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運命と出逢った俺は、運命とつがえない

デート?④

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 ***

「わぁ! 岳人さん、すごいですね。花火がこんなに近くて大きい!」

 夜空に浮かんだ光の花を瞳に映したすばる君が、俺の右横で歓声を上げる。
 
「ああ、特等席だな。ありがとな、理人」

 すばる君にうなずいてから、左隣でさらにその左隣の高梨くんと手を繋いでいる理人に礼を言った。

 結局俺たちは、昼飯の後も四人で祭りのイベントブースを回っていて、花火開始時間の三十分前になったとき、理人が仕事のクライアントの自社ビルに誘ってくれたのだ。

 花火会場に程近い場所にあるそのビルは、花火大会の日は屋上を開放しているらしく、一組四名で仕事関係の人間に声をかけているそうだった。

「いえいえ。ねえ、真鍋さん」

 理人が顔を寄せてくる。

「なんだよ」
「ここでなら手を繋ぐくらい大丈夫だよ。せっかくの花火大会だもん。繋いであげたら?」
「はっ?」

 こそこそっと言われるが、大きな声で返しかけてしまった。
 すばる君や高梨君が気にしていない様子を確認して、改めて口を開く。

「なんで、そのこと知ってるんだ」

 高梨君にすばる君とのやりとりを聞かれていたか? いや、あのときはまだ遠くに離れていたし……。

「ふふ、図星だ。別になにも知らないけどさ、羊さんの真鍋さんは今日も日和ってるかなって思っただけ」

 うわ、嫌味な笑顔。こんだけ察しがいいくせに、高梨君の気持ちだけがわからなかったんだよなぁ、この男は。
 だが当事者とはそういうものなんだろう。渦中にいると、見えるはずのものが見えなくて、どんどん視野が狭くなる。

 ──パン! パパパパパ。

「見て、岳人さん、大きい花火。あ、こっちも!」

 手を伸ばせば届きそうな夜空に火の花が一斉に咲く。花はすぐに柳の枝が垂れ下がるように地上へと向かい、その間にもまた新しい花が空に咲く。

 そのすべてを見落とすまいとするかのように、顔を左右にせわしなく動かすすばる君に、そっと視線を移してみる。

 俺はちゃんとすばる君を見ているか?
 俺が思うよりも中身の成長がずっと進んでいるかもしれないすばる君の、気持ちの大事なところをちゃんと見ることができているか?

 生まれて初めての花火大会を、俺と行きたいと思ってくれた。
 俺もすばる君の初めての経験に、いい思い出を作ってやりたいと思った。

 捉え方の進度は違えど、ふたりで過ごす時間を楽しいものにしたかった気持ちは同じはずだ。 

「すばる君」 

 手に汗が付いているとかっこ悪いので、服でスッとこすりながら呼びかける。

「はい?」

 すばる君が俺を見た。
 よし今だ。手をパッと握るんだ、俺。

 ──ブーブー、ブーブー。

「電話……」

 今このタイミングかよ! でもメッセージ通知ではなく電話通知ということは、侑子さんかもしれない。
 
 差し出そうと思っていた手でポケットの中のスマホ取り出し、すばる君や理人、高梨君に断って建物内に入った。
 スマホの画面に表示されたのは、やはり侑子さんの名前だ。

「はい、真鍋です。……えっ」




 電話は総合病院からで、侑子さんが虫垂炎で緊急入院をしたとの知らせだった。

 手術が必要で七日ほどの入院になるらしい。
 オメガのシングルマザーの侑子さんは保証人なしでの入院が可能となったが、問題はすばる君だ。
 すばる君が小学校低学年の間に立て続けにご両親を失くした侑子さんには、頼れる人がいない。
 
「僕なら大丈夫です。お母さんが発情期で部屋にこもるときも、なんとかしてきたもの」
「なに言ってるの。お母さんが家にいるのといないのとでは違うでしょ。家に独りなんて……」

 すばる君と高梨君が話している最中に、俺は病院に宿泊可能かどうかの確認をしてみたり、侑子さんの仕事先の人に聞いてみたりもしたが、いずれも難しかった。
 
 それで、俺の実家に頼んでみることにしたのだが。

「しまった……おれの家は全員アルファじゃねーか……」

 家に電話をかけようとしてそこでようやく気づく。しかも弟たちは一五歳、一八歳、二一歳だ。
 すばる君は男の子とはいえオメガだぞ。まだ本当のヒートを起こしたことはないが危険だろう。

 そんな重要なことに気づかないとは、俺もずいぶん動転してしまっていたようだ。

「岳人さん、本当に僕、独りで大丈夫です。僕はずっとお母さんとふたりだったし、さっきも言いましたがお母さんは発情期のうちの三日間くらいは部屋から出てこれなかったから、簡単な家事ならできるように教えてもらってるんです。もう中学生だし、ちょうど夏休みだから、なんとかなります!」

 気丈に振る舞うすばる君だが、俺でも気疲れしているんだ。母親が入院となってどんなにか心細いか。
 それにもう二十三時近い。今から自宅に戻ってどんな夜を過ごすんだろうと想像すると、胸が痛んだ。

「俺のところに、おいで」

 ためらいがなかったかといえば嘘になる。だがすばる君を独りぼっちにするためらいには変えられず、俺は右手を差し出していた。
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