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本編
卒業式、俺は憧れのアイドルアルファに告白をする②
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「フェリックス!」
フェリックスと約束を取り付けるべく、意を決して商業流通科の列へ向かった。
フェリックスはまだクラウスと談笑中で、その周囲をたくさんの生徒たちが囲んでいる。
身長が百七十センチに満たない俺は、人垣のこっち側から背伸びをしてフェリックスを呼んだ。
「ん? そのふわふわピンクの髪は、エルフィーだね? ……ちょっと失礼」
フェリックスはわざわざ話を中断して、人垣を分けて来てくれる。
取り巻きのご令嬢・ご令息の顔には「治癒魔法科がフェリックスになんの用?」と書いてあるものの、奥ゆかしい良家の彼らは公爵令息の行動に口出しをしない。
「どうしたの? プロムに入ったら俺からダンスを申し込むつもりではいたけど、そのお誘いかな?」
わ。ダンス、俺と踊ってくれるつもりだったんだ。嬉しい!
「話に割って入ってごめんね。うん、ダンスもそうなんだけど……あの、あのさ、卒業を機に君に話したいことがあるんだ。西館の茶話室を借りたから、プロムのあとで、寄ってくれないかな?」
言った! 言ったぞ!
けれどフェリックスは、戸惑うような表情を見せた。
普通に考えて「愛の告白」だろうと取れるから、困ってる? それとももう先約が? どうしよう、告白する機会さえ与えられなかったら。
居たたまれなくなり、視線をフェリックスからずらした。すると、元の位置でフェリックスを待っているのであろうクラウスと視線がぶつかった。
クラウスは苦々しげに眉をひそめて俺を見ている。
平民が公爵家令息に告白なんて無礼だと思っているのか、無駄なことはやめておけと思っているのか。またはその両方だろうか。
俺はクラウスからも視線をはずした。すると、
「ええとね、俺は役員代表だろ? 片付けや打ち上げなんかもあって、遅くなりそうなんだ。それでも大丈夫かい? 今日から寄宿舎じゃなくて自宅に帰ることになるけど、帰宅が遅くなるとご両親が心配しないかな?」
フェリックスがイエスで答えてくれて、そのうえ心配までしてくれた。
天にも昇れそうなほど背筋が伸びた俺の視線は、彼の元へと戻る。
「大丈夫! 来てくれるまでずっとずっと待ってるから、絶対に来て」
「ふふ。熱烈だね。どんなお話を聞かせてくれるのかな」
フェリックスは魅惑的に微笑むと、俺の顔回りの髪を指に絡め、顔を寄せて耳元で囁いた。
「楽しみにしてるね」
「ひゃっ……」
かすかな息が耳たぶにかかり、甘い声が耳の中に直接入ってくる。
これって脈アリなのでは……炒ったとうもろこしが跳ねるみたいに、期待に胸がはずんだ。
「じゃあ、俺はそろそろ準備に行くね。お互いにドレスアップして、ボールルームで会おう」
フェリックスの指が髪から離れる。俺は耳と頬を熱くしたまま頷いて、彼の背中を見送った。
その流れでクラウスの姿が目に入る。いつの間にかニコラもこちらに来ていたようで、ふたりは談笑していた。
とてもいい雰囲気だ。普段は表情筋が死んでいるクラウスでも、ニコラとは優しい表情で話す。さっきクラスメイトの子も言っていたように、アカデミー内では「ふたりは将来つがいになるのでは?」と噂していた生徒も多い。
俺はニコラの嬉しそうな様子にほっとしながらも、心の奥がちりりと痛むのを感じた。
――本当に、なにが原因だったんだろう。
ニコラと俺は一卵性の双子で、つむじの位置以外見た目はまったく同じなのに、クラウスはいつの頃からか露骨に俺だけを避けるようになった。アカデミー内でも常に目をそらされていたし、この五年間で会話をしたのは数えるほど。
幼い頃はどっちかというと、室内遊びが好きなニコラよりも外遊びが好きな俺と気が合い、朝から晩まで一緒に遊んでいたのに。
まあ、今さらもうどうでもいいか。俺が好きなのはフェリックスで、クラウスを好きなのはニコラだ。クラウスがニコラを幸せにさえしてくれたら、なにも言うことはない。
俺は半身であるニコラの幸せを心から祈っている。
ニコラもプロムのあとに、噴水広場にクラウスを誘って告白するんだと言っていた。
これだけいい雰囲気なんだ。ニコラ、おまえの気持ち、絶対にクラウスに受け入れてもらえるよ。
ふたりの談笑を見守っていると、フェリックスが遠くからクラウスに声をかけた。「クラウスも早く準備に取り掛かれ」と言っている。
クラウスはフェリックスに手を上げて応じると、ニコラに「では、また」と微笑み、俺の横を通り過ぎる。
うっわ、睨んでくる。リュミエール国の若き黒豹と言われるだけあって、鍛錬で浅く日焼けした肌に、なににも染まらない意思を表すような漆黒の髪。そして、光を受けると黄金に輝く琥珀色の瞳は、人に畏怖の念を抱かせる。
国を守る騎士としては最高なんだろう。だからって曲がりなりにも幼馴染に睨みを効かせる必要はないでしょ。
まあ、それももう今さらだ。クラウスの態度に腹を立てている時間がもったいない。フェリックスのダンスの相手として相応しくあるよう、準備万端にするんだから。
「ニコラ、俺たちも着替えに行こう、お洒落して、フェリックスとクラウスに見てもらおう」」
ニコラを手招きすると、ニコラは笑顔で頷いた。
フェリックスと約束を取り付けるべく、意を決して商業流通科の列へ向かった。
フェリックスはまだクラウスと談笑中で、その周囲をたくさんの生徒たちが囲んでいる。
身長が百七十センチに満たない俺は、人垣のこっち側から背伸びをしてフェリックスを呼んだ。
「ん? そのふわふわピンクの髪は、エルフィーだね? ……ちょっと失礼」
フェリックスはわざわざ話を中断して、人垣を分けて来てくれる。
取り巻きのご令嬢・ご令息の顔には「治癒魔法科がフェリックスになんの用?」と書いてあるものの、奥ゆかしい良家の彼らは公爵令息の行動に口出しをしない。
「どうしたの? プロムに入ったら俺からダンスを申し込むつもりではいたけど、そのお誘いかな?」
わ。ダンス、俺と踊ってくれるつもりだったんだ。嬉しい!
「話に割って入ってごめんね。うん、ダンスもそうなんだけど……あの、あのさ、卒業を機に君に話したいことがあるんだ。西館の茶話室を借りたから、プロムのあとで、寄ってくれないかな?」
言った! 言ったぞ!
けれどフェリックスは、戸惑うような表情を見せた。
普通に考えて「愛の告白」だろうと取れるから、困ってる? それとももう先約が? どうしよう、告白する機会さえ与えられなかったら。
居たたまれなくなり、視線をフェリックスからずらした。すると、元の位置でフェリックスを待っているのであろうクラウスと視線がぶつかった。
クラウスは苦々しげに眉をひそめて俺を見ている。
平民が公爵家令息に告白なんて無礼だと思っているのか、無駄なことはやめておけと思っているのか。またはその両方だろうか。
俺はクラウスからも視線をはずした。すると、
「ええとね、俺は役員代表だろ? 片付けや打ち上げなんかもあって、遅くなりそうなんだ。それでも大丈夫かい? 今日から寄宿舎じゃなくて自宅に帰ることになるけど、帰宅が遅くなるとご両親が心配しないかな?」
フェリックスがイエスで答えてくれて、そのうえ心配までしてくれた。
天にも昇れそうなほど背筋が伸びた俺の視線は、彼の元へと戻る。
「大丈夫! 来てくれるまでずっとずっと待ってるから、絶対に来て」
「ふふ。熱烈だね。どんなお話を聞かせてくれるのかな」
フェリックスは魅惑的に微笑むと、俺の顔回りの髪を指に絡め、顔を寄せて耳元で囁いた。
「楽しみにしてるね」
「ひゃっ……」
かすかな息が耳たぶにかかり、甘い声が耳の中に直接入ってくる。
これって脈アリなのでは……炒ったとうもろこしが跳ねるみたいに、期待に胸がはずんだ。
「じゃあ、俺はそろそろ準備に行くね。お互いにドレスアップして、ボールルームで会おう」
フェリックスの指が髪から離れる。俺は耳と頬を熱くしたまま頷いて、彼の背中を見送った。
その流れでクラウスの姿が目に入る。いつの間にかニコラもこちらに来ていたようで、ふたりは談笑していた。
とてもいい雰囲気だ。普段は表情筋が死んでいるクラウスでも、ニコラとは優しい表情で話す。さっきクラスメイトの子も言っていたように、アカデミー内では「ふたりは将来つがいになるのでは?」と噂していた生徒も多い。
俺はニコラの嬉しそうな様子にほっとしながらも、心の奥がちりりと痛むのを感じた。
――本当に、なにが原因だったんだろう。
ニコラと俺は一卵性の双子で、つむじの位置以外見た目はまったく同じなのに、クラウスはいつの頃からか露骨に俺だけを避けるようになった。アカデミー内でも常に目をそらされていたし、この五年間で会話をしたのは数えるほど。
幼い頃はどっちかというと、室内遊びが好きなニコラよりも外遊びが好きな俺と気が合い、朝から晩まで一緒に遊んでいたのに。
まあ、今さらもうどうでもいいか。俺が好きなのはフェリックスで、クラウスを好きなのはニコラだ。クラウスがニコラを幸せにさえしてくれたら、なにも言うことはない。
俺は半身であるニコラの幸せを心から祈っている。
ニコラもプロムのあとに、噴水広場にクラウスを誘って告白するんだと言っていた。
これだけいい雰囲気なんだ。ニコラ、おまえの気持ち、絶対にクラウスに受け入れてもらえるよ。
ふたりの談笑を見守っていると、フェリックスが遠くからクラウスに声をかけた。「クラウスも早く準備に取り掛かれ」と言っている。
クラウスはフェリックスに手を上げて応じると、ニコラに「では、また」と微笑み、俺の横を通り過ぎる。
うっわ、睨んでくる。リュミエール国の若き黒豹と言われるだけあって、鍛錬で浅く日焼けした肌に、なににも染まらない意思を表すような漆黒の髪。そして、光を受けると黄金に輝く琥珀色の瞳は、人に畏怖の念を抱かせる。
国を守る騎士としては最高なんだろう。だからって曲がりなりにも幼馴染に睨みを効かせる必要はないでしょ。
まあ、それももう今さらだ。クラウスの態度に腹を立てている時間がもったいない。フェリックスのダンスの相手として相応しくあるよう、準備万端にするんだから。
「ニコラ、俺たちも着替えに行こう、お洒落して、フェリックスとクラウスに見てもらおう」」
ニコラを手招きすると、ニコラは笑顔で頷いた。
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