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奴隷契約
首輪に繋がれて
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「社内恋愛は御法度ですよ。レン、気をつけてね」
大きく振り被り睨みつけると社長は何事もなかったかのようにデザートに食べようと思っていた資生堂パーラーのアイスを完食…憤りに震える。
この悪食め!食べ物の恨みは恐ろしいと知っての狼藉か。
「レンの男受けの良さは定評だけど、つくづく色魔だね」
「恐れ入ります。私など、青嵐様の足元にも及びません」
「ご謙遜…いや、別にレンのそういうところ嫌いじゃないけど」
けど?その一言に玲音は表情を失い、何度か瞬きして次の言葉をじっと待つ。
「確かにレンは元老も認めるよい子
だけど、果たして万にひとりの逸材と呼ぶに値するか。
花形の総括を滞りなく勤めること、努々忘れるなよ」
静かに返事をする、玲音。
このふたりは完全主従関係なので、常に緊張の糸が張り詰めている一方で社長は鋭い観察力を緩めることはない。そこで俺に話が振られる。試用期間中のバイトだけど
将来的には現場で働く新造の一部だから、知る権利があることを前提に…
年季明けの若い奴隷が新造の世話係である花形に選ばれるなど、本来はあり得ないこと。そこには、何か思惑があるようだった。
花形の実務は技能で、新造を蕾に例えたら花を咲かせ生けるまでがひと仕事。
人ひとり将来性を見込んで育てるのは途方もない人件費と労力が必要とされるので若造なんかに務まる筈が無いと風当たりが強い中、社長は古い友人であり玲音の親に頼まれて預かっているらしい。
だから新造の行いが悪いと、花形は恥と責任を負う事になる。
俺が上客の機嫌を損ねた事はすっかり噂になって玲音はあらゆる方向から止むことなき攻撃をされている事を、俺は知る余地もなかった。
もちろん俺の親にあたる社長にも、少なからず影響を受ける。
ここではどの立場も自分の気持ちが定まってないと足下をすくわれるばかりか命の保証はできないといったところで一息つく。
「花形は特有の戒律があります」
アンティークカップのコールポートに茜色の紅茶が注がれ、俺は湯気を追いかけるようにして玲音を見上げた。
ひとつ、一座の長が定める命令に反した場合。
ふたつ、義務に違反して職務を怠る、また失踪した場合。
最後に、奉仕者(新造)を殺した場合。
どれも罷免の対象で、厳罰処分が下される。
3番目の通称・犬殺しは重罪
ただし事故や病気、自殺は含まれない。これを利用して新造を私物化し悪質な折檻をする花形自ら死をもって償う被害を防止するため、監視体勢が強化されるほど事態は深刻化している。
故に若手が、という話の経緯。
「親は新造も奴隷も所有物なので何をしてもいい特例が設けられています」
「親なら我が子を手に掛けてもいいって…横暴じゃね?」
「そうでしょうか。愛故に、全ては御心のままにと教えられました」
「自然災害みたいに言うな」
「あのお方に殺めて頂けるなら本望です」ガチ奴隷の迫力に圧巻。
俺は、嫌だ。
愛なんか認めない。
どうせ死ぬなら半分でも清らかな、今のうちに自決したい。
そうなるように仕組まれて結果ターゲットが消されるケースもありそうだな。
「私もすべては把握してない。
しかし、私の耳に入れば罷免じゃ済まない。
極刑または銃殺刑ならラッキーだと思ってね、レン」
どの道、殺されることに変わりない。
逆にアンラッキーが気になる俺はティーカップの底に残る紅茶を回しながら顔を伏せた。知らなかったとはいえ迷惑かけて、俺どうしたらいいんだろう。それより玲音の快い優しさが、単なる仕事だと思い知らされて傷つく自分が情けなかった。
終電を迎える24時前になれば玲音は自宅に帰り、事務所には俺ひとりになる。
ガラス張りのシャワールームから裸足で出て、壁を切り取って作られた棚から白いタオルを一枚引っ張り出し、左側のアルミケースからバスローブを手に取るのが一連の動作。ここはホテルと変わらない使用で、アメニティーも完備されてる。
こんなところで生活できるなんて夢にも思わなかった。
しかも無料奉仕…社長を相手に今後の収入は見込めないと挫折する一方で、玲音が花形である事実。それはまるで溶け残った砂糖みたいに不快感を与えながら次第に甘く溶けていく。何度も考えても、そうだ。
俺、もしかして――― 玲音 ―――が……?
例えがたいこの感情の正体が、恋…だとしても、何ひとつ報われることのない絶望に耐えられる自信がない。今だって言葉にならないほど落ち込んでいる自分を持て余してる。
そんな俺に届く一件のメール
玲音からだ。すぐに画面を切り替えて受信簿の確認をする。
>お疲れ様です。
>今日はいろんなことがあったけど、あまり気にしないで
>元気だせよ!おやすみ。
わずか3行で俺の心を射抜くおそるべき文才。
衝動的に保存してしまったのは言うまでもない。
それを布団の中で何度も何度も、繰り返し見ながら眠りにつけば寝落ちした後に充電が切れてアラームが鳴らず寝坊に至る。
まさかの初恋。
しかも、男相手に?
女という選択肢は今後ないの?迷える子羊をどうか、導き給え。
大きく振り被り睨みつけると社長は何事もなかったかのようにデザートに食べようと思っていた資生堂パーラーのアイスを完食…憤りに震える。
この悪食め!食べ物の恨みは恐ろしいと知っての狼藉か。
「レンの男受けの良さは定評だけど、つくづく色魔だね」
「恐れ入ります。私など、青嵐様の足元にも及びません」
「ご謙遜…いや、別にレンのそういうところ嫌いじゃないけど」
けど?その一言に玲音は表情を失い、何度か瞬きして次の言葉をじっと待つ。
「確かにレンは元老も認めるよい子
だけど、果たして万にひとりの逸材と呼ぶに値するか。
花形の総括を滞りなく勤めること、努々忘れるなよ」
静かに返事をする、玲音。
このふたりは完全主従関係なので、常に緊張の糸が張り詰めている一方で社長は鋭い観察力を緩めることはない。そこで俺に話が振られる。試用期間中のバイトだけど
将来的には現場で働く新造の一部だから、知る権利があることを前提に…
年季明けの若い奴隷が新造の世話係である花形に選ばれるなど、本来はあり得ないこと。そこには、何か思惑があるようだった。
花形の実務は技能で、新造を蕾に例えたら花を咲かせ生けるまでがひと仕事。
人ひとり将来性を見込んで育てるのは途方もない人件費と労力が必要とされるので若造なんかに務まる筈が無いと風当たりが強い中、社長は古い友人であり玲音の親に頼まれて預かっているらしい。
だから新造の行いが悪いと、花形は恥と責任を負う事になる。
俺が上客の機嫌を損ねた事はすっかり噂になって玲音はあらゆる方向から止むことなき攻撃をされている事を、俺は知る余地もなかった。
もちろん俺の親にあたる社長にも、少なからず影響を受ける。
ここではどの立場も自分の気持ちが定まってないと足下をすくわれるばかりか命の保証はできないといったところで一息つく。
「花形は特有の戒律があります」
アンティークカップのコールポートに茜色の紅茶が注がれ、俺は湯気を追いかけるようにして玲音を見上げた。
ひとつ、一座の長が定める命令に反した場合。
ふたつ、義務に違反して職務を怠る、また失踪した場合。
最後に、奉仕者(新造)を殺した場合。
どれも罷免の対象で、厳罰処分が下される。
3番目の通称・犬殺しは重罪
ただし事故や病気、自殺は含まれない。これを利用して新造を私物化し悪質な折檻をする花形自ら死をもって償う被害を防止するため、監視体勢が強化されるほど事態は深刻化している。
故に若手が、という話の経緯。
「親は新造も奴隷も所有物なので何をしてもいい特例が設けられています」
「親なら我が子を手に掛けてもいいって…横暴じゃね?」
「そうでしょうか。愛故に、全ては御心のままにと教えられました」
「自然災害みたいに言うな」
「あのお方に殺めて頂けるなら本望です」ガチ奴隷の迫力に圧巻。
俺は、嫌だ。
愛なんか認めない。
どうせ死ぬなら半分でも清らかな、今のうちに自決したい。
そうなるように仕組まれて結果ターゲットが消されるケースもありそうだな。
「私もすべては把握してない。
しかし、私の耳に入れば罷免じゃ済まない。
極刑または銃殺刑ならラッキーだと思ってね、レン」
どの道、殺されることに変わりない。
逆にアンラッキーが気になる俺はティーカップの底に残る紅茶を回しながら顔を伏せた。知らなかったとはいえ迷惑かけて、俺どうしたらいいんだろう。それより玲音の快い優しさが、単なる仕事だと思い知らされて傷つく自分が情けなかった。
終電を迎える24時前になれば玲音は自宅に帰り、事務所には俺ひとりになる。
ガラス張りのシャワールームから裸足で出て、壁を切り取って作られた棚から白いタオルを一枚引っ張り出し、左側のアルミケースからバスローブを手に取るのが一連の動作。ここはホテルと変わらない使用で、アメニティーも完備されてる。
こんなところで生活できるなんて夢にも思わなかった。
しかも無料奉仕…社長を相手に今後の収入は見込めないと挫折する一方で、玲音が花形である事実。それはまるで溶け残った砂糖みたいに不快感を与えながら次第に甘く溶けていく。何度も考えても、そうだ。
俺、もしかして――― 玲音 ―――が……?
例えがたいこの感情の正体が、恋…だとしても、何ひとつ報われることのない絶望に耐えられる自信がない。今だって言葉にならないほど落ち込んでいる自分を持て余してる。
そんな俺に届く一件のメール
玲音からだ。すぐに画面を切り替えて受信簿の確認をする。
>お疲れ様です。
>今日はいろんなことがあったけど、あまり気にしないで
>元気だせよ!おやすみ。
わずか3行で俺の心を射抜くおそるべき文才。
衝動的に保存してしまったのは言うまでもない。
それを布団の中で何度も何度も、繰り返し見ながら眠りにつけば寝落ちした後に充電が切れてアラームが鳴らず寝坊に至る。
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