魔王様が子供化したので勇者の俺が責任持って育てていたら、いつの間にか溺愛されているみたい

カミヤルイ

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誘惑編

魔王様は小悪魔です➀

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「ねぇ、ジェイミー。お姉ちゃ……姉さんの幸せってなんのこと?」

 集会所からの帰り、ルナトゥスがジェイミーに尋ねる。体が成長したからか、言葉使いも少年らしくしようと気にしているようだ。

「うん……平たく言えば「結婚」だよな。村の女の人はだいたい、姉さんの年では結婚して子供もいるから……」
「結婚! そうか……ジェイミーは僕……俺がいるからいいけど、ぼ……俺、がお姉ちゃ……姉さんとも結婚するわけにはいかないもんね……」
「おい、無理に言葉を変えなくていいぞ。ていうか、いつかは気づくだろうと思って黙っていたけど、俺とルナは結婚できないからな?」
「えっ、どうして?」

(やれやれ。中身はやっぱりまだ六歳くらいなんだから)

 しかし学校も上に進むことだし、ある程度は教えておかなければならないだろう。

「俺とルナトゥスは男同士だろ。結婚というのはな、愛し合う男と女がするものなんだ」

 愛し合う、ということがルナトゥスにはまだわからないだろうなと口角をふふ、と上げるジェイミー。だが、ルナトゥスは平然と返した。

「男同士が問題ってこと? 俺は全然気にしないよ? 俺はジェイミーを愛してるもん!」
「ははは、ルナにはやっぱり早いか~。お前のそれは“家族愛”ってや……」

 ジェイミーが言い終わる前に、ルナトゥスに襟元を掴まれて顔が寄る。
 なんだ? と思った時には唇が重なって、言葉を遮られていた。

「んーっ、んーっ!!」

 手足をバタつかせたり、ルナトゥスを引き剥がそうとルナトゥスの肩を押すが、ルナトゥスはしっかりとジェイミーにくっついている。

 ルナトゥスは以前にジェイミーにキスした時と同じように。ジェイミーの下唇を吸った。
 だが、それだけで終わらなかった。

 驚きでぽかんと開いた状態のジェイミーの口の中に舌を差し入れ、ジェイミーの舌の側面や裏を舐め、最後にちゅぽん、と音を立てて舌先を吸う。

「ジェイミー、大好き。俺の好きはこういう好きだから、ちゃんと覚えておいて。俺がジェイミーを絶対に幸せにしてあげるから、女と浮気しちゃ駄目だからね?」

 ようやく唇を離したかと思えば、ルナトゥスはつま先を立ててジェイミーの頬にも瞼にもキスを降らせた。ジェイミーはあまりの驚きと、甘いキスに翻弄されて腰が抜け、その場にしゃがみこんでしまう。

「おま、おまっ……な、なんてことを! しかもこんな往来で、しかも、しかも……」

(どこでこんなキスを覚えたんだ!) 

 昨日までルナトゥスは十歳相当で、一年前は三歳相当だったはずだ。それにジェイミーにだってこんなキスできない。

(しかも、しかもルナとしかキスしたことないんだぞ……!!)

 ジェイミーの慌てようを、ルナトゥスはクスっと笑う。それがまた妖艶で……そうだ、ルナトゥスは元魔王様だったのだと思い出す。

「ジェイミー、俺、姉さんを探しに行くね。学校の手続きをしてもらうのは姉さんに頼むから。ジェイミーは農園に行かなくちゃ。今日もお仕事頑張ってね。じゃあね~」
「お、おい、ルナ!」
 
 まだ足腰に力が入らないジェイミーには、駆け出したルナトゥスを追いかけることはできなかった。


***


「ジェイミー、どうした。今日は身が入らないな。さては……誘惑されて骨身まで砕けたかぁ?」

 農園にて、昨日一緒にサリバの村に行った男に下世話な顔でつつかれる。

「ゆ、誘惑っ!? なぜそのことを……!」

 まさかルナトゥスとのキスを目撃されていたのだろうか。

「先に村に戻っていたけど、サリバの美女とはよろしくやってたんだろう? 羨ましいねぇ。勇者様は」
「美女……」

(あ、あ~っ! 昨日の夜のビッグスライムさん……いや、すっかり忘れてた……)

「いえ、その前に村に戻ったんで……」
「あぁ? なんて勿体ないことを。ははーん、ジェイミー、お前、童貞だな? 美女に迫られて息子が萎えてしまったんだろう。ハッハッハ」
「ちょっと、大きい声でなんてことを……!」
「フガッ」

 回りの人たちが自分たちの方を見たので、慌てて男の口を塞いだ。
 
(反応ならしたよ。童貞だって反応したよ! ……ただ問題は……)

 今朝も、さっきも、ルナトゥスにも反応しかけたことだ。
 今朝はルナトゥスの美しい肢体と甘い匂いに。さっきは甘いキスに。

(最悪だ……男とか女とかの前に、ルナは息子なのに。やっぱり元が魔王様だから、性別に関係なく人を惑わす力があるんだよ。気をつけないと……そうだ、俺だけじゃない。無駄な色気を人前で振り撒いたりしないよう、今夜ルナによーく言い聞かせておこう)

 うん、と一人頷くジェイミーなのであった。


 作業が終わり、畑で採れたさつまいもの入った袋を下げて、家に戻る。
 
 ハンナもルナトゥスもさつまいもが好きだから喜ぶだろう。明日の朝は少し早起きをして、じっくりと焼いた焼き芋を朝食にしてもいい。そんなことを思いながらドアを開ける。

「ただいま~」
「ジェイミー、おかえり!」

 早速ルナトゥスが抱きついてきて唇を奪おうとするのを、取り出した一本のさつまいもを横にして、シャットアウトする。

「酷い! ジェイミー、なにするんだよ。歯がぶつかりそうになったじゃん」
「酷いことがあるか。いいか、もう体が大きいんだから無駄に絡んだりキスするのは禁止! あと、他人には絶対にするなよ。学校では特に気をつけろ」

 さつまいもは二本に増え、ジェイミーはそれを十字にして防御ポーズを取る。

「他の人にするわけないじゃん。わかってないな、ジェイミーは。……うん、さつまいも、おいしそう」

 たった数時間で言葉もすっかり少年らしくなったルナトゥスは、さつまいもをジェイミーから奪うと、ハンナのいる釜戸場へと戻った。
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