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番外編
クラウスの激重執着愛の日々⑤
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「その代わり、抱きしめていても?」
エルフィーが嫌だと思うことはしたくない。彼にとって、いつでも安心できる存在でありたい。
「……もうしてるじゃん……好きなだけ、しろよ。あったかくて気持ちいいし」
エルフィーが尻をずらし、俺の肌に肌を寄せてくれた。柔らかな肌が薔薇のオイルでより柔らかになっていて、マシュマロのような感触で吸い付いてくる。
エルフィーも俺の肌を心地良いと感じているのか、「お湯の中でくっついているの、気持いいな」と満足そうに目を閉じた。
良かった。俺の邪な気持ちには気取られていない。
「……でも、そういえば……クラウスってさぁ……」
「な、なんだ?」
エルフィーは俺にもたれていた身体を急に起こし、尻でくるりと回転して、対面になった。
やはり気取られたか? 抱きしめ方に独占欲が現れてしまっただろうか。
「そ、その……ほ、ほかの人と、経験、あるんじゃないのか?」
「経験? なにのだ? 他人との湯浴みなら、騎士科の仲間とはあるが」
「じゃなくて。あの、えっち……とか、キス。ずいぶん手慣れてるし、いろんなやり方知ってて……」
「は!?」
想像だにしなかった言葉と疑うような視線を向けられて、湯浴みで緊張を失っていた筋肉がピクっと動くのが自分でもわかった。
「なんてことを言うんだ。俺はエルフィーひと筋だ、八歳の頃から君だけだ。他の者と行為に及ぶわけがないだろう。知識は騎士科の先輩から教わったものだ」
「……前に先輩騎士さんもそう言ってたけどさぁ~、あんまりにも慣れてて怪しい……本当に俺とだけぇ?」
唇をへの字にして、眉を寄せてじとっと上目遣いに見てくる。
「誓ってエルフィーだけだ。俺の身も心も君に捧げている」
ただ、教わったこと以外にも、エルフィーの反応を見ればどこにどう触れればいいかはすぐにわかって、淫らになってほしかったのは大いにある。
そんな邪な気持ちに気づかれてしまったか……だが疑われたくない。
「ふーん。……クラウスさあ、俺に他の男を誘うような顔するな、って言ったけど、クラウスも他の人にしちゃ駄目だからな! クラウスのえっちな顔も手も、俺だけのだからな!」
納得してくれたものの、ぷん! と頬を膨らませてそっぽを向いた。まるで、拗ねているかのように。
「……もしかして、焼いてくれているのか」
ありもしないことに。未来永劫、心配がないことに?
「う。そ、そうだよ。……心狭いけど、クラウスはもてるし、卒業してからどんどんかっこよくなってるから、心配なんだよ! クラウスは俺だけのクラウスなん……」
言いかけた唇を塞ぐ。最後まで聞きたい言葉なのに聞くことができないほど、エルフィー強くを抱きしめ、濃厚なキスがしたくなった。
────エルフィーを閉じ込めたくないのに、誰にも見せたくない。愛する人を自分勝手に扱いたくないのに、自分だけのものにしたい。
最初に番になった日、俺は自身の身勝手でエルフィーのうなじを咬んだ。それがエルフィーが起こしたヒートトラップに寄るものであったにせよなかったにせよ、咬んだのは俺自身の意思で、エルフィーへの狂おしいまでの愛情ゆえだ。
君に、俺だけのエルフィーになってほしかったから────
そんな、狂気にも似た気持ちを、エルフィーも俺に持っている。
俺の「世界」が同じように思ってくれるなら、俺もこの気持ちを否定しなくてもいいのだろうか。
「んっ……ぷ、はっ。苦しい、クラウス」
「すまない。君がそんなことを言ってくれるとは思わなくて」
「言っただろ……フェリックスにだけど。俺、お前が誰かに微笑みかけるだけで、ここ、痛くなる」
湯に当たったせいもあるだろうが、顔を赤くして、とろんとした表情で左胸に手を当てるエルフィー。
「こんなの醜いって思ったけど、夫人はそれが恋だって言ってたし……クラウス相手にしか思わないから、いいよな? 好き同士の、特権、だよな?」
そして、また上目遣い。
「うっ……」
胸になにかが刺さった。それは、甘やかな蜜を先にたっぷりと塗りたくった矢のようで。
エルフィー、君は言葉にも魔力を乗せることができるのか。先輩騎士にも負けない自信がある俺を、一撃で倒してしまえるだろう。
「クラウス? どうした。大丈夫か」
呻いて胸を掴んだ俺を覗き込む。
「……大丈夫だ。だが、俺はますますアレが欲しくなった。俺は別として、君自身が気を付けていても周りが放っておかないだろうから」
「は? 誰も俺なんて構わないだろ。それよりアレって?」
アレがわからない様子のエルフィーにうん、と頷く。
そして翌日────
「やあ! お客さん、もしかして店舗を探して来てくれたのかい? 今日はなにがご入用かな?」
エルフィーを連れて商業街に出て、やって来たのは「番呼びの笛」を売ってくれた店主の店だ。
「ま、まさかクラウス、アレを買う気か? やめろ、インチキだ。その前に気味が悪いぞ!」
「いや、ヒバリの笛の効き目を考えれば、コレもぜったいに効果がある! 店主の言い値で買おう」
「クラウス!」
エルフィーの嫌なことはしたくないが、コレだけは譲れない。
俺は、三歳児くらいの大きさの魔除けの人形を購入することに決めた。
よし……! これで俺が任務でそばにいられない間も、エルフィーの身は守られるだろう。いつまでも母上に頼ってばかりではいられないからな。
「まいどあり~」
無事購入できた人形は、俺たちの寝室のベッドに置くことにした。最初は渋い顔をしていたエルフィーだが今は慣れたようで、俺が任務で家を留守にする夜は、巣の中に一緒に入れ、抱き枕にして眠っているらしい。
(クラウスの激重執着愛の日々 終わり)
エルフィーが嫌だと思うことはしたくない。彼にとって、いつでも安心できる存在でありたい。
「……もうしてるじゃん……好きなだけ、しろよ。あったかくて気持ちいいし」
エルフィーが尻をずらし、俺の肌に肌を寄せてくれた。柔らかな肌が薔薇のオイルでより柔らかになっていて、マシュマロのような感触で吸い付いてくる。
エルフィーも俺の肌を心地良いと感じているのか、「お湯の中でくっついているの、気持いいな」と満足そうに目を閉じた。
良かった。俺の邪な気持ちには気取られていない。
「……でも、そういえば……クラウスってさぁ……」
「な、なんだ?」
エルフィーは俺にもたれていた身体を急に起こし、尻でくるりと回転して、対面になった。
やはり気取られたか? 抱きしめ方に独占欲が現れてしまっただろうか。
「そ、その……ほ、ほかの人と、経験、あるんじゃないのか?」
「経験? なにのだ? 他人との湯浴みなら、騎士科の仲間とはあるが」
「じゃなくて。あの、えっち……とか、キス。ずいぶん手慣れてるし、いろんなやり方知ってて……」
「は!?」
想像だにしなかった言葉と疑うような視線を向けられて、湯浴みで緊張を失っていた筋肉がピクっと動くのが自分でもわかった。
「なんてことを言うんだ。俺はエルフィーひと筋だ、八歳の頃から君だけだ。他の者と行為に及ぶわけがないだろう。知識は騎士科の先輩から教わったものだ」
「……前に先輩騎士さんもそう言ってたけどさぁ~、あんまりにも慣れてて怪しい……本当に俺とだけぇ?」
唇をへの字にして、眉を寄せてじとっと上目遣いに見てくる。
「誓ってエルフィーだけだ。俺の身も心も君に捧げている」
ただ、教わったこと以外にも、エルフィーの反応を見ればどこにどう触れればいいかはすぐにわかって、淫らになってほしかったのは大いにある。
そんな邪な気持ちに気づかれてしまったか……だが疑われたくない。
「ふーん。……クラウスさあ、俺に他の男を誘うような顔するな、って言ったけど、クラウスも他の人にしちゃ駄目だからな! クラウスのえっちな顔も手も、俺だけのだからな!」
納得してくれたものの、ぷん! と頬を膨らませてそっぽを向いた。まるで、拗ねているかのように。
「……もしかして、焼いてくれているのか」
ありもしないことに。未来永劫、心配がないことに?
「う。そ、そうだよ。……心狭いけど、クラウスはもてるし、卒業してからどんどんかっこよくなってるから、心配なんだよ! クラウスは俺だけのクラウスなん……」
言いかけた唇を塞ぐ。最後まで聞きたい言葉なのに聞くことができないほど、エルフィー強くを抱きしめ、濃厚なキスがしたくなった。
────エルフィーを閉じ込めたくないのに、誰にも見せたくない。愛する人を自分勝手に扱いたくないのに、自分だけのものにしたい。
最初に番になった日、俺は自身の身勝手でエルフィーのうなじを咬んだ。それがエルフィーが起こしたヒートトラップに寄るものであったにせよなかったにせよ、咬んだのは俺自身の意思で、エルフィーへの狂おしいまでの愛情ゆえだ。
君に、俺だけのエルフィーになってほしかったから────
そんな、狂気にも似た気持ちを、エルフィーも俺に持っている。
俺の「世界」が同じように思ってくれるなら、俺もこの気持ちを否定しなくてもいいのだろうか。
「んっ……ぷ、はっ。苦しい、クラウス」
「すまない。君がそんなことを言ってくれるとは思わなくて」
「言っただろ……フェリックスにだけど。俺、お前が誰かに微笑みかけるだけで、ここ、痛くなる」
湯に当たったせいもあるだろうが、顔を赤くして、とろんとした表情で左胸に手を当てるエルフィー。
「こんなの醜いって思ったけど、夫人はそれが恋だって言ってたし……クラウス相手にしか思わないから、いいよな? 好き同士の、特権、だよな?」
そして、また上目遣い。
「うっ……」
胸になにかが刺さった。それは、甘やかな蜜を先にたっぷりと塗りたくった矢のようで。
エルフィー、君は言葉にも魔力を乗せることができるのか。先輩騎士にも負けない自信がある俺を、一撃で倒してしまえるだろう。
「クラウス? どうした。大丈夫か」
呻いて胸を掴んだ俺を覗き込む。
「……大丈夫だ。だが、俺はますますアレが欲しくなった。俺は別として、君自身が気を付けていても周りが放っておかないだろうから」
「は? 誰も俺なんて構わないだろ。それよりアレって?」
アレがわからない様子のエルフィーにうん、と頷く。
そして翌日────
「やあ! お客さん、もしかして店舗を探して来てくれたのかい? 今日はなにがご入用かな?」
エルフィーを連れて商業街に出て、やって来たのは「番呼びの笛」を売ってくれた店主の店だ。
「ま、まさかクラウス、アレを買う気か? やめろ、インチキだ。その前に気味が悪いぞ!」
「いや、ヒバリの笛の効き目を考えれば、コレもぜったいに効果がある! 店主の言い値で買おう」
「クラウス!」
エルフィーの嫌なことはしたくないが、コレだけは譲れない。
俺は、三歳児くらいの大きさの魔除けの人形を購入することに決めた。
よし……! これで俺が任務でそばにいられない間も、エルフィーの身は守られるだろう。いつまでも母上に頼ってばかりではいられないからな。
「まいどあり~」
無事購入できた人形は、俺たちの寝室のベッドに置くことにした。最初は渋い顔をしていたエルフィーだが今は慣れたようで、俺が任務で家を留守にする夜は、巣の中に一緒に入れ、抱き枕にして眠っているらしい。
(クラウスの激重執着愛の日々 終わり)
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