24 / 24
秘めやかな愛に守られて、お嫁さんになりました
しおりを挟む
約一年後、梅雨の晴れ間の、薄い水色の空が綺麗な日。
僕と月華は伊集院家の人たちと、日向と十六夜に見守られて祝言を挙げた。
世間ではケダモノへの視線の冷たさは変わっていないけれど、伊集院家の人たちは僕を本当の家族のように思ってくれる。
男娼として名を馳せた月華も家族から労りは受けたけれど、憐情をかけられることはなく、経験を糧と励みにしろとお義父様やお祖父様に叱咤激励を受けながら、経営の勉強に励んできた。
また僕も、経理の勉強をしたいと申し出て月華の隣で学び、元いた世界で中学受験の勉強を頑張っていたからかな? 月華にも伊集院家の人たちにも計算が早くて正確だと驚かれ、期待をかけてもらえている。
そして小さいけれど、先月から月華と共に林業の会社を任されて、仕事を始めた。
「月華、鞠也、おめでとう!」
十六夜が涙で頬を濡らして祝ってくれた。その隣では日向が寄り添い、頷いている。
君たち二人も、彩里国の遊郭に落っこちて右も左もわからなかった僕をずっと見守っていてくれたね。
「ありがとう。十六夜と日向にお祝いしてもらえてすごく嬉しい。来てくれてありがとう」
「当たり前でしょ~。僕は毬也が大好きなんだから、いつでもどんなときでも駆けつけるよぅ!」
十六夜が手を伸ばして僕に抱きつく準備をして、僕も腕を広げた。
けれど……。
「俺の嫁さんに気安く触るな」
後ろから逞しい腕が回ってきて、ぎゅう、と抱きしめられる。
ただでさえ白無垢の下の色掛下をきつく着付けられて苦しいのに、もっと苦しくなる。
「月華、苦しいいよ」
だけど月華はもっと腕に力を入れて、僕の頬をペロペロ舐めてくる。
「月華は仕方ないな。昔とちっとも変わらない」
日向はため息を吐いたものの、月華ごと僕に腕を回して、首の匂いをすんすん嗅いできた。
「そうだよ! 今は毬也を一日中独占してるじゃない! ずるいよ! 今日くらい僕らの鞠也にしてよ」
小さな十六夜も負けじと僕の腰に巻き付いて、指先を甘噛みする。
僕はもう、もみくちゃだ。
月華のお父さんやお母さんが「あらあら」「おやおや」と微笑むのが見えた。
「あはは、くすぐったい、くすぐったいよ!」
幸せな窮屈さとこそばゆさに、僕は声を立てて笑った。途端に体がふわりと浮く。
「毬也救出! 大丈夫か、毬也」
月華が僕を横抱きにしたのだ。
「月華。……うん、僕、今、とっても、幸せだよ!」
月華の首に手を回して顔を見上げ、笑顔で答えると、月華もはじけんばかりに笑った。
「これから、もっともっと幸せにしてやるからな」
いつも僕のそばにあるこの笑顔。離れた日々もあったけれど、そんなときでも君は秘めやかに僕を守ってきてくれた。そして、愛し続けてくれた。
この笑顔も言葉も、きっと永遠。もう見失うことはない。
だから僕も、結婚のこの日に誓い直すよ。
「月華がそばにいてくれるだけで、僕は強くなれるよ。僕も月華を守って、月華を幸せにするからね」
僕たちはふたりで支え合って、分かち合って生きていく。どっちもがどっちもを思い合って、幸せを重ねて紡いでいく。
片方だけじゃない。ふたりの、重なる思い。
それをきっと「愛」というのだろう。
頬にキスを贈る。
「月華、愛してる!」
月華は耳をピクピク動かし、尻尾をゆらゆらと揺らして、僕の唇を塞いだ。
完
僕と月華は伊集院家の人たちと、日向と十六夜に見守られて祝言を挙げた。
世間ではケダモノへの視線の冷たさは変わっていないけれど、伊集院家の人たちは僕を本当の家族のように思ってくれる。
男娼として名を馳せた月華も家族から労りは受けたけれど、憐情をかけられることはなく、経験を糧と励みにしろとお義父様やお祖父様に叱咤激励を受けながら、経営の勉強に励んできた。
また僕も、経理の勉強をしたいと申し出て月華の隣で学び、元いた世界で中学受験の勉強を頑張っていたからかな? 月華にも伊集院家の人たちにも計算が早くて正確だと驚かれ、期待をかけてもらえている。
そして小さいけれど、先月から月華と共に林業の会社を任されて、仕事を始めた。
「月華、鞠也、おめでとう!」
十六夜が涙で頬を濡らして祝ってくれた。その隣では日向が寄り添い、頷いている。
君たち二人も、彩里国の遊郭に落っこちて右も左もわからなかった僕をずっと見守っていてくれたね。
「ありがとう。十六夜と日向にお祝いしてもらえてすごく嬉しい。来てくれてありがとう」
「当たり前でしょ~。僕は毬也が大好きなんだから、いつでもどんなときでも駆けつけるよぅ!」
十六夜が手を伸ばして僕に抱きつく準備をして、僕も腕を広げた。
けれど……。
「俺の嫁さんに気安く触るな」
後ろから逞しい腕が回ってきて、ぎゅう、と抱きしめられる。
ただでさえ白無垢の下の色掛下をきつく着付けられて苦しいのに、もっと苦しくなる。
「月華、苦しいいよ」
だけど月華はもっと腕に力を入れて、僕の頬をペロペロ舐めてくる。
「月華は仕方ないな。昔とちっとも変わらない」
日向はため息を吐いたものの、月華ごと僕に腕を回して、首の匂いをすんすん嗅いできた。
「そうだよ! 今は毬也を一日中独占してるじゃない! ずるいよ! 今日くらい僕らの鞠也にしてよ」
小さな十六夜も負けじと僕の腰に巻き付いて、指先を甘噛みする。
僕はもう、もみくちゃだ。
月華のお父さんやお母さんが「あらあら」「おやおや」と微笑むのが見えた。
「あはは、くすぐったい、くすぐったいよ!」
幸せな窮屈さとこそばゆさに、僕は声を立てて笑った。途端に体がふわりと浮く。
「毬也救出! 大丈夫か、毬也」
月華が僕を横抱きにしたのだ。
「月華。……うん、僕、今、とっても、幸せだよ!」
月華の首に手を回して顔を見上げ、笑顔で答えると、月華もはじけんばかりに笑った。
「これから、もっともっと幸せにしてやるからな」
いつも僕のそばにあるこの笑顔。離れた日々もあったけれど、そんなときでも君は秘めやかに僕を守ってきてくれた。そして、愛し続けてくれた。
この笑顔も言葉も、きっと永遠。もう見失うことはない。
だから僕も、結婚のこの日に誓い直すよ。
「月華がそばにいてくれるだけで、僕は強くなれるよ。僕も月華を守って、月華を幸せにするからね」
僕たちはふたりで支え合って、分かち合って生きていく。どっちもがどっちもを思い合って、幸せを重ねて紡いでいく。
片方だけじゃない。ふたりの、重なる思い。
それをきっと「愛」というのだろう。
頬にキスを贈る。
「月華、愛してる!」
月華は耳をピクピク動かし、尻尾をゆらゆらと揺らして、僕の唇を塞いだ。
完
29
お気に入りに追加
359
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
一ノ瀬麻紀さま
読了に加えて感想までありがとうございます!
倍増してお届けしたものなので、キンドルだけでなくこちらも目を通していただけてとても嬉しいです。
猫族の雰囲気出ていましたか?
出ていたら嬉しいな〜😻😻
天宮叶ちゃんに描いて頂いたイラストにもお言葉ありがとうございます✨
とても素敵な世界ができて、そして見てもらえて嬉しかったです。
…と、物書きのくせに「嬉しい」しか書いていないお返事😂
嬉しい気持ちにさせてくださりありがとうございました☺
ikuさま
丁寧で温かい感想をありがとうございます。
そうなんです。遊郭という性質上、どうしても春を売る描写があるのが遊郭。それもふたりとも男娼になるんですものね…ふたりがこのあとどう成長していくのか、どうか見届けていただけると嬉しいです。
月華くん、無自覚にくっついてこられたらもう理性ぷつんですよね😼
無自覚誘い受けの素質がある毬也くんは小悪魔かもです。(そういうの好き)
ikuさま
こちらの連載にコメントを下さりありがとうございます!
遊郭ものは用語やら設定が馴染みがなくて読みにくさがあると思うのですが、切なさやラブはどの世界線でも変わらないと思いますので、伝わったらいいなあ~(*´∀`)
遊郭アンソロのお買い上げありがとうございました。
こちらは倍のボリュームにしましたので、ごゆるりとお付き合いいただけますように(*^^*)
こちらがいつも、ありがとうございます!です~。