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本編

湧き上がる熱い感情① ※

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 息が詰まった。喉が絞られるようで、胸が苦しくなる。
 それなのに、炒ったコーヒー豆のお菓子を口にしたときのよう。ひとたび唾を呑み下してしまえば、ほのかな甘味が全身に広がっていく。

 この感覚は、なんだ。
 
「エルフィー、なぜ泣く」
「え……?」
 
 俺、泣いてる? そんなつもり全然ないのに。

 頬に手を当てれば、頬に伝った涙が手のひらに、瞼を超えた涙が指を濡らす。

「どうしよう。クラウス、止まらない」
「どこか痛むのか? 急にどうした。ともかく屋敷に戻ろう」

 クラウスは俺の頬を両手で挟み、親指で涙を拭った。すり、と優しく。慈しむように。

 ──ああ、どうして今まで気づかなかったんだろう。

 その瞬間霧が晴れたように、俺にも見えなかったものがあったことに気づいた。

 クラウスの触れ方ひとつ。そのひとつひとつすべてに、俺への愛情が込められている。
 
 あのときもあのときも、あのときも……。

 頭の中に、プロポーズされた日から今日までのクラウスの振る舞いが浮かんだ。

 つがい契約のせいで人格が変わったとばかり思っていたけど、本当に違ったんだ。
 俺、クラウスに凄く大事に思われている……!

「んっ……」

  気づいた途端に、お尻の骨のあたりがぞく、と痺れた。
 
 あ……なんか鳥肌、立っちゃう……足、力入んない……。

「エルフィー!?」 

 がくんと膝が折れ、しゃがみかけたところをクラウスが抱える。
 すると、そのたくましい腕が強張ったのを感じた。

「フェロモン……を、出しているのか?」
「……違……オメガはアルファと違って自分で出せない……出せたとしても、こんなところで出すわけ……あ、あぁ……」

 肌の粟立ちは感覚を敏感にする。クラウスがうなじに触れてきて、俺はふるふると身体をわななかせた。

「発情期ではないのになぜ……だかうなじも熱いし、フェロモンがどんどん漏れている」

 クラウスが思っている俺の発情期は三月みつき後だし、本当の発情期としても半月弱早い。

 でもホントにフェロモン、出ちゃてる……燃えてるみたいに身体があついよぅ……。

「ど、してぇ。やだぁ……」

 喉が乾く。ううん。身体が乾いてる。まずいよ俺、このままじゃクラウス相手にヒートを起こしちゃう。
 もうこんな突発的なヒートで、事故みたいに交わりたくない……!

 体温が上昇したのと共に、熱くなった涙が瞳に膜を張る。
 水の中から水面を見ているような視界になって、クラウスの顔がぼやけて揺れたとき、腕に乗せられて横抱きをされた。

「あっ……!」
「とにかく部屋へ戻ろう」
「ん、やんっ」

 クラウスが駆け出し、大きく一歩を進めるたびに身体が揺れ、触れる部分を隆起した筋肉に撫でられる。
 そうすると感じたことのない熱い感情が胸に湧き上がり、俺は、それを決して口にしてはいけない言葉で表しそうになる。

 ──好き。

 違う。

 ──好き。

 違うってば。

 ──クラウスが好き。

 違う、違う、違う……! クラウスは番だから。だから身体がそう思うだけ。

 ──好き、好き、好き、好き。クラウスが好き……!

「こんなの、やだぁ……」

 ニコラ、違うから。嘘だから。俺が言ってるんじゃない。オメガの血が言ってるんだ。
 俺は絶対に、ニコラの大切なものを奪わない……!


「エルフィー、大丈夫か」
 
 離宮の部屋に着くとすぐに、ベッドに丁寧に横たえられる。熱い大きな手で肩を掴まれると、それだけでお腹が疼いてお尻がきゅ、と窄まった。ペニスもきん、と痛くなる。

「すぐに楽にするから」

 クラウスの手が肩からブラウスのぼたんに移る。俺は体を丸めて自分を抱きしめ、うつ伏せになってそれから逃げた。

 駄目、駄目、ヒートの劣情に流されちゃ駄目……!

「いい、本当のヒートじゃないから、すぐおさまるはず。クラウスは出ていって。一人にして!」

 このままじゃ俺、クラウスを求めてしまうから。

「できない。エルフィーが、俺の番が苦しんでいるんだ」 
「やだ! いらない! ……あっ……!」

 背中から覆いかぶさられた。クラウスはその体勢で俺のブリーチズの釦を外し、下着もろとも一気に足から抜いてしまう。
 ブラウスは着たままだけど、ブリーチズが脱げてしまったから、裾からクラウスの手が簡単にすべり込んでくる。

「や、ぁぁっ、ああん!」

 胸の先に触れられたのと、後孔の入り口を撫でられたのは同時だった。
 クラウスは乳首をかりかりと爪でこすり、すでに濡れそぼった孔の中に指を進めてくる。

「嫌、嫌、嫌だっ、触らないで! できない、クラウスとはもうできないからぁ」

 反発の言葉を発しながらも、愉悦を拾う身体はひとりでによじれ、指を動かされるたびに背が反りお尻が上がる。

 俺の身体は肘を付いた四つん這いになってしまった。
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