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本編

心と身体は別物で ※

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 どうしちゃったんだよ、俺。想像しただけでヒートみたいに体が熱くなっている。
 これもつがい契約のせい? 嫌だ。こんなの怖い。

 しゃがんだまま、震える体を抱きしめる。すると、

「男の着替えくらい、寄宿舎で何度も見ただろう。そんなに驚かなくても……エルフィー?」

 簡単な身支度を終えたクラウスがドアを開けた。

「どうした? ……ん、フェロモン……?」

 俺に手を貸そうとした途端、クラウスが鼻をすん、と啜る。

「どうしてフェロモンが……そうか、まだ発情期が終わっていなかったのか」
「違うよ! 馬鹿、馬鹿馬鹿、クラウスの馬鹿! 俺はアルファの体なんか見慣れてないんだ! おまえが裸でいるからびっくりしてこうなってんの!」
「馬鹿」

 優秀なクラウスだ。「馬鹿」なんて言われたことがないんだろう。俺だって人に使ったことはない。これはクラウスに投げつけているようでいて、俺自身に言っている。いやらしいことを想像してここを反応させるなんて、俺は馬鹿だ。恥ずかしい、情けない。消えてしまいたい!

「ふ、ふふ、ははは」
「なに笑ってんだよ!」

 汚い言葉を不快に感じていると思ったのに、軽快な笑い声が聞こえてきた。
 見上げると、クラウスは隠すように片手で顔を覆って肩を揺らしている。

「昔と反対だな。……ふ、くくく」
「昔ぃ? なんのことだよ、なに笑いを咬み殺してるんだよ!」
「悪い。つい嬉しくて……おいで、エルフィー」

 言うなり、薄っすらと紅潮した頬を緩ませ、はにかむような笑顔を見せて俺をかかえ上げるクラウス。

 わ……この顔、幼い頃みたい……じゃなくて、またお姫様抱っこ!

「おいでって、おい! どこへ行くんだ」

 こんにちは、と頭をもたげている股間を押さえている俺を見て、クラウスはまたも軽快に笑って寝室に戻ると、ベッドにぽすんと俺を沈ませた。
 両足を跨がれ、寝衣のくるみボタンを上から順にはずされる。

「ま、待って。俺、交接は無理って言った。クラウスとはもうできない!」

 クラウスの笑顔がかげる。俺のせいでつがいになってしまったのに、つがいへ欲情を向けるな、なんて酷なことを言っているのは承知だ。だけどこれ以上ニコラを裏切れない。

「……エルフィーが嫌なことはしない。ただ解放するだけだ。今度は優しくするから、目を閉じて、任せてくれないか」
「優しく、って。わ……!」

 胸とお腹をあらわにされる。クラウスのごつごつした手が薄氷をすべるように触れた。

「美しい……あの日のままだ」

 クラウスはまぶしいものを見るように目を細め、感動でもしているかのようなため息を漏らした。

「あの日って」

 事故つがいになった日のことなのか、と問おうとするも、クラウスの指先が肌をすべり、胸の飾りを捉える。
 ここも肌と同様に、触れるか触れないかのような微かな触れ方で回し撫でてくるから、じれったさが逆に感度を上げた。

「ふ……ぅっ、や、やめっ」
「エルフィー、力を抜いて」

 深くて低いのに、鼓膜に絡み付くような甘い声。ただの声なのに、感覚をさらに敏感にする。

「や……無理、勝手に力、入っちゃ……あ、あぁ!」

 膨らんでしまった飾りを柔く摘まれると、なんとも心もとない。
 ひとりでに背が反り、胸が突き出る。

 ――もっと、もっと強く触れられたい。

「や、嫌、触んないで、んっ、ぁ、んっ……!」

 心と裏腹の言葉を絞り出すけれど、クラウスは飾りを弄ぶ。指で転がし、硬さを持てば頂きを爪先にひっかける。力を入れて摘み、根元をくにくにとよじる。
 クラウスが指を動かすたびに甘い痺れが生じて、血流に乗って下腹を疼かせた。

「やぁ……も、いやぁ……! ぁあっ」

 両方の飾りを同時に刺激されれば昇るりつめて、寝衣のズボンを濡らしてしまった。

「は……ぅう、出ちゃ……た。やだよ、こんなの……」

 恥ずかしい。胸を弄られただけで達してしまった。生理的な涙ではなく本当の涙が零れてしまう。

「泣く必要はない」

 クラウスは俺の涙を唇で吸うと、ズボンに手をかけた。

「ちょ、ちょっと待っ」

 あっという間に膝までずらされる。

 膝をくっつけて反抗するものの、大きな手は俺の膝頭同士を簡単に割って、ズボンを取り去ってしまう。
 朝の光が差し込むベッドの上で、白い涙を漏らした俺の秘密の場所が暴かれてしまった。

「……可愛いな。エルフィーの」

 小動物でも愛でるように言われて、火照っていた顔がもっと熱くなる。

 俺はオメガだぞ。男でもココは他のバースに比べて小さいんだ。仕方ないだろ! 見るな!

 言えていない。口をパクパクとさせていると、クラウスはお腹を濡らした白濁を手に絡め、萎えた直後の敏感なペニスに撫で付けてきた。そしてそのまま節くれだった指で、包み込むように握る。

「ひぁっ! ぁ、ああ、あぁっ」

 その瞬間、ペニスの付け根から頭の天辺へ向かって、きぃんと鋭い痺れが駆け上がった。

 お腹の奥底に残っていた欲情を絞り出すかのように、一度達したペニスを上下される。

 こんなの、知らない。感じているのはペニスなのに、頭の中まで痺れてくる。
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