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七夕オメガバース

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 事が起こったのは翌日午後だった。

 昨夜家で奏の肩車を試してみたが、やはり至難の技だった。肩と腰を痛めた透生すいは歩くのも辛い。けれど新しい部品を独占購入したいと、東京から大きな会社の社員が来るため、車で駅への迎えを頼まれている。

 車の運転はなんとか大丈夫。一苦労なのは、お出迎えのために改札まで行くことだ。
 ひょこひょこと歩いてなんとか改札へ。
 ホームに電車が入ったから、予定通りならもうすぐだ。

 社員は背が高い二十代後半の男で、青いスーツケースを持っていると聞いた。
 午後の田舎の駅は利用者が多くないのですぐにわかるだろう。

「え……?」

 ホームから階段を上がってきた青いスーツケースの男はすぐに見つかった。
 けれどその男は……。

「……奏……多?」
「……! 透生!?」

 間違いなく奏多だった。奏多もすぐに気づいたようで、必死とも言える形相で足早に改札を抜けてくる。
 透生はこの状況が信じられず、時が止まったように体を強張らせた。

「透生、どうしてここに! いや、どうして急にいなくなって……えっと、透生が取引先の人なのか? あの、俺は」

 奏多はとても困惑している。支離滅裂に言葉をこぼしながら、目印のために会社の作業着を着ている透生の腕を強く掴んでくる。

「や、いやっ……!」

 驚きのあまり、咄嗟に「嫌だ」と振り払ってしまう透生。しかもそれが腰に響いてよろけてしまった。

「透生!」

 奏多はスーツケースから手を離し、しっかりと透生を抱きかかえて支えた。二人の体が密着する。

 ……ああ、奏多だ。大人っぽくなったがこの胸の感触も香りも奏多だ。
 アルファのようなフェロモンではないが、透生の大好きな香り。

 透生は陶酔しそうになった。が、すぐに我にかえる。

「す、すみません。よろけてすみません! あの、お約束の時間になりますので社にご案内します」

 内心は心臓が飛び出しそうだったが、なんとか車へと案内する。体が痛むために変な歩き方をしているのを奏多が気遣ってくれるも、うつむいて無視してしまう。

 変わらない奏多の優しさが切ない。根っから誠実な人だ。重荷になっていた元恋人でも、こうやって気遣えてしまうのだ。

 車に乗れば奏多が話しかけてくるが、「運転中ですので」と会話を断わった。
 会社ではお茶出しがあったがサッと出して、社長と奏多が工場見学を終えて新製品を確認したら、残るは宿への送迎だ。

 飛行機と特急、鈍行を乗り継いで来た奏多は三日間この地に宿泊する。
 その間、とにかく避けて……と考えつつ事務所で仕事をしていると、社長と奏多が戻ってきた。

 社長は満面の笑みだ。商談が良い値でまとまったのだろう……と思ったら、「三崎君、久保木さんと旧知の知り合いなんだって?」と言ってくる。

 世話好きの社長は要らぬ気を利かして、このあと夕食を三人で一緒に取ろうとも提案してくるではないか。

「旧知ってほどじゃないです!」

 透生は否定する。奏多とは大学で二年半を共に過ごしただけで、恋人だった期間も四ヶ月弱じゃないか。

「それに僕は……」

 元彼と一緒に食事になんて行けるわけがない。第一奏のお迎えがある。
 とはいえ奏のことは知られたくないから口には出せなくて、社長に目で訴える。

 けれど社長は気が利きすぎた。

「ああ、奏君のことか……そうだ、今から皆で迎えに行こう。それで一緒にご飯を食べさせてあげればいいよ」
 と言ってきて、聞いていた奏多が「奏君……?」と眉をしかめれば、「三崎君には四歳の息子さんがいるんですよ。奏君って言うんですが、シングルマザーで頑張って育てていてね。あっ、旧知の仲ならご存知ですよね。三崎君のお子さんも食事の同席よろしいですか?」と個人情報を漏らして奏多に問う。

 なんてことだ。
 奏多は焦るしかできない透生を見ながら「もちろんです。……シングルマザーで、四歳の子、奏君……」と考え込むように言った。
 
 ──ああ、どうして奏多の名前を使ってしまったのだろう。字体に気付いただろうか。四歳という年齢で計算が合うと、この短い間に気付いてしまっただろうか。

 透生はチャイルドシートが無いことを理由に必死で断るも、社長が孫が来るときのために私用の車に付けていると言い、結局社長の運転で社長の車で保育園に迎えに行くことになった。

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