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本編

目覚めたら隣には ①

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「……ん……」

 いつの間にか眠ってしまっていたようで、瞼を開くと、朝日が差し込む部屋で寝衣を着て、大きなベッドの上で羽毛のデュベかけぶとんに包まれていた。
 もぞりと体を動かして横を向けば、隣にはクラウスが眠っている。

「はぁ……」

 大きく溜息をついて、クラウスの寝顔を見る。

 俺、キスをされながら眠ってしまったのか……。
 アカデミーにいた頃の堅物な様子からは、あんな濃厚なキスをするクラウスなんて想像できなかった。

「寝顔まで大人になってさ……上手にキスできるなんて、知らなかったぞ」

 関わりがなかったから俺が知らなかっただけで、ニコラとは頻繁にしていたのかもしれない。

 そっか……だから俺の顔を見てキスをせがむんだ。ニコラと同じ顔だから。

 胸の奥がちりりとする。ニコラへの罪悪感だ。俺、ここにいちゃいけない。
 せめてベッドから出ようとデュベをまくると、

「エルフィー……」

 見事なラインを描く二重の双眸がゆっくりと開き、クラウスが目を覚ました。

 思わず息を呑む。大輪の花が一瞬にしてほころぶような笑顔だった。片側の口角が上がるのさえ珍しい男の思いがけないまぶしさに、心臓がひとりでに暴れ出す。

 クラウスは俺の頬に手を伸ばし、上体を起こすと唇を重ねた。唇の感触を確かめるような、柔らかいキスを。

「こ、こら、クラウス……!」
「目が覚めて君の顔を最初に見ることができるなんて、夢のようだ」

 寝言は寝ている間に言ってくれないか。若き黒豹が砂糖菓子より甘い言葉を紡ぐなんて、その方が夢だろうと言いたい。

 ただクラウスは確かに「君の顔」と言った。
 やはり俺の顔がニコラとまったく同じだから、それで愛情が混同しているんだ。

 つがい契約のせいで遺伝子が操作されているのは大前提として、本来愛情がなかった相手にここまで愛情を注げるのは、器がそっくりだから。

 ニコラと瓜ふたつのオメガの遺伝子なかみ本能からだが反応し、心は器に反応している。

 うん、絶対にこれだ! だからフェロモンに当てられてもいないのに、熱に浮かされたみたいに愛を囁いてくるんだ。俺の推察、怖いくらいに当たっていると思う。

「なぁ、クラウス。よーく思い出して? おまえが本当に好きなのはエルフィーじゃないよ? 同じ顔だけど、おまえが好きなのはニコラだよ」

 つがい契約による変化に魔法は効かないけれど、魔力を出すときみたいに両手をクラウスにかざしてみる。

 クラウスは顔をしかめると、上体を起こして俺の上にかぶさってきた。

「わっ」
「エルフィー、君を愛している。わからないなら、わかるまで言い続けよう。愛している、エルフィーを愛している。愛している、エルフィー」
「わーーーー! わかった! わからないけどわかったからもういい!」
「む」

 クラウスの口を両手で塞ぐ。

 すごく胸が痛い。俺もつがい契約のせいでクラウスへの気持ちに誤作動が生じているんだろう。心ではニコラを思っているクラウスに愛を囁かれると、すごく切なくなる。
 まるで本当にクラウスのことが好きみたいに、このまやかしの愛が辛い。

「あ、や、んっ」

 クラウスが手を舐めてきた。俺の手首をしっかりと握って、クラウスの口を塞いでいる手のひらや指の股に舌を這わせてくる。

「クラウス、やめろ。……ん?」

 こんなときに(こんなときだから?)俺の左の太ももに、硬いものが当たった。
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