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七夕オメガバース

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 奏の小さな手の温かさに慰められ、透生は涙を拭う。
 その流れで動いた視線の先では、手で口元を覆った奏多が愕然としていた。

「あれか……あれを聞いていたのか」

 認めた。やっぱりそうなんじゃないか。

「だから嘘はつかなくていいよ。奏はこれからも僕がおじいちゃんと育てるから、気にしないで……僕たち、もう帰るよ」

 涙を拭わないまま奏を抱っこして立ち上がろうとした。けれど奏多は子供ごとしっかりと抱きしめてくる。

 奏多のぬくもりと香りを感じてしまうと思考が鈍る。なにも考えられなくなって、心が自分にないことを忘れて身を委ねたくなる。
 けれど、もう過去と同じダメージは受けたくない。

「離して、奏多」
「嫌だ。もう二度と離さない。ずっと探していたんだ。でも当てがどこにも無くて、心が折れかけていた矢先にやっと会えた。透生、愛しているんだ。誤解を解かせてくれ」
「誤解……? 今更」

 なにを言い訳するの? と言いかけながら奏多の腕の中で体をよじると、奏がきゅっと腕を掴んできた。

「ぱぱのおはなし、きくの! まま、ちゃんとおすわりして、おてておひざにして!」
「奏……」

 奏が泣きそうに言う。それで透生は、息子の言うとおり「お話を聞く姿勢」になってしまった。

「短冊のことだけど……」

 正面に座っている奏多が話し始め、スーツの内ポケットから財布を出した。中を開け、薄れたオレンジ色の紙切れを取り出す。

「それって」
「そう、透生が書いた短冊だよ。これは俺が笹からちぎったんじゃない」

 聞くと、奏多に告白した子がちぎった場面に遭遇して、取り上げたそうだ。
 思わずカッとしてその子を責めてしまい、泣かせたところでアルファ性の同級生が通りかかり、場を収めてくれたらしい。
 その後二人で宿の裏に移動して話し込んでいたそうだ。

「俺、自分に自信がなかったんだ。透生のことは告白してくれる前から思っていたけど、第二性のことで諦めていたからすぐに返事ができなくて。付き合えてからも悩みは尽きなかった。ベータの俺じゃ透生を幸せにできないんじゃないかといつも気にして……告白してくれたベータの子からも周りのアルファや同じベータ、オメガからもベータ性じゃ無理だ言われて、どんどん自信を失くしていた」
  
 知らなかった。透生の前ではいつも朗らかにしていたのに、心の中は余裕がなかったなんて。

「それで、両親にも相談したんだ。だけどやっぱり賛成してもらえなくて」 
「ご両親にまで!? どうして……」
「透生を愛しているからだよ。俺も透生とずっと一緒にいたかったから、親に将来結婚を考えているオメガ性の恋人がいるって伝えたんだ」 
「奏多……」 

 真剣な眼差しに胸が熱くなる。ずっと一緒にいたいとは思っていたが、まだ付き合って日が浅いのにそこまで真剣に考えてくれていたのか。

「そんな感じで、どうしたら俺が透生を幸せにできるだろうって考えて、就職をできるだけいいとこに行くのはもちろんだけど、ヒートを永遠に収める力がないのをどうしたらいいんだろうって……」

 そうしてまだ答えも、親の賛成も得ていないのに透生のヒートがきてしまい、放っておけなくてそばにいた。

「ヒート中の透生はとても扇情的だった。俺はアルファじゃないのに理性を失くして、何度も何度も欲をぶつけた。それでもヒートは収まらなかった。情けなかったよ。自分はさんざん欲を放ったのに、好きな子の苦痛は取れないままじゃないかって」

 それでアルファの同級生に、ベータ性と付き合うのはオメガ性にとっては苦痛でしかないと、どうしたら透生の苦痛を取れるのかわからない自分は役立たずだと嘆いていたのを、その前のアルファの話しぶりから誤解して伝わってしまったんだろうと話した。

「そんな……僕は大好きな奏多とヒートを過ごせるだけで幸せだったんだよ? だからありがとうと伝えたでしょう? でも、ヒート後から奏多は少し様子がおかしかったよね。僕を抱くこともなかった。あれはヒートの僕を見て気持ち悪くなったからじゃなかったの?」
「そんなことあるわけない!」
「ぱぱ、ままをおこらないで!」

 奏多が感情的になったのを怒りと思ったらしい息子が、ビクッとして透生にすがりついた。

「あ…ごめん、怒ったんじゃないよ。驚かせてごめんね。おいで、奏」

 腕を伸ばし、奏を胸に迎え入れる。まるで今までも一緒にいたかのように、奏は安心して奏多に体を委ねた。
 奏多はすっぽりと奏を包み込み、奏に聞こえにくいように声を落として話を再開する。

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