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スローライフ編

勇者様、DIYする

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(ああ、まただ……)

 ジェイミーは連日睡眠不足だ。

「うーん……むにゃむにゃ……ジェイミィ……おかわりぃ……」

 ペロッ。
 ルナトゥスの舌がジェイミーの首を舐める。

(ルナのやつ、また寝ぼけてる。俺はジェラードじゃないっての!)

 身長百七四センチメートルのジェイミーと、百三ニセンチメートルになったルナトゥスには狭くなったベッドの上、さらにジェイミーの体をシーツにしてルナトゥスが眠っている。
 ルナトゥスはうつ伏せで、顔をジェイミーの首の付け根に埋め、首筋に小さな赤い舌を這わせてくる。

 ぺろぺろ……カプッ!!

「いった……! ルナ、離れろ」

 肩を噛まれ、たまらずルナトゥスの体を引き剥がす。だがルナトゥスはいまだ夢の中で、にへらぁ、と笑いながらベッドに大の字になった。

「駄目だ。もう限界だ。一人じゃ眠れないって甘えてくるけど、毎日毎日寝相が悪いし夢を見ながら俺に絡んでくる。これじゃ俺が眠れないよ)

 そこで、ジェイミーはベッドを作ることにした。ルナトゥス用のシングルベッドを作って別々に眠るのだ。

「え~! やだやだ、嫌だ! ジェイミーと一緒じゃないと眠れないっ」
「寝付くまではそばにいてやるからそれでいいだろ? ルナももう体が大きいんだから我慢しなさい」
「絶対、嫌! 夜に目が覚めたら寂しいし、体が冷えておねしょするかもしれないもん!」

 ベッドの材料を仕入れに行く道すがら、ずっと同じ会話を繰り返している。その間もルナトゥスは両手でジェイミーの手を握ってくるから、歩きにくいことこの上ない。

(やれやれ、こんな時だけ魔王の記憶が戻らないかと切に願うよ)

 魔王なら「われが貴様とねやを共にするなど笑止千万」とでも言うだろうに。

「……あのなぁ、ルナ。たしかにお前の中身はまだ幼児なのかもしれないけど、学校にも行き始めたんだから同い年の子たちと同じようにしないと。もう誰も親と寝てる子なんていないだろう? 聞き分けのないことを言わずに……」
「ぜーーーーったい、嫌! もし別々に寝たって夜中にジェイミーのベッドに移るからね!」

 頭がくらくらする。
 どうしてこうも甘えん坊なのだろう。可愛いことに間違いはないが、これ以上の睡眠不足は耐えられない。

「なら、ダブルサイズにしたらどうだ?」

 木材屋に到着しても攻防戦が止まない二人を見かねて、木こりのおじさんが提案してくれる。

「ダブルサイズ?」

 ジェイミーが首をひねる。

「そう。今使っているベッドの木材をバラすのを手伝ってやるから、それに新しい木を足して大きくすればいいじゃないか。この坊主が大きくなっても二人で寝れるぞ」
「それにする!」

 食い気味のルナトゥスの返答に、おじさんは豪快に笑った。
 え、待って待って、と言うジェイミーを取り残し、おじさんとルナトゥスは意気投合して木材を選んでいく。

「ベッドのフレームとして長く使えるのはやっぱり広葉樹だな。強度があるし……兄さん、耳を貸しな」
「はい?」
「広葉樹は揺れにも強いからよ。坊主が独り立ちしたあとは将来のコレと、激しい夜も過ごせるぜぇ」

 おじさんは小指を立て、下世話な顔でジェイミーに囁いた。
 ジェイミーは顔を赤くしつつも鼻息荒く、コクコクと頷く。
 ルナトゥスは怪訝な顔で大人二人を見て「なに? なんて言ったの?」としつこく聞く。

「コホン。ルナは知らなくてよろしい。で、それじゃあ、どの木にすれば?」
「そうだな、クルミが一番おすすめだが、値が張るからブナでどうだい。しなやかで曲線使いもできるしな」

 そうして、ブナを選んだジェイミーは次の休日に木こりのおじさんに家に来てもらい、元のベッドを解体を手伝ってもらって新しいベッドの作成に取り掛かった。

 初めての大工仕事に四苦八苦しながらも、おじさんの指導を受けながらベッドの脚から始め、フレームを作り、その上にいくつも十字に細い木材を重ねて「すのこ」を作っていく。
 
 途中、釘が上手く打てなかったり木材のズレがあるのにイライラしたが、ルナトゥスも一生懸命に手伝うので……角を押さえるくらいではあったが……投げ出さずに作業を続けた。

「頑張って、ジェイミー。終わったらハンナが美味しいお茶をいれてくれって」
「そうか、頑張らないとな」

 初冬の風が吹いて少し寒いのに、額に汗を浮かばせながらジェイミーが答えると、ルナトゥスが汗をちゅ、と唇で拭う。

「こらっ、ルナ。なにやってんだ。汚いからやめろ」
「大丈夫だよ~ジェイミーのだもん」
「駄目だって。もう、お前は本当に甘えんぼだな。ほら、邪魔だから下がってろ」
「やだぁ~。ジェイミーの汗、拭くぅ~」
「だから汚いってば」

 ジェイミーの片腕にしがみつき、額や頬にチュッチュチュッチュするルナトゥス。

(注意すべきはそこじゃないだろう。しかも甘えんぼとか、もっとそうじゃないだろう。)

 しまいめには首筋をペロッと舐めるルナトゥスを見て、心でそうツッコミつつも、おじさんはいけないものを見てしまった気がして、胸をドキドキさせるのであった。


***


 暗くなる前にベッドは完成し、新しいマットとシーツを敷いたダブルベッドがジェイミーの部屋に配置された。

 木材や新しいマット、おじさんへの謝礼で財布の中身が随分寂しくなった。今月もジェイミーの自由になるお金はない。
 初めてのDIYで全身に疲れもあるし、指や手のひらにはマメもできた。こんな男くさいこと、できればもうごめんだ。

 それでも……ルナトゥスがベッドの上で跳ねているのを見ると、良かったなと思う。それに、今夜からはこの広いベッドで手足を伸ばし、ルナトゥスの重みを感じることもなくゆっくりと眠れるだろう。
 ジェイミーはルナトゥスのニコニコ顔に癒やさながら達成感に包まれた。

「だーかーらー! ベッドを広くした意味はどこにあるんだ!」

 しかし夜中、またもや息苦しさに目が覚めて、思わずジェイミーは大きめの声を漏らした。
 ルナトゥスは今夜もふにゃふにゃ笑顔の寝顔をして、ジェイミーにぴったりとくっついて離れない──今夜だけでなく、ずっと、ずっと。この先もずっとなのだけれど。
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