夢?にしては触れた先の体温から心地よさが溢れて来る、とある感覚にはっとして手で隠す。
 「気持ちいい」体感が恥ずかしくて玲音の胸を押し返す。
 この頃あおちゃんは離乳食が順調に進み、夜の授乳が無くなったことから子供部屋にベビーベッドを移して寝かせている。何かあればモニターで状況が確認できるから日中のつかれを寝て回復できるようになった。夜の営みも何ら問題は内容に思えるが、子育てに浸透してくると禁欲に近い状態になり…
 大人の行為に激しい抵抗を感じる心理を説明できない。
 伴侶との互換性も明らかになり、避ける事でその場をやり過ごしてセックスレスになる理由がわかる。
 ……したい、相手がいてすぐ出来るけど、得も言われぬ理性を自身が打ち破る背徳に耐え切れず、ベッドから抜け出す。

 「ごめん、そんな気になれない」
 「景虎は良くて俺がダメな理由って、なに?」

 残り香を捉えるようにして、後ろから抱き尽くす玲音は知っていた。

 出会った頃から興味があった。
 従順でセクシーな景虎の魅力にやられてある程度まで許しているのは事実だ。肌を合わせれば解る、優秀な種馬スタリオンと言われる所以が…性欲だけで成立する、雄の淫猥さに「馬が合う」とはよく言ったものだ。
 俺も男だ、性欲は無いわけではない。
 でも玲音は…ゲイじゃない、性的欲求が無いアセクシュアル。
 男に興奮する、とか
 恋愛の延長に性欲があるのではなく…
 男らしい本能的な支配欲しか無い。惚れた男がアセクシュアルという時点で心が折れた俺は、関係性を維持する為に性的な行為を避けてきたが、別に寝る事を絶対に許さない玲音の推しに負けた結果。

 「他の男でいいなら俺でもいいだろ」

 ふたりっきりになると、オラオラ系。

 立ったまま後ろから抱きつかれて手繋ぎ、キスを求めるとか漫画の世界。
 頭がまっ白になって熱に融かされる先が気持ちいい。
 これ以上されたら、戻れなくなる瀬戸際で必死に言葉を探すけど俺の性感帯を熟知している玲音に翻弄されて甘い声しか出ない。

 「や、やめて…立ってられな、く……うぅ……」
 「もっと脚開いて、可愛くお強請りしてみろよ」
 「命令すんな!」
 「じゃあ自分で脱いで俺の前にお尻を突き出して下さい、ご主人様」

 腹が立つのにいい声で孕みそう。

 「ゲイじゃないって言ってた癖に、嘘吐き」
 「いいの?俺にそんなこと言って」

 強引にベッドに連れ戻されて脚の間に割り込んで来る、そこに指の腹がゆっくりと折りながら撫でられて腰を浮かせ、拒む。

 「人のことバカにして…また傷つけて捨てる気なんだろ」
 「青嵐様みたいに?」
 「俺はお前らの玩具じゃ…あ……っ……さ、触るな!」
 「性処理道具(笑)でしょ?」

 抵抗する手を押さえられる先で、着ている物の一切を脱がされ、興奮した所から見えない股間まで撫で回されると膝が震えて射精前の独特な快楽に襲われる。

 「きらめくハートに包まれた甘い快楽を欲して何が悪い」
 「やっぱり処女はやりにくいな…」

 気持ち良すぎて、正直しんどい。
 それに比べて青嵐の縄は無責任に感じることが出来た。
 不安だった俺を前に押しやる、あの手に導かれて感じる自分を止められない。痛くて切ない感情を振り切って青嵐を求めてしまった人生の汚点。しかし快楽の度合いを超えた精神的な結びつきが局地的に起きたのは、あの時だけ…
 人生で最高の瞬間だった。
 ずっと隠していた危険な衝動を、その一手に束縛される安堵に身を委ねた記憶を滲ませ意識を取り戻せば、俺の体を玩具扱いする男に犯される現実。

 どこか寂しさを覚えて顔を横に倒すと涙が一滴、零れた。

 初めてなのに指の奥に感じる場所がある。
 玲音は低い声で「いやらしい」俺の体感を否定するが、その手を止めない。
 冷たい言葉から逃れるようにして差し出された、それを…
 口に含み、舌を這わせた。
 喉の奥まで届く苦しさに息を止めても、頭が埋まる匂いに目が眩む。
 セックスとは…
 苦しさと引き換えに自分を解く必要がある。
 もちろん男とする場合に限るが、愛撫は気持ちいいのに本来の生殖行為の模擬する処。穴があったら挿れたい男の濡れ場は、容赦ない断絶に襲われるものだ。

 相手が揮う力加減?の差…かも知れない。

 愛撫とは
 肉を解して確かめる、セックスの過程。

 お互い探り合いながら許し合う行為だ。その気が無ければすぐに解る、駆け引きの最中にどこがいいのか?見せ合いながら前立腺を撫で回されるのが好きで、そのまま絶頂まで導くのが晃汰は上手い。
 セクシー俳優として人気が絶えないのはセックスの技量にある。
 一方的な行為ではなく人体の構造を体得しており、そこに優しさと男の甘えを盛り込んでくる晃汰は「痛くない?動かすよ」目で確認した後、キスをして激しくする。晃汰も感じて声を出しながら…


 褒めてくれる。


 同性のセックスは何の意味もない、身勝手な愚行だ。
 男は興奮すると現実と妄想が入り混じり、在りもしない事を口走り、勘違いや嘘だと解っていながら身を投じる。
 ああ、解っているさ…
 暴力が日常的な俺の生活はセックス以外に求められる事なんか、無い。
 だけど晃汰は、褒めてくれる。
 お互いの感情を高めながら、全てを曝け出しても、優しく受け止めてる器用さが職業病だとしても、俺が淫乱だという秘密を口外しない。口の堅さは定評…
 モテるタチの安心感は偉大だ。

 セックスは気持ち良くて楽しい。
 でも、晃汰の言う「好き」を信じることは出来ないから最後に「ありがとう」で一区切りをつける。対価を支払えと言われたら、俺は従うだろう。恋愛では無い。

 今、目の前にいる男が…
 ただ愛しくて、どうしてこんな事になったのか?考えても答えはみつからないけど、惚れた弱みで苦手な口内射精も全部飲み干すつもりで唾を泡立てる。
 俺は一生、この男の飼い犬だ。
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