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幽韻之志
18/天の遊星と仮初の婚印
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ガラッ…物音と共に顔に落ちる水滴が、伝う。
「生きてる」
灰色の空を見上げるような格好で、気を失っていた。
ん?温かいな、どこだ…ここ…泡だらけの湯につかる俺はM字開脚で風呂に入ってる男に跨る格好で落下していた。泡立つ胸毛に気を取られていると、男が立ち上がる勢いで湯の中に沈む。
絹糸を束ねたような銀髪
宝石のような瞳が印象的なこの男を…俺は知ってる。
「Are you awake? My cute Snow White.」
間違いない
コイツ、日本語が通じません。
「あれ?声が出る」
「魔法使いの呪いが解けてしまったようだね」
「王子様のキスで目覚める姫君か、俺は…」
「もう一度キスしようか?」
「触んな!お前、何者だっ!!」
「Arush」
あ…るしゅ?
肌は白いが灼熱の国っぽいルックスの男は全裸に泡をまとう美神のよう。
「サンスクリットで、アルサハ」
不意に現れる玲音が乱れた髪を掻き上げながら瓦礫の上を歩いて、折れた日本刀を男の首に押し当てる。
「私のご主人様です。返しなさい」
仁王立ちする男の腹から下に流れ落ちる泡が、ぽとり…俺の頭に落ちる。
今ここで顔を上げたら…至近距離で圧倒的なサイズ感のアレを迎えることになる危機的状況。だが、濡れても静電気がバチッと来ない。
肩は取れたみたいに軽くなっていた。
銃撃による失血性ショックで昏睡状態に陥ったあの夜…
急な悪天候による落雷で半径6キロの停電と火災が起きた。落雷は負極性。地表のプラス電荷と交わる場所を探して電撃点で結合して中和される。
それは天と地の結ばれる白亜の出来事。
「運命に紡がれし恋人」
黄金に包まれる美神アルサハは、碧眼の瞳を俺に向けて…
あの夜に見たきらめく星のような光を指先で操りパチンと弾いて宙に融かす。
不思議な手品に見えるこれは放電でアルサハが生まれ持つ特殊能力。
科戸さんの店の裏に位置する"篠峯"と書かれた表札に住まう、この男は泪町二十四軒第一区の町内会長であり六喩会の「雷」に属する奴隷。
翠嵐 青嵐の一字を貰った隷属で破門された…宝珠の瞳を持つ男。
インド出身で高貴な身分の彼は幾つも名前を持っている。
通り名はアルサハ2世。
正式な王位継承者であり、能力者として一族はもちろん国家から恐れられている特別な存在だ。
「アルサハは天候を操る事ができる太陽神…地上に存在する特殊な高気圧です。普段は神の加護を受けながら結界の中で暮らしています」
あの変な感じ…結界…なのか。
壊れても修復できるよう地下に巨大な発電所があり、自然災害が起きても泪町一帯は停電の影響を受けない。政府と情報を共有し、都庁を新宿に移設した理由はこれが目的だとか。アルサハに尻を寄せて押し退ける晃汰がいつもの調子でやっかむ。
「どうせ荒療治したんだろ。回復と共に電極が増幅…てとこか?」
「不死の妙薬を使いましたね」
「ご名答」
「あれほど使ってはいけないと教えたのに…禁手ですよ?」
「彼が天の遊星となれば永劫、私の僕だ」
科戸さんはため息まじりに天ぷらの衣を箸の先で溶き、野菜の粉を落として衣に潜らせると揚げ油の中に滑り込ませる。シュワシュワといい音を立てながら、油に衣が浮き上がるのを取り除きながらアルサハと話を続けた。
「この子は、青嵐のようにはいきませんよ」
紙の上に野菜、魚の順で天ぷらが出される。
科戸さんのおもてなしに箸が伸びるのを、喉を鳴らして見つめていた。
「簡単に私の僕にならないことくらい解っているさ」
「ええ、そのつもりで…とめきは天丼にしましょうか?」
あ、俺の分もあるんだ。
小さく頷くとアルサハの美しい微笑みに、心が誤魔化せない。
「本物の王子様…なの?」
「君だけの王子様だよ」
「そ…っ、そーゆーのは…いいから…」
指を絡ませながら手を繋いでくるアルサハの仕草に戸惑うばかり。
突如、天井を突き破り現れた変質者の俺を自分だけに見える天使だと言い張っているが宗教上"男の裸を見たらその人と結婚しなければならない"習わしがある…らしく是即ち、電撃結婚。
太陽神の妻である天の遊星
純潔の花嫁に選ばれし、童貞。こんな事になるくらいなら…
風俗で童貞を捨てるべきでした(元風俗店勤務)
「一応、確認なんだけど」
「何だいハニー?」
「アルサハは今まで男とキスしたこと、ある?」
「無いよ」
晃汰と科戸さんが体の向きを変えて肩を震わせる。
「不可抗力とはいえ俺にも責任があるわけだし…」
「待って、私にプロポーズしてるの?」
「違うって!俺、好きな人…いるし」
「私のことでしょう」
「男同士って死刑になるんじゃないの」
「愛に障害は付きものだよ。わかった、君の望みを叶えてあげよう」
指先を軽く手に取り
床に膝を付き、宝珠の瞳で俺を見上げる。そして…
「結婚しよう」
王子様からプロポーズされた!!!!
我慢できない晃汰は椅子から転げ落ちる勢いで大笑い。
チッ!こっちまで聞こえる舌打ちで間に割り込む玲音は開口一番、流暢などっかの国の言葉で激昂しながら何かを訴えている。一番大きな海老天をかっさらう晃汰は唇についたタレを舐めながら…
「昌の処女は俺が貰うけどね」
崇高なる乙女の純潔を巡る、熾烈な争いは続く。
「生きてる」
灰色の空を見上げるような格好で、気を失っていた。
ん?温かいな、どこだ…ここ…泡だらけの湯につかる俺はM字開脚で風呂に入ってる男に跨る格好で落下していた。泡立つ胸毛に気を取られていると、男が立ち上がる勢いで湯の中に沈む。
絹糸を束ねたような銀髪
宝石のような瞳が印象的なこの男を…俺は知ってる。
「Are you awake? My cute Snow White.」
間違いない
コイツ、日本語が通じません。
「あれ?声が出る」
「魔法使いの呪いが解けてしまったようだね」
「王子様のキスで目覚める姫君か、俺は…」
「もう一度キスしようか?」
「触んな!お前、何者だっ!!」
「Arush」
あ…るしゅ?
肌は白いが灼熱の国っぽいルックスの男は全裸に泡をまとう美神のよう。
「サンスクリットで、アルサハ」
不意に現れる玲音が乱れた髪を掻き上げながら瓦礫の上を歩いて、折れた日本刀を男の首に押し当てる。
「私のご主人様です。返しなさい」
仁王立ちする男の腹から下に流れ落ちる泡が、ぽとり…俺の頭に落ちる。
今ここで顔を上げたら…至近距離で圧倒的なサイズ感のアレを迎えることになる危機的状況。だが、濡れても静電気がバチッと来ない。
肩は取れたみたいに軽くなっていた。
銃撃による失血性ショックで昏睡状態に陥ったあの夜…
急な悪天候による落雷で半径6キロの停電と火災が起きた。落雷は負極性。地表のプラス電荷と交わる場所を探して電撃点で結合して中和される。
それは天と地の結ばれる白亜の出来事。
「運命に紡がれし恋人」
黄金に包まれる美神アルサハは、碧眼の瞳を俺に向けて…
あの夜に見たきらめく星のような光を指先で操りパチンと弾いて宙に融かす。
不思議な手品に見えるこれは放電でアルサハが生まれ持つ特殊能力。
科戸さんの店の裏に位置する"篠峯"と書かれた表札に住まう、この男は泪町二十四軒第一区の町内会長であり六喩会の「雷」に属する奴隷。
翠嵐 青嵐の一字を貰った隷属で破門された…宝珠の瞳を持つ男。
インド出身で高貴な身分の彼は幾つも名前を持っている。
通り名はアルサハ2世。
正式な王位継承者であり、能力者として一族はもちろん国家から恐れられている特別な存在だ。
「アルサハは天候を操る事ができる太陽神…地上に存在する特殊な高気圧です。普段は神の加護を受けながら結界の中で暮らしています」
あの変な感じ…結界…なのか。
壊れても修復できるよう地下に巨大な発電所があり、自然災害が起きても泪町一帯は停電の影響を受けない。政府と情報を共有し、都庁を新宿に移設した理由はこれが目的だとか。アルサハに尻を寄せて押し退ける晃汰がいつもの調子でやっかむ。
「どうせ荒療治したんだろ。回復と共に電極が増幅…てとこか?」
「不死の妙薬を使いましたね」
「ご名答」
「あれほど使ってはいけないと教えたのに…禁手ですよ?」
「彼が天の遊星となれば永劫、私の僕だ」
科戸さんはため息まじりに天ぷらの衣を箸の先で溶き、野菜の粉を落として衣に潜らせると揚げ油の中に滑り込ませる。シュワシュワといい音を立てながら、油に衣が浮き上がるのを取り除きながらアルサハと話を続けた。
「この子は、青嵐のようにはいきませんよ」
紙の上に野菜、魚の順で天ぷらが出される。
科戸さんのおもてなしに箸が伸びるのを、喉を鳴らして見つめていた。
「簡単に私の僕にならないことくらい解っているさ」
「ええ、そのつもりで…とめきは天丼にしましょうか?」
あ、俺の分もあるんだ。
小さく頷くとアルサハの美しい微笑みに、心が誤魔化せない。
「本物の王子様…なの?」
「君だけの王子様だよ」
「そ…っ、そーゆーのは…いいから…」
指を絡ませながら手を繋いでくるアルサハの仕草に戸惑うばかり。
突如、天井を突き破り現れた変質者の俺を自分だけに見える天使だと言い張っているが宗教上"男の裸を見たらその人と結婚しなければならない"習わしがある…らしく是即ち、電撃結婚。
太陽神の妻である天の遊星
純潔の花嫁に選ばれし、童貞。こんな事になるくらいなら…
風俗で童貞を捨てるべきでした(元風俗店勤務)
「一応、確認なんだけど」
「何だいハニー?」
「アルサハは今まで男とキスしたこと、ある?」
「無いよ」
晃汰と科戸さんが体の向きを変えて肩を震わせる。
「不可抗力とはいえ俺にも責任があるわけだし…」
「待って、私にプロポーズしてるの?」
「違うって!俺、好きな人…いるし」
「私のことでしょう」
「男同士って死刑になるんじゃないの」
「愛に障害は付きものだよ。わかった、君の望みを叶えてあげよう」
指先を軽く手に取り
床に膝を付き、宝珠の瞳で俺を見上げる。そして…
「結婚しよう」
王子様からプロポーズされた!!!!
我慢できない晃汰は椅子から転げ落ちる勢いで大笑い。
チッ!こっちまで聞こえる舌打ちで間に割り込む玲音は開口一番、流暢などっかの国の言葉で激昂しながら何かを訴えている。一番大きな海老天をかっさらう晃汰は唇についたタレを舐めながら…
「昌の処女は俺が貰うけどね」
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