上 下
3 / 24

優しい仲間に囲まれている

しおりを挟む
「あー、月華ずるい! また毬也にくっついてる!」

 月華が僕を抱きしめたまま、ごろごろと喉を鳴らしていると、栗鼠獣人の十六夜が頬を膨らませながら現れた。
 十六夜も蕾仲間で、僕と同じ十七歳だ。

「だったらなんだよ」
「ほら! そうやってペロペロもするし! ずるいぞ、月華」

 僕を抱きしめる月華の腕の力が強くなる。耳を舐めてきて、十六夜に見せつけるみたいにする。
 これは猫のアログルーミングってやつだと思う。

 夢幻楼に落ちてきた日、僕を守ると言ってくれた月華は僕を弟分のように思っているようだから、事あるごとに舐めるのは仲間意識の現れだろう。

「うるさい、毬也は俺のだからいいの」

 ほら、ね。猫って所有欲も強いから。

 でも他の子にはしないのに、僕にだけそうしてくれるのは嬉しい。元の世界では兄に嫌われ、親しい友達もいなかった僕だもの。

 月華は僕にとって兄貴分であり親友だ。 

「最初に毬也を見つけたのは月華だけど、大輪たいりんに一緒にお願いして、楼主ろうしゅ様に許可をもらったときは僕も日向ひゅうがもいただろ!」

 大輪というのは遊郭の一番の売れっ子のことで、楼主様は遊郭の持ち主のことだ。

「そうだぞ、月華。毬也を独占するな」

 ご飯を食べてもいないのに、栗鼠ほっぺを膨らませながら十六夜が対抗していると、また別の声がした。

「日向。日向も湯殿ふろ当番終わった?」

 月華に抱かれたまま顔だけで振り向くと、黒犬獣人の日向が立っていた。

「ああ。仕事が終わったら東雲しののめ大輪が部屋においで、って。ご褒美があるってさ」

 日向は月華と同じ十八歳。僕たち四人は同じ大輪に仕える蕾仲間だ。

「わあ。ご褒美、嬉しいね!」
「はは。毬也はいつまでも無垢でかわいいな」 

 大人っぽく、いつもクールな表情の日向が優しく笑ってそばに来て、肩までの長さの僕の後ろ髪を割ってうなじをべろり。

「んんっ、日向、くすぐったいよ!」

 犬だからか、日向もたまに僕を舐めてくる。

「やめろよ! 毬也に触んな」
「日向までずるい! 僕もする!」

 月華が牽制して僕を抱き込み、十六夜は僕の指をかわいい小さな舌で舐めて「やっぱり毬也のつるつるの肌は甘くておいしい~」と言い出し、日向は「毬也の細い黒髪はさらさらしてて気持ちいい」と、鼻先を髪にこすりつけてくる。

「あははは。やめて、やめて。苦しいし、くすぐったいよ!」

 僕はもう、もみくちゃだ。
 でも、実際のところとても嬉しい。蕾仲間は……月華は特に、誰にも愛されなかった僕を好きだと言って仲良くしてくれる。異世界の遊郭生活なんて不安しかなかったのに、今はここに落ちてくることができて、本当によかったと思う。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

陰間茶屋の散る花さん。男に抱かれながら告られる!

月歌(ツキウタ)
BL
陰間茶屋の年増の陰間。散る花がお客に抱かれながら告られる話。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...