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出会い編
魔王様、初めての痛み②
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***
門前には勇者の像。迷路のように入り組んだ小径沿いに、オレンジ色もしくは赤色のとんがり屋根を乗せた白い土壁の家が並ぶ小さな村。
ここがカラザ地区、ジェイミーの住むココット村だ。
そして今、ジェイミーとルナトゥスは二人並んで村の集会所の椅子に座っていた。対面にいるのは村長を始めとする村の重鎮達。そして、姉のハンナだ。
まさか魔王が実在するとは思っていなかったため、予定より遅い帰宅のジェイミーを心配していたハンナと村民達は、作昼帰還したジェイミーが魔王を討伐したと聞き、天地がひっくり返るほどに驚き、疑う者さえいた。しかしピッカラ地方から流れ来る風の噂で、魔の森に平静が訪れ、嘘のように嵐が止んだと聞き及び、ジェイミーの話が真実であろうことが決定づけられた。
村は約百年以上ぶりの勇者誕生に湧き、ハンナはジェイミーの成長を泣いて喜んだ。
だがしかし。
黒い瞳と髪の、忌み色を持つこぶがついているのである。
ジェイミーはルナトゥスを、魔王討伐からの帰りに魔の森の出口付近で拾った子どもだと説明した。
「ジェイミー、あんたって子は! 昔から子犬や虫を連れ帰って来ては放ったらかしで、私がいつも世話をしていたのを忘れたの!?」
「そ、それは……だけど、倒れている子どもを捨てておくなんてできないじゃないか! 家族がいなければ記憶もないんだ。放っておくなんてそんな非情な……」
「お黙り! 世話できないなら無責任に関わるなと言ってるのよ!」
ハンナの剣幕に、村人達は頭を何度も縦に振り、ジェイミーは身を震わせた。
なんという情けない姿か。ルナトゥスは横目でジェイミーを見ながら落胆した。
守ってやると言いながら、実際には他者を庇護するスキルも皆無らしく、それどころか、か細い女に睨まれて震えているとは。
(我はこんな脆弱な者に……)
ルナトゥスはジェイミーに怪しい薬を使われたことなど知る由もなく、ジェイミーには呪術が使えないこともわかっていたため、自分は雷に撃たれた影響で幼児化したのだと思い込んでいる。だからジェイミーに対しての敗北感等はなかったが、昨夜ジェイミーの胸の中で泣きじゃくったことだけは激しく後悔している。
弱い姿を晒すなど、悪の大魔王にあってはならない。
「我のことなら心配には及ばん。たしかにここまで来てしまったが、すぐに村を出ていく」
そうだ。ジェイミーは村人達に隠しているが、ルナトゥスには魔力はなくとも記憶はあるし、森に戻れば狼もいる。これまでだって一人で生きてきたのだから問題はないはずだ。
「では、さらばだ」
ルナトゥスは椅子から降りようとした。……が、おかしい。足がぶらぶらしている。
(なんと! 足が床に着いていないではないか)
そういえば、座るときもジェイミーにかかえられたのだと思い出す。
「くっ……」
今までなら、座位時に膝の位置が太ももより高くなるほど脚が長かったし、本当の幼少の頃も魔力があったから、どこに座ろうが自由自在だった。
ルナトゥスは意地になり、尻を揺らして椅子から降りるのを試みる。しかし。
ビっターン!!
派手な音がして、ルナトゥスは横向きに床に転倒してしまった。
(痛い。どういうことだ)
これしきの衝撃、魔王には取るに足らないはずなのに、打った額も肩も膝も、焼けるように痛く、雷で貫かれた時と同じに気が遠くなりそうだった。
「ルナトゥス!」
ジェイミーが手を伸ばす。
「大丈夫!?」
ハンナも手を伸ばす。
「大丈夫か!?」
村人達も椅子から立ち上がり、ルナトゥスの様子を見守っている。
そしてルナトゥスは……。
「……う、うっ……うわぁぁぁぁぁぁあん!!」
痛みに耐えかねて大泣きしてしまった。ジェイミーの前だけでなく、こんなに大勢の人間の前で。
ただ、痛かったのは体だけじゃなかった。差し出された四本の手と、見守るいくつもの眼差しが、ルナトゥスの胸をぎゅううと締めつけ、痛くしていた。
門前には勇者の像。迷路のように入り組んだ小径沿いに、オレンジ色もしくは赤色のとんがり屋根を乗せた白い土壁の家が並ぶ小さな村。
ここがカラザ地区、ジェイミーの住むココット村だ。
そして今、ジェイミーとルナトゥスは二人並んで村の集会所の椅子に座っていた。対面にいるのは村長を始めとする村の重鎮達。そして、姉のハンナだ。
まさか魔王が実在するとは思っていなかったため、予定より遅い帰宅のジェイミーを心配していたハンナと村民達は、作昼帰還したジェイミーが魔王を討伐したと聞き、天地がひっくり返るほどに驚き、疑う者さえいた。しかしピッカラ地方から流れ来る風の噂で、魔の森に平静が訪れ、嘘のように嵐が止んだと聞き及び、ジェイミーの話が真実であろうことが決定づけられた。
村は約百年以上ぶりの勇者誕生に湧き、ハンナはジェイミーの成長を泣いて喜んだ。
だがしかし。
黒い瞳と髪の、忌み色を持つこぶがついているのである。
ジェイミーはルナトゥスを、魔王討伐からの帰りに魔の森の出口付近で拾った子どもだと説明した。
「ジェイミー、あんたって子は! 昔から子犬や虫を連れ帰って来ては放ったらかしで、私がいつも世話をしていたのを忘れたの!?」
「そ、それは……だけど、倒れている子どもを捨てておくなんてできないじゃないか! 家族がいなければ記憶もないんだ。放っておくなんてそんな非情な……」
「お黙り! 世話できないなら無責任に関わるなと言ってるのよ!」
ハンナの剣幕に、村人達は頭を何度も縦に振り、ジェイミーは身を震わせた。
なんという情けない姿か。ルナトゥスは横目でジェイミーを見ながら落胆した。
守ってやると言いながら、実際には他者を庇護するスキルも皆無らしく、それどころか、か細い女に睨まれて震えているとは。
(我はこんな脆弱な者に……)
ルナトゥスはジェイミーに怪しい薬を使われたことなど知る由もなく、ジェイミーには呪術が使えないこともわかっていたため、自分は雷に撃たれた影響で幼児化したのだと思い込んでいる。だからジェイミーに対しての敗北感等はなかったが、昨夜ジェイミーの胸の中で泣きじゃくったことだけは激しく後悔している。
弱い姿を晒すなど、悪の大魔王にあってはならない。
「我のことなら心配には及ばん。たしかにここまで来てしまったが、すぐに村を出ていく」
そうだ。ジェイミーは村人達に隠しているが、ルナトゥスには魔力はなくとも記憶はあるし、森に戻れば狼もいる。これまでだって一人で生きてきたのだから問題はないはずだ。
「では、さらばだ」
ルナトゥスは椅子から降りようとした。……が、おかしい。足がぶらぶらしている。
(なんと! 足が床に着いていないではないか)
そういえば、座るときもジェイミーにかかえられたのだと思い出す。
「くっ……」
今までなら、座位時に膝の位置が太ももより高くなるほど脚が長かったし、本当の幼少の頃も魔力があったから、どこに座ろうが自由自在だった。
ルナトゥスは意地になり、尻を揺らして椅子から降りるのを試みる。しかし。
ビっターン!!
派手な音がして、ルナトゥスは横向きに床に転倒してしまった。
(痛い。どういうことだ)
これしきの衝撃、魔王には取るに足らないはずなのに、打った額も肩も膝も、焼けるように痛く、雷で貫かれた時と同じに気が遠くなりそうだった。
「ルナトゥス!」
ジェイミーが手を伸ばす。
「大丈夫!?」
ハンナも手を伸ばす。
「大丈夫か!?」
村人達も椅子から立ち上がり、ルナトゥスの様子を見守っている。
そしてルナトゥスは……。
「……う、うっ……うわぁぁぁぁぁぁあん!!」
痛みに耐えかねて大泣きしてしまった。ジェイミーの前だけでなく、こんなに大勢の人間の前で。
ただ、痛かったのは体だけじゃなかった。差し出された四本の手と、見守るいくつもの眼差しが、ルナトゥスの胸をぎゅううと締めつけ、痛くしていた。
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