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SSS

2024/12/24 すばると真鍋のクリスマス(ほんとーに短いです。それでも良ければ)

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 十七歳のクリスマス。
 僕は岳人さんが作ったディナーを食べる。

 アボカドとサーモンのサラダ。生クリームがかかった本格的なビーフシチュー。スズキの香草焼きもついて、デザートはいちごのタルトが出てくる予定。

 岳人さんが作ってくれたごちそうはどれも綺麗で、どれも美味しい。

 でも……。

 僕と食べているのは、お母さんだ。
 あたりまえに、岳人さんはこの洋食屋さんのコックさんで、クリスマスイブの今夜も大忙しだから。

 ただでさえ十二歳の年の差があって、僕と岳人さんの休日が合うことはとても少ない。
 とくにイベントごと……クリスマスやバレンタインがある月なんて、岳人さんは大忙しだ。

 あーあ。岳人さんが作ってくれたご飯を食べられるのは幸せだけど、やっぱり一緒に今日の日を過ごしたかったな。
 ……といっても、岳人さんは未成年の僕とは一線を引いているから、発情期にそばにいて抱きしめてくれる以外は、なかなか手も繋いでくれないのだけれど。

「こちら、スペシャルデザートです」
「えっ?」

 寂しさと不満をかかえていると、大好きな岳人さんの声がした。
 岳人さんはトレイの上にスノードームを載せてきていて、それを丁寧に僕の席に置いた。

 ──違う。これ、スノードームじゃない。

 それは、白いクリームを塗ったスポンジケーキを土台に、雪だるまやクリスマスツリーのゼリー菓子、クリスマスの装いをした羊と熊のアイシングクッキーが飾られていて、さらに薄い飴で作った透明のドームが被せられていた。

「わあ。素敵!」

 周囲の席のお客さんから歓声が上がる。

 お菓子のスノードームはもちろん、僕と岳人さんに視線が集まる。

「特別なあなただけに、クリスマスプレゼントです」

 岳人さんが照れながらも言ってくれる。

 お客さんが僕と岳人さんの関係を察したかはわからない。だけどあたたかい拍手も起こり、僕は胸がジーンとして涙ぐんでしまった。


 岳人さんが厨房に戻ったあと、勿体ないけどスノードームにフォークを入れる。

 羊と熊のクッキーは、理人さんが「すばる君と真鍋さんは羊と熊みたいだね」なんて、ときどきそんなふうに言うから、それで作ってくれたのかな?

 だけどこのクッキー、熊が羊を抱きしめているんだ。
 まるで岳人さんにそうされているみたいで、頬が熱くなってしまう。

「……あっ」

 そして、今気がついた。
 熊がプレゼントを入れる袋の形のチョコプレートを背負っていて、それに「Merry Xmas」って書いてあるんだけど、手にとってみると、熊の体で隠れた部分に「loveyou」って小さく小さく書いてある!

 急いで厨房の方を見るものの、当然岳人さんの姿は見えない。食事が終わってからも、一番大賑わいの時間になってしまって、岳人さんには会えずじまいだった。

 だから僕は心の中で何度も伝える。
「大好きだよ。岳人さん」と。

 
 ねえ、岳人さん。
 僕が大人になるまであと少し。

 待っていてね。
 それから、覚悟しておいて。

 未来のクリスマスは、同じ家で暮らすでしょう?
 だから今できない分、倍倍倍の倍返しで、あま~~~くてとろける夜にするからね。



 おわり



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