上 下
85 / 92
番外編

番外編Ⅰの① 見えない鎖がほどけるとき⑦とオメガじゃないオメガ①の間の話*

しおりを挟む
 *こちらは本編「見えない鎖がほどけるとき⑦」と「オメガじゃないオメガ①」の間の話です。



 八月のある日、千尋は一時自分が住んでいた賃貸アパートへ戻っていた。完全に光也の屋敷へ転居するための準備と手続きのためだ。

「荷物は少ないからすぐに片付きそうだけど……問題はこれだな」

 似たような暗い色の服が数枚しかかかっていないクローゼットを開けると、下着や靴下を入れてある衣装ケースがある。その一番下の引き出しには、千尋のウフフ道具が入っていた。

「鍼シール……は、肩こりにも使えるし、もしみっくんに見られても言いわけできる」

 こくこくうなずき、「持って行く物箱」に入れる。 
 ドラッグストアで普通に売っているツボ刺激のシールは、乳首に痛み刺激を加えて感じるために使っていた物だ。
 
「ニップルクリップは、駄目だよね。一見アクセサリーに見えるけど、女性物に見えるもの。訊かれたら答えられない。……うん、燃えないゴミにしよう。今までありがとう」

 こちらは「捨てる物箱」入りだ。繊細なチェーンにクリスタルパーツ三連で付いている可憐なデザインだが、他に使い道はない。
 お世話になったお礼とお別れをきちんとして、箱に収めた。

「ディルドや電動プラグはもともと使わなかったし、いいか」

 千尋は自分の指で後孔をいじるのが下手なので購入してみたが、ローションを多用しないと入りにくく、数回しか使わなかった。
 かと言って今後も使う予定はない。これも「捨てる物箱」だ。

「あとは……うぅ、これを捨てるのは寂しいな……」

 通っていた「CLUBマゾ」で購入したハンドカフス。赤い合皮の素材で高価な物ではないが、自慰の際の妄想を捗らせてくれた。

 また、身体を拘束しているとなにか安心感を感じるときもあった。赤ん坊が布でぴったりと包まれると、泣きやんでスヤスヤ眠るのと同じ理屈だったのかもしれない。

「みっくんは絶対に使ってくれないだろうな……でも、八ヶ岳の別荘で」

 ムクムクムク。
 別荘のバスルームでの洋服拘束が頭に浮かぶ。

 濡れた洋服に手足の自由を奪われ、男らしい光也の身体に包まれて全身を愛撫された。
 両方の乳首を捏ねながら、うなじや腋の下を肉厚な舌でなぞられて、千尋のものはすぐに芯を持って……。

「んっ……」

 なんて簡単な身体だろう。同居が始まってから心も身体も愛してもらっているせいか、思い出しただけで身体は熱くなり、後孔がきゅう、と窄まる。

 ……ちょっとだけ。
 千尋はハンドカフスを片方ずつ手首に巻き、自分でつけられるように長くしているチェーンと器用に接続して両方を繋いだ。

 その手を太ももの間に滑らせ、熱芯を柔く握る。

「みっくん……」

 先走りを熱芯に塗り広げながら、吐息混じりに愛しい名をつぶやいて瞳を閉じた。



◇◇◇

「悪い秘書ですね。有給休暇を取って転居作業をしているのに、そっちのけで淫らな行為に耽るとは」
「はっ……! 専務っ、どうしてここへ」
「あなたのことですから、こんなこともあろうかと監視をつけていたのです」
 専務は氷のような冷ややかな視線を向けながら、秘書の自宅に踏み込んできた。
 SPだろうか、後ろにはサングラスでスキンヘッドの男ふたりを従えている。
「……や、恥ずかしいっ」
 秘書は専務に背を向けて痴態を隠そうとした。だが。
「見られるのがお好きなのではないですか?」
「ああっ」
 専務により床に這いつくばる格好にさせられ、露わになっている白尻を持ち上げられた。
「ほうら、狭間のここがこんなに悦んで窄まり、いやらしい涎を垂らしていますよ」
「そんなことありません!」
「上のお口ではそう言いながらも、ここのお口はそうは言っていません。淫らなお口だ。皆の前で塞いであげましょう」
「あ、あぁんっ」
 秘書の秘所に専務の指が深く挿入された────

◇◇◇



「これ、気持ちいいの? 千尋」
「ん、んっ、気持ち……くない。みっくんのがいい、みっくんの、欲しい……」

 いつの間にか、千尋は「捨てる物箱」から電動プラグを出して孔に先端を挿入していた。
 だが、やはり中に馴染んでくれず、違和感の方が強い。千尋の中をくすることができるのは、きっともう光也だけだ。

「そう。こんなおもちゃで遊ぶなんて悪い子だけど、可愛いことを言ってくれるから許しちゃうな」

 専務ってば、妄想なのに氷の貴公子の仮面が剥がれて、ちょっと春風王子みたいになっている。まるでみっくんがここにいるみたいだ。

 千尋はそう思いながら目を瞬かせた。

「…………えっ?」

 おかしい。千尋の孔液で濡れた電動プラグを抜いて、にっこりと微笑む専務の妄想などしていない。それに、妄想のギャラリーSPも消えている。

「ふふ。昼休みに車を出してもらって来てみれば、こんな姿の千尋に再会するなんて。でも千尋、ここはセキュリティが無いに等しいね。玄関も鍵がかかっていないものだから心配したよ?」
「え? え……? み、っくん……?」
「うん。朝ぶり」
「…………あ、あ、ああぁぁあ~~~~~~~!!!!」

 ずささささ。

 本物の光也が居ると知り、千尋はすごい勢いで後ずさったが、狭い部屋の中だ。すぐに壁に背中が当たった。
 痴態を見られたあまりの恥ずかしさにそこでプルプルと身悶えていると、光也が寄ってくる。

 トン。

 軽い音だったが光也に壁ドンされて逃げ場をなくしてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

好きな人が「ふつーに可愛い子がタイプ」と言っていたので、女装して迫ったら思いのほか愛されてしまった

碓氷唯
BL
白月陽葵(しろつきひなた)は、オタクとからかわれ中学高校といじめられていたが、高校の頃に具合が悪かった自分を介抱してくれた壱城悠星(いちしろゆうせい)に片想いしていた。 壱城は高校では一番の不良で白月にとっては一番近づきがたかったタイプだが、今まで関わってきた人間の中で一番優しく綺麗な心を持っていることがわかり、恋をしてからは壱城のことばかり考えてしまう。 白月はそんな壱城の好きなタイプを高校の卒業前に盗み聞きする。 壱城の好きなタイプは「ふつーに可愛い子」で、白月は「ふつーに可愛い子」になるために、自分の小柄で女顔な容姿を生かして、女装し壱城をナンパする。 男の白月には怒ってばかりだった壱城だが、女性としての白月には優しく対応してくれることに、喜びを感じ始める。 だが、女という『偽物』の自分を愛してくる壱城に、だんだん白月は辛くなっていき……。 ノンケ(?)攻め×女装健気受け。 三万文字程度で終わる短編です。

処理中です...