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スローライフ編

勇者様、狩りに出る③

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「おーまーえーたーちーはぁ~!」

 村の重鎮のうちの一人、畜産担当のリーダーがこぶしを握り、岩と太っちょの脳天に落とした。

「すいませぇ~ん。もうしませ~ん」

 大の男のくせに、二人は目の端に涙を浮かべて頭のたんこぶをさすった。

「本当に、なんて意気地なしだ。子供を連れているジェイミー一人にボスキジを任せ、挙句雷が来たからと二人を置いて引き上げてくるとは。それに比べてジェイミーは流石、勇者だ」

 リーダーはジェイミーとルナトゥスに振り返った。

 
***


 森を襲った雷はもちろん村にも雨雲を伸ばしていて、村人達が狩りに行ったジェイミー達を案じていたところ、岩と太っちょだけが手ぶらで戻って来た。
 
 外では嵐がひどくなる一方。やがて大きな落雷の音がして、不安に耐えられくなったハンナが駆け出すのを止めようと、数人の村民が追って村の外へ出た時、森の方向の空が紅く染まった。
 ハンナも村人も青ざめて、震える足を進めて救助に向かおうとした。
 ところが……。

「ジェイミーがね、お祈りしたの。しょしたらね、おみずみじゅがわーってなって、火がえて、おしょらが晴れたの!」

 戻って来たルナトゥスが言うように、その後わずかな時間で雨が激しさを増して、森の火が消えたのを見た村人達は話を信じた。

 また、戻って来たジェイミーの手には、矢傷なく気を失っているだけの若いキジのつがいがあった。
 ココット村の勇者は森の火災を鎮めただけでなく、繁殖に最も適したキジを最適の状態で持ち帰ったのだ。ハンナが涙して二人を抱きしめたのは言うまでもない。もちろん、村民たちもジェイミーを手放しで賞賛した。

 頭をかきかき。実際はなにもしていないジェイミーは苦笑いをするしかないが、いつも自分をからかっていた岩と太っちょが平謝りをして、自分を讃えたのは気分がいい。

(まさか本当に俺の祈りが通じたわけじゃないだろうし、キジは森で出口を探してたらそこで寝てただけだし……)

 なんだか魔王討伐に出た時からラッキー続きな気がするジェイミーには、推測していることが一つある。

「……あの、俺は実はルナの力もあると思うんです」
「?」

 村民たちはジェイミーの言葉に首をかしげた。

「魔王を倒した日にルナを見つけました。そして連れ帰ってから、俺は少しずつ色々なスキルが身についています。今回はなにがなんでもルナを守らなきゃと思ったし……なんて言ったらいいいのかわからないけど、ルナが起爆剤みたいな……奇跡を起こす元になってるんじゃないかと……」

 半分は「忌み色」のルナトゥスを完全に魔王の存在から離し、村に馴染ませたかったのもある。
 しかし先祖の力があるとはしても、ジェイミーは自分には勇者の能力があるとはとうてい思えない……ルナトゥスの両親は、ジェイミーを間違えなく勇者だと言ってくれたが、ルナトゥス両親の守りの力の強さも感じる……つまりは、ルナトゥスが魔力を発する力を失ってはいても、潜在的に防衛力みたいなものを持っているのでは、と考えているのだ。

「ジェイミー……」

 今まで黙っていた村長がジェイミーに近づいた。とても真剣な顔で、重大なことでも言わんとするようだ。
 ジェイミーも皆も、ごくり、と唾を飲み下した。

「……すっかり成長しおってぇ~。勇者を通り越して父親の心境を手に入れおったな? やはり、子育ては人間を成長させる。あの顔しか取り柄がなかったジェイミーが。あの、役立たずのジェイミーが……私は嬉しいっっ。ハンナ、良かったのぅ。これで天にいるご両親も安心なさるじゃろう」

 村長は目をそら豆みたいな形にして笑い、肘でジェイミーをつつく。

(おいおい、今、半分disってたぞ)

 とはいえハンナがとても嬉しそうで、村もお祝いムード。
 なにより……。

「ルナも偉かったわね。ジェイミーの言うように、ルナには神様の守りの力があるのかもしれないわね」
「怖かっただろうに偉かったな、ルナ」   

 村の皆がルナトゥスを囲み、「ルナ」と愛称で呼んで褒めちぎっている。
 これでもう、本当の意味でルナトゥスは村に受け入れてもらえるだろう。誰も元魔王だなんて気づかずに、きっとルナトゥスは、一人の人間としてやり直せる──ジェイミーはほっと安心のため息をついたのだった。




 しかし次の日の朝。ジェイミーは新たな問題に直面する。

「ジェイミー、おはよう! おなかが空いたよ。早く起きてよ!」

 いつもより強めの揺さぶりに、いつもよりはっきりとした言葉使い。
 ジェイミーはまだ眠気の覚めない頭を振り、感じた違和感の理由を確かめるために薄く目を開いた。

「……ル、ルナ!?」
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