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番外編
クラウスの激重執着愛の日々④
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……懐かしい夢を見ていたな。
目覚めたのが先か、腕の中でごそごそと動くぬくもりに気づいたのが先か、瞼を開くとエルフィーが俺の胸に頬をすり寄せ、手のひらをぺたりと付けてきた。
ふにゃりと笑んで「ふわふわ……」とつぶやいたが、まだ眠りの中にいるようだ。華奢な身体を丸めて寝息を立てている。
「安らかな眠りが君に続きますように」
コラの件で気を張り通しだっただろう。俺の記憶障害の芝居で心配もかけた。愛しい人の瞼がもう二度と悲しみの涙で濡れぬよう、祈りを込めてそっと瞼に口付けを落とした。
それから、細い肩がすっぽりと隠れるように上掛けをかけ直し、しっかりと抱き直す。
感動だ。ついこの間まで、いつもベットの端に逃げて俺に背中を向けて丸まっていた君。だが今は、俺の腕の中で幸せそうに眠っている。
とはいえ、背中から抱きしめるのも好きだ。エルフィーと番になると決意した日のことを思い出すから。
……そうだ、エルフィーが目覚めたら……。
今日は母上もさすがに遠慮してくれたのか、侍女と共に起こしに来る気配はない。俺のカロルーナ遠征後の休養休暇も明日までだから、憩いの時間をエルフィーと過ごせとの計らいがあるのだろう。
俺は愛しい番の眠りを守るべく、身体を撫でたい気持ちを抑えて包むことに徹し、エルフィーの目覚めを待った。
「た、立てない……」
太陽が東と南の中心くらいの位置になったころ、目を覚ましたエルフィーを湯浴みに誘うとふたつ返事が帰ってきた。が、上半身を起こしたあと、動けないでいる。
「どうした」
「どうしたもこうしたも! お前が激しすぎるんだよ! 腰ががくがくして動けないの! あんな、あんな、二日も続けて何回も、普段しない姿勢でさんざんするから……!」
顔を真っ赤にした思ったら、うわぁぁと言いながら頭を振り、手で顔を覆う。
悲しい涙を流させぬようにと祈ったところなのに、早速俺のせいで泣かしてしまっているのだろうか。
「……すまない」
どうしよう。どうすれば。……ああ、そうだ。
「それでは俺が抱えて行こう」
「えっ、あっ……」
寝衣のズボンだけ着た姿で、エルフィーには薄い掛物をかけて包み、横抱きに抱き上げた。最初は驚いたエルフィーだが、俺にしっかりとしがみつく。
「これでバスルームまで運ぶ。湯の中で時間をかけてマッサージしよう。身体を洗うのもマッサージも俺がする。エルフィーのことならすべて俺がやりたい。これからは俺がエルフィーの従僕だ」
「……」
頬に口付けしながら伝えると、エルフィーはまた顔を赤くした。今度は取り乱す様子はなく、困ったような顔をして唇を結んでいる。
……なにか嫌な言葉を言ってしまっただろうか。そんなつもりも少しもないのだが……。
「エルフィー?」
「なんか、俺、クラウスに凄く大事にされてる……でも、クラウスは従僕じゃなくて、俺の番だろ」
俺の胸に顔を埋めて言う。耳とうなじが赤い。
もしかして照れているのか……思わず顔が綻んでしまう。
「……ああ、そうだ。俺は君がとても大切で……そして、君のただ一人の番だ。知っていてくれて、嬉しい。でもお願いだ。ときどきは君の忠実な従僕にならせてくれないか」
「うっ。その顔にその瞳、卑怯だぞ!」
顔と瞳が卑怯とはどういうことかわからないが、エルフィーはぎゅっとしがみついてくれるから、嫌でも怒ってもいなく、了承ということだろう。
俺はそのまま彼を抱いて、蒸気が立ち込めるバスルームに入り、大理石でできたバスタブにそっと下ろした。
「わ……気持ちいい。これ、ローズガーデンで咲いていた薔薇?」
「ああ、そうだ。薔薇から取ったオイルも入れてくれている」
侍女たちがエルフィーの疲れを癒すために用意してくれたものが気に入ったようだ。両手で赤や黄色、オレンジ色の薔薇の花びらを掬うエルフィーの嬉しそうな横顔を見ながら、俺もズボンを脱いでバスタブに入った。
湯の中で素肌を付けて背中から抱きしめたい。今朝浮かんだ小さな野望を実現する。
「ん……クラウス」
華奢な身体を脚で挟み、抱きしめてうなじに唇を落とすと、エルフィーはぴくりと身体を揺らし、手に掬った花びらを湯面に落とした。
「身体を、洗おう」
薄い肌を傷つけないようにそっと撫でれば、エルフィーは小さく「ん」「ん」と声を漏らす。
「そんな可愛い声を出されては……」
「だって、だって、クラウスの触り方が悪い! んっ……」
肌の滑らかさと官能的な声に、つい手が勝手をした。エルフィーの胸の果実と太ももの間の芯を可愛がってしまう。
「ぅう~~。もう今日は駄目!」
エルフィーに両手を掴まれる。俺にもたれて顎を上げ、逆さまになった涙目で俺を睨んだ。
「今は従僕だろ、俺の言うことを聞いて! ……こんなにずっと感じてたら、おかしくなっちゃう……」
「……イエス、サー」
睨んだ顔を湯面に下げ、うなじをあらわにしてうつむく。そのあまりの可愛らしさに完敗だ。
俺は両手を上げて無抵抗を示した。だが、頭の隅で
(おかしくなってしまえばいい。ずっと俺に抱かれて感じ続けて、俺なしではいられない身体になればいい)
とよぎったことを打ち消すために、すぐに腕をエルフィーの身体に回す。
目覚めたのが先か、腕の中でごそごそと動くぬくもりに気づいたのが先か、瞼を開くとエルフィーが俺の胸に頬をすり寄せ、手のひらをぺたりと付けてきた。
ふにゃりと笑んで「ふわふわ……」とつぶやいたが、まだ眠りの中にいるようだ。華奢な身体を丸めて寝息を立てている。
「安らかな眠りが君に続きますように」
コラの件で気を張り通しだっただろう。俺の記憶障害の芝居で心配もかけた。愛しい人の瞼がもう二度と悲しみの涙で濡れぬよう、祈りを込めてそっと瞼に口付けを落とした。
それから、細い肩がすっぽりと隠れるように上掛けをかけ直し、しっかりと抱き直す。
感動だ。ついこの間まで、いつもベットの端に逃げて俺に背中を向けて丸まっていた君。だが今は、俺の腕の中で幸せそうに眠っている。
とはいえ、背中から抱きしめるのも好きだ。エルフィーと番になると決意した日のことを思い出すから。
……そうだ、エルフィーが目覚めたら……。
今日は母上もさすがに遠慮してくれたのか、侍女と共に起こしに来る気配はない。俺のカロルーナ遠征後の休養休暇も明日までだから、憩いの時間をエルフィーと過ごせとの計らいがあるのだろう。
俺は愛しい番の眠りを守るべく、身体を撫でたい気持ちを抑えて包むことに徹し、エルフィーの目覚めを待った。
「た、立てない……」
太陽が東と南の中心くらいの位置になったころ、目を覚ましたエルフィーを湯浴みに誘うとふたつ返事が帰ってきた。が、上半身を起こしたあと、動けないでいる。
「どうした」
「どうしたもこうしたも! お前が激しすぎるんだよ! 腰ががくがくして動けないの! あんな、あんな、二日も続けて何回も、普段しない姿勢でさんざんするから……!」
顔を真っ赤にした思ったら、うわぁぁと言いながら頭を振り、手で顔を覆う。
悲しい涙を流させぬようにと祈ったところなのに、早速俺のせいで泣かしてしまっているのだろうか。
「……すまない」
どうしよう。どうすれば。……ああ、そうだ。
「それでは俺が抱えて行こう」
「えっ、あっ……」
寝衣のズボンだけ着た姿で、エルフィーには薄い掛物をかけて包み、横抱きに抱き上げた。最初は驚いたエルフィーだが、俺にしっかりとしがみつく。
「これでバスルームまで運ぶ。湯の中で時間をかけてマッサージしよう。身体を洗うのもマッサージも俺がする。エルフィーのことならすべて俺がやりたい。これからは俺がエルフィーの従僕だ」
「……」
頬に口付けしながら伝えると、エルフィーはまた顔を赤くした。今度は取り乱す様子はなく、困ったような顔をして唇を結んでいる。
……なにか嫌な言葉を言ってしまっただろうか。そんなつもりも少しもないのだが……。
「エルフィー?」
「なんか、俺、クラウスに凄く大事にされてる……でも、クラウスは従僕じゃなくて、俺の番だろ」
俺の胸に顔を埋めて言う。耳とうなじが赤い。
もしかして照れているのか……思わず顔が綻んでしまう。
「……ああ、そうだ。俺は君がとても大切で……そして、君のただ一人の番だ。知っていてくれて、嬉しい。でもお願いだ。ときどきは君の忠実な従僕にならせてくれないか」
「うっ。その顔にその瞳、卑怯だぞ!」
顔と瞳が卑怯とはどういうことかわからないが、エルフィーはぎゅっとしがみついてくれるから、嫌でも怒ってもいなく、了承ということだろう。
俺はそのまま彼を抱いて、蒸気が立ち込めるバスルームに入り、大理石でできたバスタブにそっと下ろした。
「わ……気持ちいい。これ、ローズガーデンで咲いていた薔薇?」
「ああ、そうだ。薔薇から取ったオイルも入れてくれている」
侍女たちがエルフィーの疲れを癒すために用意してくれたものが気に入ったようだ。両手で赤や黄色、オレンジ色の薔薇の花びらを掬うエルフィーの嬉しそうな横顔を見ながら、俺もズボンを脱いでバスタブに入った。
湯の中で素肌を付けて背中から抱きしめたい。今朝浮かんだ小さな野望を実現する。
「ん……クラウス」
華奢な身体を脚で挟み、抱きしめてうなじに唇を落とすと、エルフィーはぴくりと身体を揺らし、手に掬った花びらを湯面に落とした。
「身体を、洗おう」
薄い肌を傷つけないようにそっと撫でれば、エルフィーは小さく「ん」「ん」と声を漏らす。
「そんな可愛い声を出されては……」
「だって、だって、クラウスの触り方が悪い! んっ……」
肌の滑らかさと官能的な声に、つい手が勝手をした。エルフィーの胸の果実と太ももの間の芯を可愛がってしまう。
「ぅう~~。もう今日は駄目!」
エルフィーに両手を掴まれる。俺にもたれて顎を上げ、逆さまになった涙目で俺を睨んだ。
「今は従僕だろ、俺の言うことを聞いて! ……こんなにずっと感じてたら、おかしくなっちゃう……」
「……イエス、サー」
睨んだ顔を湯面に下げ、うなじをあらわにしてうつむく。そのあまりの可愛らしさに完敗だ。
俺は両手を上げて無抵抗を示した。だが、頭の隅で
(おかしくなってしまえばいい。ずっと俺に抱かれて感じ続けて、俺なしではいられない身体になればいい)
とよぎったことを打ち消すために、すぐに腕をエルフィーの身体に回す。
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