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本編
どん底から雲の上②
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俺とのダンスが終わったあと、フェリックスにはダンスの志願者が列を成していたので、彼は「これも役員代表の最後の務めかな」と苦笑して、時間が許す限り交代で踊ってあげていた。
俺はフェリックスが誰と踊ろうがもう全然苦にならなくて、心はこの後の告白タイムへと飛んでいた。
「あれ? なあ、ニコラは? どこに行ったか知らない?」
ダンスの余韻と興奮がさめやらないまま治癒魔法科の席へ戻ったとき、ニコラの姿がサロンのどこにもないことに気づいた。
「ああ、花を摘みに行ってくるってさ。さっきまでエルフィーとフェリックスのダンスを見て、自分のことのように喜んでたぞ」
「本当に? 嬉しいな」
ニコラが戻ってきたら、さっきフェリックスに言われたことを伝えて、どういう意味だと思う? と聞いてみよう。双子だからきっと俺と同じように感じるんだろうけど、ニコラが同意してくれたら心強い。同意してくれたら俺は……。
「ねぇ、エルフィー、私とも踊ってよ」
「私も。あなたには振られたけど、卒業のダンスくらい、いいでしょう?」
同じ科のオメガ女の子たちが数人寄ってきた。瞳をきらきらさせて、俺が手を差し出すのを待っている。
頬が桃色に染まってかわいいな。俺は入学式からフェリックスひと筋だったから、過去五年間で勇気を出してくれたこの子たちからの告白を断ってきたけど、恋愛の気持ちで返せなくても慕ってくれる気持ちにお返ししたいと思える。フェリックスもそんな気持ちで皆と踊っているのかもしれない。
「うん、踊ろう!」
俺はフェリックスが俺にしてくれたように、彼女たちを丁重にエスコートし、リードして踊った。
もちろん、男オメガ同士でも踊って、どっちがリード? なんて笑い合ったりしながら。
同じ科の仲間たちの中には、セルドランラボラトリーで同僚になる者もいる。
俺たちは五年間、支え合い、切磋琢磨して学んできた。これからも、こんなふうに和気あいあいとやっていけたらいいと思う。
そうして時間はあっという間に過ぎて、プロムパーティーはお開きとなった。
「なぁ、ニコラがまだ戻っていないようなんだけど、知らない?」
「そういえば、花摘みに行くと行ってから見てないな」
俺ってば、みんなとのダンスに夢中になっていてニコラを気にかけてなかった。
どこに行ったんだろう。クラウスは……?
クラウスは、最後の役員挨拶のときにはフェリックスの後ろに身をひそめていたようだけど、今はあの派手なコートを脱いで片付けに入っていた。
あれからいつまでテラスにいたんだろうか。ニコラはクラウスと話せて、この後の約束を取りつけられたのか?
「クラ」
「エルフィー!」
不安が頭をよぎり、皆がサロンから出て行く中、逆行してクラウスに駆け寄って問おうとした。でも、同時にフェリックスから声がかかる。
「あとでまた会おうね。待ってて」
「あ、ああ。……うん……」
片手を上げて堂々と言ってくれるけど、まだサロンに残っていた令嬢や子息たちからの視線が俺を刺す。ただそれは等閑視できる。でも、俺と二メートルくらい離れたフェリックスの、その斜め後ろにいるクラウスの瞳があまりにも生彩を欠いていて、手負いの豹を見ているようで、なぜか胸が軋んで動けなくなった。
なんだよ、その顔。俺はニコラじゃないってば。フェリックスもちゃんと俺の名を呼んだだろう? いつまでもニコラと間違えてんなよ……ニコラはお前以外と約束なんかしないから、そんな辛そうな顔をするな。
「じゃあ、行くね。さ、クラウス、あっちを確認しよう」
フェッリクスは俺に微笑むと、クラウスの肩に手を置いて移動を促した。クラウスは無言のまま向きを変え、フェリックスと共にサロンの奥へと行ってしまう。
結局聞けなかった。……ニコラ、どこにいる?
俺はフェリックスが誰と踊ろうがもう全然苦にならなくて、心はこの後の告白タイムへと飛んでいた。
「あれ? なあ、ニコラは? どこに行ったか知らない?」
ダンスの余韻と興奮がさめやらないまま治癒魔法科の席へ戻ったとき、ニコラの姿がサロンのどこにもないことに気づいた。
「ああ、花を摘みに行ってくるってさ。さっきまでエルフィーとフェリックスのダンスを見て、自分のことのように喜んでたぞ」
「本当に? 嬉しいな」
ニコラが戻ってきたら、さっきフェリックスに言われたことを伝えて、どういう意味だと思う? と聞いてみよう。双子だからきっと俺と同じように感じるんだろうけど、ニコラが同意してくれたら心強い。同意してくれたら俺は……。
「ねぇ、エルフィー、私とも踊ってよ」
「私も。あなたには振られたけど、卒業のダンスくらい、いいでしょう?」
同じ科のオメガ女の子たちが数人寄ってきた。瞳をきらきらさせて、俺が手を差し出すのを待っている。
頬が桃色に染まってかわいいな。俺は入学式からフェリックスひと筋だったから、過去五年間で勇気を出してくれたこの子たちからの告白を断ってきたけど、恋愛の気持ちで返せなくても慕ってくれる気持ちにお返ししたいと思える。フェリックスもそんな気持ちで皆と踊っているのかもしれない。
「うん、踊ろう!」
俺はフェリックスが俺にしてくれたように、彼女たちを丁重にエスコートし、リードして踊った。
もちろん、男オメガ同士でも踊って、どっちがリード? なんて笑い合ったりしながら。
同じ科の仲間たちの中には、セルドランラボラトリーで同僚になる者もいる。
俺たちは五年間、支え合い、切磋琢磨して学んできた。これからも、こんなふうに和気あいあいとやっていけたらいいと思う。
そうして時間はあっという間に過ぎて、プロムパーティーはお開きとなった。
「なぁ、ニコラがまだ戻っていないようなんだけど、知らない?」
「そういえば、花摘みに行くと行ってから見てないな」
俺ってば、みんなとのダンスに夢中になっていてニコラを気にかけてなかった。
どこに行ったんだろう。クラウスは……?
クラウスは、最後の役員挨拶のときにはフェリックスの後ろに身をひそめていたようだけど、今はあの派手なコートを脱いで片付けに入っていた。
あれからいつまでテラスにいたんだろうか。ニコラはクラウスと話せて、この後の約束を取りつけられたのか?
「クラ」
「エルフィー!」
不安が頭をよぎり、皆がサロンから出て行く中、逆行してクラウスに駆け寄って問おうとした。でも、同時にフェリックスから声がかかる。
「あとでまた会おうね。待ってて」
「あ、ああ。……うん……」
片手を上げて堂々と言ってくれるけど、まだサロンに残っていた令嬢や子息たちからの視線が俺を刺す。ただそれは等閑視できる。でも、俺と二メートルくらい離れたフェリックスの、その斜め後ろにいるクラウスの瞳があまりにも生彩を欠いていて、手負いの豹を見ているようで、なぜか胸が軋んで動けなくなった。
なんだよ、その顔。俺はニコラじゃないってば。フェリックスもちゃんと俺の名を呼んだだろう? いつまでもニコラと間違えてんなよ……ニコラはお前以外と約束なんかしないから、そんな辛そうな顔をするな。
「じゃあ、行くね。さ、クラウス、あっちを確認しよう」
フェッリクスは俺に微笑むと、クラウスの肩に手を置いて移動を促した。クラウスは無言のまま向きを変え、フェリックスと共にサロンの奥へと行ってしまう。
結局聞けなかった。……ニコラ、どこにいる?
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